「フンフンフ~ン♪ 報酬なにかな~♪」
「なんだか幻想的な雰囲気でキレイだね」
ここ地下四階は足元にモヤがかかっていて、天井が暗く、光る石がはめ込まれている。これによって、星空に漂う雲の上を歩いているような感覚に陥る。
私はそんな地下四階が好きだなぁ。なんか綺麗だし、ロマンチックなんだもん。出てくる魔物も、羽の生えてる種類が多い気もする。空の上で行われている闘い、みたいな感じがすごくいい!
さらに内部構造もこれまでとはガラリと変わっていた。通路を抜けるとそこは本当にただ広い空間で、まさに雲の上って雰囲気のあるフロアだった。
星のように光り輝く天井の石を眺めながら歩いていると、魔物と遭遇している事に気が付かないってくらい、この階層は魅力的だと思う。
ただ、広すぎてどこへ行っていいのかよく分からなくなっちゃう……
私達はとりあえず、ジグザグに動いてみることにした。こうすればフロアの隅々まで確認できるからね。
そんな風に動いていると、ポツンと一つの石板が浮き出ているのが見えた。私達はその石板に駆け寄って何が書いてあるかを確認してみる。
『このフロアのボスは特殊なアビリティを持っている。普通に戦ってもまず勝つ事は出来ない。攻略するにはこちらも特別なアビリティを覚える必要がある。そのアビリティを覚えるには、まずはここのフロアの魔物と戦いまくれ。そして白紙の書というアイテムをドロップしろ』
へぇ~。まずは白紙の書っていうアイテムをドロップするまで戦わなくちゃいけないんだね。とりあえずこのフロアを隅々まで調べてみよう。その間にドロップするかもしれないからね。
私達は再び広大な雲の上、もといフロアを探索する。
「沙南、あそこの壁に何かハマってる」
ルリちゃんが何かを見つけてくれた。近寄ってみると、壁の窪みにジュースのような液体が置いてあった。
私はそれを引っこ抜く。
【沙南は調合の液体を手に入れた】
そしてその隣には文字が刻まれていた。
『白紙の書を読むには調合した液体をふりかける必要がある。もう一つ、必要なアイテムと調合しろ』
この液体と何かを混ぜればいいんだね。何を混ぜればいいんだろう?
私達は再びフロアを探索する。そしてこのフロアの入り口から一番奥まで到達してしまった。しかし特に何もない。
「沙南、どうするの?」
「う~ん……じゃあ今度は壁伝いに歩いてみよう」
一番奥の壁に沿って、フロアを一周してみることにした。
魔物と戦いながら進むが、未だ白紙の書は手に入らない。しばらく歩くと、調合の液体を手に入れた壁までやってきた。
あ、そういえばこの窪み、ちゃんと調べてなかったなぁ。
アイテムがはめ込まれていた窪みを丁寧に調べてみる。するとそこに、壁と同じ色のスイッチがあった。
「やった! なんかあった!」
私は興奮しながら押してみる。
ゴゴゴゴゴゴ!
隣の壁が動いて、その奥に道が続いていた。私達は我先にとその先へ進む。すると奥には家具や小物が並んだ個人部屋のようになっていた。
ベッドなんかも置いてあり、そのベッドに座って本を読んでいる女性がいた。
「あの、こんにちは」
私は女性に声をかけてみた。
「おわ! ここの隠し通路見つけちゃったの!? すごいねぇ!」
どうやらこの女性はNPCのようだ。
「私さぁ、ここのボスが倒せなくて、色々と調べてたんだけどさぁ、全然倒し方が分かんなくて、もうここに住んじゃおうって決めたのね。そしたら意外と快適でさ~。なんかもう普通に生活してるんだよね~」
ちょっと照れたように笑いながらそう言ってる。
いやここで生活っておかしくない? ってゲームだから別にいいけどぉ……
「そうだ、せっかく来たんだから、良い物をあげよう!」
やった! アビリティかな?
「……でもタダであげるのは嫌だな……」
どっち!? やっぱり何かクエストがあるのかな。
「よし! このフロアにはレア魔物がいるんだよね。あたし、その魔物見た事ないから、そいつを倒してどんな魔物だったか教えてよ。そうしたら良い物あげる♪」
女性からクエストを請け負い、私達は再び広いフロアへと戻ってきた。
結局また手がかりを探さなくちゃいけないよぉ……
レベル上げも出来るから別にいいんだけど、私達はグルグルとその広大なフロアを歩き回った。
「沙南、あそこに何か書いてある」
突然ルリちゃんが何かを発見した。天井を指差していて、見るとそこには星のように光る石に囲まれて、確かに何かが書いてあった。
「高くてよく見えない。沙南見える?」
「ううん。見えないよぉ。肩車してみようか?」
「それじゃ全然届かない。……あ、魔物に乗ってみたらいいかも」
ルリちゃんって結構発想がすごいなぁ。けど確かに、ここには羽の生えた魔物が多いからそれが正解かも!
