「実力に見合った必殺技を授けてやるぞ!」
「沙南、あそこに宝箱ある」
先に隠し通路へ入ったルリちゃんが私を誘導してくれる。その背中を追いかけて通路を抜けると、そこは断崖絶壁だった……
宝箱が一つ置いてあるその先は切り立つ深い崖で、下を覗いてみても底が見えない。真っ暗な闇が永遠と続く、正に深淵といった深さだった。
さすがにこの高さはゲームの中とはいえちょっと怖い……
「沙南、宝箱開けるよ?」
「あ、うん」
ルリちゃんは宝箱にしか目がいっていないみたい。
そうして宝箱を開けてくれた。
【沙南は新たなアビリティを習得した。カウンター+1】
あ、あれ? このアビリティって……
カウンター+1:相手が攻撃モーション中、または仰け反り中はダメージ2.2倍。
被ったぁ~!! 前にガチャで引いたアビリティとついに被っちゃったよぉ~!!
っていうか、同じ能力って、被ると性能が少し上がるんだね。これならガチャで何度同じのを引いても多少は報われるって気持ちになるのかな……
「私、ガチャで引いたアビリティと被っちゃった。ルリちゃんは?」
「ん……私も被った……」
あらら。今回は二人ともハズレだね。
……それにしても、私はこの深い崖が気になるなぁ……
「沙南、もう戻ろ」
「……」
私は崖の下をググッと覗き込む。本当に真っ暗で何も見えない。
周りも見渡してみたら、意外と広い空間である事に気が付いた。言うなれば、校庭のグラウンドほどの穴がポッコリ空いて、それが崖のようになっているような印象だった。
「沙南、この穴が気になるの?」
「うん。だってさ、地下二階を探索した時は、上にこんな大きな穴なんて開いてなかったよ? この穴から落ちたらどこに行くんだろう?」
「それは……ゲームなんだからどこに行くとか無いんじゃない? 落ちたら死亡とか」
そうなのかな……? なんだか今までのダンジョンと雰囲気がガラっと違うから凄く気になっちゃうんだよね。私の考えすぎなのかなぁ……
「そんなに気になるんだったら、ちょっと試してみよ?」
「え?」
私にはルリちゃんの言葉の意味が理解できなかった。
だから振り返ってみると、丁度ルリちゃんは自分が抱っこしていたウサギちゃんを崖下に向かって放り投げる瞬間だった……
私の隣を可愛いウサギちゃんが通過して、深い穴へと落ちていく……
「えええええええええええ!? ルリちゃん何やってるのー!?」
「……? 何って、ウサギを落としてどこに行くか確認してみようかと……」
「いやいやいや! そんな事しちゃダメだよ! ウサギちゃんが可哀そうだよ!!」
「……? でもこれゲームだし」
「いやそうかもしれないけど、でもそんな簡単に割り切っちゃダメだよぉ……」
「……? これもマナーなの?」
「そ、そうじゃないけどぉ……」
うぅ~……なんて言っていいかわかんないよぉ……
って、あれ?
下を覗き込んだ私の目に移ったのは、落とされたはずのウサギちゃんだった。ここの位置から1mくらい下で、なぜかピョンピョンと動き回っている。まるで、透明なガラスが敷き詰められているかのようだった。
「沙南、下、歩けるみたい」
「う、うん……そうだね」
無表情で私をジッと見つめてくるルリちゃんが妙に怖い……
「これ、私がいなかったら気が付かなかったんじゃない?」
「そ、それは……その……」
怖い怖い怖い! すごい圧力を感じるよっ!
「私、何か間違って――」
ガバッ!
これ以上しゃべる前に、私はルリちゃんに抱き付いた!
「私、ルリちゃんのこと信じてたよっ!!」
「ひゃっ!? さ、沙南……!? そんなギュッってされたら……」
ルリちゃんが困惑している。
そうして私は、なんとか強引に誤魔化す事に成功した……
私達が吸い込まれそうな闇の上を歩き続けて数分が経った。これ、高所恐怖症の人だったら絶対に通れないだろうなぁ。
私達が抱っこしていたウサギちゃんはあちこちを動き回っているので、この広い空洞はどこを歩いても落ちる心配はないと思う。
そんな風に進み続けていると、奥に一つの人影が見えた。近付いてみると、それは拳法着を着たおじいちゃんだった。
私は、その人物に話しかけてみた。
「こ、こんにちは。見晴らしがよくて怖いですね」
「ほほう! ここまで来れるとはなかなか大した奴じゃ。お主、ワシの試練を受けてみんか? お主の実力に見合った必殺技を授けてやるぞ!」
必殺技!? なにそれ凄い!!
「やります!」
「フォッフォッフォ! それでは試練を始めよう!」
そういうと、おじいちゃんは大ジャンプをして私から距離を取る。
ルリちゃんも邪魔にならないように、私から離れていった。
「まずはお主の防御性能を見る! ワシの攻撃に耐えてみよ! よいか、絶対に避けてはならんぞ!」
そう言ってからおじいちゃんは構えを取る。
これはマズいよぉ。私、攻撃特化だから防御面はペラペラだよぉ……
けど、おじいちゃんの攻撃が弱ければ耐えられるかも……?
