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「Cエリアにやったらレベルの高い盗賊がいるよ」

* * *


「さぁ飛ばしていきますよ!」

【GMナーユがスキルを使用した。韋駄天+3】


 私はスピードを出せるだけ出して草原を駆け抜ける。

 普通は戦闘に入らない限り、どんなにAGIを上げてもキャラのスピードというの一律で決まっている。しかしこの韋駄天のように、フィールド上でも移動速度が上がるというスキルが存在して、これを使うとしっかりとAGIの数字に依存する速さを出せたりするのだ。

 私の使う『盗賊』というのは、全てのクラスで最もスピードの高いクラスだ。育成はまんべんなく行っているとはいえ、そう簡単に私以上の速さを出せるプレイヤーはいないと思う。

 それに今は装備でもAGIを優先して上げてるしね。

 私は駆けながらも周囲を確認する。すると岩の上に乗っかるように、レイドボスの卵が置いてあった。

 もちろん私はその卵に向けて軌道を変え、スピードを落とす事無く入手する。

 あとはこれを転送装置に投げ込めば、沙南さんの元へ送れるはず。私は現在地から一番近い、Cエリアの転送装置へと全力で向かった。

 周りには誰もいない。

 私はアイテム覧から卵を具現化させ、転送装置の輪っかの中へ卵を押し込んだ。とりあえずは順調に一個目完了!

 さて、次はどうしようかと考えていると、この転送装置を目がけて突撃してくる人影を発見した。私と同じように移動速度を上げながら向かって来るその男性は、見たところ私と同じ盗賊だ。

 ここに向かって来るという事は、レイドボスの卵を持っているって事だよね。

 私は向かって来る彼の簡易画面を表示させて、アイテムバトルの選択覧を見てみた。

 うん。やっぱり卵を持っているわね。これもルールだから、一つ勝負と行きましょう!


【GMナーユがアイテムバトルを仕掛けた】


 私が両手に短剣を持ち、相手に向けて構えを取る。するとその相手もまた、ダガーを構えて目つきを鋭くした。


【ジャンがスキルを使用した。兎躍とやく


 彼は一気に跳び上がると、私の頭上を通過する。

 兎躍は跳躍力が上がり、落下ダメージを無効にするスキル。なるほど、私とは戦わずに、一気に転送装置へ向かうようだ。

 その作戦はシンプルで、とても理に適っている。なぜならば、私が奪おうとしているボスの卵を転送してしまえば、アイテムバトルとしての本質が無くなり、バトルは強制的に解除されるからだ。

 ……ただ、私だってそう簡単に逃がすつもりはない!


【GMナーユが特技を使用した。跳弾剣】


 私の頭上を通り過ぎた彼の背中に向かって、私は短剣を投げつける。その男性は空中で身をよじり、振り向き様に自分の持っている武器で飛んでくる私の短剣を弾き飛ばした。


【ジャンのアビリティが発動。切り払い】


 遠距離物理攻撃を弾いてその軌道を逸らすアビリティね。けど今の攻防で彼の体勢は大きく崩れた。

 私はバランスを崩して落ちてくる彼に向かって短剣を構える。いわゆる、着地狩りというやつだ。


【GMナーユが特技を使用した。痺れ紅刃こうじん


 ズバッ! と、私の一撃が彼の肩を切り裂いた。


「ぐっ!? 麻痺か……」


 ダメージは低いけど、この特技は状態異常の麻痺を与える。麻痺は定期的に仰け反り状態になるため、これでもう私を振り切って転送装置まで行くことはできない。


「まだ続けますか」


 麻痺を与えたからと言って圧倒的に有利になった訳ではない。

 いくらでも解除する方法はあるのだから。


「ふっ。そうだな……ならば、こうしてみるか!」


 男性は突然にボスの卵を具現化して、転送装置の方に振りかぶった!


【GMナーユがスキルを使用した。ベルセルク+2】


 遠投して遠くから卵を転送させる。それももちろんアリな方法だ。私がそれを許せばの話だけれども。

 彼が卵を投げるよりも早く、一瞬で懐に飛び込んだ私は両手の短剣を振り抜いた!


【GMナーユが大技を使用した。絶技、紅斬華】


 彼を切り裂くのと同時に、薄紅色の花びらが舞い散った。


「ぐはっ!?」


 彼が草原に倒れ込むと、舞い上がった花びらが手向たむけのようにヒラリヒラリと落ちてくる。


【ジャンを倒した】


 敗れた盗賊の男性は光となって消えていく。少しの間イベントエリアから除外されたからだ。

 私は奪った卵を具現化させて、同じように遠投で転送装置へと投げ込んだ。卵は見事、輪っかの中へと吸い込まれていく。

 これで二つ目。


「ひえっ!?」


 後ろの方から声が聞こえた。見ると、別の女性プレイヤーがガタガタと震えている。


【GMナーユがアイテムバトルを仕掛けた】


「わ~!? ちょっと待ってよ!! 降参! 降参するから!」


【ぺったんこ大将軍(焼肉大好き)が降参しました】


 降参するのは作戦としてかなり有効だと思う。なぜならば無理に戦って負けてしまうと、さっきの男性盗賊のようにリスポーン地点である最初の街へと戻されてしまうからだ。しかもイベントエリアに入るのには大体一分ほどの待ち時間が必要となり、ここまで移動してくるのにも時間がかかる。

