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「姫様の刀です!」

「刀剣愛好家所属、今は無き主の一振り、小狐丸。最後にあなたの強さを見せてもらいましょう!」


 いつでも刀を振り抜けるように体勢を保ちながら、相手の様子を伺う。


【沙南がスキルを使用した。クリティカルチャージ】


 ここは私の絶技で勝負をするしかない。へたに動き回ると技術の差で後れを取る事にもなる。しかし真っ向勝負ならば、レベルが格段に高い私が有利なんだ。沙南殿の一撃に合わせるようにして攻撃を仕掛け、『相殺』のアビリティを発動させれば私が勝つ。私だって攻撃力には自信がある。侍は自分のHPによってステータスが変化する特殊なクラスだけど、攻撃特化なのは間違いないのだから。

 沙南殿が動く、その瞬間を見極めろ……

 そしてお互いに空気も凍るような緊迫した睨み合いを続け、ついに沙南殿が動いた!

 今だ!!


【沙南が大技を使用した。秘技、獣王咆哮波】

【小狐丸が大技を使用した。絶技、縮地の法・鬼神斬】


 この絶技は一瞬で相手との距離をゼロにする。そうやって相殺を発動させてもいいし、直接攻撃を当てても私が勝つ!

 そう思いながら、沙南殿の正面に滑り込んだ時だった。私の目の前には彼女の手のひらが差し出されていて、オーラの波動が放出されていた。

 それはまるで津波のようだった。押し寄せる膨大な波に、足の踏ん張りが利かなくなる。

 私は構えた刀を振り切って攻撃を仕掛けようとしたが、その刀が相手に届く事はなく、私の体は吹き飛ばされてしまった。


「う……うわあああぁぁ……」


 激流に呑まれて上下の感覚が分からなくなる。彼女はきっと、私が相殺を狙っていた事に気が付いていたんだ……


【プレイヤーバトルに敗北した】


 地面に横渡り、そんなログをしばらく眺めていた。


「だ、大丈夫?」


 沙南殿が駆け寄って手を差し伸べてくれる。私はその手を掴んで立ち上がった。


「えっとね、さっきはクランに入ってなんて言ったけど、無理する必要ないからね? その、嫌なら別に断ってくれてもいいから……」


 自信がなくなってきたのか、少し弱気に見えた。


「いや、むしろ私達のほうがそれを聞きたい。こんな四人まとめて負かされるメンバーなんて必要でしょうか。無理に仲間に入れようとしてくれなくてもいいのですよ?」


 ほとんど自虐だ。たった一人に四人抜きされたのはさすがにショックだった……


「そ、そんな事ないよ! さっきも言ったけど、私なんて全然頼りないからね! そんな私をみんなが助けてくれて、逆にみんなが辛い時は私が助けるの。そうやってお互いに助け合うクランを目指しているんだけど、それじゃダメ……かな……?」


 やっぱり自信が無さそうに聞いてくる。

 あぁ、私はなんてバカなのだろう。初めてこの人を見た時、ただの子供だとか、レベルが低いとか、ただマスターという地位にすがっているだけだと思っていた。けどそんな事はなかった。彼女はこんなにもみんなの事を考えて、いつだって自分の考えが正しいかを模索しているじゃないか。

