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「どう、お姉ちゃん! あたし凄いでしょ!」

「プニちゃん頑張って!!」


 プニちゃんがゴブリンと対峙して睨み合う。初めての戦闘なので攻撃に踏み切れない様子だった。

 私たちは現在、地下2階に降りていた。プニちゃんのレベルを上げるために、魔物が一番弱い階層を選んだから。

 ここには私とプニちゃんの他にも、び~すとふぁんぐのメンバー全員がついて来ていた。

 みんなもやっぱり守護精霊が珍しいからなんだと思う。


 そしてついにプニちゃんが動いた!

 両手をかざすと、そこに魔力の塊のような物体が溜まっていき、ゴブリンに向かって解き放つ! 魔力はゴブリンに見事命中した!


【ゴブリンに120のダメージ】

【ゴブリンを倒した】


「やったー! プニちゃん強~い!」


 私はプニちゃんに駆け寄っった。結局、私が戦っても意味がなく、守護精霊が直接魔物を倒さないと経験値が入らない仕様だからだ。


「大丈夫? 怪我はない? 回復いる?」

「大丈夫に決まってるでしょ! 見てなかったの!?」


 いや~ちゃんと見てたんだけど、もう心配で心配で……


「ここって魔物が一番弱い場所なんでしょ? なら全然怖くなんてないわよ。さ、次に行きましょ!」


 初めての戦闘は緊張しているように見えたけど、終わってみれば元気いっぱいだ。もう次の敵を求めて勝手に進んでいく。

 背中の羽でパタパタと飛ぶ様子も実に可愛くて、後ろからついていく私はついつい手を出したくなってくる。


「ねぇねぇプニちゃん!」

「ん? なぁに?」


 プニッ!

 振り向いたプニちゃんの小さなほっぺに、私は指をチョンと当ててみる。


「ふみゃ!? ちょっとお姉ちゃん! 何するのよ!」

「ごめんね。後ろ姿も可愛いからつい」

「んも~。鬱陶しいなぁ~」


 てへ、怒られちゃった♪


「沙南が、『妹が可愛いから構いすぎてウザがられる姉』のポジションになってる……」


 うん、さすがルリちゃん。的確な表現だよ。けど、ぜひ言い訳をさせていただきたい!


「違うんだよ。私、プニちゃんは寂しがりやさんだと思うんだよね。だからできるだけ構うようにしているんだよ!」

「誰が寂しがりやよ!! ただ単にイタズラしたいだけでしょ!?」


 信用がないなぁ。たまごから出てきたときは泣いてたのに~……

 でもプニちゃんって泣いてた事を言っても素直に話してくれないからなぁ。

 あ、そうだ!


「プニちゃんはさ、たまごの中にいた時の記憶ってあるの?」


 軽い気持ちで聞いたつもりだった。けど、それでもプニちゃんは小さく俯いてしまった。


「……ある。周りは真っ暗で何も見えなくて、ここがどこなのか、自分が誰なのかもわからずにそこにいたの」


 少し震えた声で、プニちゃんは続けた。


「暗闇が怖くて、ずっと下を向いたまま我慢してた。しゃべる事も出来ずにいて、意味わかんなかったけどそうする事しかできなかったの。そうしたらね、不意に闇の奥から話し声が聞こえてきたんだ。顔を上げると、暗闇にヒビが入って光が差し込んで……気がついたら、あたしの周りにはみんながいた。そうしてこの世界に生まれてからすぐに、自分の存在や役割が頭の中に浮かび上がってきたの」


 そっか。だからたまごから出てきたときに泣いてたんだね。


「う~……プニちゃん可哀そう!!」

「ふぁっぶ!?」


 私は無意識にプニちゃんを抱きしめていた。


「暗い所で怖かったよね。でもこれからは私がずっとそばにいるからね!」

「みにゃ~~!? 体がつぶれる羽が折れる! 急に抱きつくな~!!」


 ジタバタと暴れて私の腕から逃げていく。


「これからは私に甘えてくれていいからねっ! 私、お姉さんだから! なんならお母さん役でもいいから!」

「いやいや、沙南お姉ちゃんってまだ小学生でしょ! お母さんはさすがに無理があるから!」


 そうかな~? じゃあやっぱりお姉ちゃん役かな?

