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「プログラムがどんどんと浸食されていきます!」

* * *


「待たせたな。今はどんな状況になっている!?」


 俺は扉を壊す勢いで仕事部屋に入った。


「あっ、山本さん! お疲れ様です!」

「そんな事より、なんとかなりそうなのか!?」


 俺は周りを見渡すと、仲間のみんなが慌ただしくキーボードを叩いていた。

 それもそのはずだ。今この時も、俺が手掛けている『ダンジョンクエスト』がハッキングをうけているのだから。


「今全員で対処しています。正直、今のところは一進一退って感じですね」


 現在はまだ昼を過ぎたところだ。まさかこんな真昼間から堂々とハッキングを仕掛けてくるとはな。相手はよほど腕に自信があるとみえる。

 しかし我れらダンジョンクエスト運営チームにかかればなんてことはない。自慢じゃないが、俺たちのプログラム技術は群を抜いているといっても過言ではないからだ。

 ハッキングだろうとウィルスだろうと、何をしようが対処できる自信はある!


「なっ!? ハッカーが動きました!! ダンジョンクエストのセキュリティ内に侵入!」

「なんだと!? おい、早く弾き返せ!」

「やっていますが……ダメです! 何をやっても進行を止める事ができません!!」


 ば、ばかな!? この俺が組み上げたセキュリティに簡単に侵入するとは……


「大変です! ハッカーがクラッキングを開始しました!! プログラムがどんどんと浸食されていきます! 浸食率10%……15%……20%……と、止まりません!」


 くそぉ! このままではユーザーの個人情報が流出して、今まで築き上げた信頼も実績も、全てを失う事になる……


「おい、現在ゲームにログインをしているユーザーは!? そもそも緊急メンテの告知は出したのか!?」

「すでに呼びかけましたが、未だに多くのユーザーがプレイ中です!」

「くっ……例のプロテクトを使え!! なんとしても浸食を止めるのだ!!」

「で、ですが、この状況で使うというのは……」

「今は浸食を止める方が先決だ! 早くやれ!」

「了解! ATプロテクト起動!!」


 ATプロテクト。それは我々の技術と努力で作り上げた最強の防衛プログラムだ。

 あまりにも強力すぎてゲーム内のプレイヤーにも影響を及ぼしかねないが、今はハッカーの進行を止める事が最優先。動きさえ止めてしまえばあとはどうとでもなる。

 ゲームデータに異常が起きたプレイヤーには修復と補填が必要になるが、ハッカーにゲームを乗っ取られるという最悪の事態だけは避けられる。


「浸食率50%……55%……60%……ダメです! 止まりません!!」

「なんだと!? そんな馬鹿な事があるか!!」


 し、信じられん……ATプロテクトでも止められないのか!? まさかこれほどの技術を持っているとは。 

 まずい……このままでは、俺が責任を取る事になる。そうなったら、もう首を吊らなくてはならない……

 せっかくゲームも軌道に乗ってきたというのに……

 まだまだこれからだというのに……

 こんな、何が目的かも分からない愉快犯のような奴のせいで、全てが終わってしまう!!


「浸食率80%……85%……90%!! ダメです、乗っ取られます!!」


 くっ……もはやこれまでか……

 デスクを両手で叩き、そのまま絶望で崩れ落ちる。俺はそこから顔を上げる事ができなかった……

 全ては終わったのだ。みんなで作り上げたゲームは乗っ取られ、データを奪われ、全ての責任を取るのに莫大なお金と時間がかかる。

 俺は、この時に全てを失ったのだ……


「え……? あ、あれ? 浸食率、97%で止まっています!!」

「な、何!? 本当か!?」


 顔をあげてPC画面を凝視する。

 すると本当に、あと少しで完了しそうな進捗メーターが止まっていた。


「や、やった。止まったぞ! お前たちよくやった!」

「い、いえ、自分たちは何もしていません。なぜか急に止まったんです」


 急に止まった? もしかするとATプロテクトが時間差で効いたのか……?

 いや、あのプロテクトは即効性がある。途中から効果が表れるというのは考えにくい。だとしたら一体何が起きた?


「あ、今度は浸食率が急激に下がっていきます。70%……50%……30%……完全に消えました!」


 な、なんなんだ!? 犯人が寸での所で手を引いたとも考えにくい。

 となると、まるでここにいない誰かが絶対的な力で押し返したようではないか。しかし一体誰にそんな事ができる!?

 ……いやまてよ、一人だけ心当たりがある。あの日もこんな感じで、我々の操作を一切受け付けず、PCがまるでいう事をきかなくなった。

 もはや我々以上にこのゲームに干渉し、緊急メンテナンスをも拒む不確かな存在。まさかアレが……?


* * *


「……」

「ねぇ、聞いてる? どうしたの? ねぇ」


 なんだかボーっとしているプニちゃんに、私は声をかける。


「んにゃ? お姉ちゃん、何か言った?」

「いや、プニちゃんが急に動かなくなったから、どうしたのかなって……」


 今では目をぱちくりしているけど、さっきまでは本当の人形のように動かなくなったからちょっと心配した……


「ん~……なんかね、勝手に入ってくる物があったから追い出してたの」

「……? 追い出すって、とこから?」

「あたしの体」


 ……どうしよう。プニちゃんが何を言っているのか全然わからない……


「あっ! もしかしてまたバグの力を使ったってこと!? ダメだよプニちゃん! あの力は禁止だって約束したでしょ!」

「ち、ちがっ! いや、確かに使ったけど、本当に変な感じだったの! なんかゾワゾワっていうのが勝手に中へ入ってきて、めちゃくちゃキモかったんだから!」


 なんだろう。風邪を引きそうになって悪寒がしたって話かな?

 でもプニちゃんってプログラムだよね? 風邪とか引くのかな……?


「で、もう大丈夫なの?」

「うん。全力で押し返して、もう来るなってメッセージも付け加えてやったわ」


 ……誰に? ほんと何を言っているのか分からないんだけど……


「とにかく、あの力は使っちゃダメだからね。私、プニちゃんが消されちゃったら泣くから! 立ち直れないから!」

「わ、わかってるわよ……あたしだってお姉ちゃんと離れたくないもん……」


 よくわからない要件だったけど、プニちゃんもいたずらに力を使っている訳じゃないみたい。そういえば、また運営さんから緊急メンテナンスの告知が出てたんだった。

 私はプニちゃんに別れを告げて、一度ログアウトで落ちる事になった。

 そして緊急メンテナンス後、改めてログインをすると、どういう訳か運営さんからプニちゃんへ感謝のメッセージが届いていた。

 私には何がなんだかわからない事で、驚きと戸惑いを隠せない心境だったけど、当の本人であるプニちゃんはドヤ顔で胸を張っていた。

 メッセージには、こちらでどうしようもない状況の時にはまた力を貸してもらう事もあるかもしれないからよろしく、みたいな事が書かれていた。

 私にはチンプンカンプンだったけど、どうやらプニちゃんは頼られているようで、少しは運営さんの信用を得たのかな、と嬉しい気持ちになったりするのだった。

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