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「ここまで侮辱されたのは生まれて初めてだわ……」

* * *


「……どっちに向かおう」


 私は左右を交互に見渡す。

 ナーユが直進して行ったから、その後ろをくっ付いて行けば楽できるかも。でも私達は三人で卵を集めないといけないから、一人一人が頑張らないと良い結果を残せない……

 シルヴィアは左方面へ向かったから、私は右方面で卵を集めようかな。

 私がてきとうに進んでいくと、Dエリアと書かれた立て札が刺さっている。

 うん。まずはこの辺で卵を集めようかな。

 私が周囲を見渡しながら進んで行くと、卵があっちこっちに落っこちている。まぁ、考えてみれば百以上もあるクランが参加するイベントだ。落ちている卵なんて多いくらいが丁度良いのかもしれない。

 卵は一つずつしか所持できないので、私は一個拾ってから近くの転送装置へと向かった。


「待ちなさい! その卵を賭けて勝負よ!」


 突然上の方から声がした。目を向けると、転送装置のてっぺんに魔法少女風の女の子が座り込んで私を見つめていた。


瑞穂みずほからアイテムバトルを挑まれた】


「レベルの低い初心者みたいだから忠告してあげるわ。ボスの卵を渡しなさい。そうすれば命だけは見逃してあげる」


 ……よく意味がわからない。取りあえず卵をアイテム覧から具現化して、転送装置の輪っかにダイレクトに投げ込んでみた。

 しかし真上に座り込んでいたその子がピョンと飛び降りて、私の卵を空中でキャッチした。


「残念でした! この卵は私がもらっておくわね。ま、私と戦う事にならないだけマシだったんじゃない」


 そんな事を言いながら、輪っかの中へと卵を放り込んだ。


【卵が『び~すとふぁんぐ!』へ転送された】


「へ? ええ~!? なんで~!?」


 その子が取り乱して喚き始めた。

 まさか本当に知らなかったのかな? アイテムをキャッチしただけじゃ所有権は変わらない。だから誰が転送したとしても、所有権がある私のクランに送られるのは当たり前なんだけど……

 これじゃどっちが初心者なんだかわからない。まぁこれで一個送れたし、次の卵を探さないと。


「私を騙したわねぇ! あ、こらー!! 逃げるなー!!」


 なんか一人で騒いでいるけど、私は無視して卵を探しに元来た道を戻る事にした。

 草原の中を探し回るけど、やはりスタート地点に近いせいもあってか、他のプレイヤーがウロウロしていて卵は全部回収されてしまっている。私はさらに行動範囲を広げて歩き回ると、ようやく二個目の卵を見つける事ができた。

 さぁ、さっきの変な子がいる所まで戻って転送しなくちゃ。

 私が駆け足で転送装置の所まで行くと、案の定、さっきの子が仁王立ちをして私を待ち構えていた。


「ふっ! 逃げずに戻って来るなんて大した度胸ね! もう許さないんだから!!」


瑞穂みずほからアイテムバトルを挑まれた】


 ……というか、私達の真横を通り過ぎて、他のプレイヤーがバンバン転送装置を使用している。


「……あの、他のプレイヤーはいいの?」

「そんな事どうでもいいわ! この私をコケにしたあなたをギャフンと言わせるのが先よ!!」


 そう言ってその子は、手に持つステッキを私に向けた。


「……えっと、じゃあ私、降参する。参った」

「え!? 降参しちゃうの!? 何よ、あっけないわね……」

「うん。もうあなたの勝ちでいい。それじゃバイバイ」

「あ、うん。まぁいいか」


 私はそのまま、その子の隣を通過した。


「さてと、バトルに勝ったから卵は……あれ? 卵どこ?」


 困惑するその子を置いて、私は無事に輪っかの前まで辿り着く。そしてアイテム覧から具現化した卵を輪っかの中へと押し込んだ。


「あーっ!? アンタまた私を騙したわねー!!」


 私は逃げるようにその場を後にする。

 そんな格闘技の試合じゃないんだから、口で参ったなんて言ったところでバトルが終了するとでも思っているのかな。

 ……アホの子で助かった……

 私はさらに周辺を捜索して卵を探し回る。そうして三個目を見つけた時だった。ナーユからクランチャットが入ってその足を止めた。

 どうやらナーユはもう四個も卵を沙南に送ったらしい。私もモタモタしているつもりはないんだけど、やっぱりAGI特化のクラスはこういうイベントに強いから頼りになる。

 ……けど私だって負けるつもりはない。そのために課金をしたんだから!


