【Side:ブレイブ】また貴方を殺すことになるのね
「アリス!良かった、無事で。」
凍り付いた世界に突如現れたのは深くフードを被っているが、そこから覗く黒髪と白く整った日本人形の様な端正な顔立ち……間違える訳がない、アリスだ!
「どうして……ここに?」
その澄んだ声、間違いない。いつも俺を幸せな気持ちにしてくれる声だ。
「キミを探しに来たんだ、アリス。一緒に帰ろう、スピリットガーデンに。」
俺はアリスに手を差し伸べる。
「ブレイブ、前にお願いしたこと……覚えている?わたしがわたしでなくなったら……殺してと。今すぐわたしを殺して!」
ようやく再会できたアリスはそう叫ぶ!それはウソでも冗談でもなく本気の言葉だとすぐに分かった。
「そんな、レオナールに何かされたのか!?だからって……俺にできる訳が無いよ。大好きなアリスを殺すだなんて。」
俺は今の気持ちを素直に口にした。アリスはうつむき言葉を絞り出す。レオナールはただ沈黙している。
「ブレイブは……吾妻くんはいつも優しいね。暖かいね。わたしもそんな吾妻くんが好き。でも……わたしはまた貴方を殺すことになるのね。」
「(主よ。ダメだ。退け。)」
何が起こったのだろう?差し出した左手が宙に浮いている。左腕を見ると掌が無い。遅れて来る激痛!
「あああ、あああああーーー!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
手首が綺麗な断面で切られている。それは解剖断面図の様だった!血は出ていない。瞬間で凍結していた!!
「(警告する。逃げるのじゃ、主!)」
「アリス、何だよコレ?どうしちまったんだよ?ねぇ、アリス?」
「(主っ!!)」
スノーホワイトの悲痛な叫びが響く!
「次は幸せになって……わたしの居ない来世で。」
アリスは笑顔でそう言った。あぁ、やっぱり可愛いなぁ。
回る世界で何かが落ちる音が聞こえた。
◇◇◇
凍った大地に転がる凍った頭と身体を見つめるアリスは両膝をつき、何かに耐える様に肩を震わせる。
そんなアリスの頭の中に生まれた声で反射的に身体が強張る!
「よくやった華那。流石は我が許嫁『と』。見事だ。」
「勿体無い御言葉です、智成様。」
響くその声は……いまアリスの身体と心を支配する声。それは許嫁『十宮 智成』を擬態する『魔王』のもの。アリスは恭しく敬服する。
「このままで宜しいのですか、アリス様。」
アリスは無言のまま『魔獣の森海』の奥に歩いていく。その後ろに付き従う元悪魔族レオナールだった『ゴミクズ』。
そして凍る世界は誰も居なくなった……
◇◇◇
「これは一体、どういうことでしょうね?」
「分からぬが……恐ろしく手練れた暗殺者にやられたのだろう。こんな芸当、見たこともない。」
しばらくして凍てつく密林に入ってきた男女。それはアサシンリーダーの『シャドウ・Q』と闇司祭見習いのハーフダークエルフ『シオン』だった。
小隊長ステラとアサシンAを探しに行った人狼キリコとアサシンBもまた戻らず、『魔獣の森海』の外周を歩いていたシャドウ・Qとシオンは突如凍り付いた密林に近づく。
シャドウ・Qが凍てついた『魔獣の森海』の様子を伺い、魔獣の姿が無いことを確認してから二人で踏み入ったのだった。
白と青に彩られた幻想的な景色の中、凍り付いた多くの魔獣、そして首と左手が無い死体がそこにはあった。近くに手首と頭が落ちていた。
「まぁ、ダークエルフかしら。綺麗な死に顔ですね。」
シオンは落ちていた頭を躊躇なく手に取り呟いた。その様子をただ見つめるシャドウ・Q。
「血の一滴も垂れ落ちることなく切断するなんて、我等『影』でも無理だ。世界は広いものだ。」
関心するシャドウ・Qの言葉で、確かにそうだと気付くシオン。これだけの殺害であれば一面血の海になる筈が、死体にも辺り一面にも血で汚れた様子は無かった。
「この氷の魔剣のせいか……森が凍てついたのは。」
氷の魔剣に触れようとしたシャドウ・Qだったが止めた。とても嫌な予感がしたから。
「ともかく、アイツ等はここには居ないってことだな。戻るか、シオン。」
「待って、Qちゃん。」
シオンは凍り付いた生首を見つめながら微笑んでいた。
◇◇◇
陽は落ち、辺りは夜の闇に包まれようとしていた。
「誰か……戻ってきた。」
シャドウ・Qは近づく気配に気付きシオンから離れ、前に出る。
「戻ったよ、シオン。それに……シャドウ・Q。」
人狼キリコであった。その声色に何かを感じるシャドウ・Qだが、敢えて何も聞かなかった。
「キリコ小隊長、おかえりなさい。わたし、とうとうQちゃんとむす……」
シャドウ・Qがシオンの口を抑え、小声でシオンに言う!
「そのことは他言無用だと。」
「あ、そうか。そうだね?ゴメンね、Qちゃん!」
コイツ、ワザとか!?と疑いたくなるが、そんなところも可愛いと感じて、つい頬の筋肉が緩んでしまうシャドウ・Q。反面、思い詰めた表情のキリコ。
「シャドウ・Q、わたしはキミの部下を殺した。襲いかかってきたのでね。」
そう言うと、アサシンBの手甲2つを地面に落とす。
「……そうか。ヤツは何か言っていたか?」
「わたし達は死ぬ運命だと言っていたよ。死に際は特に何も。」
キリコはシャドウ・Qの様子を伺う。気掛かりはシャドウ・Qの後ろにいるシオン。
部下を殺されたこと、いや、監視役の裏に暗殺の任が含まれていたら、先ずはシオンが狙われるだろう。キリコの俊足ならその前に守る自信はあったが。
「アレは気が短いからな。監視役として失格だな。本来は俺が始末するところ、手を煩わせて済まない。いや、口を煩わせて、かな?」
キリコの口周りや胸のあたりまである血の跡を見て察し、直立姿勢で深く頭を下げる。
「あんたも……殺るかい?」
キリコは彼が敵対するのか確認する。
「我等は貴女達が黒曜龍討伐する顛末を見届ける監視役です。」
顔を上げて答えるシャドウ・Q。
「……分かった。その言葉、信じるよ。甘い残り香のするキミのその口から出た言葉ならね。」
キリコはシオンにウインクする。シオンは幸せな笑みで返す。
流石は鼻が利くワーウルフ。着いた時点でお見通しか、とシャドウ・Qは納得する。
キリコにとってこの場は、さぞシャドウ・Qとシオンの匂いに入り乱れていたことだろう。
「ところで、何だろ……この匂い。どこかで嗅いだことがあるような。」
微かに香りのする方向、シオンのそばにある見慣れぬ包みを見つめ……キリコは記憶を巡らせる。
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)
あ、ついブレイブ殺しちゃった。新しい主人公考えないとなぁ〜。(*´Д`*)
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