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異世界でも魔法少女となら大丈夫だよね!?  作者: 古土師 弥生
~ めぐりあい編 ~
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【Side:ブレイブ】巨人と人狼

挿絵(By みてみん)


 林の中に響く少女の声。


「きゃあ~、助けてください。」


 一人の少女が多くの群衆、いや、モンスターから逃げるように林道を走っていた。少女の後ろには……30匹は居ようモンスターが連なっていた!


 一概にモンスターと言っても色々な種族が混在していたが、共通しているのは魔獣王の国ゴーファンの紋章が見られた。ここはゴーファン軍の駐留地近くの雑木林。


「待ちやがれ人間!我らゴーファン軍に盾突くつもりかっ!!」


「お願いです。命は助けてください。」


 モンスターの先頭を走るレプラコーンが少女の頭を掴もうとするが、少女は急に身をかがめては方向転換して林の木々を走り抜ける。モンスターの列の後方目掛けて行く少女に多くのモンスター達がトレイン状態になる。


「人間如きが逃げられるかよ!俺が捕まえて喰ってやるぞ!!」


 人喰いのモンスターが空腹に我を忘れて少女を襲い掛かる。


「いや、食べないでください。」


 ひらりと身をかわす少女。


 モンスター列の中でも徐々にやる気のなくなった奴らは飽きて追うのをやめる。


「助けてー。見逃してください!」


 少女はそのやる気のないモンスターに向かって地面の砂や石を投げつける。さすがに下等な人間に侮辱され、沈静化した怒りに再び火が着く!


「テメェー!ふざけやがって、ぶち殺してやるっ!!」


「ごめんなさい。わざとじゃないんです。許してください。」


 下等な人間に対して怒り心頭に発するモンスタートレインは暴走していた!


 少女は雑木林を抜け出し、逃げた先は……断崖の谷間。行き止まりだ。


 谷底を背にした少女は怯えたようにモンスターたちに懇願する。モンスター達は少女を取り囲むように少女を追い詰める。


「お願いです……助けてください。」


挿絵(By みてみん)


 少女は観念したのか、両手を組み膝をついて目を瞑る。そんな懇願は通じず、3匹のモンスターが少女に襲い掛かる!


「ギャァアアーッ!!」


 真っ先に少女に襲い掛かった3匹の後頭部に矢が突き刺さり、断末魔とともに絶命する。


 その後も矢継ぎ早にモンスター達の背後から多くの矢や魔法が撃たれる。その後に多くの冒険者がモンスターに襲いかかる!不意を突かれたモンスター達は混乱する。


「くそぉ!この人間だけでも喰ってやるぅーっ!!」


 食人を糧とするオーガの剛腕がその黒髪の少女に襲いかかる!だが、それは届くことは無かった。オーガの両腕からどす黒い血が噴き出る。少女の前に立ち、オーガに刃を向ける。


「大丈夫?って……余計だったかな、アリス。」


 澄んだ青の剣をオーガに一閃する。オーガは頭部から両断され、息絶える。


「ありがとう、ブレイブ。来てくれるって信じていたから。」


 無防備な姿勢のまま、アリスは優しく感謝を言葉にしてくれた。


◇◇◇


 俺たち、スピリットガーデン軍第23中隊は隊内のいざこざを越えてアリスを囮としたゴーファン軍の駐屯地強撃作戦を実行に移した。


 アリスを囮だなんて初め俺は生きた心地がしなかった。しかし、それは全くの杞憂であった。この作戦はその後4回実施され全て成果を上げていた。


 この世界では人間は劣等種として低い身分であり、先のオーガのような食人モンスターにとってはご馳走であったため、人間がベースキャンプに迷い込み騒動を起こせば敵を容易におびき寄せることができた。


 そこを背後から一網打尽とし、手薄になったベースキャンプも陥落するのは造作もなかった。


 作戦の発案はリフィー。まさか自分が守るべきアリスを囮にするだなんて正気を疑ったが、アリスも自ら進んで囮役を買って出た。


 もちろん俺たちはアリスの実力は良く理解していたから、最弱の人間という種族を逆に利用する作戦に反対は無かった。俺だけが危険だと意を唱えたが、アリス本人から信じて欲しいと言われ閉口する。


 今もアリスを追ってきたモンスターは殲滅できたので、次はベースキャンプの襲撃に移る。これだけの兵が長い時間戻らないとなれば怪しまれるため、迅速な襲撃が求められた。


「さぁ、行くぞ!突撃!!」


 中隊長のジェイスが号令すると全員が敵陣に突撃をする。残った敵兵が防戦するがリフィーの偵察による敵残存兵力や配置情報があり一気に残党を倒すことができた。しかし、敵の本陣に居た、見るからに先程の兵とは格が違うと思われる敵に流れを変えられてしまう。それは3mを超える巨人族の戦士だった。


「お前らは……敵でいいんだよな?随分とやってくれたな。叩き潰す!」


 首輪が付いた巨人はその巨躯に見合う巨大なハンマーを手にこちらに向かって歩んでくる。


「撃てー!」


 10人程の狩人が巨人に対し一斉に矢を射る。8割方の矢が巨人に命中する……が、ものともしない様子で大きく歩みを進める。


「馬鹿な、毒矢を受けて平然としているとは!?」


 リフィーは毒矢を使ったようで、もし以前俺が喰らった毒と同じなら驚愕だ。喰らった瞬間に視界がグラつき、酷い悪寒と頭痛が襲ってきたものだ。それなのにあの巨人は笑いながら近づいてくる。


「囲んで討ち取るんだ。足を狙え!突撃ー!!」


 ジェイスが剣を掲げ号令をかけると剣士など数十人が巨人を取り囲み攻撃に移る。


「随分と卑怯な奴らだね。手加減は必要ないね!」


 巨人の声にしては幼い声が聞こえたと思ったら、巨人の股下をくぐり一人の少女が低い姿勢で飛び出してきた!


 その頭にはケモ耳が付いていた。


「あれは……人狼か?」


 青い髪の人狼を認識した時には、その鋭い爪で数人が急所を掻き取られ、赤く染まり倒れる。


 仲間が倒れたのを目撃した俺の直下で人狼の少女が見上げていた。


挿絵(By みてみん)


「死ね。」


 速い!それは純粋な殺意だった。死ぬ。


「ブレイブーーーッ!!」


 ファナとパチャムと……アリスの声が聞こえた時には喉を熱い痛みが走り、赤い血の飛沫が舞い散り、湯水のように流れる温かい液体が俺の胸を濡らす。手にしたアイスソードも赤く染まる。


 飛び散る血液で視界が赤転する中、人狼は口に咥えていた肉塊を咀嚼し……吐き出す。


「エルフの肉は旨く無いな。ペッ!」


 喉の激痛が脳髄まで走り、吸う息で熱い液体が肺に入り、そして逆流する。意識が消えることで、生き地獄から解放されそうだ。


 俺は……また死ぬのか?


 またの……死。

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