「遠慮なくいきます!」
GMが地を蹴って動き出した。私の周囲を駆けるそのスピードはかなり速い。
以前、AGI特化の忍者さんと戦った事があるけど、速さ自体は同じくらいだと思う。
このゲームはお互いのAGIの差によって戦闘スピードが変わるらしい。多分、忍者さんやGMの速さが上限なんだ。
とは言え、この人の方が速く感じる。それは動きがあまりにもスムーズで、無駄がないからじゃないかな? 周囲の壁を蹴って私の頭を越えたりしているけど、動きが止まる事は決してない。
そう、壁を蹴ったり、地面に着地をしたら一瞬でも止まるでしょ普通。けど、そういうのが全くない。まるで重力なんて存在しないかのように、背中にジェットでも着いているのかって思うくらい、止まるどころか減速もしない。
――けど大丈夫、捉えられないほどじゃない!
前はスピード重視のアクションゲームだってプレイしてきたんだから。動体視力や反射神経には自信がある。
だから……
「いつまで動き回っているつもり? 暇になってきたよっ!」
挑発する。
私の得意な戦術に引き込むために!
「そうですか、なら――」
ザッ! と、一瞬で私の側面にGMが現れる。
「――遠慮なくいきます!」
そして右手に持った短剣を水平に振るってきた。
ここだ!
私は冷静に、その刃と相対的な角度で体を突き出す。このブロッキングで、この人の動きを止める!
しかし、私の体と短剣が接触する前に、GMは後ろへ飛び退き、そのせいで私はつんのめってしまった。
「……! ズルい! 沙南にチートとか言っておきながら、ズルしてるのはそっちの方!」
端っこの方で応援してくれていたルリちゃんが文句を言い始めた。
「攻撃を仕掛けたら、必ずその攻撃モーションが終わるまで攻撃は止まらないはず! なのに今、攻撃モーションの途中で飛び退いだ! これって絶対ズルだよ!!」
私は戦闘ログを確認した。
【GMナーユの攻撃】
【GMナーユは詠唱を開始した】
ログにはそう記録されている。
これって……
「ズルではありません。仕様です」
「嘘! 沙南にブロッキングされると思って、思わずズルしたんでしょ!」
ルリちゃんがGMに喰ってかかる。
けど、これは多分、GMの言う通り仕様なんだと思う。
「待ってルリちゃん。多分、この人の言っている事は本当だよ」
「え? でも……」
「アクションRPGなんかで上級者が使うテクニックだよ。ルリちゃんの言う通り、攻撃を仕掛けるとモーションに入るんだけど、この時に魔法の詠唱を入れると、攻撃モーションをキャンセルする事ができるんだ。そしてすぐに詠唱もキャンセルすれば、自由に動けるようになる」
ルリちゃんはよくわからないと言った表情で首を傾げていた。
まぁ、そういうゲームをやったことがないとピンと来ないのかもしれない……
「その通りです。なかなか詳しいですね」
「今までお父さんと色んなゲームで遊んできたからね」
でも、だとすればこの人すごいよ。私がブロッキングを使う瞬間を見て、詠唱を入れてからすぐに詠唱キャンセルをしたことになる。一瞬の間にそれらをこなすのは別格だ……
「腑に落ちないといった顔をしていますね。簡単な事ですよ。あなたは一歩も動かずに私の動きだけを見ていて、『暇になってきた』と見え透いた挑発をしてきました。この時点でブロッキングを狙っている事は明白です。あとはあなたの動きを見て、詠唱キャンセルで攻撃を中断するだけ」
さすがはGM。そう簡単にはいかないみたい……
「正確無比なブロッキングがあなたの武器だというのなら、これはどうですか!」
【GMナーユが特技を使用した。跳弾剣】
GMが明後日の方向へ短剣を投げた。するとその短剣は岩へぶつかり跳弾する。
岩や地面にぶつかり跳ね返る短剣は、それぞれの方角から私に襲い掛かってきた。
私はしっかりと、その短剣を手甲に当てる。
【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】
【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】
【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】
なんとか全てを凌ぐのに成功した。
「なっ!? 今のをジャストガード!? そんな……」
「音楽ゲームだって沢山やったからね。飛んでくる物にタイミングを合わせるのは得意だよ!」
さすがのGMも驚いた表情を浮かべていた。
「そうですか。でも油断しない方がいいですよ!」
一瞬でGMが私の背後に回り込む。ジャストガードで体勢が崩れた私に、容赦なく短剣を振るってきた。
……大丈夫! 体勢はグラついたけど、腕で弾けばブロッキングは発動するんだから!
私の眼は、GMが右手の短剣を払うのが見えていた。だからそれに合わせて腕を振るう。しかし、私の腕が短剣と接触する直前に、GMは右手を引っ込める。
また攻撃モーションを取り消した? いや……
【GMナーユが特技を使用した。フェイントアタック】
攻撃を仕掛けたと思った逆方向から、別の短剣が襲い掛かる。
一発目がフェイントで、二発目が本命!? しまっ――
気が付いた時には、私の首元に短剣が喰い込みそうになっていた。
――ズサァ……
【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ】
なんとかギリギリ間に合ったようで、間一髪で回避に成功したみたい……
「はぁ……はぁ……あ、危なかった~……」
「ソニックムーブ!? 完全に入ったと思ったこのタイミングで!?」
再びGMが驚愕している。
ソニックムーブは一秒間使用すると最大HPの20%が減るという効果があって、それにより私の体力ゲージは減少していた。
本当はこれを使ってうまく相手に反撃できればベストなんだけど、まだ覚えたばかりで練習が足りないせいもあり、そこまでうまくは扱えない。
「近接攻撃は的確なブロッキング。遠距離攻撃もジャストガードで無効化され、緊急回避にソニックムーブですか。なるほど、あなたの強さが分かった気がします」
「ならもう止めよ? 私はチートなんて使ってない!」
「……そうかもしれません。ですが、まだあなたの全てを見ていません。私に実力の全てを見せて下さい!」
そう言って再び両手の短剣を私に構える。
ふえぇ~……なんでこうなるのぉ……




