「私と付き合って下さい!!」
「えい!」
【沙南の攻撃】
【ゴブリンに310のダメージ】
【ゴブリンを倒した】
私は地下迷宮の地下二階に来ていた。まだ序盤だからか、出てくる魔物は一発で倒せている。
それにしてもダンジョンの内部はすごい広さだよぉ。片側二車線ほどもある長いトンネルのような通路を突き進み、開けたフロアに出るとそこは校庭のグラウンドくらいの広さがある。
でも当然といえば当然かな。これはオンラインゲームであり、一人で遊ぶゲームじゃない。通路でもフロアでも、あちこちで色んな恰好のユーザーが魔物と戦っていた。
基本的にこういうタイプのゲームには暗黙のルールがある。昔お父さんに教えてもらったんだけど、他の人が戦っている魔物にトドメをさし、経験値を横取りしてはいけない。
逆に自分が戦っている魔物を他のユーザーに押し付けるような行動をしてはいけない。自分がエンカウントした敵は責任を持って自分で戦わなくちゃいけないって事なんだね。
グラウンドほど広いフロアからは左右に一つずつ通路が分かれている。どっちに行けばいいかわからないけど、私は全ての道をちゃんと見ないと気が済まないタイプだ。
全部の道を通って全部のフロアを確認する。そうやって宝箱とかを一つも逃す事無く回収しながら攻略するのが楽しい。私は昔からRPGはそういう風にプレイしてきたんだ。
……でも、さすがにこのダンジョンは広すぎて全部まわるのにかなりの時間がかかっちゃう。時計を見ると、もう夕飯の準備をしなくちゃいけない時間だった。
丁度ボス以外のフロアを見回った私は、そろそろログアウトするために街へ戻る事にした。
街へ戻るにはまず地下一階を目指す事になる。チュートリアルが終了した時の、街へ転送してくれる装置を使うためだ。
レベル上げのため、目に入った魔物とは全部戦っている私だけど、突然その帰り道に今まで遭遇したことがない魔物が現れた。
それは黄金に輝くスライムだった。
私が近づくと、魔物のHPメーターが表示され、エンカウントバトルに突入する。そして私が攻撃すると、黄金のスライムはいとも簡単に倒れてしまった。
しかし――
【沙南は新たな称号を手に入れた。ゴールデンスライムを狩る者】
ゴールデンスライムを狩る者:レア魔物であるゴールデンスライムを討伐した者に贈られる。ステータスに100ポイントの振り分けができる。
わぁ。なんだか称号を獲得できたよ! もちろん全部ATKに割り振ろうっと。
さらに魔物が宝箱を落としていった。
【沙南は宝箱を開けた。ゴールデンストーン】
よくわからないけど、レアアイテムとかかな? これはシルヴィアちゃんに見せるとして、とにかく今日はもう帰ろう。
そう思った時だった。
――ドドドドドド!!
地響きが鳴り、振動がどんどん大きくなる。
何が起こったのか全然わかんないよ……
「危ない……どいて……」
地響きにかき消されそうな小さな声が後ろから聞こえて、私はすぐに振り返った。
するとそこには私と同じくらいの背丈の女の子が迫っていて、ぶつかりそうになっていた。
――ピョン!
身軽にジャンプして私を飛び越えた女の子は、着地と同時に走り去って行く。そしてその後ろからは大量の魔物が追いかけてきていて、驚いた私は壁に身を寄せてやり過ごそうとした。
大量の魔物による百鬼夜行が過ぎていき砂埃が治まると、私は十匹を超える魔物に取り囲まれていた。多分、私の横を通過する際にターゲットを私に切り替えた魔物達だ。
「ええ~~!? こんなのマナー違反だよぉ……」
で、でも大丈夫! まだここは魔物が弱いから、なんとか全部倒せる……と思う。
そうして私は、割と本気で魔物に飛びかかっていき、晩御飯の準備をするのが少し遅れるのであった……
・
・
・
「へいらっしゃい! 何かお買い上げですかい?」
冒険を始めて二日目。私は武器、防具屋にて装備品を見ている。昨日の探索で結構魔物を倒したおかげで、お金がそこそこ貯まっていた。
一通り見ていると、装備品に特性があるのに気が付いた。なんと、ATKに5%の上昇効果がついている装備品がある。しかも結構お手頃な値段だよ!?
けどその代わり、防御力がかなり低い。まぁ別にいいかな。どうせ私、これからも防御力上げるつもりないし……
私は武闘家専用の装備で、攻撃力が上がる一式を揃える事にした。
・パワーグローブ:ATK+5%
・気合いの手甲:DEF+10。ATK+5%
・闘争のチャイナドレス:DEF+10。ATK+5%
・闘魂のハチマキ:DEF+10。ATK+5%
・熱血のスカーフ:ATK+10%
すごい! これだけで攻撃力が30%も上がる! ……上がるのはいいんだけど、ちょっと恥ずかしい気もするよぉ……
装備を変えると見た目のグラフィックも変わる。私は白いグローブに白銀の手甲をはめ、橙色のハチマキを巻き、首には真っ赤なスカーフ。そして……薄桃色のチャイナドレス姿に変わっていた。
ふえぇ~……この服、下がヒラヒラしてて足が見えちゃってるよぉ。
けどまぁ、あくまでゲームの中だから気にしなくてもいいのかな? リアルじゃ絶対に着る機会なんて無いし、柄とかも結構可愛いかも!
