「それにしても凄いダメージ!」
『メデュール歴ケルケルケの年、ゴルダイン王国のメルメッサ王は、魔導師ジャークーンに地下迷宮の建設を依頼し――』
ピッ!
私は流れてくるテロップを押してストーリーをスキップした。
……だって、なんか読みにくい横文字が多くて面倒くさいんだもん。
大丈夫、大体のストーリーはわかっているから。地下迷宮を攻略するために降りていくって話のはず。ゲームをインストールしている間にちょっとだけ見たもん。
すると私の周囲がはっきりと形を作り、いつの間にかダンジョンの中へと立っていた。
<地下一階>
『さあ冒険を始めよう。初めに操作方法を教えるよ』
いきなりチュートリアルが始まった。
けど、私はVRMMOは初めてなのでこれは助かるなぁ。
『キミは行方不明になった父親を捜すために地下迷宮へとやってきた! 慎重に進んで行こう』
あ、そういう設定なんだ。なんだか私の目的とおんなじでビックリしちゃった。
……というか、さっきの長いテロップって必要だったのかな……
とりあえず私は歩いてみた。
周囲は石造りの通路で、長い直線をひたすら歩いている。ダンジョンと言うよりも、レンガの砦の中を歩いているような感じだった。
通路には野ウサギがウロチョロしている。まだ地下一階という事で、地上に近いからかな?
私はウサギちゃんを触ったり抱っこしたりして遊んでみた。かわいい!!
いつまでもウサギちゃんと遊んでいても仕方ないので、奥に進むために走ってみた。ゲームの中だからだろう。疲れたという感覚はない。けど、妙な息切れはある。出来るだけリアルに沿って作ってあるようで面白い!
とにかく長い通路を進むと、大きなフロアの前まで来た。
『長い通路だったね。どうかな? リアルの世界で歩いたり走ったりする感覚を出来る限り再現しているんだ。でもここで疑問に思った人もいるかもしれないからちゃんと説明するね。キミのステータスでAGIという数字があるよね。これは素早さを表す数字だけど、普段の速度には反映されないんだ。あくまでもステータスが適応されるのは戦闘に入ってからだよ。ダンジョン探索時はみんな一律で同じ速度だと言う事を忘れないでね』
そっか。じゃあ私は攻撃特化だけど、普段は力が強すぎて物を壊すっていう心配をしなくていいんだ。よかったぁ~。
『見てごらん。広いフロアに魔物がいるよ。まずは戦闘の準備をしよう! ステータス画面を出して武具を装備しよう。頭でイメージすれば画面が開くよ!』
私は言われた通りにステータス画面をイメージする。すると目の前にウィンドウが出てきた。
そこには私のステータスや、特技などといった項目がある。私はとりあえず装備を開いた。
装備できる項目は「手」、「腕」、「頭」、「体」、「アクセサリー」の五つだった。
私はハチマキと、木で出来た手甲、それと武道着を装備してみた。すると自分の姿にも反映される。
武器はない。武闘家だから、素手で戦えって事なのかな? ちょっと怖いよぉ……
『装備できたね。それじゃあ進んでみよう!』
私は広いフロアに足を踏み入れる。すると、そのフロアにいたいかにもスライム的な魔物と目が合った。人間の顔ほどの大きさがあるそのスライムは私を警戒している。
そしてそのスライムの上部にはHPのメーターが表示された。
『まずは防御のしかたを教えるよ。基本的に敵の攻撃を受けると、ステータスのDEFの半分がダメージから引かれるよ。それが防御をすると、DEFの数字全部がダメージから引かれるんだ』
そうなんだ。けど私、攻撃特化だから防御力は全然育たないよ。防御してもしなくとも、一発当たったら即死なんじゃないかな……?
あれ? 私って防御必要ない?
『今、防御なんて必要ないって思った子もいるんじゃない? けどね、防御は特殊技でもいろんなものがあるし、ここでしっかりと覚えておいた方がいいよ!』
見透かされてるぅ!?
そうだよね。ちゃんと覚えておこう。
『防御は、腕に装備している防具がないと発動できないんだ。敵の攻撃を防具でガードしよう。この時、頭の中でちゃんと防御ってイメージする事が大切なんだ。ただ防具に当てただけじゃ発動しないよ』
私の場合は手甲を装備しているから、これで敵の攻撃を受ければいいって事だよね。
すると、警戒していたスライムが大きく跳び跳ねた。
天井近くまで飛び上がったスライムは、私目がけて落下してくる。私は手甲でスライムの体当たりを防ぎ、頭の中で防御を強くイメージする。
【スライムの攻撃】
【沙南は防御に成功した】
【沙南に0のダメージ】
私の視界の端に、そんなログが表示される。
本当にリアルで戦っているのとゲームを組み合わせた感覚で面白い!
『これで防御はわかったね。じゃあ攻撃して見よう』
私は拳を構える。けど、スライムが小さいので、結局蹴っ飛ばしてみた。
【沙南の攻撃】
【スライムに150のダメージ】
【スライムを倒した】
【沙南のレベルが2に上がった】
『レベルが上がったね。レベルが一つ上がるごとにボーナスポイントを割り振れるよ。自分のキャラを好きなように育てよう!』
10ポイントを好きなステータスに割り振れる画面が出てきた。
私は攻撃特化って決めているので、全部ATKに振った。
【沙南は新たな称号を手に入れた モンスターハンター】
何か手に入れたよ!?
称号ってなんだろう?
