「男なら自分のやったことに対するケジメくらいきっちり付けろ」
「あぁ、すみません。正確には、、沙南ちゃんのお父さんと思しき人物を見つけたので、確認してほしいんです」
び、びっくりしたぁ……。そうだよね。いくらなんでもそんな簡単に見つけられる訳ないよね。
「けど、今は家の事をやらなくちゃいけないからログアウトしないと……」
「なら、次はいつログインできますか? それに出来る限り合わせます」
「じゃ、じゃあ宿題を終わらせて……21時にもう一回ログインするよ」
「わかりました。ではその時間に会えるように話しておきます」
そうして私はログアウトをした。自室で目を覚ましてから、急いで掃除やら洗濯やらを終わらせる。
今日は二回分のガチャを引きたいから、学校が終わってからすぐにログインしたんだよね……
「ただいまー」
夕方、お母さんが仕事から帰ってきた。手にはコンビニの袋に入った夕食を持っている。
お母さんは私が料理をするのを極力避けるようにしていた。あまり包丁や火を使わせたくないらしい。けど、私も最近はゲームに時間を使いたいし、コンビニの温めるご飯もかなりおいしくなったとお母さんは言う。だから文句なんて一切ない。
「ところでさ……」
お母さんと食事をしながら、私は様子を伺う。
「ん~? なぁに?」
お母さんは28歳だけど、背が低くて童顔らしく、今でもたまに学生と間違われるらしい。優しくて、私の大好きなお母さん。
そんなお母さんに、思い切って聞いてみた。
「もしもだよ? もしもお父さんが見つかったら、お母さんはどうしたい?」
「ん~? そうねぇ……」
少し考え込んでから、お母さんは答えた。
「抜く!!」
「な、何を!?」
髪の毛の事かな? まさか魂なんて事はないよね……?
お母さん、笑顔だけどなんか怖いよぉ……
「何を抜くかは、沙南は知らなくてもいいのよ~」
優しい口調でそう言われた……
「そ、それじゃあさ、もしもだよ? もしもお父さんに伝えるとしたら、何を言いたい?」
「ん~? そうねぇ……」
また少しだけ考えてから、お母さんは答えた。
「落ちろ!!」
「ど、どこに!?」
顔は笑ってるけど、目が据わっている気がする。お母さん、もしかして凄く怒ってる?
「どこに落ちてほしいかなんて、沙南は気にしなくていいのよ~」
あ、あわわ。なんだか凄く怖くなってきたよ……
……お母さんは、お父さんの事を許すつもりはないのかなぁ……?
「お、お母さんは、もう一度お父さんと一緒に暮らしたいって思わないの?」
恐る恐る、そう聞いてみた。すると今度はすぐに答えが返ってくる。
「沙南には難しいかもしれないけど、あの人の場合、もはや一緒に暮らす以前の問題なのよ。まずは、『男なら自分のやったことに対するケジメくらいきっちり付けろ』って所からね……」
ケジメ……? ちゃんと、ごめんなさいしろって事かな?
「けど、どうして急にそんな事を聞くの?」
ドキッ、と私の胸が跳ね上がる。どう答えていいか分からなかった。
「な、なんとなくだよ? もうお父さんがいなくなって一年経ったなぁって……」
「……ふーん。もしかして沙南は、お父さんがどこにいるか知ってたりするの?」
ドクンドクンと鼓動が早くなる。
「そ、そんなわけないよ……」
「もしかして、この前買ってあげたゲームと関係があるの?」
鼓動と一緒に冷や汗も流れ落ちる。
「わ、私、宿題しなくちゃいけないから、ごちそうさま!」
コンビニ容器を流しに置いて、私は逃げるようにその場を離れようとした。
「待って沙南」
すると、お母さんに呼び止められて、私はその足を止めた。
なんだろう。その呼び止める声は優しくて、怖い感じは消えていた。
「さっき言ってたあの人に伝えたい事、やっぱり変更するわね」
「な、なんて伝えるの?」
「『これ以上沙南を悲しませる事をしたら、本気で許さない』って伝えて」
「う、うん……」
そうして私は部屋へ戻り、宿題を始めた。寝る前にもう一度ログインをするために。
多分お父さんと会う事は、お母さんにはバレてないよね? きっと大丈夫!
……だと思う……
そうして私は、宿題を終わらせた後に再びログインをするのだった。




