「ここは私一人の居場所じゃない!」
【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】
……え?
「ふぁ!?」
魔術師の少女も変な声をあげて驚愕していた。
爆発の煙が治まると、沙南殿は何事もなかったかのようにその場に立っている。……え!? あれってジャストガードできるの!?
「ええええええ!? なんでーーー!?」
「いや~、その魔法って昨日のイベントでルリちゃんが習得してくれたんだよね。それで、今日のメンテナンスが終わってからすぐにジャストガードできないかなって練習してたんだ。そしたらね、出来ちゃった♪」
出来ちゃった♪ って楽しそうに言ってるけど、それ前代未聞だから! 成功させてる人なんて見た事ないから!!
「……他の魔法も慣れていたみたいだけど、それもルリに見せてもらったの?」
「うん。ルリちゃんがね、私は魔法使いとの闘いが大変になるだろうって、色々見せてくれてるんだ」
「……そう。まぁ自分で言いだしたルールだし、今日のところは負けを認めてあげる。けど次会った時は覚えてなさいよ!」
【瑞穂が降参した】
まるで悪役の負け惜しみのようなセリフを吐いて走り去って行く彼女。しかし帰るつもりはないようで、負けた蜥蜴丸や小烏丸と一緒におしゃべりを始めていた。
「次はいよいよ、子狐ちゃんの番ですね」
なんだか生け贄の順番が回ってきたような気持ちでもある。だが、私とて負けるつもりはない。
「私は勝つ。そして、シルヴィア殿にリベンジを果たすつもりだ」
「……はい。頑張って下さいね」
頑張って、か。沙南殿を一番に応援しているくせに。
私は沙南殿と向かい合って対峙する。
「これまでの闘い、まことに見事でした。私も本気で行きます!」
敬意を払って挑む。もはや油断できる相手ではない事は明白なのだから。
【小狐丸がスキルを使用した。一点集中】
【小狐丸がスキルを使用した。力溜め】
【小狐丸がスキルを使用した。背水の陣】
【小狐丸がスキルを使用した。自傷】
HPが1になるが、沙南殿の攻撃を喰らえば一撃で沈む。どの道同じ事だ。
「うん。よろしくね。狐ちゃん!」
【沙南がスキルを使用した。力溜め】
【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】
私は刀を抜いて……一気に距離を詰めた!
シルヴィア殿は、沙南殿を倒すために必要なのは戦術だと言った。ならばその助言を活かしてみせようではないか。
これまでの闘いを見る限り、こちらが動けばソニックムーブで回り込まれ、攻めの姿勢で攻撃を仕掛ければアビリティで弾かれる。八方塞がりにも思えるが、一つだけ付け入る隙がある!
私は沙南殿の目の前で刀を振り上げ、攻撃を仕掛けた!
【小狐丸が特技を使用した。飛燕斬】
ゼロ距離からの遠距離攻撃!
こうする事で近距離攻撃だと思い込み、ブロッキングをしようとするはず。しかし実際は遠距離攻撃なのでブロッキングは発動しない。これなら確実に一撃を与える事が出来る!
しかし、私が刀を振り下ろした瞬間に彼女はバックステップを踏み後退をした。
飛び退いだ彼女に私の飛燕斬が迫るも、しっかりと手甲で受け切った。
【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】
そんな、勘付かれた!?
「あ、危なかった~!」
バランスを崩しながらも防ぎ切った体勢を立て直し、沙南殿は割と本気で焦った表情をしていた。
「……よく防げましたね」
「うん。今の戦法はね、前にルリちゃんから気を付けるように言われてたんだ。ルリちゃんは私がダメージを受けそうな戦い方とかで気が付いた事を教えてくれるからね。それに今の技は蜥蜴さんから一度見てるし」
なるほど。すでに仲間に危惧されていたか。
「こんどはこっちの番だよ!」
【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ】
来る!?
沙南殿の姿がフッと消える。いや、高速で背後に回り込むのが僅かに見えた。
私はすかさず横に跳ぶと、沙南殿の拳が頬の近くを通過していた。
そのまま地面を転がり、すばやく立ち上がる。本当にこの人はとんでもない動きをするので一瞬も気が抜けない。
……ならば次の作戦は……
「そこまで必死になって戦う必要はないでしょう。シルヴィア殿はあなたのクランを壊滅させようとしているのですよ?」
「え……えぇ!?」
嘘を吐く。
そうして沙南殿を惑わし、精神的に追い詰める。考えてみれば沙南殿はまだ子供。こっちの作戦の方が効果は高いだろうし、マスターとしての器量も計れる。
「シルヴィア殿はなぜレベルの低い順で勝ち抜き戦にしようと提案したと思いますか。それはあなたを捨て駒に使うためですよ。普通、先鋒は相手の出方を見るために使いますからね」
「こ、こらー! 子狐ちゃん何を言ってるんですかー!? うちの沙南ちゃんを惑わさないで下さい!!」
シルヴィア殿が遠くで文句を垂れているが、今は気にしないでおく。
……自分が卑怯な事をしているのなんて分かっているのだから。
でもこのまま沙南殿一人にやられっぱなしというのも癪に障るし、何よりも沙南殿の真意が聞きたかった。
「もしかするとシルヴィア殿は、刀剣愛好家に移りたいがためにわざと負けようとしているのかもしれませんよ? 沙南殿はどう思われますか?」
「私は……そんな事ないと思う!」
意外にも、そう力強く答えた。
「なぜそう思うのですか?」
「シルヴィアちゃんはお友達だから! 私は友達や仲間を最後まで信じる!」
ドクン! そう私の胸が大きく脈打った。
天羽々斬様も、いつも仲間を信じて最後まで優しかった……
「だからね、私はこのクランを潰す気なんてないよ。だって、こんな私にマスターになってほしいって願ってくれた人がいたから。こんなクランでも、入れてほしいって歩み寄ってくれた人もいるから。だから、ここは私一人の居場所じゃない!」
天羽々斬様も、自分の気持ちよりもみんなの気持ちを大事にしてくれていた……
「狐ちゃんだってそうでしょ? マスターが辞めちゃって、そのクランを立て直すか、同じようなマスターを探してクランを移るか迷ってるんだよね?」
精神的に惑わせるはずが、私の方が迷ってる……
この子が天羽々斬様の代わりになるんじゃないかって期待してる……
「私はきっと頼りなくて、みんなに迷惑をかけちゃうようなマスターかもしれないけど、それでも狐ちゃん達の思い出を大事にする事はできるよ! 守りたいものを一緒に守る事はできるよ! 私にできる事なら要望だって聞くよ! だから……私のクランに入ってほしい!!」
揺れる。
私の気持ちが揺れ動いて、刀が持てなくなりそうなくらい手が震えていた。
「さぁ、これが最後の勝負だよ!」
沙南殿が構えた。
私はハッとして、腰を落として刀を脇に持っていく。
かなり心に迷いを生じたけど、戦いはまだ終わっていない。私は侍なんだ。語るならば、この刀を通して答えるのみ!
そうして今、最後の決着を迎えようとしていた。




