「私んとこだー!!」
【沙南は新たな魔法を習得した。ボールライトニング】
私は魔法屋でてきとうな魔法を購入していた。
うん。これであとは詠唱キャンセルを練習するだけだよ!
【沙南は新たな称号を手に入れた。魔道拳士】
魔道拳士:武闘家でありながら魔法を習得した。MPとINTが50増加する。
INTは今更上がっても恩恵はほぼ無いんだろうけど、MPは嬉しいかな。絶技の消費が激しすぎるし……
「沙南、ごはん……」
「あ、ごめんね。それじゃログアウトしよっか」
もはやヘロヘロになりつつあるルリちゃんと共に、一度ログアウトをして現実世界へと帰還する。そうして私達はお昼ごはんを取った。
昨日の土曜日からこの時まで、ルリちゃんの家で過ごし、ネットと現実を行き来する。そうしながら準備を進め、今ついにイベントが開催されようとしていた。
「おまたせ~」
私達は、広場で待ってくれていたナーユちゃん達と合流した。
そしてシルヴィアちゃんが先頭となって私達を誘導してくれる。
「もうイベントエリアに入る事が出来ますよ。こっちです」
そこはいつもダンジョンに入る転送装置のすぐ隣だった。
この街の外へ出る道が解放されていて、『イベントエリア』と書かれている。私達はそこを通って街の外へ出た。
するとそこは果てしない草原だった。まるでどこか外国の、広大すぎる草原だ。
いつもはダンジョンに潜ってばっかりだからかな? 青い空と白い雲がすごく綺麗で、広い草原を駆け抜ける風が心地よい。本当に心が洗われるようだった。
「ほい沙南ちゃん。これが転送のアイテムですよ」
シルヴィアちゃんがプレゼントでそのアイテムを送ってきた。私がそれをアイテムから具現化させると、フラフープのような輪っかが現れる。
「まずはその輪っかを転送装置に組み込まないとダメですねぇ」
転送装置に組み込む? どこだろう?
私が周りを見渡すと、周囲にはガソリンスタンドくらいの広さの建物が等間隔に並んでいた。
「沙南さんここ! 11番が空いてますよ! ゾロ目で縁起がいいです!」
ナーユちゃんがパタパタと手を振っていた。
私は11番のガソリンスタンドへと入り、そこにある転送装置に輪っかをセットした。
「これで私達がボスの卵を転送すると、ここにボスが現れるようになります。沙南さんはバンバンやっつけちゃってくださいね」
「うん! 任せといて!」
とりあえずはこれで準備が整ったみたい。
他のクランの人達も、別のガソリンスタンドのような場所に輪っかを組み込んで待機中だった。
私達もイベントが始まるまで、軽く作戦を決めておくことにした。
「シルヴィア、ナーユ、私が言わなくても二人なら分かってると思うけど、課金してそうな相手には近寄らない方がいい。あのガチャ、大当りにヤバいスキルが入ってる」
午前中にガチャを引きまくったルリちゃんがそう言った。
「あ~、時間を止めるスキルですよね。確かにあれを使われると、アンチアビリティを持っていなければ負け確定ですね」
そうシルヴィアちゃんが答える。
「けど、あれはスキルでありながら戦闘が始まるとリキャストタイムが発生するはずです。すぐには使ってこれません」
ナーユちゃんがそう補足する。
そんな話し合いをしながら待機をして、ようやくイベントが開始する時間となる。
ボスの卵を探しに行く捜索組は、広大な草原に並んでその時を待つ。その先はまだ、進入禁止になっていた。
「みんな~頑張ってね~!」
私が手を振ると、三人は手を振り返してくれた。
そして今、時間が来て、侵入禁止エリアが解放される。
「さぁ飛ばしていきますよ!」
【GMナーユがスキルを使用した。韋駄天+3】
ナーユちゃんが誰よりも早く草原を駆け抜けていき、あっという間に見えなくなる。
とてつもない速さだよぉ。あのスキルはフィールド上でも移動速度が上がるんだね。いいなぁ。
他にも速度上昇スキルを持っているプレイヤーが高速で移動していくが、ナーユちゃんには追い付けないでいた。
「さて、と」
私は私の仕事をしよう。ボスの卵が転送されてくるまでまだ時間があるはずだよね。今のうちに聞き込みをしておこうかな。
周りを見ると、攻撃担当をしている人は決して一人とは限らない。むしろほとんどのクランが二人以上を残していた。
……うん。きっとメンバーが多いんだろうな。羨ましいよぉ。
私はその中でも三人で固まっているプレイヤーに話しかけてみる事にした。
「あの、すみません」
声を掛けると三人は警戒するように一斉に私を見る。
「あの、私イベントって初めてなんですけど、どこのクランが上位になりそうですか?」
そう聞いてみた。
これはお父さんのクランを探すための聞き込みだ。お父さんは絶対に強いクランに入ってる。だからきっとイベント上位に食い込んでくると私は思ってる。