 私はどっちでもいいんだけど。


「ちょっと待ってください。今なんて言いましたか……」


 振り返るとは、ナーユちゃんが信じられないといった顔で私たちを見ていた。


「ナーユちゃん? どうしたの?」

「プニプニさん、今、沙南さんの事を『小学生』と言いましたね? なぜあなたがそれを知っているんですか!?」


 真剣な表情のまま、ナーユちゃんは私たちの前まで歩み寄ってくる。


「なんでって……さっきお姉ちゃんと契約するのにリンクをしたから……。リンクをすると相手の情報が流れ込んできて、大体の事がわかっちゃうの……」

「だとしてもですよ? 小学生だとか年齢だとか、そういうのは個人情報です! それを人前で口にするだなんて……」


 私はなだめようと二人の間に割って入った。


「ちょ、ナーユちゃん! プニちゃんが怯えちゃうから……」


 ナーユちゃんも言葉を飲み込むように、それ以上は言及しなかった。


「えっと……え? 言っちゃダメなの……?」


 プニちゃんが困惑しながら私を見つめる。助けてほしそうな、そんな困った表情をしていたから私はナーユちゃんを納得させようとした。


「ほら、私ってリアルアバターでしょ? だからきっと、その辺は口にしても大丈夫っていう判断になったんじゃないかな? 私だってそのくらいは言われても平気だよ」

「……」


 納得してくれたのかは分からない。けどナーユちゃんはそれ以上追及する事はなくて、みんなの後ろに戻っていった。


「大丈夫だよプニちゃん。私はどんな時でもプニちゃんの味方だからね」

「う、うん……ありがと……」


 私たちは気を取り直すように魔物を狩り始める。そうやって、プニちゃんのレベルは一つ上がり、喜びあったりした。

 まだプニちゃんのレベルは2でなんの能力も覚えていない。それでも確かな成長に胸を弾ませながら私たちは歩き続けて、ついにボスの前までやってきた。

 もちろん、いきなりボスと戦うつもりはない。

 けど、そのボスの扉の前には三匹の魔物が出現した。


【魔物の群れが現れた】


「スライムに、コボルトに、ゴブリンかぁ。じゃあ私が二匹倒すから、プニちゃんは一匹を確実に倒そう!」


 しかし、プニちゃんは首を横に振った。


「ううん。お姉ちゃん、私とリンクしてほしいの!」

「リンク? するとどうなるの?」

「お姉ちゃんが私の能力を使えるように、私もお姉ちゃんの能力を引き出して使う事ができるのよ! それを使えばこれくらいの敵、なんてことないわ!」


 なるほど。そういうシステムにもなっているんだね。

 そうすればレベル上げも捗るし、守護精霊がやられちゃう可能性も低くなる。ちょっと安心したよ。


「わかった! それじゃあいくよっ!」


 頭の中でイメージをする。プニちゃんと私が繋がるイメージ。

 お互いに見えない線で繋がって、共有するイメージ!

 それをはっきりと頭に描いて、言葉に出す!


LINKリンク!」


 バチン! と、二人の間を電気が流れるような感覚になる。


「きたきたきたー!! これなら負けないわよ!!」


 三匹の魔物が同時にプニちゃんに飛び掛かる!

 それを見据えて、プニちゃんは小さな右腕を振るった!


【プニプニが大技を使用した。神技、爪薙そうなぎ


 ズバアアァァ!!

 三匹の魔物は同時に引き裂かれ、光となって消えていく。


「…………え?」


 しかしその光景を見た私は、何が起きたのか理解が追い付かずに茫然となってしまっていた。


「どう、お姉ちゃん! あたし凄いでしょ!」


 得意げな表情を見せるプニちゃん。けれど、私は背筋が凍るような冷たい何かを感じていた。

 今この時、私はやっと理解した。

 何かがおかしくて、何かが壊れていて、何かが狂っている事に……

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