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「あの、ガチャを引きたいんですけど」

「ようこそ。ここは地下迷宮の隣に作られた街、チカバだよ」


 視界が晴れると近くにいた男の人からそう言われた。

 いや、『ようこそ』って言われても、私いま、その地下迷宮から帰って来たんだけど……

 見たところ、その人はNPCみたいだから気にしない事にした。

 とりあえずは街を見て回ろうかな。ゲームを始めてからすぐにチュートリアルが始まったから、街の中は全然わからない。ガチャってのも引きたいしね。

 私は街の中を見て回る事にした。

 街の中央には広場があり、ログインするとここから始まるようになっているみたい。時々ギュインってユーザーが現れる事がある。

 その周囲には武器防具屋とか、酒場とか、宿屋とか、転職屋なんてのもある。そしてその並びにガチャ屋さんがあった。

 私はお店の人に聞いてみる事にした。


「あの、ガチャを引きたいんですけど」

「あいよ! どのガチャにするんだい! この中から決めてくれ!」


 元気のいいねじりハチマキのおじさんがガチャのラインナップを見せてくれる。ガチャの種類は三つあった。

 一つ目は装備ガチャ。多分だけど、お店で売っている装備よりも強いんだと思う。攻撃力特化を目指す私的には、武器は欲しいところだけど、防具はさほどいらないんじゃないかな?

 だって攻撃特化にしてたら防御がスッカスカになって、ちょっといい防具を装備したところで焼け石に水な気がする。

 よって装備ガチャは今後も引く予定はなし!


 二つ目はアイテムガチャ。なんか色々とレアアイテムが出るらしい。まぁ攻撃一辺倒の私だからこそ、アイテムに頼る場面も出てくるかもしれない。

 ……正直、排出アイテムの効果説明がなんにも書いてないから怖くて引けないけど……


 三つ目がスキル、アビリティガチャ。ぱっと見た感じだと、このガチャが一番引いてて面白そうではある。


「おじさん。このガチャは冒険をしていればいつかは手に入るアビリティとかも出るんですか?」


 私はそう聞いてみる。道中で手に入るのなら、ここで引く必要はないからだ。


「確かにハズレの能力は冒険を進めていれば手に入るぜ。けどそれはどのガチャも同じ事さ。装備やアイテムも、ハズレの品はどこかで手に入るレベルの品だ。けど、スキルやアビリティってのは取得するのが大変だからな。序盤ならハズレでも十分に価値はある分お得感はあるぜ。他のユーザーから人気が高いのもこのガチャさ」


 ふむふむ。じゃあやっぱりこのガチャにしようかな。


「それじゃ、スキル、アビリティガチャを一回引きます」


 私はチュートリアルでドロップしたガチャチケットを差し出した。


「あいよ! アンタは武闘家だから、武闘家専用のガチャだな。さぁ引いてくれ!」


 私の前に置かれたのは、現実世界のお店の前に並んでいるような普通のガチャポンだった。取りあえず私はそれを回してみる。

 ガチャガチャ……ポロン!

 中から銀色の玉が飛び出して来た。


「あちゃー残念。ハズレ枠だな」


 むぅ、本当に残念だよぅ……

 私はその銀色の玉を触る。すると、触れただけで玉は光り出してパカっと割れた。


【沙南は新たなアビリティを習得した。ブロッキング】

ブロッキング:近接攻撃のみ、敵の攻撃と相対的な角度で押し返すと攻撃を弾く。ただし大技は不可能。


 あれ? これ結構いい能力なんじゃないかな? ほとんど防御手段のない私には使えるアビリティなんじゃ……?


「ガチャは課金すれば引けるから、ぜひまた来てくれよ!」

「か、考えておきます……」


 私は逃げるようにその場を立ち去る。

 課金は無理だよぉ……

 そうして私は人気のない路地裏も見て回る事にした。こっちの薄暗い路地には換金屋とか、ジャンク屋とか、このゲームに慣れてからじゃないとわからないようなお店があった。

 そんな時だった。私を見つめる一つの視線に気が付いた。それはローブを身にまとった一人の人物で、深々とフードを被っているせいで性別はよくわからない。けれど、その視線はジッと私を見つめていた。


「あなた、新規ユーザーですか?」


 座り込んでいたその人物が話しかけてきた。声は女性だ。


「は、はい。そうですけど……」

「へぇ~……あ、脅かしてごめんなさい。私はシルヴィア。情報屋をやっています」


 情報屋さんは立ち上がって、フードを取ってくれた。すると銀色セミロングの美人さんで、スタイルのいいお姉さんって感じだった。

 ……まぁ、ゲームのアバターだけど。


「私は沙南って言います。あの、それで何か用ですか?」


 私は恐る恐る訊ねる。


「ん~、一目見て気になったんですけど、あなたもしかして、リアルアバター使ってます?」


 速攻でバレたよぉ。けどまぁ、それは仕方ないと思う。お父さんを見つけるために必要な事だったし……


「……はい」

「うわ本当に!? あっははリアルアバターなんて初めて見ましたよ~!」


 お姉さんが笑いながら私の周りをグルグル回りながら物色する。

 ふえぇ~、恥ずかしいよぉ……


「え!? これがリアルの外見だとしたらちっちゃすぎなんですけど!? 今何年生ですか!?」

「小学三年生です……」

「きゃ~可愛いな~!! ねぇねぇ、お姉さんとフレンド登録しませんか?」

「えと、じゃあせっかくなのでお願いします……」


 とりあえず友好的だから登録する事にした。


「それにしても、私がリアルアバターだってよくわかりましたね」

「あ、敬語とかはいりませんよ。使いやすいしゃべり方で話して下さい。まぁ私は立場的に誰にでも敬語を使いますけど、そこは気にしないで下さいね」


 例えネットの中であっても、初対面なら敬語を使わなきゃ怒る人がいるってお父さんが言ってた。けど、シルヴィアさんはそういう人じゃないみたい。


「私はこのゲーム長いですから、今までいろんな人のアバターを見てきました。だから最初に沙南ちゃんを見た時に、こんなフェイスパーツあったかなって思ったんです。沙南ちゃんはなんでリアルアバターなんて使っているんですか?」


