「さぁ、ここからが本番よ!」
――ガギンッ! バゴッ! ズギャン!!
激しい衝撃音が辺り一面に轟く。
遠距離攻撃が背後の壁を粉砕し、地面を抉り、時には技と技がぶつかり合い火花が散る。そう、今まさに、この場は戦いによって荒廃していく最中だった。
「そこ!!」
【くぅが特技を使用した。リモコンアロー】
くぅちゃんが難しい態勢から矢を放ってくる。使用者の意思でその軌道を動かす事ができるその特技により、矢はグネグネとあり得ない飛び方で迫ってきた。
【沙南のアビリティが発動。ジャストガード】
それを見極め、私はしっかりとガードで防ぐ。
そう、今はフラムベルクのクランマスター、くぅちゃんと対戦中だったりした。
――あのバグ騒動から約一か月。私も、恐らく他の上位ギルドのみんなも、新ダンジョンに潜ったりと育成に時間を使ったていた。
そして今日、くぅちゃんから練習試合を申し込まれたのだった。
これは戦歴に記録されないプラクティスバトル。設定で神化無しの一本勝負となっている。
「くっ。やっぱりタイマン張るのは厳しいわね。早速だけど使わせてもらうわ!」
私から距離を取りつつ、くぅちゃんが右手を高らかに上げる!
「守護精霊、召喚!!」
かわいい鳥の姿をした精霊が出現する。
守護精霊。上級者向け高難易度ダンジョンのボスを倒すと低確率でドロップするお助けキャラ。やっぱりくぅちゃんも手に入れて育成してたんだね。
「LINK!!」
そして、育成した守護精霊には一つだけスキルを設定する事ができる。術者は守護精霊とリンクする事で、そのステータスの一部を自分に加算したり、設定したスキルを使い、戦略を変える事ができたりする。
くぅちゃんはどんなスキルを設定したのかな?
「さぁ、ここからが本番よ!」
【くぅがスキルを使用した。ジャストガード無効】
へ!? ジャストガード無効って、くぅちゃんの遠距離攻撃をジャストガードできなくなるの!? それはちょっと困るよぉ……
「フォアグラは沙南の背後に回って牽制して!」
くぅちゃんの守護精霊である鳥さんが、フヨフヨと飛びながら私の後ろに移動をする。
このままじゃ挟まれて不利になる。ジャストガードできないのなら、接近戦に持ち込むよ!
【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】
【沙南の攻撃】
私が攻撃を仕掛けるけど、くぅちゃんはしっかりと見極めて回避する。
もう普通のソニックムーブじゃ意表は突けないっぽい。けど、こうして近くに纏わりついていれば、ブロッキングのチャンスもあるはず!
「もう一匹、来なさい! トリュフ」
さらに別の精霊が出現した。キノコの形に真ん丸の目が付いたぬいぐるみのような精霊。
「に、二匹目!?」
「驚くのは早いわよ! LINK!」
【くぅがスキルを使用した。ブロッキング無効】
ええ~! 私の得意な防御が封じられちゃったよ!
「っていうか、それって完全に私をターゲットにしたスキル設定だよねっ!?」
「ふっ、当然よ。どれもこれも、沙南、あなたを倒すためだけに育成してきたんだもの!!」
ふええ~!? そこまでして私を倒したいの~!?
でも待って、その名前って聞いたことあるよ。確か三大珍味ってテレビで見た事あるもん。……という事は、まさか……
「私はトーナメントであなたに負けてから、ずっとリベンジをする事だけを考えてきた! そのための努力も、育成も、時間も惜しまなかった! 今日はその成果を見せてあげるわ!! 召喚!!」
さらにもう一匹、デフォルメされたサメの姿をした精霊が出現する。
……くぅちゃんは本気だ。私を倒すために、全力を注いでいる。
ゲームで強くなる人にはいくつかのタイプがあるとお父さんが言っていた。ゲームが好きで、とことんやり込んで自然に強くなる人。課金をして、戦力的に強くなる人。
そして、絶対に負けたくないライバルがいて、徹底的に強さを追い求める人!