「上位か。そうだなぁ……『地下ダンジョン攻略部隊』は本格的だな。人数も多いしレベルも高い。ガチ勢を集めているクランって話だ。『モフモフ日和』は名前はふざけているけど連携が取れている印象かな。活気があってログイン率も高いらしい」
そう戦士風の男性が教えてくれた。
「『刀剣愛好家』も今回は要注意だよ。クランマスターがこのイベントを最後に引退するらしいから、かなり気合入ってるって噂だ」
騎士風の男性も情報を提供してくれた。
「おいおい。あんまり敵に情報を流すなよ。一応ライバルだろ」
そう魔法使い風の青年が二人を止めようとしている。
「別にいいだろ。見た所レベル100もいってないし、クラン名も初めて見る。中級者が作った新設クランってところだろ。なぁアンタ、何人でイベントに参加したんだ?」
「えと、私を含めて四人です」
そう答えると、三人組は顔を見合わせて笑い出した。
「あっはっは! 人数が揃わなかったんだな。大変だろうけど頑張れよ!」
「はい。ありがとうございます」
私は頭を下げてお礼を言った。
それにしてもいい人達で良かった。情報も教えてもらえたし、応援もしてもらっちゃった。
私がちょっとウキウキしているそんな時だった。ピー、ピーっと甲高い音が鳴り響く。
「お!? さっそくボスの登場だ。どこのクランが一番乗りなんだ!?」
プレイヤーが一斉に武器を構える中、私は自分の11番の建物を見た。するとそこのランプがピカピカと光っているではありませんか。
「私んとこだー!!」
慌てて自分の転送装置前まで戻ろうとした。
きっとナーユちゃんだ。だって物凄い速さで先頭を走ってたもん。
私が施設まで戻った瞬間に輪っかから卵が排出された。その卵はたちまち砕け散り、巨大な影が私の前に現れる。なんと五メートルはあろうかという巨体だった。
「こ、こんな大きいなんて聞いてないよー!?」
真っ白なひよこちゃんのような外見だけど、その大きさに困惑してしまう。
ずんぐりむっくりな体型はちょっとかわいいけど……
「嬢ちゃん頑張れよー!」
「まだレベル1のボスだぞー!」
周りのプレイヤーが笑いながら応援してくれていた。
そ、そうだよね。今までだって大きな魔物と戦ってきたんだから大丈夫!
けど、ボスのHPってどのくらいなの? 私はスキルを使うべきなの? 特技は?
なんだか緊張して頭が働かない。ええい、取りあえず全部使っちゃえ! ルリちゃんから回復アイテムはこれでもかってほど渡されているんだから!
【沙南がスキルを使用した。力溜め】
【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】
【沙南がスキルを使用した。クリティカルチャージ】
そして私はひよこちゃんっぽいボスに突撃していく。
ボスが私を踏みつけようと、その平べったい足を振り上げて、一気に振り下ろしてきた。
私はその足を押し返すように手のひらを突き出す!
【沙南のアビリティが発動。ブロッキング】
グラリと揺れるその巨体目がけて、私は掌底を叩きこんだ!
【沙南が特技を使用した。咆哮牙】
ボグゥ!! と、豪快な音が鳴り、私の一撃は見事に決まる。
【沙南のアビリティが発動。先手必勝】
【沙南のアビリティが発動。カウンター+1】
【沙南のアビリティが発動。HPMaxチャージ】
【沙南のアビリティが発動。バードキラー】
【デブピヨに415万1347のダメージ】
【デブピヨを倒した】
ふぅ。倒せた~。やっぱりレベル1だから、特技はまだ使わなくてもいいみたいだね。次からは通常攻撃で行こうかな。
私が額の汗を拭い去った時だった。
「な、なんだ今のダメージ!?」
周りの誰かがそう叫んだ。
「おい全体ログ見てみろよ! ダメージ400万超えてんぞ!?」
「誰あいつ!? どこのクラン!?」
「よく見たら武闘家じゃねぇか!! このイベントのために仕上げてきたのか!?」
「落ち着け。今のが本気だろ。あれくらいならギリギリで張り合える!」
そうざわつき、視線を浴び、指を差されて噂される。
なんだか周りの雰囲気が怖いなぁと思った瞬間だった。
ピーッ! ピーッ!
再び私の転送装置が動き出し、ボスが目の前に出現した。
【デブピヨLV5が現れた】
また!?
みんなすごいよぉ。初めてのイベントだから張り切ってるのかな?
私がそのボスに攻撃を仕掛けようとした時だった。
ピーッ! ピーッ!
さらに転送装置が輝き出した。
これはあれだ。確か討伐待ちの演出だったはず。
つまり転送装置にはすでに卵がストックされていて、今出てるボスを倒したらすぐに次のボスが現れますよっていう合図のはずだよ。
……みんな張り切り過ぎじゃない?
「なんであそこばっかりボスが転送されてんだよ! ウチのクラメンは何やってんだ!!」
当然、周りのプレイヤーはさらに騒ぎ始める。
私はそんな周りの視線を一身に浴び、粛々としながらボスを攻撃するのだった……