 だとしたらさっさと降参をして、すぐに次の卵を探した方が懸命なのかもしれない。


「Cエリアにやったらレベルの高い盗賊がいるよ。ここは避けた方がいいかも!」


 さっき降参をした変な名前のプレイヤーがボイスチャットか何かで仲間に連絡をしていた。

 私は降参で得た卵を、またポーンと投げて輪っかを通した。

 これで三つ目。

 う~ん。そろそろ移動した方がいいのかしら? さっきの子も仲間に連絡していたし。けど、正直言って探すよりもここで待ち伏せした方が卵の回収率は格段に高い。

 どうしようかと迷っているうちに、また一人向かって来るプレイヤーと対峙した。このプレイヤーとのバトルにも勝利して、四つ目の卵を装置へと放り込む。

 もうちょっと様子を見たほうがいいのかなぁ。でもそろそろ足が遅いけど、戦闘能力が高いプレイヤーがこの辺まで到達しそうな頃合いなんだよね。

 私はレベルは高いけど、盗賊は戦闘職ではない。あまり強敵と戦うようなやり方は避けて、得意のスピードで卵を集めた方がいいに決まっている。


「わわっ! 誰か待ち伏せしてるよ!?」

「だ、大丈夫だよ。二人掛かりならね!」


 考え込んでいると、また違うプレイヤーと出くわした。


【GMナーユがアイテムバトルを仕掛けた】


 二人組のうち、一人が卵を持っていたのでバトルを仕掛けたはいいが、どうやらこの二人は初心者のようで、レベルはかなり低かった。

 とは言え、イベントなので仕方ないと攻撃をしようとした時だった。


「こっちこっち! パスしてパス!」

「う、うん!」


 突然アイテムバトルが強制終了をして、プレイヤーのHPゲージが消えてしまった。

 そっか。このイベントエリア限定で、アイテムバトルの最中でも仲間にプレゼントできるんだ。卵が他の仲間に移るから、アイテムバトルは強制的に終了する。レベルの低いプレイヤーは、こうやって二人掛かりで卵を奪われないようにして転送装置を目指すという作戦も可能なのね。

 二人組は卵の所有権を交互に移しながら私の横を通過していく。私はそれを突っ立ったまま見つめていた。

 きっと頑張れば奪えたかもしれない。方法が全く無いわけではない。けど、私はそれをやらなかった。

 なぜ? と聞かれたら、それはなぜだろうか……。きっと初心者を相手に、そこまで必死になってまで奪いたくなんて無かったからだ。そんな事をしたら、殺人鬼のように見られてしまうのではないだろうか?

 そして私は、前に一度だけそれに近い行為をした事がある。チート行為だと思い込み、レベルの低い子を煽っては武器を振るった……

 結局その子はチートなんて使っていなかった。だから自分がやってしまった事が恥ずかしくて、もう二度とあんな事はしたくなくて……


「転送完了! イエーイ!」

「イエーイ!」


 二人組の少女がハイタッチをして喜びを分かち合っていた。なんだ沙南さんとルリさんを見ているようで、こっちまで和んでくる。

 よし、やっぱりもうこの場所は離れよう。そして、自分の足で卵を回収していこうかな!


【GMナーユがスキルを使用した。韋駄天+3】


 私は風を切って走り出した。エリアはAからZまであって、その数だけ転送装置が設置されている。向かう場所なんて回り切れないほどあるんだから。

 それにしてもあの二人組の少女を見てから、段々と仲間が恋しくなってきた。

 私はクランチャットを開いて、寂しい気持ちがバレないような内容のメッセージを送ってみる。


GMナーユ:Cエリアでイモっていましたけど、そろそろ適当に移動しますね。


 するとすぐに仲間からのメッセージが届いた。


シルヴィア:( ´・Д・)ゞ了解!


ルリ:ナーユ、卵どれくらい送れた?


GMナーユ:えっと、四つですね。


シルヴィア:早っ!!∑(゜ロ゜〃) さすがナユっち!!


ルリ:私まだ二つ。


シルヴィア:(´・ω・`)同じく


沙南:ボスが連続で送られてきて周りの視線が痛いよ~


 みんなの反応を見て、つい笑ってしまう。

 私の大切な仲間。その仲間がいる大切な場所。

 そんなクランで、一つでも多く順位を上げる事ができればいいなぁ。

 そんな事を考えながら、私は果てしない草原を駆け抜けていくのだった。

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