「ダメージ一千万越え!?」
* * *
「てやー!」
【沙南が415万1347のダメージを与えた】
あっという間にボスのレベルが100を超えた。これもみんながバンバン卵を送ってきてくれるお陰だよ。
現在、私はイベントログを開いて戦闘を行っていた。このイベントログは、アビリティなんかは表示されず、簡潔な結果だけが表示される。
イベントに参加しているみんながボスと戦っているんだから、その全てが表示される全体ログにしていると、恐ろしい速さで流れて行って何がなんだかわからないからだ。
このイベントログを見ながら、強いプレイヤーをチェックして、お父さんの手がかりを探そうというのが私の作戦だったりする!
とは言え、まだ序盤なので大きなダメージを出すプレイヤーは中々いない。
【天羽々斬が621万3550のダメージを与えた】
おお!? 凄いダメージを与えているプレイヤーがいる!
てん……はねはね……?
なんて読むかわからないけど、私のゲーマーとしての勘が大物だと訴えかけているよ! この人は要チェックだね!
それとお父さんはゲームだと、『イグニス』って名前をよく使っていたんだけど、そういう名前の人いないかもチェックしていかないと!
みんなのおかげでスタートダッシュを決めた私のクランだけど、やっぱりメンバーが多い方が有利なのは間違いない。
私のところはボスを倒して間を置いて、またボスが送られてきて間が空いて、という状況になっていた。それに対して他のメンバーが多いと思われるクランは続けざまにボスが送られているので休む暇もないようだ。
とは言え、私のクランはイベントランキングの上位をキープしている。その理由が、ボスの闘い方にあるからだった。
例えばレベル100のボスはHPが100万なんだけど、このボスに90万のダメージを与えて負けてしまったとすると、イベントポイントはそのまま90万手に入る。
二人掛かりで50万を二回与えてボスを倒すと、討伐ボーナスが10%付いて、110万ポイントが入る。
そして、一回の攻撃で100万を与えて討伐すると、一撃必殺ボーナス10%が加算されて、合計120万ポイントが入る仕様だ。
さらに一撃でボスを倒すと、ボスのレベルが上がりやすいというシステムになっていて、私のボスは10レベル刻みで強くなっていた。
この仕様のおかげで、多少ボスが送られてくる頻度が遅くても、ポイントで遅れを取る事は無かったりする。
イベントが中盤に差し掛かった。イベント終了まで残り一時間。
現在、び~すとふぁんぐのランキングは68位だ。ランキング報酬で一番良いのは50位内だから、なんとか頑張ってそこまで上がりたいけど、やっぱり人数差と、これまでレベル上げを重ねて頑張ってきたプレイヤー。課金をしているプレイヤーと、ライバル少なくない。
でも、まだまだ中盤だからねっ! 最後まで諦めないよ!
ここで私のレイドボスのレベルが420になった。つまりはHP420万だから、私もダメージを上げなくちゃいけないという事。
だからここで、通常技から奥義へと使う特技を変更する。
スキルを使い、全てのアビリティが発動するようにブロッキングも発動させて、どれくらいのダメージになるかをちゃんと計る!
私の奥義、咆哮牙・極!
ドスン! と、私の掌底がデブピヨちゃんのふくよかなお腹にヒットする!
【沙南が1037万8368のダメージを与えた】
ザワッ!!
その瞬間に周囲のプレイヤーがザワついた。
「ダメージ一千万越え!?」
「またあの子だ!」
「まだ本気じゃなかったのか!?」
周囲の目にも段々と慣れてきたから大丈夫! どんどんボスを倒していくよ!
そう思った時だった。
【天羽々斬が1254万5800のダメージを与えた】
そんなログに、私は目を奪われた。
「また一千万越え!?」
「レアボスでも現れたか!?」
レアボスというのは金色の卵で、ボスに変わると通常の10倍というタフなHPだったりする。その代わり、貰えるイベントポイントも10倍だからおいしいんだよね。
……でも、私が攻撃した後にこのダメージは偶然? それとも……
【シンギが1389万1598のダメージを与えた】
またしても膨大なダメージがログに記録される。
違う……これは!
【モフモフ師匠が1455万4280のダメージを与えた】
私に触発されているんだ!
【無課金の本気が1613万4260のダメージを与えた】
これまで強さを追い求めてきたプレイヤーが、負けてないって。自分の方が凄いんだって、張り合ってるんだ!
私は次のボスが現れた瞬間にスキルを使い、体勢を整える。
混ざりたい! 見てもらいたい! 私だって……まだ本気じゃない!!
ボスの攻撃をブロッキングして、両手を脇に持っていく。そしてそのままボスへと飛びかかった!
これが今繰り出せる、私の全力全開! 絶技、獣神咆哮牙!!
【沙南が2075万6736のダメージを与えた】
これでどう!?
私はログを確認する。そして、ドクンと胸が高鳴った。
【くぅが2546万9630のダメージを与えた】
あっさりと超えられていた。
そっか。そうだよね。
【黒猫が3141万8770のダメージを与えた】
ここにいるみんなは、クランを代表するマスターや、みんなが運んだボスを討伐する事を任されたプレイヤーの集まりなんだ。
【アビスが4509万8520のダメージを与えた】
このゲームには、凄く強いプレイヤーが沢山いる!
ログだけで姿は見えないけど、確かに存在するんだ!!
【天羽々斬が6089万5650のダメージを与えた】
だから私も強くなりたい!
もっともっと強くなりたい!
こんな凄いダメージを出せる人と張り合えるくらいに!!
【シンギが1億1014万4480のダメージを与えた】
「うおお! 一億いってんぞ!?」
「これって地下ダンジョン攻略部隊のメンバーだよな? あそこはガチクランだからなぁ。さすがだわ~」
そのダメージを境に、競い合いはピタリと止んだ。
まるでクランの格を見せつけるかのような、一時のせめぎ合い。そんなログを見せつけられて、私を含めて多くのプレイヤーが高揚していた。
そして、イベントの残り時間は刻一刻と迫って来る。
――イベント終了まで、残り三十分!