きっとくぅちゃんはそれで、私を超える事が一つの目標になっているんだ。
「LINK!!」
【くぅがスキルを使用した。韋駄天】
韋駄天はナーユちゃんの……盗賊のスキルでAGIが二倍になる効果のはず。わざわざ守護精霊に設定してまでスピードを上げたのかな?
……いや、ここまで準備をしてきたくぅちゃんだ。きっと何か意味はあるはず!
「行くわよ沙南。今日こそあなたを超える!!」
くぅちゃんが手に持つ巨大な弓を横にして私を見据える。それはまるで鳥のようだ。翼を広げて、風が吹くのを待つ巨大な鳥……
「ソニックムーブ、改! 『隼』」
その瞬間くぅちゃんが爆発的な速さで突撃してきた!
私は反射てきにバク転をするよう顔を後ろに倒す。真横に構えた弓が長く、横へ逃げたらその弓に体をひっかけてしまいそうだからだ。
そうしてギリギリの高さで私の顔の近くを弓が通過していく。それは本当に隼のような勢いだった。
「くっ、避けられた!? まぁいいわ。キャビアとトリュフも隙をみて沙南を攻撃して!」
三匹の精霊が私を取り囲み、その少し後ろでくぅちゃんが弓を構える。
くぅちゃん、本当に強くなったよ。トーナメントの時は『改』どころか普通のソニックムーブすら使わなかったのに、今のはさすがにヒヤリとしたもん。
きっとこの一か月、毎日練習したんだと思う。私は小学生になる前からお父さんとずっとゲームで練習してきたから、このゲームを始めてもある程度は使いこなすことができた。けどくぅちゃんは、こんな短い時間で自分のものにしたんだね。
プラクティスバトルで神化を無しにしたのも計算されていたんだ。
私は攻撃力に全振りしているから、素早さは高くない。だから神化しないとソニックムーブ改は使えないんだ。
あの技は、音速に自分のAGIを上乗せして初めて意味のある技だから。
ブロッキングも、ジャストガードも封じられて、ソニックムーブを含めて素早さもくぅちゃんが上。さらに精霊が三匹もいるから、実質四対一かぁ。
……これはさすがに勝てない……かな。
(お姉ちゃん、あたしを使ってよ)
弱気になった私の頭に、プニちゃんの声が伝わってきた。
(めっちゃピンチじゃん。あたしを使わないと負けちゃうよ?)
(けど、プニちゃんを戦いに出すと……)
私は極力プニちゃんを戦闘に出したくない。
もしも熱くなったプニちゃんがバグの力を使って、相手に何か不審だと思われた時点でアウト。運営さんに削除される可能性は極めて高くなる。
(だからさ、バグの力は使わずに育成した力だけを使えばいいんでしょ? 簡単じゃん)
(……)
(お姉ちゃん、あたしのこと信じてない? この先ずっと、あたしは出番ないの?)
(……)
そう。この先ずっと精霊を使わずに勝ち続けられるほど甘くなんてない。みんなどんどん強くなっていく。
むしろ少しずつプニちゃんを実戦に出して、バグの力を使わないように慣らしておいた方がいいのかもしれない……
(……わかった。プニちゃん、よろしくね!)
(そうこなくっちゃ!)
「沙南、あなたは守護精霊を使わないの? 育成が進んでいないなんて事はないわよね? 全プレイヤーで初めに守護精霊をドロップしたのでしょ?」
くぅちゃんが真剣な眼差しで私を見る。
手を抜いていい相手じゃない。いや、こんなにも必死なくぅちゃんだからこそ、全力で相手をしなくちゃいけないんだ!
「今見せてあげるよ!」
私もまた、手を真上に掲げて力強く叫ぶ!
「守護精霊、召喚!!」
私の声に合わせて一人の小さな妖精が出現する。
「さぁ、ここからが本番だよっ!」
最初に言われた言葉を返すと、くぅちゃんは納得したように笑ってくれるのだった。




