「みんなと一緒に戦えたこの思いでが大切な宝物なんだ!」
「HPゲージは!?」
見ると、ボスのゲージは半分を少し超えたくらいまで減っていた。
って、これだけ与えてまだこんなに残ってるの!?
「どうやらボスのHPは、おおよそ150億くらいモフね……」
「ふっ、クランメンバーだけで討伐しようと思うなら、そろそろ本気で武闘家を育成した方がいいという訳だな」
そんな会話が聞こえてくる。
【ヘルカオスドラゴンがスキルを使用した。我を傷つけることなど不可能だ】
再び体の表面にバリアを張っった。
やっぱり壊すとすぐに張りなおすみたいだね。デュアルアタックと合わせて、攻撃するメンバーは最低でも三人必要なんだ。
さらにドラゴンさんの体が輝きだした。
なんだか今にも爆発しそうなほどに光が膨れ上がっている。
【ヘルカオスドラゴンが大技を使用した。破滅の光はいかなるスキルも打ち砕く】
これ、ナーユちゃんが言ってた回避不能の全体攻撃じゃ……
「くるぞ!! みんな俺の後ろに下がれ!!」
ハルシオンさんの号令でみんなが下がった。
「ごめん、『カウンター』を発動できなかったらかダメージが下がっちゃった」
「いや、そこまで狙うのはシビアすぎるから謝る必要はないモフよ。……というか、まだダメージを上げられるモフか……」
モフモフさんがフォローしてくれると同時に、呆れたような表情を浮かべていた。
そしてドラゴンさんの輝きがどんどんと増していく。
「ねぇねぇ、あれが大技なら、私のデッドリーキャンセラーを試していいかな?」
私としては早くデッドリーキャンセラーを使いたかったりする。
「……いや、やめておいた方がいいぞ沙南君」
ハルシオンさんが盾を構え、視線を相手から背けずに答えてくれた。
「デッドリーキャンセラーは主に対人戦で使うスキルなんだ。沙南君はまだ地下10階だと言っていたから分からないだろうけど、さらに進めばデッドリーキャンセラーでも防げない技を使ってくるボスは多い。つまり、スキルに頼らずに鍛えたステータスで乗り切ってみろ、と言った感じかな」
そっかぁ。確かに六人パーティーで全員がデッドリーキャンセラーを使えたとしたら、もうボスの大技は怖くないもんね。むしろその間は休憩タイムになっちゃう感じだよ。
「そうモフね。あのボスの技名からしてもデッドリーキャンセラーが効かないのはほぼ確定。だから僕の『百万障壁』もここじゃ意味がないんだモフ」
だからモフモフさんはみんなを守る役はハルシオンさんが最適だって言ったんだね。なるほどなるほど~。
【ハルシオンがスキルを使用した。デッドリーキャンセラー】
「だがまぁ、一応は使っておくか。さぁ来るぞ! みんな衝撃に備えろ!!」
ドラゴンさんの膨れ上がった光が解き放たれた!
凄まじい爆音と共に、膨大なエネルギーが周囲に広がる!
盾を構えるハルシオンさんがその光を受け止めているけど、荒れ狂う暴風は背後にいる私たちに容赦なく降り注ぐ。気を抜いたら吹き飛ばされそうだった!
「ぐぅ……ぬぬぬ……」
やっぱりハルシオンさんの言った通り、デッドリーキャンセラーが効いていない。必死に衝撃を抑えようとするハルシオンさんの後ろ姿がそれを物語っていた。
どんどんとHPゲージが減っていき、戦闘不能になるんじゃないかと焦りが生まれる。けれど、ゲージが7割ほど減った所でようやく攻撃が収まった。
【ハルシオンに15万1890のダメージ】
「ハルシオン、大丈夫!?」
ガクリと膝を着くハルシオンさんに、くぅちゃんが真っ先に駆け寄って介抱をしていた。
うん。これはもう立派なお友達だね! 二人が仲良くなってくれて私は嬉しいよっ!
【くぅがアイテムを使用した。回復薬】
ハルシオンさんにアイテムを使うくぅちゃん。けど、そのHPゲージは全く回復しなかった。
「え!? どうして!?」
「バッドステータスですわ! 回復無効になっております……」
黒猫ちゃんの言う通り、ハルシオンさんの簡易ステータスには見た事のないステータス異常効果のアイコンが追加されていた。
さらにドラゴンさんが動き始める。翼を羽ばたかせ、空中に飛び上がった。
【ヘルカオスドラゴンが大技を使用した。我が槍はいかなる防御も貫通する】
空中に無数の槍が出現する。それらは全てハルシオンさんに向いていた。
「まずいモフ! あの技名、恐らく防御力無視の攻撃! このままだとハルシオンがやられるモフ!」
回復ができない上に防御力無視……これは本当にピンチだよ!
