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「このゲームを守るのは私の務めです」

* * *


「ナーユさん大変です、チーターが現れました!」


 その言葉に私は敏感に反応した。

 なぜならば、私はそういう不正を働く者を罰するのが役目だからだ。

 チーターというのは、不正行為であるチートを意図的に使っている者を指す。


「それは本当ですか!?」


 私はその男性冒険者に聞いた。


「はい。今地下5階で暴れています。プレイヤーバトルを仕掛けまくっていて、なんだかよく分からないうちに攻撃を受けて負けちゃうんです。あれって絶対チートですよ!!」

「分かりました。確かめてきます」


 私は街の酒場から飛び出して、急いで転送装置で地下5階へと赴いた。

 地下5階のプレイヤーバトルが行われるポイントを巡り、情報の相手を探す。周囲のプレイヤーから話を聞きながら、私はついに情報のあったチーターと思われる相手の元へ辿り着いた。


「あなたですね。不思議な攻撃を行っているというのは」

「あん? 誰だおめー」


 その男性は眼帯で片目を隠し、天使の輪っかと天使の羽を付けていた。それらはアバターの装飾だ。特になんの効果も能力もない。個人の趣味で外見を変える、このゲームの要素の一つだ。

 話を聞きながらここまでやってきた訳だが、チーターの外見と情報が一致していた。


「あなたがチートを使っているのではないかという噂があります。その力を私にも見せてくれませんか?」

「チート? はっ!? これだからマテリアルも使えない連中は……」


 マテリアル? 何を言っているんだろうか……

 私が言葉の意味を考えていると、その男性はコマンドを開いて弄り出す。


「ん? お前盗賊じゃねぇか。もしかしてSランク犯罪組織、『暗黒盗賊団』のメンバーか!?」


 本当に何を言っているんだろう。

 いやでもその名前には聞き覚えがある。確か、最近アニメでやっている、異能力バトルアニメが凄く人気で、勇者様も原作を全部持っていたっけ。その中に暗黒盗賊団という物凄く強い敵がいて、主人公との闘いが熱いらしい。

 そう、その物語で使われる異能の力がマテリアルって呼ばれていたはず……


「暗黒盗賊団かぁ。なら俺の力を知らしめるには丁度いい相手かもな。相手は犯罪組織だし、仕方ねぇ、いっちょ潰しとくかぁ!」


 なるほど。この人はそのアニメのキャラクターになり切って、悦に入っているようね。


【◆大天使ミカエルの生まれ変わり◆からアイテムバトルを挑まれた】


「さぁ始めようぜ。俺を退屈させるなよぉ!!」


【◆大天使ミカエルの生まれ変わり◆が特技を使用した。衝波斬】


 彼の剣から衝撃波がほとばしり、私に向かって飛んでくる。

 その遠距離攻撃を持ち前の素早さで回避して、彼の周囲を高速で旋回する。

 彼のレベルは400ちょい。

 クラスはバランスよく成長するソルジャー。

 私とのスピード差は上限か、その一歩前。

 私は出来る限り高速で動き回り、彼にプレッシャーを与えようとした。チートを使う人なら、こうすれば大抵は驚いてすぐにチートを使って来るから。


「ほぉ~。速ぇな。それがお前のマテリアルか。ククク」


 しかし彼は笑っているだけで動こうとしない。

 私の方が痺れをきらして、攻撃を仕掛けることにした。


【GMナーユの攻撃】


 私の刃は彼の胴体を切り裂いた。

 ……はずだった。なのに手ごたえはない。まるで映像を攻撃しているかのようにすり抜けてしまう。


「おいおい。何やってんだよ。俺はこっちだぜ?」


 後ろの方から声が聞こえる。しかし振り返っても彼の姿は見えなかった。

 戦闘ログを確認しても、スキルや特技を使用した形跡はない。声は後ろから聞こえるのに、目の前には体を震わせて笑い続ける彼の姿だけが残されている。この現象は……


「ふーん、暗黒盗賊団といってもこの程度か。なら、もう死んどけ!!」


【◆大天使ミカエルの生まれ変わり◆が大技を使用した。秘技、アンリミテッドスラッシャー】


 ――ズバババババッ!


 私の体に無数の斬撃が刻まれる。しかしやはり相手の姿は見えなかった。


「くぅ……」


 よろめく体をその足で支えるも、HPゲージが減少していく。

 そして、ゲージが半分を切った時、その減少はピタリと止まった。


「な、なに!? 盗賊は防御が低いはずだ。なんで死なねぇ!?」


 理解できない様子で困惑する声が聞こえてくる。

 哀れな人。自分の立場がまるっきり分かっていない。


【GMナーユのアビリティが発動。ジャッジメント】


「な、なんだこのアビリティ! 見た事ねぇぞ! そ、それに体が動かねぇ!?」


 笑っているだけで実体のない虚像は消え、驚愕している本体の姿がはっきりと出現する。


「な、何をした!? てめぇもチートを使ったのか!?」

「ある意味ではそうかもしれませんね。このアビリティは設定された能力以外の力を使ったり、データや乱数が書き換わると発動するようになっています。わかりますか? つまりチートを使うと発動するようになっているんですよ。効果は相手の操作を強制的に遮断して、ステータスを初期化する。さらに私のステータスはカンストします」


