「モフ?」
「ねぇナーユちゃん。私って観客から叩かれたりしないかなぁ?」
控室に戻った私は、そんなことを聞いてみた。
「どうして沙南さんが叩かれるんですか?」
「だってほら、スキルとか強いでしょ? アビリティだって……」
「そんな事ありませんよ。神化はどのクラスでも特徴的な性能を発揮します。狩人は相手を接近させない力を。魔法剣士は相手の攻撃を封じるすべを。盗賊はそのスピードを生かす能力を。沙南さんの武闘家は、その圧倒的な攻撃を邪魔させないための能力じゃないですか」
ナーユちゃんがそうフォローしてくれる。
「けどさ、神技とか、ほら……」
「あ~……神技は、まぁ確かに優遇されている感じしますけど……」
やっぱり! そこはフォローできないんだ!?
「でもそれは気にする必要はないと思います。沙南さんは本当に強いですよ。だからこそ強力な転身ルートを勝ち取れるわけじゃないですか。それでも沙南さんがズルいだなんて言う人がいるとすれば、それはきっと沙南さんの強さに嫉妬している人じゃないでしょうか。そんな人を気にする必要はありません。少なくとも私や、クランのみんなは沙南さんがちゃんとした実力でここまで勝ち上がっているとわかっていますから」
そう言ってニッコリとほほ笑んでくれる。
そんな優しさがすごく嬉しくて……
「うぅ~……ナーユちゃんありがと! 大好き!!」
ひしっとナーユちゃんの腰にしがみ付いた。
「ふふっ。沙南さんはいい子ですね」
そんな私の頭を優しく撫でてくれる。そんなワチャワチャと過ごしながらも、トーナメントは進んでいった。
お父さんが要注意人物として挙げていたモフモフ師匠さんが勝ち上がり、続いてフラムベルクのくぅさんも勝利する。トーナメントの反対側にいるナーユちゃんも順当に勝ち進んでいた。
そして……
『続きまして、第三回戦を始めたいと思います! 第一試合は、沙南選手 VS モフモフ師匠選手で~す!』
私の番が回ってきた!
『それでは入場してください!!』
決勝ブロックで三度目のフィールドに駆け出していく。
そして中央でモフモフさんと向かい合った。
『沙南選手はこれまで圧倒的な攻撃力でどんな相手も一撃で仕留めています。対するモフモフ師匠選手は、相手に応じて臨機応変に戦術を変える柔軟な戦いが得意なもよう。さぁ、この勝負はどうなるのでしょうか!?』
解説がしゃべり続けている間、私はモフモフさんをジッと見つめていた。
……その姿は熊さんだ。まごうことなき熊さんの姿だ。
正確に言えば、つぶらな瞳をしたかわいらしい熊さんのぬいぐるみだ。
どこかの遊園地に行ったら一緒に写真を撮ってくれそうなマスコットキャラって感じ……
「モフ?」
目が合った!?
いや、私がめっちゃ見ていたからなんだけど、あまりにも異質で目が離せなかった。
「キミかぁ。瑞穂たんが気にしていたび~すとふぁんぐのクランマスターは」
モフモフさんにそう言われて、私はハッとした。
以外にも少年のような声なんだね。
ってそうじゃなくて、モフモフ日和はバトルロイヤルの時に手伝ってもらったんだった!
「あ、あの、バトルロイヤルの時は凄く助かったよ。本当にありがと」
そしてお辞儀をする。
「あぁ。気にしないでいいモフよ。別にキミを助けたわけじゃないモフ。僕たちは瑞穂たんを助けただけモフ」
そっかぁ。語尾がモフなんだね。
ってそうじゃなくて!
「ううん。瑞穂ちゃんを助けてくれた事が嬉しいんだ。瑞穂ちゃんもね、その時の事を凄く嬉しそうに話してくれたよ。だからやっぱり、ありがとうだよ」
もう一度お辞儀をする。
「……別にいいって言ってるのに。けど、なんとなく瑞穂たんがそっちのクランに行きたがる理由が分かった気がするモフ」
そう言ったモフモフさんは少しため息混じりで、ちょっと寂しそうに見えた。
「それ、リアルアバターモフね? 瑞穂たんもリアルアバターモフよ。きっと歳の近い子がいるクランの方が、瑞穂たんも色々と楽しめるはずモフ。だからこれからも、瑞穂たんの事、よろくしお願いするモフ」
そうして今度はモフモフさんが頭を下げた。
「そ、そんな、お願いだなんて……瑞穂ちゃんとはもうお友達だもん」
「友達、モフか。うちのクランじゃ瑞穂たんはみんなのアイドルだったモフ。だけどそれ故に、友達という距離感ではなかったモフね」
「アイドル……?」
「そう。みんなから愛されるアイドルだったモフ。だけどそのせいで、結構無理させていたのかもしれないモフ……」
瑞穂ちゃんアイドルだったんだ。可愛いもんね。納得だよぉ。
でもそんな事教えてくれなかったなぁ。
「さぁ、今は勝負だモフ! 勝ち上がるのなんて別にどうでもよかったけど、キミには興味が出てきたモフ!」
そう言ってファイティングポーズをとるモフモフさん。
私もつられて構えを取った。
『さぁそれでは始めましょう! 第三ブロック、第三回戦、第一試合ぃぃ始めぇぇ!!』
マイクで拡散された声が響き渡り、ついにモフモフさんとの試合が始まるのだった。