私達は羽の生えたライオンのような魔物、『キマイラ』を見つけてこの場所まで誘導してきた。
「私が囮になるから、沙南が魔物に乗って」
「了解!」
キマイラがルリちゃんに気を取られている間に、私は後ろからキマイラの背中に飛び乗った。
「グオオオオウ!?」
魔物がバサバサと翼をバタつかせて、私を振り落とそうとガムシャラに飛び回る。天井の文字が近い所で、私は思い切ってジャンプをした。
文字の近くまで跳躍した私は、その文字を頭に記憶する。
そうして落下する最中に、ついでに真下にいるキマイラを攻撃した。
【キマイラを倒した】
すると宝箱を落としてくれた。
【沙南は宝箱を開けた。白紙の書】
やった~! ようやく手に入ったよ!!
「沙南、なんて書いてあったか読めた?」
「あ、ちょっと待ってね。今思い出すから」
「……? 思い出す?」
ルリちゃんが首を傾げて不思議そうな顔をしていた。
「うん。こういうのって瞬間記憶が役に立つんだ~。目で見た風景を、写真みたいに頭の中に記憶するの。そうすれば、あとから思い出して確認できるんだよ」
「……え、普通そんな事できないと思う……」
「そう? ゲームやってれば自然と出来るようになるよ? ミニゲームとかでよくあるんだ。一瞬のうちに記憶して、どこに何があったかを正確に答えろっていうやつ」
「……沙南はゲームの事になると本当に超人レベル……で、なんて書いてあったの?」
私はさっき見た記憶を思い返す。
そして記憶の中で見た文章をそのまま読んだ。
「『ボスに強烈な一撃を与えて羽を入手しろ。その羽を調合の液体に入れれば完成する』。だって」
「ふーん。つまりボスから羽を入手、それと液体を混ぜて、白紙の書にぶっかければボスの倒し方がわかるって事ね。どうする? ボス戦行く?」
私はブンブンと首を振った。
「レア魔物倒してクエスト完了させたい!! 報酬気になる!!」
「……わかった。じゃあまたレベル稼ぎしよ。そのうち会える」
そうして再び私達は魔物と戦いまくる。そうして私のレベルが丁度40になった頃、ようやくレアっぽい魔物と出くわした。
【プラチナゴーレムを倒した】
そして瞬殺した。
【沙南は新たな称号を手に入れた。プラチナゴーレムを屠る者】
プラチナゴーレムを屠る者:レア魔物であるプラチナゴーレムを討伐した者に贈られる。ステータスに100ポイントの振り分けができる。
「フンフンフ~ン♪ 報酬なにかな~♪」
当たり前のように振り分けは全てATKに入れて、クエストの報告に向かう。
「お~倒して来たんだね。へぇ~プラチナゴーレム? 意外な魔物だったねぇ。それじゃあこれはお礼だよ。能力を習得できるからね」
攻撃力アップかな~? また技術的要素のある防御系でもいいな~。
ワクワクしながらお姉さんから巻物を貰った。
【沙南は新たなアビリティを習得した。相殺】
相殺:自分と相手の攻撃をぶつけた時、威力の弱い方は打ち消される。物理なら物理。魔法なら魔法。さらに近距離技、遠距離技と性能を合わせないと発動しない。
お~。なんか制限はあるけど面白いアビリティだよ。正直、使えるかはわからないけど、少なくとも近距離の物理攻撃ならせめぎ合ってもいいんじゃないかな? 私、攻撃特化だし。
「ルリちゃんは? どんな能力だった?」
「……エンチャントっていうスキル。使い道がよくわからない」
「ちょっと見せて」
パーティー登録をしていれば、こういうイベントをクリアした時の報酬がちゃんと人数分配られる。今回貰えたのは習得技なので、それぞれのクラスに応じて能力が違うっぽい。そんなルリちゃんが開いたスキル一覧から、エンチャントの説明文を覗き込む。
エンチャント:次の攻撃のみ、対象の物理攻撃を魔法攻撃に変える。なお、このダメージ計算はATKで行われる。
「……!! 沙南、顔近い……」
「あ、ごめんね。でもこれ使えるよ! 私、相殺っていうアビリティを覚えたんだけど、これならどんな攻撃も相殺できる。私とルリちゃんで組んだら無敵だよ!」
「ホント? 私、沙南の役に立つ?」
「うん! だってルリちゃんは私のパートナーなんだから」
するとルリちゃんの瞳が輝き出す。
「沙南の役に立てるの、嬉しい……」
はうぅ~。ルリちゃんがすごく健気だよ。
少しの間、そんなルリちゃんの頬っぺたを指で突っついて遊ぶのだった。




