「チート疑惑がかけられています」
「はーい、みんな席について」
地下三階をクリアした次の日、私が普通に学校へ登校した時の事だ。
先生が一人の女の子を連れて教室へ入ってきた。
「今日は皆さんに新しいお友達を紹介します。転校してきた、八重樫るりはちゃんです。それじゃあみんなに挨拶をして」
「……」
先生の言葉を無視して、その子は周りをキョロキョロとしている。
長く綺麗な金髪に、ドレスのようなヒラヒラとした服を着たその子はまるでお嬢様のようだ。顔立ちも良く、とても可愛らしいルックスだが、どこかボーっとしていて気が抜けているような雰囲気だった。
そんな彼女と私は目が合った。すると、その子は目を見開いてこっちに駆け寄ってきた。
「沙南!? よかった! 一緒のクラスになれた!」
「ふえ!? ど、どちら様?」
「すごい! ゲームのアバターと同じ顔で驚いた!」
そうしてピョンと飛び跳ねて私に抱き付いてきた。
ちょっと待って、本当に見覚えのない子なんだけど!? 見覚えはないけど、ゲームのアバターって今言ったよね!? って事は……
「も、もしかして、ルリちゃん?」
「そう! 私もこっちの学校に通う事にした」
「え……えええええ!?」
待って待って! 確かに私、ここの小学校に通ってるって言ったけど、それって昨日の夕方だったよね!? こんなに早く転校とかできるものなの!? いや私、そういう手続きとかわからないけどさ!
「……どうしたの沙南。もしかして、私がここに来たの迷惑だった……?」
すごく不安そうな、捨てられそうな仔犬のような目で見つめてくる。
「そんな事ないよ! 物凄く驚いただけ。うん、もう天地がひっくり返るくらい驚いたよ……」
「あはは、沙南驚きすぎぃ」
いやいや普通驚くよ? なんか色々と常識を超えたよ?
「じゃあ、丁度沙南さんの後ろの席が空いているから、そこに座ってね。一番後ろだけど大丈夫?」
「……平気。勉強は得意」
そうしてルリちゃんが私の後ろの席に座る事になった。
そんな休み時間。案の定ルリちゃんはクラスのみんなに囲まれて質問責めを受けていた。
「ねぇ、るりはちゃんは、どうして転校してきたの?」
「……? 沙南がいるから。沙南は友達」
え!? それだけの理由で転校って出来るの!? いや嬉しいけど、おうちの人に反対とかされなかったの!?
「じゃあさ、好きな芸能人とかいる?」
「……? 沙南が好き」
「え!? 沙南ちゃんって芸能人だったの!?」
そう問われると、ルリちゃんは私をジッと見つめてくる。
「……? 沙南って芸能人なの?」
いやいやいや、なんでそうなるの!? そんな訳ないよぉ……
「じゃあ、好きな料理は?」
「……? 沙南の作った野菜カレー。沙南は家の事を一人でやってる」
「えぇ~!? るりはちゃんって沙南ちゃんの料理食べた事あるのー!?」
ルリちゃんが再び私を見ながら小首を傾げる。
「……? 私、沙南の料理食べた事あったっけ?」
だからなんで私に聞くの!? そんな訳ないよ。リアルで会うの今日が初めてなのに……
というか、ルリちゃんってなんかズレてるよぉ……こんなんでうまくやっていけるのかな……
「あはは。るりはちゃんっておもしろーい」
「……?」
なんかウケてる!?
なんだか不思議ちゃんとして面白がられていた……
——そして下校の時間。
私とルリちゃんは二人で一緒に帰り道を歩いていた。
「それで沙南。ゲームはどうするの?」
ルリちゃんがそう聞いてきた。
「うん。夕方のいつもの時間にログインするよ」
「ん……じゃあ私もその時間に入る。でも聞いたのはその事じゃない」
あれ? なんの事だろう?
「ヘルプに書いてあった。地下三階をクリアするとクランに入れる。沙南はどうするの?」
そういえばシルヴィアちゃんも言ってたっけ。
「ん~……どうしようかな。全然考えてなかったよ。ルリちゃんは?」
「……私は……沙南について行く」
う~ん。手っ取り早いのは大所帯のクランに入れてもらえれば色々と助かるんだけどなぁ……
「では、沙南様が自分でクランを設立するというのどうでしょう」
私の隣にいる初老のおじいさんがそう提案した。
「え~!? 無理だよぉ! それだと私がクランマスターになっちゃうもん。そういうのは強くて詳しい人がやった方がいいよぉ」
私は隣のおじいさんにそう言った。
そうしておじいさんと目が合った。
おじいさんはニコッと微笑んでくれた。
私はそれに合わせて軽く会釈をした。
……………………ん?