「ファーーー!!」
おじいちゃんが気合いを入れる。すると白髪だった髪が金色に輝き出し、体中からオーラが吹き出した。筋肉が盛り上がり、一回り巨大化したおじいちゃんが、私に向かって突っ込んで来た。
「せいやーーー!!」
拳を振るうと、その拳からドラゴンのエフェクトが浮かび上がる。それは私を一口で飲み込んでしまうほど巨大化して、恐ろしい形相で襲い掛かってきた!
ひぎゃーー! これ絶対凄まじい破壊力のやつだよ!! 私のDEFじゃ防御したって死んじゃう威力だよ!!
私は恐怖のあまり一歩前に踏み出した!
バチンッ!!
【沙南のアビリティが発動。ブロッキング】
怖すぎて無意識のうちにブロッキングを使ってたよ……
避けるなっていう指示は破ってないから大丈夫だよね……?
おじいちゃんは仰け反っていたが、治ると再び私から距離を空けた。
今度は物凄く素早い動きで私の周囲を動き回り、翻弄してから攻撃を仕掛けてきた。
【沙南のアビリティが発動。ブロッキング】
……まぁ、前に戦った忍者さんと同じくらいの速さだから、特に驚いたりはしないけど。
すると今度はエネルギーを飛ばして遠距離攻撃を仕掛けてきた。
【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】
【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】
【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】
怖いから全部アビリティを使って弾いちゃってるけど、これホントにいいのかな……?
「次は攻撃面を見る。ワシに全力で攻撃してみせよ! 遠慮はいらんぞ!」
そう言って、仁王立ちで動かなくなってしまった。
それじゃあ、本気で行くからねっ!
【沙南がスキルを使用した。力溜め】
【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】
【沙南が特技を使用した。咆哮連牙】
両手の指を90度曲げ、そのまま二連撃の掌打を全力で繰り出した!
【沙南のアビリティが発動。先手必勝】
【沙南のアビリティが発動。HPMaxチャージ】
【老師に14万2272のダメージ】
【沙南のアビリティが発動。コンボコネクト+2コンボ】
【沙南のアビリティが発動。HPMaxチャージ】
【老師に8万5363のダメージ】
「ぐっほぉぉぉーー!!」
私の二連撃を受けたおじいちゃんは見事に吹き飛び、後方の壁に激突してめり込んでしまった。
……むぅ、フェニックスの時はアビリティがいっぱい発動したから大きなダメージになったけど、普通だと大体22万くらいのダメージかぁ。
ちょっと物足りない気持ちになったりする……
「おじいさん、生きてる……?」
ルリちゃんが壁にめり込んだおじいちゃんを突っつくと、メリメリと這い出して来た。
「うむ! 試練の結果はパーフェクトじゃ。お主ならこの技を使いこなせるじゃろう」
【沙南は新たな大技を習得した。奥義、咆哮牙・極】
【沙南は新たな称号を手に入れた。奥義を会得せし者】
奥義を会得せし者:奥義を会得した者に贈られる。ステータスに100ポイントの振り分けができる。
【沙南は新たな大技を習得した。秘技、獣王咆哮波】
【沙南は新たな称号を手に入れた。秘技を会得せし者】
秘技を会得せし者:秘技を会得した者に贈られる。ステータスに200ポイントの振り分けができる。
【沙南は新たな大技を習得した。絶技、獣神咆哮牙】
【沙南は新たな称号を手に入れた。絶技を会得せし者】
絶技を会得せし者:絶技を会得した者に贈られる。ステータスに300ポイントの振り分けができる。
やった! なんか色々と習得できたよ!
取りあえずポイントは全部ATKに入れてっと……
「沙南すごい!! 絶技って、大技の中でも最高峰の技だよ!」
「ほえ? そうなの?」
「うん。ヘルプに書いてある。特技よりも強力なのが『大技』。さらにその大技も三段階に分けられていて、『奥義』、『秘技』、『絶技』の順に強くなる。沙南はもう最強だから誰にも負けないね!」
フラグ!? ルリちゃんはあまりマンガとか読まないから知らないだろうけど、そういうのって負けフラグ立っちゃうからやめてほしいよぉ……
「じゃ、じゃあ次はルリちゃんが挑戦しなよ」
なんとかこれ以上フラグが成立しないように話題を変えてみた。
そしてルリちゃんがチャレンジしたところ、結果は奥義を会得するところまでだった。
「私はブロッキングとか持ってないから、結局奥義までだった……まぁブロッキングを持っていたとしても沙南みたいに成功させる自信ないけど……」
そうして私達は、地下一階の隠しフロアを探すという目的を果たし、一旦街へと戻ろうとしていた。
「ねぇルリちゃん、私さ、さっき覚えた技を使ってみたいんだけど、いいかな?」
「うんいいよ。私も見てみたい!」
相手は誰がいいかな……
そうだ! 確かボスの手前のフロアに、スライムが10匹出現する所があったはず! コンボコネクトを覚えたあそこで、絶技っていう技の威力を試してみよう!
そう決めた私は、はやる気持ちを押さえつつそのフロアを目指す。そして、スライムを相手に全力を出し、爆音を轟かせるのだった。