 私は男に短剣を突き付ける。


「ひぃ!?」

「あなたが使ったチートは端末に負荷をかけるチートですよね。意図的に負荷をかける事で強制的にラグを発生させる。だから私から見ればあなたは同じ位置に立っているのに、実際のあなたはすでに別の場所へと移動しているっていう状況になる訳です」


 私は突き付けた短剣を男の額に密着させた。


「チート行為を確認しました。あなたのアカウントを永久凍結させてもらいます!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 遊びで使ってみただけなんだ。今日で終わりにするつもりだったんだよ。見逃してくれ!」

「何を言っているんですか。チートは犯罪ですよ。場合によっては警察沙汰になる場合もあります。それを見逃がせる訳がないでしょう。このゲームを守るのは私の務めです」


 額に密着させた短剣を、そのまま真下へと振り下ろして男を切り裂いた。


「ぎゃああああぁぁ……」


 男のアバターは、ただのデータとなって消えていく。

 完全に消えるまで、私はその欠片を見つめていた。


――「那由なゆ、お前リアルでは普通の女子高生なのに、ゲームの中だと固いっていうか、なんか怖いぞ?」


 そう勇者様に言われた事を思い出す。


――「チートなんて滅多にないんだから、お前はもっと普通に楽しめばいいんだよ。クランに入ったり、イベントやったりさ」


 そうは言うけど、実を言うと私はそこまでゲームが好きという訳ではない。これをやっているのはあの人の役に立ちたいからだ。

 ……私を拾って温もりをくれた、私の勇者様。あの人が作ったゲームを守るのが私の役目。それ以外なんて別に興味ない。


「なぁ、次のイベントどうする?」

「ん~。とりあえずレベル上げに行こうぜ!」


 パーティーを組んで楽しそうに話すプレイヤーを横目で見る。

 ……別に羨ましくなんて無い! クランに入ったら、情が移って裁きにくくなるとか、そんなんじゃないんだから!

 私は一人でいい。この世界でチーターを裁く役割だけをこなしていればそれでいい。それがあの人のためになるのなら……

「沙南ちゃん、脇の下をクンカクンカしてもいいですか!?」

「えええぇぇ~~!? な、なんでぇ!?」

「そんなの決まってるじゃないですか。恥ずかしがる沙南ちゃんを見たいからですよ♪」


 私の目に飛び込んで来たのはとんでもない光景だった。

 逃げる沙南さんを追いかけ回すシルヴィアさん。それを止めようと追いかけるルリさん……


「ナーユちゃん助けてぇ」


 沙南さんが私の後ろに隠れてしまった。


「ちょ……何をやってるんですかシルヴィアさん! アカウント凍結させますよ!?」

「出ましたね! ボッチ野郎」


 なっ!? ボッチじゃないもん!


「知ってるんですよ~。前々からクランに入りたかった所に沙南ちゃんが現れて、その可愛さに釣られてこのクランに入ったって事はね」


 シルヴィアさんは私に話す時だけ口調が雑になる。リアルで歳が近いからだ。

 まぁ私は別に構わないけど。


「わ、私は沙南さんの技術的な強さに惹かれてここに入ったんです! 沙南さんがリアルアバターだって事も知りませんでしたし……」

「はぁ!? アンタ運営のくせにリアルアバターの区別もつかないんですか!?」

「うぅ……あまりアバターは意識してないので……」


 肩に腕を回して気安く話しかけてくる。

 まぁ私は別に構わないけど。


「わぁ~、シルヴィアちゃんとナーユちゃん、すっごく仲良しになったんだね。よかった~」


 私達を見上げながら沙南さんがそんな事を言ってきた。

 え? 仲……良し……?


「そんな風に見えますか?」

「うん。だってナーユちゃんよくツッコミ入れてるし、打ち解けてる感じがするよ」


 いやそれはツッコみたくてツッコんでる訳じゃないんだけど……

 この人、放っておくととんでもない事やらかしそうだし……


「でも、沙南さんはどうして私とシルヴィアさんが仲良しだと喜ぶんですか?」


 変態を私に押し付ければ自分に害がなくなるから……とか?


「え? だって私のクランに入ってつまらなかったら私は悲しいもん。ナーユちゃんがここに来て良かったって思えるようになったら、私はそれだけで嬉しいよ」


 沙南さんが眩しいほどの笑顔を浮かべる。

 良い子だなぁ……

 変態を押し付けられると思った自分が恥ずかしい……

 気が付くと私は沙南さんの頭をナデナデと撫でまわしていた。


「何するんですかこの変態! 沙南ちゃん気を付けて下さい! こいつ自分はまともみたいな顔してますけど、結構やべぇ奴ですからね!」

「いや、シルヴィアさんにだけは言われたくありませんけど」


 そういえば以前のように、義務的にログインするような感覚は消えている。確かに私はログインするのが……みんなに会うのが楽しみになっているような気がした。

 あぁ、勇者様。あなたの言ったように、私はようやくこのゲームを楽しむ事が出来るようになったのかもしれません。

実はこのナーユというキャラは、別の作品で登場したキャラクターだったりします。

もしこの子の事が気になったら、自分の作品一覧から、

全くデレない少女との同棲生活! から、

サイドストーリー:ナユ、を読んでもらえれば、この子の境遇や神様ゲームに挑んだ活躍を見る事ができます。

もしよければそちらもどうぞ。

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