 だから私は、そんな彼女にかしずき、ひざまずく。


「ダメではありません。その考えに賛同して、これより私は沙南殿の……いや、姫様の刀です! どうか私をご自由にお使い下さい!」

「ふぇ!? 姫!? 私が!? ええ~!?」


 戸惑っている姫様の元に、小烏丸と蜥蜴丸も跪いた。


「自分も、主殿に忠誠を誓います。どうかこれまでの無礼をお許しください!」


 そう小烏丸が言う。


「沙南様の敵は拙者の敵。クランの敵は全て拙者が斬り伏せましょう!」


 蜥蜴丸も同じ気持ちのようだ。


「そ、そんな、みんな大げさだよぉ。頭を上げてよぉ」

「いえ、姫様は私達が仕えるにふさわしい人物だと判断しました。姫様の願いを叶える事こそが私達の喜びなのです。どうかその為に、私達という刀をお使い下さい!」


 姫様がワタワタしながら申請を飛ばしてくれた。私達はそれを快く承認するのだった。


「新規入隊おめでとうございます。ところで私とのリベンジはもういいんですか?」


 シルヴィア様が笑顔でそう聞いてきた。

 答えは分かり切っているだろうに。


「はい。もっと大切なものを見つける事ができましたから。シルヴィア様、これからよろしくお願いします」

「えぇ!? さまって……別に普通に呼んでくれていいんですよ?」

「いえ、私にとってこのクランは守るべき対象となりました。だからそのメンバーは私にとって忠義を尽くすべき方々なのです。特にシルヴィア様と出会わなければ、このクランに入る事もなかったはず。感謝してもしきれません」


 私が頭を下げると、シルヴィア様がそっと頭を撫でてくれた。その心地よさと嬉しさで胸がいっぱいになる。

 あぁ、天羽々斬様、どうやら私は大切な居場所や、あなたに代わるマスターを見つける事ができたようです。どうか、あなた以外のマスターに忠義を尽くす事をお許し下さい。


クラン名:び~すとふぁんぐ!

メンバー表

沙南   :武闘家   レベル85  クランマスター

ルリ   :魔法剣士  レベル86

GMナーユ :盗賊    レベル785

シルヴィア:クラフター レベル576

小狐丸  :侍     レベル916 new

小烏丸  :忍者    レベル263 new

蜥蜴丸  :侍     レベル239 new


* * *


「……瑞穂はどうするの?」


 私は彼女に声を掛けた。

 なぜならば、刀剣愛好家の三人がみんなと話す様子を、少し離れたところでジッと見つめていたから。


「アンタは……どうしてほしいのよ……」

「どうって……無理にとは言わない。きっと沙南もそう言うと思う」

「私は……アンタと……」


 私は、自分以外の人が何を考えているかなんてわからないし、察しも良くない。けど、瑞穂はなんだか迷っているように思えた。

 こういう時は、こっちから誘ってあげるのが嬉しかったりする。私が沙南に誘われたように。


「私は、瑞穂が入ってくれたら心強い」


 一言、それだけを伝える。

 ちょっと恥ずかしいけど、紛れもない本心だから。


「そ、そうなの? しょうがないわね! そこまで言うなら私もそっちに移ってあげる! 言っとくけど、別にアンタのためじゃないんだからねっ!」


 なぜか面白くなさそうにそう言われた。

 ……声はやたら張りがある気がするけど。


「え? しょうがないなら別にいいよ? モフモフにも悪いし」

「い、いいのよ! 入るったら入るの!!」


 顔を赤くしてなぜか怒り出した。

 理由はよくわからない……


「……それに、モフモフ日和は私に良くはしてくれたけど、なんて言うのかな? 私が遊ぶんじゃなくて、遊ばせてあげてるって言うか、みんなに気を使うっていうか……とにかく、こっちの方がなんか楽しそうなの! 歳の近い子も多いし」


 そうなんだ。よくわからないけど、こっちの方がいいと言われるのは素直に嬉しい。


「……ん。じゃあ沙南のとこに行こ。申請しなくちゃ」


 私は瑞穂の手を握って引っ張った。

 なんだか後ろでキャーキャーと騒ぎ出したけど、気にせずに沙南の所まで連れて行く。

 こうしてまた一人友達が増えた。このゲームを始めた時は、友達や仲間なんていらないって思ってた。一人で魔物と戦ってればいいと思ってた。けど、今はこのクランが好きで、みんなといるのが嬉しいって思えるようになっていた。

 ……だから、私はもっともっと楽しめるはずだ。このゲームが続く限り。


メンバー表、改め

沙南   :武闘家   レベル85  クランマスター

ルリ   :魔法剣士  レベル86

GMナーユ :盗賊    レベル785

シルヴィア:クラフター レベル576

小狐丸  :侍     レベル916

小烏丸  :忍者    レベル263

蜥蜴丸  :侍     レベル239

瑞穂   :魔術師   レベル331 new

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