「だ、だから……明日、私の家に遊びに来ない?」
【沙南は新たな称号を手に入れた。フェニックスを屠る者】
【沙南は新たな称号を手に入れた。ダメージ100万を超えし者】
フェニックスを屠る者:フェニックスに大ダメージを与えた者に贈られる。ATKが100増加する。
ダメージ100万を超えし者:100万ダメージを叩きこんだ者に贈られる。ATKが100増加する。
【沙南は宝箱を開けた。ガチャチケット】
「よぉし、早速引きに行こう!」
「了解!」
私達は地下四階のボスの間に設置されている、転移装置から街へと戻った。
そうして早速ガチャ屋さんへと足を運ぶ。
「……アビリティガチャ回す」
「あいよ!」
最初に引くのはルリちゃんだ。
がちゃがちゃ……ころん!
出てきたのは金色だった。
「凄いねルリちゃん。金色だよ!」
「ん!」
ビシッ! と親指を立ててから開封する。
【ルリは新たなアビリティを習得した。魔力障壁】
「防御系のアビリティだった」
「どんな効果なの?」
「敵の攻撃を受けた時、MPを消費してダメージを減らせるみたい」
そっかぁ。いかにも魔法が使えるクラス特有って感じのアビリティだね。
じゃあ次は私の番!
「私もアビリティガチャで!」
「あいよ!」
「いくよぉ……ていやーーー!!」
コロン!
出てきたのは……銀色だった。
あちゃー! 銀かぁ。でも前回が良かったからね。仕方ないかな。それにまだ昇格演出も残ってるしね。
私は期待を込めてボールに触れた。
そして普通に開封される銀ボール……
「むぅ……昇格しないなんて壊れてる!」
「なんでルリちゃんが怒ってるの!?」
なぜか私よりもルリちゃんの機嫌が悪くなっていた。
【沙南は新たなスキルを習得した。ソニックムーブ】
ソニックムーブ:高速移動が可能。ただし一秒間使用するごとに最大HPの20%をダメージとして受ける。
……これは? 一秒使うだけでダメージを受けちゃうの? またトリッキーな能力だよぉ。つまり五秒しか使えないって事? いや、五秒目を使うとHPが0になっちゃうから、四秒しか使えないって事かぁ。難しそう!
「沙南、どう? 使えそう?」
「う~ん、ちょっと練習してみない事にはなんとも……」
何はともあれ、今日はそろそろログアウトする時間かな。
「とりあえず、今日はもう落ちるね。そろそろお母さんが帰って来る時間だから」
「あ、沙南、ちょっと!」
ログアウトしようとしたところで、ルリちゃんが何かを言いたそうにしていた。
「ん? どうしたの?」
「……えっと、その、あ、明日……」
「ああ、明日も同じ時間にログインするよ」
しかしルリちゃんは首をブンブンと振っている。
「そ、そうじゃなくて、あ、明日は土曜日で、学校休みだから……その」
「うん?」
「だ、だから……明日、私の家に遊びに来ない?」
* * *
「るりは様、そろそろ沙南様をお迎えに行く時間ですが」
えぇ!? もうそんな時間!? 寝坊して朝の準備が遅れたせいだ……
昨日、勇気を振り絞って沙南を招待したら、飛び跳ねて喜んでくれた。そんな嬉しそうな沙南を思い出すだけで胸がいっぱいになって、夜はなかなか眠れなかった。
「ま、待って、まだ私、お風呂入ってない」
「しかし、昨日の夜にお入りになったはずでは?」
「これから沙南と会うんだよ!? ちょっとでも綺麗に見せたいもん!」
「はぁ……しかし、学校に行くときはそのような事をなされないのでは……」
「学校は私に会うために行くんじゃないもん! けど今日は、私と遊ぶために、私に会いに来るんだよ!? ちょっとだって沙南に変だと思われたくない!」
私は急いで入浴の準備を整える。
「沙南には30分くらい迎えに行くのが遅れるって電話しておいて」
「はぁ……かしこまりました」
そして私は急いでお風呂に入る。
あがってからはお部屋の飾りが気になり、絨毯にゴミが落ちていないかが気になった。あれもこれもと気にしているうちに、結局沙南を迎えにいくのは正午近くになってしまった。
車でようやく沙南の家に到着して、私の敷地に向かう。遅れてしまった事で沙南が怒っていないか心配だったけど、沙南は全く気にしていなくて、むしろすごく興奮しているように見えた。
「ルリちゃんのおうちってどんなんだろう。楽しみだな~。あれ? ルリちゃんいい匂いするね」
沙南が私にくっついてクンクンと匂いを嗅いでくる。
あわわわわわ!? 顔が近くてすっごい恥ずかしい! 体が熱くなってくる!
