【Side:ステラ】インフルエンサー
アンデッドブレイブを完成させるべく闇のドーム内で作業を進める闇司祭見習いのシオンと氷の魔剣スノーホワイト。
「先ずは左手から結合するが良い。」
「え、頭からじゃないんですか?」
シオンにしてみれば先に頭部をくっ付けて、早くゾンビの起動を確認したかったのだが……
「浅はかよの。ゾンビとはいえ肉体の結合はシビアな作業なのじゃ。先に頭部をやって失敗したらどうする?その時点で全て水泡に帰す。失敗せぬよう重要ではない手で上手く結合できているか我が見てやると言っておるのじゃ。分かるな?」
「あぁ、そうですね。危うく失敗するところでした!ありがとうございます魔剣様。」
シオンはスノーホワイトの説明に合点が入ったようで、早速ブレイブの左手を左腕の切断面に合わせる。
「では、説明した通りにやるのじゃぞ。」
「は、はい。」
教師の前で実技を見られている実習生のように緊張するシオン。
「ダメじゃ!角度を左に2度ズレとる。そう、そこで止める!!いま切断面を解凍するから、我が合図したら切断面に治癒魔法をかけよ。よいな?」
「は、はい!」
凍結していた切断面の色が変わってくるのが見て分かった。
「今じゃ!」
シオンは治癒魔法を発動すると、切断された腕と手のひらが切れ目も分からない程に綺麗に結着した。
「うむ、良い出来じゃ!やればできるではないか。そなた、アンデッド作成の才能があるのではないか?」
「本当ですか?ありがとうございます!!」
嬉しそうに氷の魔剣スノーホワイトに御礼を言うシオン。
「だが、本番はここからじゃぞ。首は手よりも複雑な構造ゆえ、気を引き締めよ!」
「は、はい〜!」
シオンの額には汗で濡れていた。それ程に集中力が求められる作業なのだろう。
「待て。疲弊状態では成功確率が下がる。しばし休憩とする。」
「休んでも宜しいのですか?ありがとうございます。」
シオンは重ねてスノーホワイトに謝辞を述べる。
「闇司祭よ、黒髪の女を知っておるか?」
座って休むシオンに質問をするスノーホワイト。
「いえ、知りません。」
「そうか。そういえば先程見覚えのあるのがおったな。人狼の……キリコだったか?」
「キリコ小隊長を知っているのですか?」
かつて主であるブレイブの喉を喰い千切った相手なので覚えていたスノーホワイト。
「うむ。あと人間のステラは知っているか?」
「えぇ?魔剣様は何でも知っているのですね!驚きました!!ステラ小隊長も一緒でした。今ははぐれてしまい、お戻りを待っていたのです。」
思案するスノーホワイト。
人狼娘キリコは主ブレイブを敵と認識しているだろう。しかし、人間のステラは主を敵とは思ってはいないだろうと。
「そうであったか。まぁ、我は直接その二人と面識がある訳では無いが、死した主ブレイブがステラととある魂の契約を交わしておるのじゃ。死体に宿る魂は未だステラとの契約に縛られておる。よって、これより頭を結合した後、アンデッドとして動かすのはステラが居る時でないとならぬ。良いな、闇司祭よ!」
「ステラ小隊長がこのエルフと魂の契約を交わしていたのですか!わ、分かりました、魔剣様の仰せの通りにします。」
それから作業が再開され、シオンは30分以上スノーホワイトの指示に従い、微妙な位置調整に神経を擦り減らしながら、何とか身体と頭部の結合に成功したのだった!
「ご苦労であったな、闇司祭シオン。」
「あ、ありがとう……ございます。まだ見習いなんですが……はぅ。」
そう言うとシオンは糸が切れたように意識を失う。相当の疲労と魔力消費であったのだろう。
「後は……ステラ次第か。」
結合が終わったブレイブの首と手首を再凍結し、スノーホワイトもまたしばしの眠りについた。
◇◇◇
「う、ん〜ん。」
「シオン、大丈夫か?」
呼ばれたシオンはシャドウ・Qの膝枕で目覚める。闇のドームは既に解除されていたようだ。術者のシオンが意識を失ったからだろう。
「おはよう、Qちゃん。」
「大丈夫そうだな。心配したんだぞ。儀式はどうだったんだ?」
膝枕の上で何度も寝返りを打つシオンに半ば呆れながらも、半ば快楽を感じるシャドウ・Q。
「成功した……と思うけど、あとはステラ小隊長が居れば。そう、ステラ小隊長は戻りましたか?」
「いや、まだ戻らない。」
ステラがまだ戻らないことに落胆するシオン。いや、果たして生きて戻るのか?素直に心配する。
「とりあえず、キリコ小隊長に報告しないと。キリコ小隊長は?」
「キリコ小隊長はまだ寝ている。俺の部下と戦ったのだ、疲れもしよう。しばらくは起きないだろう。」
シャドウ・Qの状況説明を受け、シオンは不敵に口角を上げる。
「それでは仕方ないですねぇ。二人きりですよ、Qちゃん。どうしちゃいますか〜?」
膝枕のまま両手でシャドウ・Qの頬を引き寄せると、二つの唇が逆さに重なり合い……もつれ合う。
◇◇◇
「ここって、まさか!!」
眼前に現れた光景を見て思わず大きな声を上げてしまった!
『魔獣の森海』を抜けてキリコ達と合流するはずが、あれから何度か魔獣達と戦闘になり、アサシンAとわたしではまかないきれない数の魔獣に襲われたため逃げ出した。
行き着いたのは洞窟の入り口。遥か上を見上げると山の頂きから黒煙が立ち昇っていた。
「暗黒龍が居るサスロザ火山……なの?」
「そうみたいですね、ステラ小隊長。」
わたし達はそこで言葉を失う。
たった二人で『魔獣の森海』の最深部である『サスロザ火山』の麓まで来れたのは奇跡であり、ゴールは目前だと感じた……人生のゴールが。
わたしが呆然としていると、アサシンAは後ろを振り返り、かなり突き放したと思っていた魔獣達がそろそろ追いついてきたと告げる。
「ステラ小隊長、どうします?また、あの魔法で吹き飛ばしますか?」
「アレは魔力消費がハンパ無くって、いま撃ったら間違いなくぶっ倒れる自信があるよ!」
「……使えないですね。」
「え!?わたしが使えないってこと?」
アサシンAの言葉にショックを受ける。酷い言われようである!
「どうですか?撃てますか?」
「あの〜、話し聞いてた?」
アサシンAのさっきまでのわたしへの敬いはどこへやら。所詮は無骨で鳥頭な暗殺者といったところか。
わたしも後ろから迫り来る魔獣の群れに目を向けると、その中に懐かしい姿を見つける。
「あ〜、ムリだね。見て、魔獣の群の中にいるあの大きな目玉の魔獣『グレーターデーモンズアイ』。アレとはもう戦いたくないんだよねー。」
かつて万全ではなかったとはいえ、騎士団長ヴェイロンですら苦汁を飲まされた怪物。もはや進むしかなかった。
「あの洞窟に行くよ〜!」
「火山の洞窟に短絡的に突入など迂闊では?」
「知らんし!嫌なら来るなし!!」
魔獣達から逃れるよう、わたしは火山の麓に口を開けた洞窟に踏み込んだ。アサシンAもそれに続く。文句言う割に着いてくる辺り、案外可愛いヤツだな。
お読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)
影響力を与える人っていますよねー。そしてその姿に感銘を受け盲従する人も。そんな心理が理解できないのです。不思議~!(´ー`)
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