ハルシオンさんがいなくなったら、次にあの全体攻撃を防ぐ手段がない!
「俺様に任せやがれ!!」
そう言って駆け出したのはアビスさんだ。
飛び回るドラゴンさんの真下まですばやく移動すると、その両手の短剣を激しく振るった!
【アビスが特技を使用した。風斬】
カマイタチのような斬撃を飛ばすと、空中のドラゴンさんにわずかだけどダメージを与えた。すると、向いていた槍の矛先がアビスさんを指した。
「へっ! 来るなら来やがれ! 俺様の神速に当てられるもんかよ!!」
【アビスがスキルを使用した。ソニックムーブ+5】
空中から降り注ぐ槍の嵐。しかしそれを、アビスさんは高速移動で見事に回避していった。
「遅せぇ遅せぇ!! そんなノロマな攻撃なんか目を瞑ってたって避けられんだよ!!」
言うほど簡単じゃない。だって敵の攻撃もかなり激しいから。
それでもアビスさんは残像を残す勢いの速さで駆け抜け、避けていく。
あの速さ……『ソニックムーブ改』くらいのスピードが出てる気がする。
「おお~!? アビスさんカッコいい~!! ちょっと見直したよ!!」
私は拍手を送って応援する。
「勝ち抜きトーナメントの決勝戦を見て、みんな戦い方が少しずつ変わってきているモフ。それがここにきて役に立っているモフ」
私とナーユちゃんの決勝戦。それがみんなに影響を与えたとしたら、なんだかちょっと恥ずかしい気もする。嬉しいけどむず痒い。そんな気持ちかなぁ。
そんなアビスさんに対してボスの攻撃は激しさを増す。けれどアビスさんもとてつもない動きで全てを見切っていった。
「ドラゴンさんが降りてきたら、私また攻撃していい?」
「いや、それは待ったほうがいいでしょう」
そう言ったのは黒猫ちゃんだった。
黒猫ちゃんは『竜神の舞』を使用しているために、その場からほぼ動く事が出来ない。そういう制限のある絶技っぽい。よって、黒猫ちゃんを守るためにハルシオンさんも動くことができない状況だ。
「沙南さんの次の攻撃ではもう『先手必勝』は発動しませんわ。当然、ダメージが半減してボスを倒しきる事が出来ないでしょう。そしてわたくしの予想通りなら、あのボスは大ダメージを受けるか、HPが適度に減るとあの回避不能の全体攻撃を使ってきます。ここはハルシオンさんの回復無効が治ってしっかりとHPを回復させてから攻撃に転ずるのがいいかと」
なるほど。ここはとにかく確実に、じっくりといく作戦だねっ!
「了解! じゃあ私もアビスさんと一緒にドラゴンさんのヘイトをかき乱そうかな?」
「いやいやいや、沙南たんが戦闘不能になったら攻撃に穴が開くモフ。ここでおとなしくしてるモフ!」
飛び出そうとする私の腕をモフモフさんががっちりと掴んでいた。
「え~!? でも私だって攻撃よけるの得意だよ?」
「もしもって事もあるモフ! ここはアビスに任せて、沙南たんは次の攻撃に備えるモフ!」
ぷぅ~! わかったよぉ……
そうして着実に、少しずつ攻略を行っていく。
ハルシオンさんのバッドステータスが治り、アイテムで回復した後、再び私たちが三人で飛び掛かりボスにダメージを与える。
すると黒猫ちゃんの予想通り、全体攻撃が飛んできて、またハルシオンさんがバッドステータスを受ける。
またまたアビスさんが敵の狙いを引き付けるために囮になり、その間にハルシオンさんを回復させる。
そうしながら、確実にボスのHPを削っていった。
スキルの効果が切れた事に気が付かないまま攻撃をしたり、ボスがダメージを軽減するスキルを使ったりと、思った以上になかなか決着がつかないまま戦いは進む。
それでも繰り返して、繰り返して……もはやボスの攻略がパターンに入ったと言ってもいいほどじっくりと攻めて、ついにあと一撃で倒せるほどまでゲージを減らした!
「よぉし、もう少しだよ! これでラストアタックにしよう! くぅちゃん、援護お願いね!」
「もちろんよ。いちいち断らなくても私の弓はタイミングを外したりしない。沙南、あなたの攻撃は必ずデュアルアタックになるから安心しなさい!」
頼もしいよ。こんな強い味方がたくさんいて負けるなんて想像できない! だから私は最高の一撃を決めるんだ!
