「沙南は……私が守る!」
「よ、避けて……」
私は、自分の後ろにいるルリちゃんに指示を出す。
自分でも驚くほどに弱々しい声で……
「もう、私じゃどうしようもないよ。避けて……」
するとその瞬間に、ルリちゃんが私の前に出た。
「ルリちゃん!?」
「ここは私に任せて。必ず沙南の役に立ってみせるから」
そう言って、剣を魔物に向けて構えを取る。
魔物の真っ赤な光球がさらに膨れ上がり、次の瞬間、レーザー光線となって一気に放射された!
「沙南は……私が守る!」
【ルリがスキルを使用した。デッドリーキャンセラー】
ルリちゃんの体が薄く光り、レーザー光線がぶつかった瞬間だった。光線がまるで氷のように固まって、氷が粉砕するかのように砕け散って消えていく。私はそれを呆然と見ていた。
デッドリーキャンセラー:消費100。戦闘中に一度だけ使用可能。相手の大技を無力化する。
「す、すご~い!! ルリちゃんカッコいいよ~!!」
「……ん……けど、今のがもう一度来たら今度は防げない。一回しか使えないスキルだから」
少し照れたようにルリちゃんが説明してくれた。
「だから、沙南はまた今のが来る前にアイツを倒す準備をして。あいつは私が引き付けておくから」
「う、うん。わかった!」
魔物もさすがにもう大技は使ってこないようで、ルリちゃんをターゲットに上空から普通の攻撃を仕掛け始める。
私はその間に、アイテムの調合を始めた。
「え~っと、確かこのフェニックスの羽を、調合の液体に入れるっと」
すると二つのアイテムが混ざり合い、一つのアイテムに変わった。
【沙南は解読の薬を手に入れた】
次に、この液体を白紙の書に振りかけるんだっけ。
やってみると、同じように二つのアイテムが混ざり合い、一つのアイテムに変わった。
【沙南はアビリティ習得書を手に入れた】
やったー! 出来たよ!! 早速使ってみよう!
【沙南は新たなアビリティを習得した。無効貫通】
無効貫通:相手を攻撃した時に、アビリティを五つ以上同時に発動させると相手の大ダメージ無効を貫通する。さらに攻撃力が2倍。
よぉし! これであの魔物のダメージ無効を貫通して……
ん?
あれ?
私は無効貫通の説明覧を二度見する。
アビリティを五つ以上同時に発動……?
今度は自分のアビリティ一覧を開いて、何が発動するかを指折りで数える。
えっと、相殺は……同時じゃないから含まれないよね。先手必勝はもう使っちゃって発動しないから……
四つしか発動しない。どう頑張っても四つが限界だった。
「ル、ルリちゃ~ん」
「……!? 沙南!? うまくいった!?」
「それが、このアビリティの発動条件が厳しくて使えないよぉ。ルリちゃんの方で使えない?」
ルリちゃんは魔物を引き寄せながら、コマンドを開いて確認を始めた。イベントのアイテムやアビリティの習得はパーティー登録をしていれば共有するから。
「同時に五つ以上!? ごめん沙南、私もこんなに同時に発動できるほど持ってない」
マズい……マズいマズいマズい!
これじゃあ本当に全滅しちゃう!
「無効貫通なしで倒そう! 大ダメージを与えないで、ギリギリのダメージを狙おう」
「……う、うん」
ルリちゃんはなぜか、あまりいい顔をしなかった。だけどもう、これしか方法が無い!
私は、ルリちゃんを狙って急降下をするタイミングを見て、側面から襲い掛かった。
【沙南の攻撃】
私の拳は見事に魔物の体に命中する。
【フェニックスのアビリティが発動。大ダメージ無効】
【フェニックスに0のダメージ】
そ、そんな……スキルも切れて、特技さえ使ってないのに……
これじゃ大ダメージどころか、通常ダメージも無効だよぉ……
「ルリちゃんが攻撃してみて! 私じゃアビリティに引っ掛かっちゃう!」
「……沙南、私でも無理なの……もう試したの……」
「え……」
表情を暗くしたまま、ルリちゃんが剣を真っすぐ真上に構えた。
【ルリは詠唱を開始した】
【ルリが魔法を使用した。スパーク】
すると魔物の頭上から細い一筋の光が飛来して、バチンという音と共に炸裂する。
【フェニックスに6046のダメージ】
やった。ダメージを与えた!
しかし魔物HPゲージを見た私は、ルリちゃんが無理だと言った理由を理解した。
全く削れていない。ゲージが1ミリでも動いたかどうか、それすらわからないほどのダメージだった。
「このダメージと減り具合から目測すると、多分こいつのHPは最低でも50万。下手すると100万はあるよ。こいつが次の大技を使う前に倒すには、もう沙南の攻撃力で無効貫通を発動させるしかないの……」
けど、今の私じゃ無効貫通は発動しない……
あ、これ、詰んだんだ。私達はもう、どうやったって勝てないんだ……
「ルリちゃん、出直そう。一旦全滅して、ちゃんと準備してから挑戦しよう」
悔しいけど、もうそうするしか……
「……やだ……」
「へ?」
私は自分の耳を疑う。
「負けるなんてヤダ。諦めたくない!」
ルリちゃんの口からそんな言葉が出てくる事が、もの凄く意外だった。
いや、元々出会った時は人の話を聞かない子だったから、これが素なのかな?
「沙南はこのまま負けちゃっていいの? 悔しくないの?」
「それは……」
「私は……沙南なら勝てると思ってる」
へ? なんで私?
「沙南はゲームが凄くうまくて、ビックリするような技術持ってて、どんな敵にだって負けたりしない!」
いや、別に私、ヒーローとかじゃないんだけど……
「何より私が、沙南の負ける姿を見たくない……だって、友達が無抵抗のままやられる姿なんて見たくないもん!! 最後まで諦めないでほしい! 抗ってほしい!!」
ドクンッ! と、私の心臓が高鳴った。
そう言えばお父さんも言ってたっけ。絶対に負けてしまいそうな状況でも、可能性を捨ててはダメだって。どんなに楽観的で、自分に都合の良い捉え方でも、こうすれば勝てるっていう発想はとても大事なんだって……
そうだよね。ゲームだからって簡単に諦めちゃダメなんだ!
ルリちゃんは私を守るって言って前に出てくれた。今だって必死にボスの気を引き付けてくれている。なのに、肝心の私が簡単に諦めたらそんなの、ルリちゃんの事を胸張って友達だなんて言えなくなる!!
「わかった! 私、最後の最後まで勝つ方法を考えてみる!」
……今回はルリちゃんに教わっちゃったな。
だから、何がなんでも勝機を見つけ出すんだ!!




