「今日は地下二階をクリアするよ~!」
「コホン! 取りあえず沙南ちゃんに伝えるべき情報は二つあります」
落ち着きを取り戻したシルヴィアちゃんが攻略情報を教えてくれるらしい。
「まず一つ目は、この地下迷宮は一階ごとにレア魔物が存在するという事です。運よく出会えたら普通に倒して下さい。倒せば今回のように称号が貰え、ステータスを強化できます」
ふむふむなるほど。
「二つ目は、各階層ごとに隠しフロアが存在するという事です。そのフロアではイベントが発生して、クリアすれば豪華な報酬が貰えますよ」
おお~! RPGの王道だね!
「沙南ちゃんは地下二階を攻略中でしたね。先ほど頂いたレアアイテムの代わりに、その階層の隠しフロアを教えますよ」
そう言ってシルヴィアちゃんは、こっそりと秘密の通路を教えてくれた。
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「よぉ~し、今日は地下二階をクリアするよ~!」
私は街の外れに設置されている光球の前にいる。すぐそばには地下迷宮へ続く入り口もあるが、ここを降りるとチュートリアルの地下一階になるから、実質、転送装置を毎回使う流れになる。
私は光球に触れ、地下一階を選択する。すると眩い光に包まれて、転送が開始された。
光が治まると、チュートリアルのボスを倒した場所に立っている。ここから地下二階へ降りる階段で先に進む形だ。
地下二階へ降りると、私はまずシルヴィアちゃんに教えてもらった隠しフロアの場所を目指した。昨日、地下二階は散々探索したからマップは頭の中に入っている。
物凄く広いダンジョンは、目的地に着くまで時間がかかる。自分の家から駅に向かって走っている気分だよ。
ようやく教えてもらったフロアに着いた私は、隅っこの壁を調べ始める。すると、壁の一部をすり抜けられることに気が付いた!
すり抜けた先は広い通路になっていて、その奥に進むとまたフロアが広がっている。そして、その中心に一人の男性が佇んでいた。
「あ、あの、どうしたの?」
私はその人物に話しかけたが、心なしか、薄く透き通って見える。
「俺はこのダンジョンを攻略しようとしたが、考えが甘かったようだ。あまりにも敵が強すぎる」
ええ~! まだ地下二階なのに!? そんなに強くないよぉ……
まぁ、NPCのイベントだから黙って聞いておこう……
「偶然この隠しフロアに逃げ込んだが、ダメージを負い過ぎてそのまま息絶えてしまった。今の俺は未練を残した亡霊だ……」
そっか。幽霊さんだから体が透き通っていたんだね……
「頼む! せめて俺の未練を少しでも取り除いてくれ!! この地下二階に生息しているスライム10匹。ゴブリン10匹。コボルト10匹を倒してきてくれ!!」
討伐イベントだね。でも大丈夫。昨日はとことんレベル上げをしたから、それくらいの魔物はすでに倒してあるよ!
「おお! 倒してきてくれたか! ありがとう。これで少しは報われた。お前なら俺の代わりにこのダンジョンをクリアできるかもな。頑張ってくれよ……」
そう言って男の人は消えていく。
よかったぁ。成仏してくれたんだねっ!
【沙南は新たな称号を手に入れた。魂の継承者】
魂の継承者:地下二階で息絶えた男性とダンジョンクリアを約束した。アビリティ、先手必勝を継承する。
【沙南は新たなアビリティを習得した。先手必勝】
先手必勝:バトル開始から、相手の攻撃を喰らう前に攻撃を当てると攻撃力が2倍。
やった! 新しいアビリティだ!
よぉし、これでボスに挑むよぉ!!
私はすぐにボスのフロアへ向けて出発した。
……そして、ボスに到達する前に普通の魔物と戦闘を余儀なくされて、ボス戦ムードを壊されたりした……
むぅ。まぁ仕方ないんだけどぉ~……
【沙南は魔物の群れを倒した】
【沙南は新たな称号を手に入れた。ラッキービクトリー】
【沙南は新たな称号を手に入れた。スーパーラッキービクトリー】
ふえっ!? なんか突然称号を手に入れたよ!?