私はポジティブに考えながらステータス画面を開いてみた。
LV :16
HP :2100
MP :135
ATK:660(858)
DEF:165
INT:35
RES:110
AGI:210
DEX:160
おお~! 装備品の効果で攻撃力が200近くも上がってるよ!
これからも攻撃力を上げるのが楽しくなるかも!
さぁ、次はシルヴィアちゃんのところに行こうっと。
「キャー!! 沙南ちゃんカワイイー!!」
路地裏に入るや否や、シルヴィアちゃんが駆け寄ってきた。
私の周りをグルグル回りながら、なぜかローアングルで見上げるように見つめてくる。
「攻撃力重視で装備を揃えてみたよ!」
「あくまでも攻撃特化を貫くんですね。そんな沙南ちゃん素敵です!」
ビックリするくらいウットリとしているシルヴィアちゃんに、昨日ドロップしたゴールデンストーンをアイテム覧から具現化して見せてみた。
「シルヴィアちゃん。これってレアアイテムかな?」
「ん~レアなのは、ちっちゃくて可愛い沙南ちゃんですよ~……って、はうあ!! そ、そのアイテムは!?」
急に驚いた表情になったシルヴィアちゃんが、石を手に取りマジマジと見つめ始めた。
ちなみに、今はシルヴィアちゃんが石を手にしているけど、あくまでも私のアイテム覧にある物なので所有権が移っている訳ではない。
アイテムを戻せばちゃんと私のアイテム覧に戻るから盗まれたりする心配はない。
相手にアイテムを渡したい時は、トレード設定をするか、プレゼントで相手に渡すかのどっちかだ。
「これは地下二階のレア魔物からの激レアアイテムですよ! かなりの貴重品です!」
「そうなんだ。じゃあそれ、シルヴィアちゃんにあげるね」
私はパパパっとコマンドを操作する。
【沙南がシルヴィアへプレゼントを贈りました。ゴールデンストーン】
「へ?」
シルヴィアちゃんが固まった。そして次第に震え出す。
「ええええええええ!? ちょ、ちょっと待って下さい!! 沙南ちゃん、これって本当に貴重なんですよ!? アイテム作成に使用すればかなり良質な物が作れますし、装備品の加工に使えば激レア装備だって出来ちゃいます! それを簡単にプレゼントするだなんて!!」
「でも私、アイテム作成とかよく分からないからクラフターのシルヴィアちゃんが使った方がいいでしょ?、装備だって攻撃特化のために今買った装備で十分だよ。それにシルヴィアちゃんって情報屋なんでしょ? このゲームの事、色々と教えてもらうためにはレアアイテムを渡さないと」
「そ、それはそうかもしれませんが、ゲームの事なんて攻略サイトを見ればいくらでも書いてあります。わざわざ私にアイテムを渡してまで回りくどい調べ方をしなくたって……」
「ううん。私ね、ゲームをする時は攻略サイトは使わないんだ。特にこういうネトゲーは尚更だよ。だって自分一人で調べて淡々と攻略したって面白くないでしょ? 友達や仲間と話し合って、みんなで情報を交換したりしてさ、そうやってゲームを進めて行くのが楽しいんだよ」
あれ? でも私、このゲームを始めた時は楽しむためじゃなく、お父さんを連れ戻すためってだけの理由でキャラを作ったんだっけか……?
……まぁいいや。やっぱり私はゲームが好きで、楽しむ事を忘れられないらしい。
「それにね、私、シルヴィアちゃんには感謝してるから、そのお礼がしたかったんだ」
「へ? お礼? なんの……?」
シルヴィアちゃんがキョトンとした表情で私を見る。
「私がこのゲームを始めてから、一番初めに声をかけてくれたのがシルヴィアちゃんなんだよ? 私に親切にしてくれて、フレンド登録までしてくれた。それがすっごく嬉しかったんだ。私ね、シルヴィアちゃんと友達になれて、本当に嬉しい!」
えへへ、なんだかちょっと恥ずかしいな。
「て、天使……私の目の前に天使がいます……」
シルヴィアちゃんがギュッと私の手を握ってきた。
「シ、シルヴィアちゃん……?」
「わ、私、沙南ちゃんの事を好きになっちゃいました。私と付き合って下さい!!」
コーン…………
え? 付き合うって、好き同士になるって事? え? ええ!? ええぇ!?
「ええええぇぇ!? も、もしかしてシルヴィアちゃんって男の人だったのぉ!?」
「いえ、私はリアルでも女性です。けど、そんな事は関係ありません! 沙南ちゃんの可愛さの前にはもはや性別なんてあって無いようなもの! こんなの誰だってキュンキュンしちゃいますよ!!」
「いやいやいや! 少し落ち着こ? ね? 一旦深呼吸して――」
「むっはー!! 沙南ちゃん愛しています~!!」
そして、その路地裏でしばらくの間、私とシルヴィアちゃんは追いかけっこをする羽目になったという……