「新しいお知らせが来てる」
* * *
「ま、待ってルリちゃん。これはちょっと……」
私は100万円の入った宝箱ごとルリちゃんに返そうとした。
「ちょっとしかない!? ごめんね沙南。それじゃあこの二倍、いや三倍用意するから!」
いや違う……そうじゃない……
慌てて用意しようと駆け出すルリちゃんの手を掴んで引き留めた。
「違う違う! こんな大金は受け取れないって意味だよ」
「……? どうして? 沙南の家はお金が無いって言ってた。だから私のお小遣いを分けてあげようと思った。それがなんでダメなの?」
100万円がお小遣いだなんて凄いよぉ。
「えっとね、うまく言えないけど、友達から大金なんて貰うもんじゃないんだよ」
「全然わかんない。どうして受け取っちゃいけないの?」
「う~ん……少なくとも私が今まで見たゲームの主人公は、そういうのを受け取らないからかなぁ。多分、私達が思っている以上にお金を渡したり、受け取ったりするって行為は危険なんじゃないかな?」
「そんな……私、自分の財産は全部沙南にあげてもいいと思ってるのに……」
ルリちゃんがとんでもない事を言ってる……
さすがにそれは、うちの家系が末代までルリちゃんの家族から恨まれるんじゃないかな……
「でも、だとしたら私、沙南に恩返しできない……」
私はギクリとした。
なぜならば、ルリちゃんがポロポロと涙を流し始めたから……
「沙南に何かしてあげたいのに、なんにもできない。なんの力にもなれない。なんの役にも立てないよ……」
私はお金の入った箱を床に置いてから、泣き出したルリちゃんをそっと抱きしめた。そうせずにはいられなかった……
「そんな事ない。ルリちゃんは十分私を助けてくれているんだよ。前にも言ったけど、私は一緒にゲームをする友達がずっとほしかったんだ。ルリちゃんはそんな私の願いを叶えてくれたんだよ? 今やってるダンジョンクエストだって、本当はお父さんを探すためで楽しむつもりなんてなかったんだ。けどね、ルリちゃんとパーティーを組んでからは楽しくて仕方ないんだ。こんな風に私を楽しませてくれたのは、ルリちゃんのおかげなんだよ。私、ルリちゃんと友達になれて本当によかった」
ルリちゃんは、私の服をギュッと掴んで、顔を埋めてスンスンと鼻を鳴らしていた。
「それにね、やっぱりうちが貧乏なのはお父さんのせいだよ! だから私がお父さんを見つけて、その責任を取らせるのが一番だと思うんだ。だから、今はまだこのお金は受け取れないよ。けど、もしも本当にもうどうしようもないくらいにお金が必要になったら、その時はルリちゃんに頼るかもしれないから」
「うん……うん! 私はいつだって、沙南の力になるから……」
私はルリちゃんの頭を優しく撫でる。
するとルリちゃんは、気持ちよさそうに目を細めて甘えてくるのだった。
「それじゃあ沙南、さっそくやる?」
「うん。それじゃあ始めよっか!」
私は自分の持って来た荷物から専用のヘッドギアを取り出した。友達の家で仮想世界でまた一緒になるというのもおかしな話だけど、やっぱり今の私達にはこれが一番みたい。
私達はルリちゃんのベッドに横になる。
ベッドはすごく大きくて、二人並んでも十分な広さだ。
そうして私達は、ゲームの中へとダイブした。
・
・
・
「沙南見て、新しいお知らせが来てる」
本当だ。
私は新しく来たお知らせを開いてみると、それはイベントの告知だった。どうやら明日の日曜日に開催されるらしい。
……しかもクランで参加するイベントらしく、人数が多いほど有利らしい。
「クランのイベントかぁ。どこかに入れてもらえないかなぁ……」
「……」
周りを見渡すけど、どのクランに入れてもらえばいいのかよく分からない。
「ねぇ沙南」
「ん? なぁに?」
「沙南はお父さんを探すつもりなんでしょ? だったらガチャの前で待つのはどう? 沙南のアバターを見て反応するかも」
「う~ん……お父さんは私やお母さんを置いて逃げたからね。私を見つけても絶対にスルーすると思うんだ」
「じゃあ、沙南はどうやってお父さんを探すつもりなの?」
「実はこのイベントで探そうと思ってたんだ。お父さんはゲームのイベント好きだから、きっと強いクランに入ってて、イベントの上位になると思うんだよね。このイベントに参加すれば、何かヒントが得られるんじゃないかなって」
実はあまり具体的な策はなかったりする。
取りあえずイベントに参加して、その結果が出てから次にどうするかを考えようと思っていた。
「それじゃ、今は何をするの? 私は沙南について行く」
「あ、そうだ。それじゃあちょっと付き合ってくれない? ちょっと行きたい所があったんだ~」
そう言って私はルリちゃんとパーティー登録を済ませてから転送装置で移動を開始した。
そんな私が向かったのは、一番初めにチュートリアルをおこなった地下一階だ。
「今まで各階層には隠しフロアがあったでしょ? だから、地下一階にもそういうのがあるんじゃないかなって思ったんだ~」
「なるほど。一理ある。それじゃあ手分けして探してみよ」
私達は転送装置のフロアから、入り口に向かって隠し通路がないかを探し始めた。
入り口付近の通路に出ると、野ウサギがチョロチョロと動き回っている。私が最初に抱っこをして遊んだりしたウサギちゃんだ。
「う~ん、ないね……」
どこにも隠し通路らしきものは見つからない。
そんな時だった。
「あ~!!」
ルリちゃんが珍しく大きな声をあげる。
「どうしたの?」
「い、今、ウサギがそこの通路をすり抜けていった……」
見ると、そこはすでに調べた壁だった。
私はもう一度その壁を調べてみる。……しかし、すり抜けるどころか仕掛けもない。
「ダメだ。なんにも見つからない……」
「けど、本当にここをウサギが……まさか!」
ルリちゃんが何かを閃いたように、遠くからウサギちゃんを抱っこして戻ってきた。そしてそのまま壁に触れると、スルリと壁の中へと入り込んで行った。
「やっぱり。ウサギに触れていると壁をすり抜けられる仕掛けみたい!」
「おお~! ナイスルリちゃん!」
私もさっそくウサギちゃんを抱っこしたまま壁に触れると、吸い込まれるように中へ入れるのだった。