『称号を手に入れたね。実はこの称号こそ、ゲームを進める上でかなり重要なんだ。称号を手に入れると、それに付与されている特典を得る事が出来るよ。確認してみよう』
私はステータス画面を開き、称号というコマンドを選んだ。
モンスターハンター:初めてモンスターを倒した者に贈られる。HPは100。それ以外のステータスは10増加する。
『称号を得るとステータスのアップだけじゃなく、特技やアビリティなんかももらえたりするよ。様々な条件で称号はもらえるから、色々と試してみてね』
なるほど。称号を沢山獲得できれば、それに付与されているボーナスでどんどん強くなれるんだ。レベル上げだけじゃなく、こっちもかなり重要みたい!
とりあえずさらに進んでみよう。
私はさらに奥へ進むと、今度はスライムが10匹もいる部屋に出た。
『魔物が沢山いるね。けど、まだこっちには気付いていないよ。一気にやっつけよう!』
よぉし! 頑張るよ!!
私は駆け出してスライムを攻撃しまくった。
スライムはなんの抵抗もなく倒されていく。
……これ気付いていないっていうか、ただ無抵抗なだけだー!
まぁこれチュートリアルだからね。実際は普通に攻撃してくるんだと思う。
【沙南のレベルが5に上がった】
【沙南はスキルを習得した。力溜め】
【沙南は特技を習得した。咆哮牙】
なんか色々と覚えた上にレベルが一気に三つも上がっちゃった。
もちろん振り分けは全部ATKに入れるよ。
【沙南は新たな称号を手に入れた。コンボマスター】
コンボマスター:連続で10回攻撃を当てた者に贈られる。さらにアビリティ、コンボコネクトを取得できる。
【沙南は新たなアビリティを習得した。コンボコネクト】
『初めてアビリティを手に入れたね。アビリティというのは発動条件があって、それが成立すると自動的に発動する能力の事だよ。マイナスになる事はないからドンドン発動させよう!』
私はコマンドを開き、アビリティ一覧を開いて確認してみた。
コンボコネクト:相手の攻撃を受けずに自分の攻撃を当て続けるとコンボとして繋がる。2コンボで攻撃力1.2倍。そこから1コンボ増えるごとに倍率が0.2ずつ上昇する。
『さぁ、次のフロアはいよいよボスだよ。一度しか戦えないボス戦は、勝利すると称号が貰えるんだ。しかも戦闘の内容によって取得できる称号が変わるから、余裕があるなら欲しい称号を狙ってみるといいよ。キミはどのステータスを伸ばしたい? 一つだけ取得条件を教えてあげる』
それはもちろん攻撃力を高めたい。
私は選択肢の中からATKを選んだ。
『ATKを上げたいなら、ボスに大ダメージを与えよう。一撃で4割以上のダメージを与えると成立するよ』
そのまんまだった。
まぁいいや。ボスに挑んでみようかな。
そうして次のフロアへ行くと、そこには巨大なスライムが待ち構えていた。なんだか王冠を被ったスライムだ。
『ボスに勝ちたいだけならスキルや特技を使おう。スキルは自分の能力を上げてくれる補助が主だよ。特技はとても強力で頼りになるけど、消費MPが多い上に一度使うとリキャストタイムが発生してしばらく使えなくなるんだ』
なるほど、それなら私には丁度いい。どのみち称号狙いで大ダメージを与えなくちゃいけないんだから。
『スキルや特技は頭でイメージすれば発動するよ。カッコよく決めちゃおう!』
頭でイメージする……
さっき覚えたばかりの、私の力……
【沙南がスキルを使用した。力溜め】
力溜め:消費20。しばらくの間攻撃力が2倍になる。
私はなおも頭でイメージしながら巨大なスライムに向かって走り出す。
咆哮牙:消費50。自分の指を獣の牙に見立てた必殺技。攻撃力4倍。
そうして私は右手を振りかざす!
【沙南が特技を使用した。咆哮牙】
私の手に獣のエフェクトが映り込む。その手で巨大スライムを攻撃した!
その瞬間、獣の咆哮が響き渡る。
【スライムキングに1920のダメージ】
【スライムキングを倒した】
【沙南のレベルが6に上がった】
【沙南は新たな称号を手に入れた。スライムキングを屠る者】
スライムキングを屠る者:スライムキングに大ダメージを与えた者に贈られる。ATKが100増加する。
「やった~!! それにしても凄いダメージ!」
喜びのあまり思わず声に出ちゃった。
けど、これから冒険を進めて行けばさらにダメージを増やしていけるんだよね。
お父さんはどれくらいの防御力なんだろう? ダメージは10万くらい出せるようにならないとダメかな? いやもっと?
そんな事を考えていると、巨大スライムが宝箱を落としていた。私はもちろんそれを開ける。
【沙南は宝箱を開けた。ガチャチケット】
『おめでとう! その階層をクリアするとガチャチケットが貰えるよ。街に戻ったらガチャを引いてみよう』
ガチャ!? このゲームにもガチャがあるの!?
お父さんはこのガチャに課金してお母さんとケンカしたのかな……
けどまぁ私は無課金のままゲームを進めるよ。課金するお金なんてないもんね。
『お疲れ様。あとはキミ自身の力でダンジョンを攻略してね! 一度クリアした階層には転送装置が使えるから、いつでも続きを始められるよ』
私が周りを見ると、先の通路に下へ降りる階段があり、その近くに光り輝く球体があった。
これが転送装置なのかな?
私は恐る恐る、その光る球体に触れてみる。すると吸い込まれるように景色が変わっていくのだった。
今現在のステータス
名前:沙南
クラス:武闘家
LV :6
HP :1300
MP :85
ATK:360
DEF:115
INT:25
RES:70
AGI:130
DEX:100