【Side:アリス】暗黒龍狩り
「わたしの名は……『アリス』」
わたしは目の前の少女ともっと言葉をたくさん重ねたかったけれど、それは叶わない。何故なら……
◇◇◇
許嫁の『十宮 智成』様のイメージを取り込みわたしの中に巣食う『魔王』は、まさにわたしの御主人様となった。
かつてわたし達3人の魔法少女は現世に顕現した魔王を倒すに至ったが、滅ぶ魔王はその刹那に分身を産み落とした。
勝利に喜び……安心したわたしの胸は漆黒の刃に貫かれ、その時点で心臓は四散していた。全てが死に飲まれ消え去るわたしをソレは逃さなかった。
瞬時に闇の心臓が生成され、体内に血液を循環させていく。わたしの身体に魔王が巣食うのではなく、わたしが魔王に活かされていると言うべきだろう。ただ、活かされている以上のことをわたしには出来ないのだ。
活かされている人形はその時に始まったことではない。
家業の料亭の巨額な赤字を補填するため、わたしは富豪である智成様の許嫁……という名の人形になった。
そして、生命の維持と身体の制御を掌握され、智成様の人格に擬態する魔王の人形となったわたし。
ただの人形には御主人様に逆らう行為は許されていなかった……
◇◇◇
「アリス?」
そう言った彼女はわたしを見つめていた。その眼差しや表情はよく知っているものだった。
目の前に居るのは紛うことない『魔法少女ステラ』だ。
魔法少女の時の顔と変身していない時の顔がほぼ同じであることに驚く。何故なら、わたし自身は魔法少女に変身することで容姿が大きく変わるから。
もっとも、魔法少女仲間であるステラやノエルの変身前の素顔を知らないのだから、変身前後で容姿が変わるのかどうかは目の当たりにして初めて、自分は容姿が変わるから皆も変わると思い込んでいただけに過ぎないと知る。
「黒髪の……アリス。もしかして、ゴールドやブレイブが言っていた『黒髪のアリス姫』って貴女なの?」
ステラの口からあの恥ずかしい通り名が出るとは思わなかった。きっとクリスティーナからそう聞いていたのだろう。でも、それにしては反応が不自然。
そうか……目の前の『黒髪のアリス姫』=『魔法少女アリス』とは結びついていないのだろう。クリスティーナも詰めが甘いですね。
「わたしは『アリス』。それだけです……ステラ。」
これがギリギリのライン。今わたしから『魔法少女アリス』だとは名乗れない。本心は名乗りたい!でも……名乗ってどうなるの?魔王に支配された今のわたしはステラを窮地に追い込むだけでは?
「我が御主人様にその暗黒龍を捧げます。邪魔をするなら……殺します。」
かつてこの異世界で初めてブレイブに出会ったのはこの暗黒龍の前だった。そして今、魔法少女ステラと再会したのもこの暗黒龍の前。偶然とは重なるものなのか……いや、だとしてもどうでもいいこと。
「ゴミクズ、ここにいる全てを始末なさい。」
「くっ!分かりました……アリス……様。」
屈辱に塗れた怒りの矛先をステラに向けるゴミクズは奇声を上げながらステラに襲い掛かる!しかし、ステラの行動は早かった。
ゴミクズが動くと同時にステラは駆け出し……あろうことか暗黒のドラゴンに向かっていくと、軽やかにドラゴンの長い首から頭に這い上がる。
「ダルクさん、あいつ等が襲ってきますよ!手加減は無用です、やっちゃいましょう〜!!」
「そうだな。我が眠りを妨げた罪、万死に値う!」
見上げる遥か高さに暗黒龍の顔とステラがいる。改めて暗黒龍の大きさを実感する。まさか暗黒龍を手懐けているなんて……やはりステラは普通じゃない。
「うんうん、ここに居る全員やっちゃいましょうー。アハッ!」
「黒曜龍、そのバカでかい図体に風穴を開けてやるわっ!」
ゴミクズは呪文を唱える。暗黒龍との体格差は歴然であり肉弾戦ではなく魔法攻撃を選ぶのは当然のこと。
「数多の闇の刃、豪雨と成し降りしきりなさい!『ポイズン・ニードル』!!」
暗黒龍の頭上高くに魔法陣が生まれると、無数の黒い針が雨のように降り落ちる!しかし、物理強度もさることながら魔法強度も桁外れなのだろう、黒い針の雨もレインコートに弾かれるように暗黒龍の身体を貫くことはなかった。
ステラはというと、左腕の赤い盾を頭上にかざし魔法防御を展開していた。魔法少女の力ではなく、この異世界で手に入れた力のようだ。流石はステラ、たくましい。魔獣やモンスターを統べる魔獣王の国ゴーファンで王宮騎士団小隊長にまで成り上がったことが素直に頷ける。
「バカな!」
ゴミクズは自らの魔法攻撃が功を奏していないことに驚きの声をあげる。
「じゃあ、次はこっちの番だよね?先生、お願いします!」
暗黒龍は再び口を開くと灼熱の熱線をわたしに放つ!わたしは魔王の力を解放し魔法障壁を展開する。
「くっ、さっきより威力が上がっている!」
魔法障壁を展開していてもその勢いだけで吹き飛ばされそうなる!身体強化魔法でその勢いに抗うだけで精一杯だった。
「ひぎぁあああーーーっ!」
わたしにブレス攻撃をしながら、横薙ぎに長い尻尾がゴミクズを襲う!この足場の悪い火口では安全地帯などなく、全てが暗黒龍の攻撃範囲だった。いや、ステラのいる場所だけが安全地帯か。
強固な尻尾の激しい一撃は魔王により魔改造された悪魔族とはいえひとたまりもなかった。その身体は数個の肉塊に引き裂かれ溶岩に沈んでいった。
「うわぁ、えげつない。アリス姫はまだ生きてるみたい。すごいなぁ〜。」
ブレスが止むとステラは身を乗り出して下を覗き込んでいた。
「仲間は死んじゃったけど、まだやるの?やめた方がいいと思うよ?」
「言ったはずです。我が主はその龍を糧とされたいのです。餌は餌らしくなさい!『グラビトン・プレス』!!」
魔法詠唱キャンセルで超重力魔法を発動する。範囲は火口全体。
突如生まれた超重力にステラと物陰に潜むアサシンはその場に倒れて超重力に押し潰される。暗黒龍は膝を地に付けるが倒れるには至らず超重力に耐え忍んでいた。
「何コレ、動けない!」
「超重力の上級魔法『グラビトン・プレス』です。調子に乗りましたね、ステラ。」
暗黒龍の頭上に張り付くステラを覗き込むようにわたしは語りかける。わたしもまた暗黒龍の頭上……安全地帯に降り立っていた。
「アンタは動けるのね?」
「術者が影響を受ける超重力魔法なんて滑稽でしょう?ステラ、そこで見ていてください。暗黒龍を始末するところを。」
わたしは右手を手刀のようにすると魔王の力を解放し、手刀は長い漆黒の刃と化す。それは魔法少女アリスを殺した刃であり……ブレイブを殺した刃。
「その力……そんな、まさか?」
ステラは気付いたのだろう。かつて戦いの中で感じた魔王の波動を。
「まずは……暗黒龍。」
その巨大な龍の頭に魔王の刃を突き立てる!
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)
ついに異世界で再会した魔法少女アリスと魔法少女ステラ。でもステラは気付かずアリスは公言できず。やれやれだぜ。( ´Д`)y━・~~
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