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異世界でも魔法少女となら大丈夫だよね!?  作者: 古土師 弥生
〜 スピリットガーデン編 〜
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【Side:アリス】守るべきもの

挿絵(By みてみん)


 ステラの捜索は難航し、陽も低くなってきたため、ゴールドと手分けをして街中での聴き込みを続けた。わたしは精霊樹から離れた繁華街に来ていた。


「全然手掛かり見つからない。本当にステラなの?」


 この王都の神聖な精霊樹で守護者が殺害されるなんて有り得ない。少なくともこの国の者がそんなことをするとは思えない。


 ゴールドと意見が一致したように、こんなことが出来るのはステラ以外思い当たらないと確信していたが、ここまでステラの痕跡が見つからないと自信が揺らぐ。


 むしろステラと決めつけていることで、わたし達自身が敵の影を闇に隠してしまっている?そもそもの目的をステラに置いた時点で間違いだったのかもしれない。


 犯人を探すことに集中しよう。その結果ステラに出会えるかもしれないのだから。


「うわぁーーー、た、助けてくれーーーっ!」


 突如悲鳴が上がり、わたしはその方向に向かって走った。そこは繁華街の薄暗い裏通り。白亜の王都ピセにも薄汚れたこんな場所があったのかと知る。


 治安の良いこの王都ピセで悲鳴や怒声を聞くのはこの繁華街位なので、おおかた早くから飲んでいる酔っ払いの喧嘩だと思った。


 酔っ払いの喧嘩なら普段は関わらないところだけど、今は身体が先に動いた。それは何かしらステラに繋がるかもしれないと感じたから。もしくは、酔っ払ったブレイブがいるかもと思ったのか。


 そこは予想に反した光景だった。


 汚れた路地の奥にいくつかの横たわる人を貪る黒い魔物がいた。色々な部位を捕食されたのだろう、とても生きているとは思えない状態だった。


「ギギギギッ!?」


 わたしに気付いた魔物はこちらを伺っていた。


 まさかこの魔物が犯人?ステラではないの?いや、この魔物からはそこまでの力があるとは思えない。むしろ低級の魔物のようだ。


「やめなさい。これ以上、死者を弄ぶことは許しません。」


「グギギョガー!」


 黒い魔物は言葉とは思えない叫びを上げながら……器用に建物を登り逃走をはかる!行動や反応から本能的で知能は低いようなので、守護者殺害の犯人ではないと感じた。


「逃がしま…!?」


 わたしの身体を掴むいくつもの手。それは捕食されていた死体たちの手だった!


「ゾンビ!?あの魔物が死体をゾンビにしたのなら……早く仕留めないと街が大変なことに!!」


 申し訳ないと思いつつ、纏わりつくゾンビたちを力任せに振りほどき、頭蓋を踏み潰す。脳漿が飛び散り靴を汚す。心地よい感触ではなかった。


「この事実を衛兵や軍本部に……クリスティーナに知らせないと。」


 頭とは裏腹に身体は黒い魔物が逃げた方に動いていた。


◇◇◇


「痛っ……」


 さっきゾンビたちに身体を掴まれた時に何箇所か引っ掻き傷を付けられ、その患部が次第に変色しているのをしばらくして気付いた。


 ゾンビ化の毒なのか、次第に身体全体が重く怠くなり、頭がぼーっとしてきたと思ったら酷い頭痛が走る。いや、この頭痛は前からのもの?


 急ぎ解毒の魔法を自分にかけることでゾンビ毒は無くなったと思われたけど……頭痛、そして胸にも締め付けるような痛み!!


「こんな時に……」


 我慢できず、ゴミ溜めのような路地にうずくまり痛みが引くのを待つ。


「おやおや、どうしたんだいこんな所に人間の子供が一人で。黒髪か、こりゃ珍しい個体だな。動けないのか?じゃあ……貰うとするか。」


 見上げると声の主は身なりの良いドワーフのような中年男性。そして二人の付き人がいた。


「衛兵を呼んでください。魔物がいるんです。」


「魔物?いる訳ないだろう。それに衛兵は困る。こんな珍しい個体を手に入れたんだからな。」


 そういう手合いか。こんなことをしている場合じゃないので、手短に済まそうとするが……激痛で身体が言うことをきかない。


「辛そうだな。これを飲むといい。気持ち良くなる薬だ。」


 わたしの顎を強く掴み開いた口に薬瓶を押し込まれる!喉から食道に濃く刺激のある液体が流し込まれる。


 少しすると酷い頭痛は和らぐ。同時に身体全体が脱力しおかしな感覚に囚われる。これはまるで……


「店まで運ぶぞ。いいものが手に入った。」


 担がれて触られる感触や振動、全てが快楽に感じた。意識が飛んだ……。


◇◇◇


 まどろむ中、ゆっくり目を開けると薄暗い部屋にいた。一番に感じたのは、口の中の違和感。物凄い血の味と臭いに咽せてしまう。


 余りの気持ち悪さにそのまま胃から上がるものを我慢できず嘔吐してしまう!喉に詰まりそうなほど大きなモノをいくつも吐き出す。それは真っ赤な血にまみれた生肉だった。


 ようやく辺りを見回せるようになると、足元には6人程の酷く損壊した死骸が転がっていた。床一面血の海だった。


「まさか……わたし、ゾンビになったの?彼らを殺して食べた!?」


 ようやく自分の姿を見る。下着姿で両手両足に鉄の錠がはめられていた。勿論、全身が赤黒い血に濡れていた。胸に手を当てると心臓の鼓動が聞こえた。


「死んでない?ゾンビなら心音はしないはず。」


 手錠足錠には鎖が付いていたようだが、鎖は切れていた。


 わたしは大事なことを思い出し、下着の中を確認する。


挿絵(By みてみん)


「大丈夫だ。……良かった。」


 わたし『月島つきしま 華那かな』の処女は……許嫁である『智成ともなり』様のもの。これだけは失う訳にはいかない。


 わたしは破瓜に至っていないことに、心から安心した。

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