【Side:ステラ】酒は飲んでも飲まれるなら飲むなっ!
街中は騒ぎになっていた。それは、精霊樹を凄い速さで昇る光と、その後に精霊樹から落下する赤い球体が目撃されたらしい。
つまり、何人かには見られていた。昼過ぎのまだ明るい時間帯だ、当然といえば当然だよね。
赤い球体が落ちて凄い水飛沫が上がったあと、水面に裸の男女がいたが、すぐに水中に消えたので……叶わぬ愛の末、高所から身を投げた無理心中ではないかと噂が広まる。
気になるのは、精霊樹の守護者が殺されたという噂は聞かなかった。ごめんなさい、守護者さん……。
とりあえずロマンチックな悲劇となり、わたしとアレックスの冒険がバレてなくて良かった。でなければ、目的を果たす前にゴーファンに逃げ戻るところだった。
目的……あぁ、キリコをいじめた奴らの顔を拝むのと敵地の視察。大丈夫、忘れてない。
◇◇◇
精霊樹から決死のダイブの後、わたしとアレックスは人目を避けるべく水中に潜り、人気の無い場所から陸に上がる。
アレックスは替えの服は無いらしく、わたしは宿に服を取りに戻る。だが……全裸で往来を歩く訳にはいかないので、やむ無くアレックスのズボンを借り、アレックスのパンツを引き裂いて胸に巻き付ける。
アレックスにはしばらく全裸のまま身を隠してもらう……わたしが戻るまでは。
これで往来を歩ける……というには目立つ姿なので、人通りの少ない裏通りや路地を隠れるように宿を目指す。エルフ付け耳が無くなって人間だとバレないよう、途中見つけた麻袋を頭にかぶり宿に入る。
宿の人や他の客から注目を集めるが、ここは堂々と自分の部屋まで闊歩した。部屋に入ると一気に恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かる。
「なんて日だ〜。」
わたしは着替えると予備に渡されたエルフ付け耳で再びエルフに変身する。
◇◇◇
「ひとりで帰れる?村まで一緒に行こうか?」
何処か放っておけないアレックスを心配するが、帰路は乗り合い馬車があるから大丈夫だと言う。
「ステラ、本当にありがとう。こんな素敵で凄い女の子はいないよ。それに……可愛いし。またいつか会えるかな?その時にはステラに似合う男になって、迎えに行くから。」
この子の台詞にはドキッとさせられる。今もキュンと鳴る!
「あとさ、下着なんだけど……やっぱり」
全裸に剥いたアレックスが着れそうな服を持って戻ったわたしはとりあえず借りたズボンを返し、大きめのレース飾りが付いた上着と……パンティを渡す。
パンティはいいよと言われるが、彼のパンツを破いた負い目から履いてとお願いし……照れながらも彼は履いてくれた。
「小さいよね。でも、わたしだと思って大事にしてね!」
幼さと中性的な容姿のアレックスは女物の衣装を着こなしていた。悔しいけど可愛い!
あの時は申し訳なさと別れの寂しさから真面目にそんなやりとりをしたけど、いま思い返すと色々とおかしいことに気付く。わたし、何てことを!?
ま、アレックスの村の場所は聞いたから、戦争が終わったらお詫びも兼ねて遊びに行こうと思った。
◇◇◇
それから数日は敵国スピリットガーデンの王都ピセでの敵地視察に努めた。念入りに。
「いやぁ、この街は色々なものがあって飽きないなぁ~。服や雑貨はおしゃれだし、食べ物は美味しいし!街全体が大規模なショッピングモールみたい!!最高〜♪」
かれこれ4時間は王都を散策し、バッグは買った物でパンパンだ。足もパンパンだ。柑橘系のジュースを飲みながらメインストリートの噴水で休んでいた。なんて平和なんだろう……。
日も暮れてきたので、宿に荷物を置いて夕食にしよう。宿屋の1階は食堂兼酒場だが、夜は酒場感が強いので今までは朝食でしか利用しなかった。流石に今日はもう外に出たくなかったから夕食はここで済まそう。
「すいませーん、一人だけどいいですか?」
カウンターの店員にそう告げると席に案内される。メニューをざっと見てもよくわからないので、店員さんにおすすめを適当に見繕ってとお願いする。
店内を見回すと店は繁盛しているようで8割方席は埋まっており、冒険者が多い印象を受けた。
「おねーちゃーん、エールおかわり~2つね!」
隣の席にはテーブルに頬を付けたまま空いたジョッキを上げて追加注文している酔っぱらったエルフの青年と……同じく酔った女の子がいた。
んん?その女の子……未成年だよね?明らかに自分よりも年下だと思われる女の子もベロベロに酔っぱらっていた。
とりあえず酔っ払いには関わらないようにしつつ、やっぱり未成年の飲酒が気になる。
「おまたせしました~。」
運ばれてきた料理は街のレストランと比べると大雑把だが冒険者ウケしそうなガッツリ料理で、これはこれで美味しそうである。
しかし……それよりも、
「あのー、隣の子大丈夫なんですか?」
店員に酔っ払い少女のことを訪ねると、店員は苦笑しながら耳打ちをする。
「いつもの酔っ払いなんですよ。絡んでは来ないと思いますから……多分。ごゆっくり!」
隣の席にエール酒を2つ置いてカウンターに戻る店員さん。いや、そういうことじゃないんだけどなぁ。
まぁ、とりあえず熱々な料理をいただくことにする。
「おねーちゃーん、エールおかわり~2つね!」
また、隣の二人がお酒を追加注文していた。どんだけお酒飲むのかと正直呆れたが、食事も終わったので席を立つと、隣の少女が崩れ落ちて床に倒れる。
「ちょっ!大丈夫?」
少女を抱きかかえると少女は笑いながら……
「大丈夫大丈夫ぅ。あれ、あなたも飲もうよ~。おごるからさぁー。おねえさーん、おねえさんにお酒おかわり~!」
「えっ?いや、わたしは未成年だし。ってか、あなたも未成年でしょ?お酒はまだ飲んじゃダメだよ。」
そう言われた少女は視点が合わない目でわたしを見つめる。
「パチャムみたいなことを言うんだね~。来年15歳になりまっす!だから飲もうよ〜!!あはは〜。」
「いやいや、14歳は未成年なんだよな〜。でもさー、飲みたいんだよね。あれ?おねえさんも飲むよね?おねえさーん、おねえさんにもお酒持ってきて~。」
酔っ払い二人が何を言っているのかさっぱり分からなかったが、とりあえずわたしの前にエール酒が2杯並んだ。
「だーかーら、わたしは未成年なので飲みません!!」
※日本でのお酒は20歳になってから!
「えー、一緒に飲もうよ、おねえさうううううぅ!」
少女を抱きかかえていたわたしの胸に暖かいモノが流れ出す。
「えぇ!?」
鼻孔を突き刺す酸っぱい臭いと、胸元に流れ落ちる嘔吐物。少女はそのままわたしの胸で眠ってしまう。
「ちょおーーーーーっ!!」




