表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/147

「遠慮なくいきます!」

 GMが地を蹴って動き出した。私の周囲を駆けるそのスピードはかなり速い。

 以前、AGI特化の忍者さんと戦った事があるけど、速さ自体は同じくらいだと思う。

 このゲームはお互いのAGIの差によって戦闘スピードが変わるらしい。多分、忍者さんやGMの速さが上限なんだ。

 とは言え、この人の方が速く感じる。それは動きがあまりにもスムーズで、無駄がないからじゃないかな? 周囲の壁を蹴って私の頭を越えたりしているけど、動きが止まる事は決してない。

 そう、壁を蹴ったり、地面に着地をしたら一瞬でも止まるでしょ普通。けど、そういうのが全くない。まるで重力なんて存在しないかのように、背中にジェットでも着いているのかって思うくらい、止まるどころか減速もしない。


 ――けど大丈夫、捉えられないほどじゃない!


 前はスピード重視のアクションゲームだってプレイしてきたんだから。動体視力や反射神経には自信がある。

 だから……


「いつまで動き回っているつもり? 暇になってきたよっ!」


 挑発する。

 私の得意な戦術に引き込むために!


「そうですか、なら――」


 ザッ! と、一瞬で私の側面にGMが現れる。


「――遠慮なくいきます!」


 そして右手に持った短剣を水平に振るってきた。

 ここだ!

 私は冷静に、その刃と相対的な角度で体を突き出す。このブロッキングで、この人の動きを止める!

 しかし、私の体と短剣が接触する前に、GMは後ろへ飛び退き、そのせいで私はつんのめってしまった。


「……! ズルい! 沙南にチートとか言っておきながら、ズルしてるのはそっちの方!」


 端っこの方で応援してくれていたルリちゃんが文句を言い始めた。


「攻撃を仕掛けたら、必ずその攻撃モーションが終わるまで攻撃は止まらないはず! なのに今、攻撃モーションの途中で飛び退いだ! これって絶対ズルだよ!!」


 私は戦闘ログを確認した。


【GMナーユの攻撃】

【GMナーユは詠唱を開始した】


 ログにはそう記録されている。

 これって……


「ズルではありません。仕様です」

「嘘! 沙南にブロッキングされると思って、思わずズルしたんでしょ!」


 ルリちゃんがGMに喰ってかかる。

 けど、これは多分、GMの言う通り仕様なんだと思う。


「待ってルリちゃん。多分、この人の言っている事は本当だよ」

「え? でも……」

「アクションRPGなんかで上級者が使うテクニックだよ。ルリちゃんの言う通り、攻撃を仕掛けるとモーションに入るんだけど、この時に魔法の詠唱を入れると、攻撃モーションをキャンセルする事ができるんだ。そしてすぐに詠唱もキャンセルすれば、自由に動けるようになる」


 ルリちゃんはよくわからないと言った表情で首を傾げていた。

 まぁ、そういうゲームをやったことがないとピンと来ないのかもしれない……


「その通りです。なかなか詳しいですね」

「今までお父さんと色んなゲームで遊んできたからね」


 でも、だとすればこの人すごいよ。私がブロッキングを使う瞬間を見て、詠唱を入れてからすぐに詠唱キャンセルをしたことになる。一瞬の間にそれらをこなすのは別格だ……


「腑に落ちないといった顔をしていますね。簡単な事ですよ。あなたは一歩も動かずに私の動きだけを見ていて、『暇になってきた』と見え透いた挑発をしてきました。この時点でブロッキングを狙っている事は明白です。あとはあなたの動きを見て、詠唱キャンセルで攻撃を中断するだけ」


 さすがはGM。そう簡単にはいかないみたい……


「正確無比なブロッキングがあなたの武器だというのなら、これはどうですか!」


【GMナーユが特技を使用した。跳弾剣】


 GMが明後日の方向へ短剣を投げた。するとその短剣は岩へぶつかり跳弾する。

 岩や地面にぶつかり跳ね返る短剣は、それぞれの方角から私に襲い掛かってきた。

 私はしっかりと、その短剣を手甲に当てる。


【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】

【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】

【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】


 なんとか全てを凌ぐのに成功した。


「なっ!? 今のをジャストガード!? そんな……」

「音楽ゲームだって沢山やったからね。飛んでくる物にタイミングを合わせるのは得意だよ!」


 さすがのGMも驚いた表情を浮かべていた。


「そうですか。でも油断しない方がいいですよ!」


 一瞬でGMが私の背後に回り込む。ジャストガードで体勢が崩れた私に、容赦なく短剣を振るってきた。

 ……大丈夫! 体勢はグラついたけど、腕で弾けばブロッキングは発動するんだから!

 私の眼は、GMが右手の短剣を払うのが見えていた。だからそれに合わせて腕を振るう。しかし、私の腕が短剣と接触する直前に、GMは右手を引っ込める。

 また攻撃モーションを取り消した? いや……


【GMナーユが特技を使用した。フェイントアタック】


 攻撃を仕掛けたと思った逆方向から、別の短剣が襲い掛かる。

 一発目がフェイントで、二発目が本命!? しまっ――

 気が付いた時には、私の首元に短剣が喰い込みそうになっていた。


 ――ズサァ……


【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ】


 なんとかギリギリ間に合ったようで、間一髪で回避に成功したみたい……


「はぁ……はぁ……あ、危なかった~……」

「ソニックムーブ!? 完全に入ったと思ったこのタイミングで!?」


 再びGMが驚愕している。

 ソニックムーブは一秒間使用すると最大HPの20%が減るという効果があって、それにより私の体力ゲージは減少していた。

 本当はこれを使ってうまく相手に反撃できればベストなんだけど、まだ覚えたばかりで練習が足りないせいもあり、そこまでうまくは扱えない。


「近接攻撃は的確なブロッキング。遠距離攻撃もジャストガードで無効化され、緊急回避にソニックムーブですか。なるほど、あなたの強さが分かった気がします」

「ならもう止めよ? 私はチートなんて使ってない!」

「……そうかもしれません。ですが、まだあなたの全てを見ていません。私に実力の全てを見せて下さい!」


 そう言って再び両手の短剣を私に構える。

 ふえぇ~……なんでこうなるのぉ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うん、やっぱりこいつ運営側の人間じゃないな。仕事として来ているはずなのに、仕事(建前)を放棄して遊び始めてる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