 シルヴィアちゃんがフレンド申請を私に飛ばしながらそう聞いてきた。


「それには色々と事情があるの……」


 私は飛んできた申請を承認しながら説明をした。


「なるほど、沙南ちゃんも大変ですね。お父さんを探すためにこのゲームを始めたんですか。そしてそのために武闘家を選択した。……事情はわかりました。けど武闘家はマズかったですね……」

「え? どうして?」

「確かに沙南ちゃんの考えは間違ってません。武闘家は全てのクラスで断然攻撃力が高い職業です。けど、その分扱い辛いんですよ。攻撃力の高いキャラって昔から人気があって、沙南ちゃんみたいに攻撃特化で育成しようってユーザーは沢山いました。だけど結局、誰もまともに扱える人はいませんでした。なぜなら、あまりにも防御系のスキルやアビリティが無さ過ぎて、一撃喰らうだけで戦闘不能になっちゃうからです。まぁその分スピードはそれなりに高いんですけど、攻撃力と素早さ、両方を育てようとすると結局中途半端になっちゃうんですよねぇ。スピードなんて忍者や盗賊の方が圧倒的に速いわけですから。だから今じゃ武闘家を使っている人なんてサブアカウントか、もしくはこのゲームを良く知らない新規ユーザーくらいなものなんです。あとの人は大体転職させちゃってますね」


 そうなんだ。けどさっき、ガチャで防御系のアビリティを貰ったばかりなんだけど。

 私はシルヴィアちゃんに、ブロッキングのアビリティを見せてみた。


「あ~これは使い物になりませんよ。ハズレなアビリティです。試したら分かりますけど、判定が非常に厳しいんです。こういうトリッキーなアビリティを成功させるにはDEXを上げないとダメですね。DEXはそういう判定をゆるくしたりするステータスですから」


 なるほど。なんにせよ、後で魔物相手に試してみようかな。まずは自分の目で確かめないとね。


「そんな沙南ちゃんは、少しでも早く仲間を見つける事をおススメします。たとえ一発で死んじゃうようなステータスでも、自分を守ってくれる仲間がいれば安心できるでしょう? 逆に言えば、仲間がいないと全く先に進めなくなってしまうのが武闘家の悲しいところですね。地下三階をクリアすると、クラン加入機能が解放されるので、そこまで頑張って進めてから良いクランを探しましょう」


 わぁ~、クランって大勢のユーザーと一緒に攻略したりするチームの事だよね。そんな機能まであるんだ。楽しみだよぉ。


「沙南ちゃんは今、地下何階まで進んでいるんですか?」

「まだチュートリアルが終わったところだよ」

「それなら、地下二階はまだ難易度が低いのでちゃんとレベルを上げればクリアできるはずです。地下三階からは仲間を探したほうがいいですね。アイテムやお金を払えば、私が護衛してもいいですよ?」


 そっか、シルヴィアちゃんは情報屋だから、アイテムとかで動いてくれるんだ。

 私はコマンド画面を開き、フレンド一覧を表示させる。そこに新しく加わったシルヴィアちゃんのアイコンを押してみた。


――クラス:クラフター。

 レベル575。


 さらに全てのステータスが四ケタを超えており、一番高いDEXに至っては一万を超えていた。


「シルヴィアちゃんレベル高っ!」

「あはは♪ これでもサービス開始した頃から続けていますからね。けど私は戦闘職じゃないし課金もあまりしていないので、強い人はもっと凄いステータスですよ。……というか、ちゃん付けされるとちょっと恥ずかしいですね」


 シルヴィアちゃんが照れ臭そうにしてる。可愛い!

 いやそれよりも、お父さんはもっと凄いステータスなのかなぁ……


「そう言えば、シルヴィアちゃんは私のお父さんの事、何か知らない? ……と言っても、一年くらい前からプレイしてるって事以外、なんにもわからないんだけど……」

「ちゃん付けは決定なんですね……。まぁそれだと、私と同じで初期の頃からやってるって事しかわかりませんね。けど話を聞く限りお父さんはかなりのゲーマー。数日後に新しいランキングイベントが開催されるので、それに沙南ちゃんも参加すれば、何かわかるかもしれませんよ」


 ランキングイベント? 初心者の私が参加しても大丈夫かなぁ?

 けど、色々と参加して手がかりを見つけなきゃ!


「じゃあそろそろ地下二階を探索してくるね」

「行ってらっしゃい。あ、レアアイテムが見つかったら私に声を掛けて下さいね。色んな情報と交換してあげますよ~」


 私はシルヴィアちゃんに手を振って路地裏から出る。

 さぁ、そろそろレベル上げでもしようかな!

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