「く、来る前にお風呂入ったから……」
「あ、だからこんなに髪の毛がフワフワなんだね! ドレスみたいな綺麗なお洋服着て、いい匂いもして、今日のルリちゃんは一段と可愛いね」
嬉しい。沙南に褒められると、のぼせたように頭がクラクラしてきて、全身が熱くなっちゃう。
「さ、沙南の方が……か、可愛い……」
「え~!? そうかなぁ。私なんてゲームしか取り得ないよぉ」
そんな事ない。絶対に沙南の方が可愛いよ。
沙南はすごく優しくて、元気で、いつも私の手を引いてくれる。こんなにキラキラしてる人なんて他にいない。沙南は家の事で友達と遊ぶ時間がないらしいから気付いていないけど、普通だったら友達百人作れるくらい魅力的だと思う。
本当は他の子に取られないか心配なんだよ? 沙南に見捨てられないか不安なんだよ? ……恥ずかしいから言わないけど。
「沙南様、もうすぐで着きますよ。ここからが八重樫家の敷地でございます」
運転手がそう言うと、沙南は窓にくっついて外を眺める。
「え? ええ!? す、すごく広いよぉ! お庭の中に家が何軒も建てられそうなくらい。ルリちゃんって凄いねぇ!!」
「別に私が凄い訳じゃない。お父様とお母様の物だし」
沙南は車に乗った時からテンションが高い。楽しんでくれているなら私も嬉しい。
「すっかりお昼になっちゃった。うちに着いたら、すぐにお昼ごはんにしよ。沙南のために作らせてある」
「わぁ~楽しみだよぉ」
家に着いてからも沙南のテンションは変わる事はなかった。いや、それどころか余計にヒートアップしていく気さえした。
庭に植えてあるお花を見ては歓声を上げ、家の中に入っては驚いて、お昼ごはんの料理を見ては感動していた。
沙南のリアクションが面白くて、私もついつい笑ってしまう。
やっぱり沙南と一緒にいると楽しいな。もっともっと沙南の力になりたい。沙南の役に立ちたい。沙南に恩返しがしたい。
今、私がこうして笑い合えるのは沙南のおかげだから……
沙南とゲームの中で出会った時に少しだけ話したけど、私はリアルが嫌いだ。
沙南と出会う前はほとんど笑った事なんて無かったと思う。なぜならば、両親からああしろ、こうしろと常にうるさく言われてきたからだ。
勉強を頑張れだとか、お遊戯をこなせだとか、色々な習い事をやってきた。けど、それはまだ苦ではなかった。私が本当に苦しかったのは、人と人との接し方。
目上には礼儀良く接しろ。誰であろうと気を使え。相手の空気を読んでうまく立ち回れなど、そんな超能力者じゃないとできないような事を言わ続けてきた。
はっきり言って、そんなの全然わかんない……
窮屈だった。息苦しかった。
よくわからないから、あまり表情を変えずに、ただ淡々と頷くだけにした。そうすれば、ある程度はすぐに会話が終了するから……
ストレスが溜まるから、色んなゲームをやって発散させようとした。けど、私はどうやらゲームがうまくないらしい。何をやっても疲れるだけだった。
そんな時だ。VRMMOという仮想世界に入り込むゲームを知った。
両親に無理を言ってプレイしてみたら、想像以上に楽しかった。まるで現実世界のようなリアルさで、魔物と戦っているとスカッとした。
しかし、どうやら私はゲームの中でも空気が読めないらしい。後は沙南が知っての通り、すぐに周りのプレイヤーから罵詈雑言を浴びせられる事となる。
沙南は私の恩人だと思ってる。救世主だと言ってもいい。
私が空気を読めなくても、マナーがなっていなくても、沙南だけは怒らないで優しく手を差し伸べてくれた。私を導いてくれた。その上、楽しい想いもさせてくれた。
だから私は今日、沙南を家に呼んで恩返しをしようと考えた。
沙南を家に呼んだ本当の理由。それは――
「沙南、今日はプレゼントを用意してる」
「わぁ~! なんだろう」
「これ、開けてみて」
私は宝箱を沙南に渡す。
沙南は箱を開けて中を覗くと、その表情が固まった。
体が震え出して、口をパクパクさせて、錆びたロボットみたいにぎこちない動きで私を見つめる。
どうしたのかな? 変な物を入れたつもりはないんだけど。
「あの……ルリちゃん……? これって……」
「うん。沙南のために、100万円プレゼントする」
なぜか沙南の目がグルグルと回り始め、焦点が合わないほどになってしまった。