「誰!?」
なんだかきちんとした服を着たおじいさんがいつの間にか並んでいた。
私はルリちゃんを守ろうと自分の後ろに隠す。
「……私のお世話してくれる人。いらないって言ったのに勝手についてきた」
お、お世話!? ルリちゃんってやっぱりお金持ちなのかな? お嬢様っぽい服も着てるし……
「そうなんだ。ビックリしたよぉ……」
「沙南驚きすぎ」
「いや驚くよ!? 知らない大人が隣で歩調を合わせてきたら普通に怖いからね!?」
なんだか今日はルリちゃんにツッコんでばっかだよぉ……
「護衛も兼ねてる。合気道とかすごく強い」
「へぇ~。すごいんだね!」
「けど沙南の方がきっと強い。忍者倒したし」
「それはゲームの中でだよ!? リアルと混同しちゃだめだから!!」
「……ん~、やっぱりクランは沙南が作った方がいいと思う。沙南は強いし、ゲームにも詳しい」
え~……大人だってログインしてるのに、私なんかがマスターやってるクランなんかに人が集まるのかな……
まぁゲームの中じゃ年齢なんてわかんないだろうけど……
「まぁ、クランは少し考えてからにしようよ。今すぐに必要って訳じゃないし」
「……うん。わかった」
そんな会話を続けながらしばらく歩くと、帰り道が別々となる所まで来ていた。
「じゃあ私、こっちだから。ルリちゃんバイバイ」
「……」
私が帰ろとすると、グイっと引っ張られる。
見ると、ルリちゃんが私の袖を掴んで離さなかった。
「……沙南と離れるの、寂しい……」
そしてまた、捨てられそうな仔犬のような目で見てくる。
「大丈夫だよ。あとでゲームするんだから、すぐに会えるよ」
「……うん……」
名残惜しそうに指を離し、護衛のおじいさんと一緒に帰っていく。
はうぅ~! やっぱりルリちゃんは可愛いなぁ。まるでペットの仔犬みたいだよぉ。
……あれ? 私、友達をペット扱いしちゃったけど、これって人としてどうなんだろう。私最低なんじゃないかな……
——後日、私はお母さんがいる時に相談をする。友達が仔犬に見えて仕方がないのだけど、これは人として大丈夫なのかと。
そうしたらお母さんはこう答えてくれた。
「そう思っている事を口に出さなければ大丈夫よ」、と……
* * *
「またレアアイテムが入ったら、よろしくお願いしますね~♪」
私はお客さんに手を振って見送りました。
情報屋として、前回のメンテナンスで新たに追加された隠し称号などを探し出し、レアアイテムと交換でお客さんにそれを伝える。それも私の仕事です。
それにしても、ここの運営は本当にそういうのが好きみたいです。全くお知らせに載せないまま、新要素とかを平気で実装したりするんですよね。だから毎回メンテナンス後は大忙しですよ……
まぁ、もう慣れましたし、諦めてますけどね。それにレアアイテムも手に入りますし♪
それにしても、今日は沙南ちゃんと会えませんでした。地下三階はどうなったんでしょうか。とても心配です。ああ、私の愛する沙南ちゃんに早く会いたいです。
「シルヴィアさんこんにちは。お久しぶりです」
沙南ちゃんの事を考えていたら、いつの間にかお客さんが来ていました。
……って、あれ? この人誰でしたっけ?
「今日はあなたに聞きたい事があって来ました」
茶髪のショートボブを、猫の絵の髪留めで小さく跳ねる程度のツインテールにしている小柄な女性。装備から見てクラスは盗賊。動きやすそうな露出度の高い恰好で、かつかなりの美少女アバターとなれば、忘れないはずなんですけどねぇ……
「どんな用事ですか?」
「沙南というプレイヤーを探しています。知っている事があれば教えて下さい」
沙南ちゃんの知り合いでしょうか?
なんか美少女なのに、今はかなりご立腹のようで、かなり険しい顔をしています。
ん~……思い出せそうで思い出せない。私の記憶では忘れてはいけない人物としてロックがかけられている感覚なんですが、それでも覚えていないという事は、かなり長い間会っていなかった人物のようですね。
「沙南ちゃんがどうかしたんですか? 今はログインしていないようですけど」
「……彼女にはチート疑惑がかけられています」
チート? そんな事をするような子には見えませんでしたけど……
「レベルが低いにも関わらず、凄まじい速さでダンジョンを攻略しているとか、プレイヤーバトルで100レベル差の相手に連勝をしたとか。だから、そういうチートを使っているのではないかと噂されているんです」
100レベル差の勝利は凄いですね! 称号で下克上を取れるじゃないですか!
「けど、レベル100程度なら勝てない戦いじゃないはずです。それだけでチート扱いはどうかと……」
「確かに、このゲームはレベルが全てではありません。しかし、そういったノウハウを理解しているならまだしも、彼女はまだ初心者らしいのです。はやり直に会って確認するのが一番かと」
ふ~む……あ、そうです。この人の名前を見れば思い出すかもしれませんね。
私は、簡易ステータスを広げ、この人物の名前を確認してみました。
するとそこには、『GMナーユ』と書かれています。
あ、ああ! あああああああああああ!!
お、思い出しました!! この人って……
あぁ、沙南ちゃん、とんでもない人に目を付けられてしまいましたね……
私は誤魔化す事は逆にマズいと判断して、知っている事を話すのでした……




