「この人、GMだよ……」
「えっと、どちら様ですか?」
その子のアバターは私達の身長よりも少し高いくらいの、中学生か高校生といった感じだった。
デフォルメされた猫の髪留めで小さく跳ねるくらいのツインテールに、露出度の高い恰好をしていて、一見するとクラスは盗賊かトレジャーハンターのように見える。
かなり可愛いお顔だけど、今は怒っているのか、かなり険しい表情で私を睨みつけていた。
「私はナーユといいます。あなたが沙南さんで間違いありませんね?」
「は、はい……」
私は取りあえず正直に答えた。
「まさかもう地下五階まで進んでいたなんて……突然ですが、あなたにバトルを申し込みます!」
「えぇ~!? な、なんで!?」
「一部のユーザーから、あなたがチートを使っているのではないかという疑惑の声があるんです。私はそれを確かめにきました」
「ちょ、待って!? 私チートなんて使ってないよ!!」
すると隣のルリちゃんが私の服を引っ張った。
「沙南、チートって何?」
「不正ツールなんかを使って、他の人には絶対できない卑怯な行為を使う事だよ。データを書き換えたり、ありえない物を作りだしたり、ゲームのバランスを大きく崩壊させちゃうんだ」
「だったら沙南も私も、そんな事はしてない」
うん。その通りなんだけど、この人はそれで納得してくれるのかな……
「ではどうやって地下四階のボスを倒したんですか!? あそこのボスはかなり強くて、誰でも足止めをくらう最初の難関です。普通ならボスの攻撃を受ける盾役に、それを回復させる役、その間に攻撃を仕掛ける役が二名で、最低でも四人のパーティーで挑むボスですよ?」
「ルリちゃんが回復や囮をやってくれて、攻撃は私が……」
「レベル50にも満たないあなた達二人で、ですか? ならなおの事、その力を私に見せて下さい。向こうにプレイヤーバトルができるエリアがありますから」
ダメだ。全然信用してもらえないよ……
「そもそも、なんでいちいち証明しなきゃいけないの!? あなたには関係ないでしょ!」
と、ルリちゃんが噛みついた。
「あります。私にはこのゲームの不正を正す義務がありますから!」
「……? 意味わかんない」
ルリちゃんがこの人と口論している間に、私は簡易ステータスを開いてみる。
そして、その内容に驚愕した。
名前 :GMナーユ
クラス:盗賊
レベル:785
そのレベルの高さにも驚いたけど、このGMってまさか……
「ルリちゃん待って!」
私は食ってかかるルリちゃんを急いで抑えた。
「……沙南? どうしたの?」
「この人、GMだよ……」
「ゲームマスター? 何それ?」
「このダンジョンクエストを管理する、運営の一人って事」
ルリちゃんもその重要さを理解したようで、一気におとなしくなる。
「……それってつまり、学校の先生みたいなもの?」
……その例えはどうだろう。あながち間違ってはいないけど……
「これはみんなが楽しめるようにと勇者様が精魂込めて作ったゲーム。それをチートで汚そうだなんて、絶対に許せません! さぁ、私と勝負です!」
GMが腰から二本の短刀を取り出して両手で構えた。
……というか、勇者様って誰? いや、それよりも――
「待って! 運営なら私の戦闘ログやデータを見ればチートを使っているかどうかが分かるはずだよ!」
「確かにそうですね。けど私はそういったプログラム管理や開発担当ではありません。あくまでも一人のプレイヤーとして、この目と耳で真偽を確かめるのが仕事です。勇者様はとても多忙なので、その手を煩わせる訳にはいきません。そういったプレイヤーは私が直接確認すればいいだけの話ですから!」
やっぱり、どうあっても勝負しないと納得しないみたいだよ……
「わかった。その代わり、公平に判断してね」
「もちろんです。ではついて来て下さい」
そうして私達は場所を移動する。少し歩くと、ゴツゴツとした岩場から、ある程度開けた平らな地面が広がり、その地面が赤みを帯びていた。
「ここでアイテムバトルを行う事ができます。賭けるアイテムは……まぁなんでもいいでしょう」
私はアイテムで消費したMPを回復させて、拳を構える。
「沙南、頑張って!」
端の方でルリちゃんが応援をしてくれている。
……けど、正直に言ってレベル785のゲームマスターに勝てるのかな……いや、これは勝ち負けじゃなく、私がチートを使っていないっていう確認のためのバトルなはず。ちゃんと戦えばきっとわかってくれるよね。
「では、参ります!」
そう言ってGMがアイコンを選択する。
【GMナーユからアイテムバトルを挑まれた】
私がチートを使っていないって事を、ちゃんと証明させてみせる!
こうして、あまりにもレベル差がありすぎるバトルが始まったのだった。




