【Side:ブレイブ】地獄の中の地獄
『魔獣の森海』
半魚人のゲコアニキが絶望を口にしたその森は、数多の魔獣が徘徊し侵入者を捕食し尽くすまで襲うことを止めない、一度入ったが最後……骨すら残らないという人外魔境だと言う。
何より、かつて俺たちを襲ったあの暗黒龍ダルクシュレイヴァが住まうと言うからには、まさに絶望しかないと素直に理解できた。
沢山の悪魔族がどうして『魔獣の森海』って場所に向かっているのか分からないけど、それを追って行くことは自殺行為に等しい……。
「そういえば、酒場のマスターから聞いた話じゃあよ、黒髪の女が『魔獣の森海』の場所を聞いていたらしいぜ。お前の知り合いも黒髪だったよな?」
「アリスが!?」
「いや、黒髪ってだけだからソイツかは分からんけど。ただ、黒髪なんて珍しいからそのアリスかもしれないがな。」
どうなってるんだよ!?目覚めたアリスがレオナールを倒すために追って『魔獣の森海』に向かったってことか?
それは色々とヤバイってことだよ!
悪魔族はあらゆる種族の中でも高い能力を有しているまさにバケモノクラス。そんな悪魔族が集団で人外魔境の『魔獣の森海』に集結しているってことは地獄の中の地獄ってこと。
そんなザ・地獄にアリスが向かっただなんて、いくら魔法少女のアリスと言えど変身できない今、極めて危険だと言うことだ!アリスの身に何かあったらと思うと居ても立っても居られないっ!!
そして、もしもだけど……アリスがレオナールを倒すことがあれば、その時は俺も死ぬということだ。悪魔の契約を交わした俺の命は御主人様であるレオナールの命と運命共同体。それをアリスは知らない。
つまり……またしてもアリスが俺を殺してしまうことで後悔の念に苛まれることになるっ!!
そう、前世の俺『吾妻 勇希』は巨大なバケモノに襲われた際、魔法少女アリスに救われた……のも束の間、バケモノの攻撃を防ぎきれなかった魔法少女アリスと一緒に吹き飛ばされ、俺はアリスの胸に押し潰されてその生涯を終えた。それをアリスは自分の力が足りなかったために俺を圧死させたと悔やみ続けたと言う。
アリスの巨乳に潰されて死んだなら俺は本望だし、ブサメン陰キャが異世界でイケメンエルフに転生できたのだからそれだけで儲けもの。アリスが気にすることは全くないのだ。
だけど、今回はどうだろう?アリスがレオナールを倒し、その連鎖で俺が死んだなら……アリスが気にしない訳がない!
今、俺にできることはアリスを危険に晒すことなく、レオナールと遭遇させないことだ。
それには……
「ゲコアニキ、俺と『魔獣の森海』に行こう!レオナール様を探しに!!」
「なぁにぃ~~~!?」
ゲコアニキは見事に腰を抜かして座り込み、俺を見上げていた。死んだ魚のような目が泳ぎまくる!
「ブ、ブレイブ、お前理解してるのか?『魔獣の森海』だぞ!?俺の話、聞いてた?」
「あ、あぁ。もちろん聞いていたさ。だからこそそんな危険な森に入る前にレオナール様とアリ……止めないと。今なら森に入る前に止められるかもしれないですし、ね!行きましょう、ご主人様のために!!」
9割方アリスのためなんだが、建前でレオナールのためとゲコアニキに正論をぶつけてみる。
「俺らが行ってどうにかなるとは思えないが……クッソ、お前見た目だけでなく中身もカッコイイじゃねーか!レオナール様のためだ、行ってやんよー!!」
「アニキこそカッコイイっす!流石ゲコアニキ~!!」
こうして俺とゲコアニキは急ぎ馬を用意して一路『魔獣の森海』に向かい街道を飛ばした!
◇◇◇
馬を走らせること2日、俺とゲコアニキは一目で分かる異様な密林を小高い丘から眺めていた。
「ゲコアニキ……これが『魔獣の森海』なんですか?デカイってもんじゃないっすよ。」
見渡す限り視界全てが巨大な木々で出来た城壁のようで、暗い密林の中がどうなっているのかまるで分からない。それ程に密集した巨木群と茂る葉や草などで覆われた自然の城塞と化していた。
離れた場所からも分かる地響きや色々な獣のような鳴き声が聞こえた。あんなうっそうと茂る暗い密林で様々な魔獣たちが闊歩していると思うと、剣を振り回してまともに戦えるとは思えない。身動きもままならないまま、魔獣たちが津波のように押し寄せて来るのではないかと想像してしまう……。
俺は感想を口にするとゲコアニキは多分間違っていないと断言する。もちろんゲコアニキ自身も『魔獣の森海』は初めてで、噂話で語られるものと俺の感想は似たものだと言う。
「おいブレイブ見て見ろ!」
ゲコアニキが指差す方向を見ると『魔獣の森海』に入っていくいくつもの小さな姿があった。小さいと言っても距離が離れているからで、遠目にも分かる角などから紛れもなく悪魔族だと見て取れた。
「アニキ、あそこに女性の悪魔族がいます。んー、レオナール様とは少し違うようにも思えるけど……。」
俺は今まさに密林に入っていく女性の悪魔族の後姿を目で追っていた。
「そうだけど、何となく似てる気もするな。今なら間に合うかもしれねぇ。ブレイブ、ちょっと見てきてくれよ。」
「え、俺がですか?」
半魚人のゲコアニキはその場にうずくまると足をさする。
「すまねぇ、足が捻挫したようだ。あとは任せた、ブレイブ。早く!!」
こんな時にタイミングの悪い。仕方ない……
「分かりました。ちょっと行ってきます、ゲコアニキ!」
愛剣スノーホワイトを携え、俺はその女性悪魔族が入って行った密林に向けてダッシュした!
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)
最愛のアリスのためなら人外魔境だろうと地獄だろうと構わないブレイブ!カッコイイじゃあないか〜。(・∀・)
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