 ……クランのメンバーが四人になった時、一番最初に思った事は、この中で私が一番役に立ちそうにない。という事だった。

 沙南が十分に強いのは当然だとして、シルヴィアもナーユも、変な人だけどレベルだけは異常に高かった。

 きっとイベントが始まったら、私だけが活躍できないと思った。……だから、直前になって課金をした! 少しでも沙南の役に立ちたかった! 役立たずだなんて思われたくなかった! ……みんなと対等の立場になって、イベントを楽しみたかった……

 そう願う私にできる事なんて、課金する事くらいだったから……


「来たわね。今度こそ、絶対に許さないんだから!!」


 やっぱりあの子が私の前に立ち塞がった。ほっぺを膨らませて、怒っているせいか顔がほのかに赤い。


「アンタ、私を『モフモフ日和』のメンバーだと知っての狼藉ろうぜきなわけ!?」

「……? モフモフ? 誰?」


 ムキーっと、その子は地団駄を踏み始めた。


「イベントで毎回上位にランクインするモフモフ日和よ!! 私はそのクランに所属するアイドルなんだからねっ!!」

「……アイドル? あなたが?」

「そうよ! 私の可愛さにみんなメロメロなんだから!」


 私は改めてその子を見る。

 私と沙南よりも少しだけ背の高いその子は、魔法少女をイメージするコスチュームだ。髪はピンク色で、猫耳カチューシャを付けて、長い髪をツインテールにしてなびかせていた。

 まぁ可愛いと言えば可愛いけど……


「でもどうせゲームのアバターだし……」

「何言ってるのよ! 私はリアルアバターを使ってるの!!」


 その言葉はさすがにちょっと驚いた。

 沙南以外にもリアルアバターを使う人っていたんだ……


「リ、リアルでも髪がピンクなの……?」


 そこが一番気になった。


「んな訳あるかー! 髪の色だけはゲームの中で変えてるのよ!!」

「そう。まぁなんにせよ、沙南の方が可愛い」


 そう言うと、その子がピクリと体を震わせる。


「サナ? 誰よそれ」

「沙南は沙南。私達のクランマスター。沙南もリアルアバターを使ってる」

「その子が、私より可愛いですって……?」

「うん。それに沙南はあなたみたいにうるさくないし、とっても優しい。一緒にいるとポカポカする」

「……そう」


 その子が俯いたまま体を震わせている。手に持つステッキがカタカタと揺れ、握りつぶすんじゃないかって思うほど力が込められているのが分かった。


「ここまで侮辱されたのは生まれて初めてだわ……」


 ……何をそんなに怒っているのか、私にはよく分からない。


「決めた。アンタを潰す! そんでそのサナって奴も潰す! それでクランも潰す!!」


 よく分からないけど、この子が私の大切なものを壊そうとしているのだけは分かった。


「させない。沙南は私が守る!」

「できるの? 騙す事しかできないアンタが! レベルが低いから姑息に立ち回る事しかできないくせに、口だけは一人前。もしかしてそのサナって奴も姑息だったりする?」


 イラッと、私の頭が熱くなる。


「沙南は卑怯な事なんてしない。レベルの高い相手にだって勝った!」

「はっ!? どうだか。もしかして戦う前に土下座でもしてるんじゃないの? 『どうかわざと負けて、私に花を持たせて下さい~』ってさぁ!」


 カァーっと目の奥も熱くなる。


「……勝手な事ばっかり……」

「はぁ? 何よ?」


 私は衝動に駆られて剣を抜き、その子に向けた。


「絶対に許さない!!」

「怒ったの? 面白い! やってみなさいよ!!」


【瑞穂からアイテムバトルを挑まれた】


「コテンパンにしたところをスクショして、一生立ち直れなくしてあげるから!!」

「それはこっちのセリフ!!」


 火花が散るほどの睨み合いを経て、火蓋は切られるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 32話最後の火蓋は切って落とされたは誤用です。 多分まだ誤用のはずです。 正しくは幕は切って落とされた。 火蓋は切られた。幕は切られた。 火蓋は切っても落としちゃ駄目です。
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