「自機狙いはチョン避け」
『それでは両者、入場してください!』
迷わないためか、ご丁寧に順路が表示されている。
「沙南さん、頑張ってください!」
応援してくれているナーユちゃんに手を振って、私は廊下に飛び出した。
廊下を進むと外の光が差し込んできて、フィールドへと通じている。そうして外へ出た私は、想像を超える眺めに目を見開いて驚いた。
見渡す限りの人、人、人! まさに膨大な人数で客席が埋まっていた。
凄く大きな野球場のように、周りをグルリと客席に囲まれているのは予選ブロックと同じだけど、その観客の数はその比じゃなかった。
考えてみれば、予選ブロックで負けた人も観客に加わるし、決勝ブロックは数も多くない。観客の数が多くなるのは当然なんだ。
なんだかすごく緊張してきたよ……。これまでのイベントとは違った意味で熱気がすごい。
騒めきも大きくて、とてもルリちゃんたちの声は聞こえそうになかった。
『それでは両者、中央まで寄ってください』
また解説のお姉さんの声がマイクを通して広がっていく。言われた通りに中央まで進ん行って、私はオロチさんと対峙した。
オロチさんは物静かそうな青年のアバターを使っている。緑色のベレー帽をかぶり、緑色のマントと深緑のズボンで緑尽くしだ。
大きな弓矢を持っているのでクラスは狩人で間違いないけど、なんていうか、まさに森を守る番人ってイメージのキャラだ。
『さぁ一体どんな試合になるというのでしょうか!? び~すとふぁんぐの沙南選手はレベル155! お世辞にも高いとは言えませんが、その攻撃力はまさに一撃必殺! どんな防具も粉砕する脅威の破壊力を秘めているとの情報があります! 対するオロチ選手はレベル955。狩人として、沙南選手の一撃必殺の間合いから逃げながら攻撃となるため相性抜群! これは沙南選手にとっては苦しい戦いか~!?』
う~ん。狩人と戦うのは初めてだから、様子をみながらじっくり行こうかなぁ。
『それでは始めたいと思います。沙南選手 VS オロチ選手。試合ぃぃ始めぇぇ!!』
真っ先にオロチさんが動いた。バックステップ踏みながら私と距離を空けつつ、大きな弓矢をこちらに向けてくる。
【オロチの攻撃】
二本の弓矢が飛んでくるのを、冷静に見切り回避する。
……二本? 二連続で攻撃を仕掛けてきた?
【オロチが詠唱を開始した】
【オロチが特技を使用した。ダブルショット】
詠唱キャンセルで攻撃後の硬直をなくして続けざまに矢を放ってくる。
【オロチが詠唱を開始した】
【オロチが特技を使用した。トリプルショット】
軌道を見極めてステップを踏みながら回避をするけど、あからさまに矢の数が多い。
「技名に対して矢の数が多いね? それってスキルか何かなの?」
興味本位で聞いてみる。
「……これは課金装備ガチャの当たり武器。この武器で攻撃すると、攻撃回数が一回増える……」
「へぇ~! それは確かに撃ちまくりたくなる武器だね」
教えてくれたからにはちゃんと感想を返すのが私の流儀だよ。
まぁお父さんにそう教わっただけだけどね。
「……うまく避けるけど、これは避けられるかな!」
【オロチが特技を使用した。雲落とし】
オロチさんが真上に向かって矢を放つと、空に昇った矢が急激に向きを変え、私に降り注いできた。
さらに――
【オロチが詠唱を開始した】
【オロチが特技を使用した。殲滅矢】
――正面から無数の矢が出現して、同時に発射された。
頭上からの攻撃と正面からの攻撃が一体となって襲ってくる同時攻撃。私はそれを同じようにステップを踏みながら避けていく。
『おお~っと!? 沙南選手、とてつもない密度の矢を華麗に避けていくぅ~!! まるで踊っているかのようです!!』
「くっ! 今のを避けるなんて……。どんな反射神経してるんだ……」
【オロチが大技を使用した。奥義、マシンガンショット】
こんどはランダム性の乱れうちで攻撃をしてきた。
私はそれも同じようにステップを踏んで避けていく。
「反射神経っていうか、狩人の攻撃って弾幕シューティングに似てたからその避け方で対応してるだけだよ。自機狙いはチョン避け。それ以外はパターンを読むか、気合避けってね」
「ジキネライ……? チョンヨケ……?」
シューティングやった事がない人には通じにくかったかな?
まぁいいや。なんとなく攻撃は分かったからそろそろ攻撃してみようかな。
【オロチが大技を使用した。絶技、アルテミスの無限驟雨】
お~。ついに絶技を使用したね。
オロチさんの頭上に物凄い数の矢が羅列されていく。蟻の這い出る隙間もないこの数は、さすがに避けるのは難しいかな。
大技はジャストガードも発動しないし、ここは……攻める!
【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】
絶技が完全に発動する前に、ギュンと一瞬で距離を埋める。
【沙南が特技を使用した。咆哮牙】
そのまま正面から攻撃を仕掛けた。
「っ!?」
【オロチが詠唱を開始した】
オロチさんが自分の絶技を詠唱キャンセルで止め、私の攻撃を飛び上がって回避する。
【オロチがスキルを使用した。空中蹴り】
そしてそのまま二段ジャンプをして私の頭を飛び越えた。
やるねぇ。けど、それは判断ミスかな。
【沙南が詠唱を開始した】
【沙南が特技を使用した。咆哮弾】
対戦だと着地狩りは基本だよ。空中じゃあ身動きが取れないからね。
二段ジャンプが使えるなら、着地狩りを狙われたとき使うべきだったんだよ。
さらにこれは普通の特技。だからデッドリーキャンセラーも使えないはず!
私の放った砲弾が着地寸前のオロチさんに向かって飛んでいく。
「くっ!? 避けられな――」
そのまま成す術もなく被弾して、激しい衝撃音が響いた。
『オロチ選手、吹っ飛ばされたー!? これは決まったかぁー!?』
ジジジ……
膝を着くオロチさんの体に電流がほとばしる。そして――
バチバチバチバチ!!
【オロチのアビリティが発動。アルテミス化】
光に包まれて神化が発動する。
バチンバチンと体が変化して、オロチさんは白髪の美少年へと変貌を遂げた。
頬には月をイメージさせる文様が刻まれ、白で統一されたローブが神々しい。
緑色から白へ変わるという印象の変化もまた、インパクトが大きかった。
『オロチ選手、神化だぁ~!! しかしこうなると当然沙南選手もぉ~!?』
【沙南がスキルを使用した。神獣転身】
バチンと体がスパークをして、私も神化を完了させる。
『転身ルートの神化きたー!! 沙南選手、ケモミミと尻尾がキュートな狼少女もとい、狼幼女に転身完了ぉー!!』
お姉さんの迫力がない解説に、観客からヒューヒュー口笛を吹く音が聞こえてくる。
……正直、もっとカッコよく紹介してほしいよぉ……
『さぁ、ここからは第二ラウンドの開始です! 新しく実装されたばかりの神化バトルはどんな展開を生み出してくれるのかぁー!?』
そんな解説の言葉に、嫌でも観客の期待が高まっていくようだ。
次第に歓声が大きくなるのを感じながら、私の神化バトルが始まるのだった。
空中蹴りは一度ジャンプした間に一回しか使えません。
そうでないと無限にピョンピョンできてしまうので。




