「ちっ! やっぱりクラフターか」
* * *
「あ、あの、これを……」
私は手作りのぬいぐるみを差し出しました。彼が好きな猫のデザインを縫った、私の自信作!
校庭の隅にそびえる大きな桜。その下で告白すると恋が成就すると言われる噂話にあやかって、今日は彼を呼び出しました。そして、勇気をもって告白するんです。大丈夫、まずはぬいぐるみを受けとってもらってから……
「こ、これは……」
受け取ってくれる時に、彼の指が微かに触れて私の胸が高鳴りました。
今です! 今、告白するんです!!
「あ、あの――」
「呪いの人形だね!? なんて禍々しい造形なんだ! でも大丈夫、うちの神社でちゃっと供養するから心配はいらないよ」
…………は?
「任せてくれよ! きっと呪いを解呪してみせるから!!」
ええぇぇ~~……
……こうして私の恋心は、お焚き上げさせられたぬいぐるみと共に燃え尽きてしまいました……
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「さ~、誰か来ませんかね~」
私は現在、転送装置の近くに配置した木の上に横たわっています。
そう、自分でクラフトしたモコモコした葉っぱの陰に隠れて、獲物を待ち伏せしているのです。
なぜなら私はクラフターだから。戦闘はもっぱら苦手であり、やれる事といえば待ち伏せをして奇襲をかける事くらいなのです。
私が配置した物は、このモコモコした葉っぱの木だけではありません。周囲には見渡す限り、多くのクラフトアイテムを設置しています。
人が隠れられそうな茂み。
誰なのか分からない人物の石像。
特になんの意味もない立て札。
……よく分からない造形をしたオブジェ……
はい。このオブジェは私がデザインしました……
イベントエリアは地平線が見えそうなくらい果てしない草原ですが、このGエリアの転送装置の付近だけは、まるで芸術家の部屋か! ってくらい変な物が乱雑に置かれて、奇妙な空間となっておりました。
この時、ナユっちからクランチャットでメッセージが送られてきました。どうやらナユっちはすでに四つもボスの卵を送ったそうです。早すぎですね。さすが盗賊、頼りになります。
……まぁ、どうせ一人で黙々と卵集めをしていて寂しくなったんでしょう。あの子、今までクランにも入らずにずっとソロで行動していたみたいですから、このクラン内ではかなりうかれているのがモロバレなんですよね。……本人は隠しているつもりみたいですけど。
そんな事を考えていると、一人のプレイヤーが目に入りました。この異様な産物を目の当たりにして、キョロキョロしています。
それでいて転送装置の方へと向かって来るという事は……
うん。やはりそうです。卵を転送しようとしていますね。
私はそっと、コマンド選択画面をタッチしました。
【シルヴィアがアイテムバトルを仕掛けた】
その瞬間、彼はビクリと震えて周囲を見渡し始めました。まだ私がここに隠れている事には気付いていないみたいですね。
おっといけない。ついクセで相手の情報も確認しないでバトルを仕掛けてしまいました。えっと、彼の情報はっと……
名前:俺の屍を越えていけ
クラス:ソルジャー
レベル:146
ん~、このレベルならただ見ているだけで終わるかもしれませんね。
そう思った時でした。屍さんがボスの卵を具現化して、転送装置の輪っか目がけて投げ飛ばしました。このままではダイレクトにゴールしてしまいそうです。
私は指先をクリクリっと動かしてアイテムを使いました。
【シルヴィアがクラフトアイテムを設置した。鉄柱S】
私が設置した鉄の柱によって、卵は弾かれて地面に落ちました。
「ちっ! やっぱりクラフターか。しかもSランクのアイテムとなると、かなりやり込んでるな……」
眉をしかめながら、地面に落ちた卵をアイテム覧に戻します。そしてクルリと後ろを向くと、そそくさと逃げ出してしまいました。
しかし数歩移動した所には私の設置した地雷がありますから……
――チュドーーーーーン!!
案の定、地雷を踏んで爆発に巻き込まれてしまいましたね。
【俺の屍を越えていけに7650のダメージ】
「ち、ちくしょう!!」
慌てています。こうなるともう助かりませんね。
まぁ、バトルを仕掛けた時点でもう逃げ場はありません。前に進もうが踵を返して逃げようが、すでに屍さんの周りには私の罠が大量に張り巡らされているのですから。
走り出す屍さんの背後から矢が飛んできて背中に命中しました。
【俺の屍を越えていけに5000のダメージ】
多分、屍さんも気付いてはいるでしょう。自分が蜘蛛の巣のど真ん中に入り込んでから、身動きが取れなくなっている事に。
なぜならば、最初に入り込んで来るときは私のトラップは発動しません。バトルが成り立っていないからです。それがアイテムバトルを仕掛けたとたん、全てのトラップが相手の動きに反応するようになります。つまり、どこへ行こうが結局は同じという訳ですね。
屍さんが茂みに近付いた瞬間に、その茂みから鋭い槍が飛び出してきて屍さんに突き刺さりました。
【俺の屍を越えていけに7500のダメージ】
【俺の屍を越えていけを倒した】
どうやら予想通り、戦闘が終わったようですね。
私は転送装置の前に設置した鉄柱や、一度使い終わったトラップを削除しました。そしてトラップは新しい物をまた設置します。
その後で奪った卵を沙南ちゃんに向けて転送しました。
これが私の闘い方。戦闘が不向きの、クラフターの常套手段なんです。
私が再び木の上に戻って寝そべると、すぐに次のプレイヤーが入り込んできました。
うん。順調順調!
私は丁度良い位置まで到達したそのプレイヤーに向けて、コマンド選択をタッチしました。
【シルヴィアがアイテムバトルを仕掛けた】
あ、またやってしまいました。すぐ相手の情報を確認し忘れるんですよね……
まぁ、よほど格上の相手じゃない限りはバトルを挑みますけどね。
名前:小狐丸
クラス:侍
レベル916
……ん? あれ?
これはもしかして、私やっちゃいましたか?
タラタラと、私の額からは大量の冷や汗が流れ落ちるのでした。




