なかよし三人娘
「ここが、フルシュ村か。なんというか自然に恵まれた場所だな。うん」
列車等を乗り継ぎ一日がかりでここまで来たティヤム。すでに、その表情には疲労の色が見て取れた。
村の入り口に着くと、その異変に気づく。なぜか村が騒がしすぎるのだ。恐る恐る近づいて見ると、その騒ぎの正体に気づく。
――――歓迎●ティヤム様●――――
「これは、一体どういうことなんだ? なんかスゴイ歓迎されてるんだけど俺」
と、村を覗いていたティヤム。そのティヤムを村人が発見する。すると、すぐさま一人の少女が走ってくる。
「あのー都からやって来て下さったティヤム様でしょうか?」
「え、あぁそうだけど。ところで、これはなん・・・」
と、ティヤムが少女に疑問を問いかけようとしたところで、少女の歓声があがる。
「うわぁ、すごいすごい。本当にきてくれたんだ。早速、みんなのところに行きましょう」
と、少女はティヤムの腕を引き村に向かって走り出す。程なくして、村につくティヤムだが、平然としている少女とは違いその息は激しく乱れていた。
「ハァ、ハァ。い、いきなり、走り出すのは勘弁してくれ」
「す、すいません。つい興奮しちゃって」
と、そんな二人の下へ一人の女性が歩み寄る。その、堂々として立ち振る舞いに彼女が村の代表だと確信するティヤム。果たして、その考えは間違ってはいなかった。
「うちの村のものがとんだ非礼を。私はフューラ、この村の代表を務めております。失礼ですが、ティヤム様でお間違えないでしょうか」
「これはご丁寧にどうもありがとうございます。えぇ、私がティヤムで間違いありません」
「ワァー」 「本当に来た」 「噓じゃなかったんだ」
と、そのティヤムの発言を受けたとたん、村人たちが歓声を上げる。それを、うけて戸惑いを隠せないティヤム。
「すいません、フューラさん。私が来たことをなぜこんなにも、喜んでいただけているのでしょうか?」
「それは当然ですよ。なにせ中央の中でも選りすぐりの軍略家であるティヤム様が来て下さったのですから。軍に陳情し続けた甲斐があったというものです。この村を守ってくださる軍人さんを派遣して下さいと」
なにか、両者の間で決定的な違いがあると見受けられる。そもそも、ティヤムは左遷させられているのだから。
「あの、ちなみに私のことを軍はどのように言っておりました」
「はい。ティヤム様は才豊かな者が集まる国立ルファフ軍学校において軍略を学び、幾度の選抜をくぐり抜け、同期の方々に先んじて赴任なされる稀代の人物であると聞いておりますよ」
その発言を聞いた、ティヤムはある人物に怒りを抱くと同時に、壮大な勘違いに巻き込まれたのを理解したのだった。
「あ、ティヤム様は長旅でお疲れですよね。気が利かずに申し訳ありません。お話はまた後で時間をとりますのでお休みになってください。ラーイ、ティヤム様をお部屋まで案内しなさい」
「はーい。それじゃあティヤム様行きましょう。それと私のことはラーイと気軽に読んでくださいね」
フューラの言葉を聞いて先ほどの少女がティヤムを部屋まで案内する。村に連れて来た時と同様に彼の手を引くことで。
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「それじゃあ、ティヤム様ゆっくり休んで下さいね。何かあったら近くにいるので声を掛けてください。では」
そう言うとラーイは部屋の外に出ていった。
ティヤムが案内されたのは、村の中央に位置する屋敷。このような辺境の村には軍の施設もないのだから、そういう形になったのだろう。とりあえず落ち着いたティヤムはある言葉を発さずにはいられなかった。
「あのババァ、ふざけやがって。変なことを吹き込んだのはあいつに違いない。しかも、稀代の人物っていう部分を除けばそこまで、間違ったことを言っていないのも腹が立つ」
と、ひとしきり怒りを吐き出したティヤムだがここで、ある疑問が生じる。
「そもそも、この村はどうして軍人を寄越せだなんて陳情をしたんだ? ここは国の中でも辺境の地。この村より南には森と山しかない。しかも、軍が山越えできるほどの生易しい山じゃあない。なんだか、面倒なことになりそうだな。大体、俺一人でなにができるのかという話だし」
ブツブツ呟く、ティヤムだがそれを覗く人影には気づいていない。
「ねぇみてみて、早速何か作戦を考えているんだよ。」
人影その1のラーイが横の人物に話しかける。
「でも、まだ何も伝えていないんじゃないの?」
人影、その2の少女が呈した疑問はすぐさま人影その3によって否定される。
「真に優れた人物は、多くの情報はいらない。ティヤム様は稀代の人物らしいから、すぐにこの村の状況に気づいたに違いない」
「そうそう、そうなんだよ。流石ルミちゃん。メーアちゃんも分かったでしょ、ティヤム様はスゴイんだよ」
「あ、そうなんだぁ」
「うん、ティヤム様はすごいお方」
こうして、3人の少女はブツブツ呟くティヤムをずっと眺めているのだった。
そうして、幾ばくかの時間が経過したごろ、ティヤムのもとに迎えがやってくる。それは、先ほどティヤムを覗いていた三人の少女であった。三人の中でもリーダー格であろうラーイが口を開く。
「ティヤム様、よろしいですか。歓迎会の準備ができたので、来てほしいそうです」
その言葉を聞いて、自分の世界から解放されるティヤム。理由はともかく、歓迎会を開かれれるということは彼にとっても好ましいようですぐさま声を返す。少しばかりの不安はぬぐいされないのだが。
「わざわざ呼びに来てくれてありがとう、えーとラーイだよね」
三人の内、1人の少女についてはすぐに分かったのだが残りの2人については初見なので戸惑うティヤムだが、次のラーイの言葉でそれを把握することができた。
「そうです。名前を覚えていただけて嬉しいです。あとこっちの根暗そうな子がメーアちゃんで、無愛想な感じの子がルミちゃん。どっちも私の親友で、一緒にティヤム様の迎えに行きたいって言うので、つれてきちゃいました」
親友と割には二人の扱いがひどいのではないかと思うティヤム。しかし、当の本人たちが気にしていないところを見ると、これが三人の関係なのだろうと理解することができる。
「は、初めまして。メーアです。よろしくお願いしますっ」
「同じく、ルミ。仲良くしてもらえると嬉しい」
若干、緊張しているのか焦りながら自己紹介をするメーアとそれとは対象的にはっきりと自己紹介をするルミ。この二人の様子から先ほどのラーイの紹介も間違いではないのかもしれないと納得するティヤム。
「二人とも自己紹介ありがとう。私はティヤム、今日付けでこの村に赴任してきた。若輩者だがよろしく頼む。それと様は恥ずかしいから勘弁してくれ」
後半部はまごうことなき本音なのだが、三人の少女はそうは捉えていなかったようで
「そんな恐れ多いですよ」
「そ、そうですよ。わざわざこんなところまで来てくれたんですからっ」
「ティヤム様はこの国きっての天才だと聞いている。尊敬するのは当然」
と、評価するばかり。なんならば、自分の力を誇示しない好人物であるという印象を持ったようだ。
ここで、本来の目的を思い出したのか、ラーイが口を開く。
「あ、歓迎会の準備は大丈夫ですか? ティヤム様さえよければすぐに案内したいのですが」
「あぁ、問題ないよ。それじゃあ行こうか」
これからの歓迎会が楽しみであると同時に何か起きるのではないかと、心のでこかで思っているティヤムなのであった。