もう何度目かになるボスへの突撃をモフモフさんと行う! モフモフさんがボスのバリアを壊して、私が続いて攻撃を叩き込んだ!
もちろんくぅちゃんの援護も完璧で、当然のようにデュアルアタックが発動する。そうしてついに、ボスのHPゲージが空になった!
「ギュウウゥゥゥン……」
断末魔を上げて、その巨体が地面に倒れこむと、大粒の光の粒子になって消えていく。
【ヘルカオスドラゴンを倒した】
【沙南は新たな称号を手に入れた。ヘルカオスドラゴンを討伐せし者】
ヘルカオスドラゴンを討伐せし者:高難易度ダンジョンのボス、ヘルカオスドラゴンを討伐した。ステータスに500ポイントの振り分けができる。
ついに……ついに! 高難易度の最強ボスをやっつけたんだ!
「やったーーーーーー!!」
その場の全員が歓喜の声を上げた。
飛び跳ねて喜ぶ人や、逆に脱力をしてその場に尻餅をつく人、それぞれだ。
笑いあって、ハイタッチをかわして、みんなと協力してやり遂げた実感を分かち合っていた。
凄く幸せな気持ちになる。これが冒険であり、仲間との絆なんだって思った。
「ちょ!? 見るモフ! ボスを倒して『悠久の結晶石』をドロップしたモフよ!?」
「おいマジかよ!? 課金装備さえも強化して、その性能を上昇させる超レア素材じゃねぇか!」
モフモフさんとアビスさんが興奮している。
「わたくしは……え? 『星屑の髪飾り』? 全状態異常を無効にできる上に、敵からのダメージを軽減できるアクセサリーですわ! 」
どうやらレア装備もドロップするみたい。
みんなでドロップ品を見せ合って、和気あいあいとしていた。
「沙南君、キミは何をドロップしたんだ? 人それぞれで中身が違うようなんだ」
ハルシオンさんがそう声をかけてくる。それでも私は、みんなが楽しそうにおしゃべりをする姿から目が離せなかった。
「私はさ、ドロップ品なんてどうでもいいんだ」
「え?」
するとハルシオンさんだけでなく、みんなが私に注目してきた。
「初めは勝ち抜きトーナメントでみんなが敵でさ、ライバルとして戦っていたのに、それがこうして最強のボスを倒すために協力して助け合ってる。私はそういうのが好きなんだ。だってこれが、誰とでも仲良くなれるっていう証明になるから。冒険はただワクワクするだけじゃなくて、仲間たちとの出会いや絆を深めるきっかけにもなるんだよ。私にとってはドロップ品なんかよりも、みんなと一緒に戦えたこの思いでが大切な宝物なんだ!」
自分でも恥ずかしいって思う。けど、ボスを倒したハイテンションのまま、その勢いで言ってしまっていた。
「沙南さん……」
「感動するモフ……」
みんながほっこりとしてくれて、私は思わず照れ笑いを浮かべていた。
「確かにその通りだな。けど、ドロップ品を見せ合うのも思い出の一つだよ、沙南君」
「うん。そうだね。今アイテム欄を見てみるね」
ハルシオンさんに言われるまま自分のアイテム欄を確認すると、そこには『たまご』というアイテムがあった。
「なんだろう? たまごをドロップしてるよ?」
「ふむ? 説明欄を表示してみてくれないか?」
「あ、そうだね」
私が説明欄を開くと、みんなが私の画面をのぞき込んできた。
たまご:これを使うと『守護精霊』と契約できる。自分だけの守護精霊を育てよう!
これを見た瞬間の私は、きっと目を輝かせていたと思う。
なぜなら私は育成ゲームも大好きで、今までかなりの数をプレイしてきたから!
「すごーい!! このゲームにも育成要素があったんだ!! 私にとっては最高の報酬だよ~!!」
ついそう言ってしまってからハッと我に返る。
周りのみんなは、そんな私をジト目で見つめていた。
「さっきまでは『この思い出が最高の宝物』とか言ってモフ」
「よよよ……沙南さんにとって、わたくし達との絆はその程度だったのですね。よよよよ……」
私のモノマネをするモフモフさんや、大げさに泣き崩れる黒猫ちゃんを見て冷や汗が止まらない。
「あぅ……ち、違うの! みんなの事は大切だよ!? けど予想外のドロップ品だったからつい……あわわわ!」
慌てふためく私をみんながからかってくる。
そうしてこのダンジョンを出るその時まで、私は弄られてしまうのだった……