称号一覧を開いて、手に入れた称号を表示してみる。
ラッキービクトリー:プレイ時間が7時間7分丁度で戦闘に勝利する。ステータスに200ポイントの振り分けができる。
スーパーラッキービクトリー:プレイ時間が7時間7分7秒丁度で戦闘に勝利する。ステータスに300ポイントの振り分けができる。
私がプレイ時間を見てみると、7時間8分になろうとしているところだった。
多分これ、プレイ時間が10時間ごとにチャンスがある感じだね。最初で取得できたのは本当にラッキーだよぉ。
私は全てのポイントをATKにつぎ込んだ。そしてそのままボスのフロアへ走り出す。
ついにボスと思われる扉の前までやってきた。だってこの扉、怖いドクロマークが描かれているんだもん。絶対にボスだよぉ。
私はその扉を開けて中へ入った。
「ギャオオオオオオオオオン!!」
凄まじい咆哮が響き、毛むくじゃらの怪物が天井から落ちてきた。そしてゆっくりと立ち上がると、私の方を見て身構える。
ビッグフッドのような魔物は目を血走らせ、私に襲い掛かってきた!
【ビッグフッドが現れた!】
私は拳を構えて迎え撃とうと考える。しかし……
「グルアアアアア!!」
私の三倍以上大きな体は想像以上に迫力があって……
ブン! と振るわれる拳はかなりのリーチがあった。
私はバックステップを踏んでビッグフッドの攻撃を回避する。
これじゃ私の攻撃が届かないよぉ……
ビッグフッドは私の周囲を回りながら様子を伺っていた。その間に私も攻略法を考える。大丈夫。この手のゲームは散々お父さんとプレイしてきた。
アクションゲームではありがちな戦法だ。敵の動きは決まっていて、行動パターンを読めば必ず攻撃するタイミングが見えてくる。
焦らずに、まずは相手の動きをよく見て把握する!
そして何度か攻撃を掻い潜りながら、私は対処法を導き出す。やはりまだ序盤だからかな。敵の動きは単純だった。
「よぉし! そろそろ反撃しちゃうよぉ!!」
【沙南がスキルを使用した。力溜め】
そして敵の行動を待つ。
私の周りを回っていたビッグフッドが、大きく跳躍する。私を踏みつぶそうと、こっちに向かって落下してきた。
もちろんそれを読んでいた私は、軽くステップを踏んで巻き込まれないように移動する。ビッグフッドが何もない場所に着地をすると、その振動で私も動きが鈍くなるけど、そんなのはもはや関係ない。すでに攻略法は完成していた。
【沙南が特技を使用した。震脚】
震脚:消費60。地面を叩くと発動する。自身の円形にいる敵全てに攻撃できる。攻撃力2倍。
私は地面を軽く踏む。その瞬間――
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
私の周囲に振動が発生し、ビッグフッドが吹き飛んでいた。
【沙南のアビリティが発動。先手必勝】
【ビッグフッドに1万1764のダメージ】
【ビッグフッドを倒した】
【沙南は新たな称号を手に入れた。ダメージ1万を超えし者】
【沙南は新たな称号を手に入れた。ビッグフッドを屠る者】
【沙南のレベルが17に上がった】
やったぁ~! 色々と手に入ったよ!!
ダメージ1万を超えし者:1万ダメージを超えた者に贈られる。ATKが100増加する。
ビッグフッドを屠る者:ビッグフッドに大ダメージを与えた者に贈られる。ATKが100増加する。
さらに魔物が宝箱を落としていった。
【沙南は宝箱を開けた。ガチャチケット】
私は自分のステータス画面を開いてみる。
うんうん。すっごく強くなってるよぉ。……攻撃力だけが……
まぁそういう方針だからいいんだけどね……
そうして私は、ボスの先にある光球に駆け寄った。指で触れると、その場所が登録される。これでいつでも地下三階に挑めるわけだね!
取りあえず私は、シルヴィアちゃんに報告するために一旦街へと帰還するのだった。
現在の沙南のステータス。
LV :17
HP :2180
MP :140
ATK:1380(1794)
DEF:170
INT:36
RES:114
AGI:218
DEX:166