【Side:アリス】心の支配
10歳から数えて4年間……身も心も捧げてきた許嫁で御主人様である『十宮 智成』様。その圧倒的な支配力に満ちた所作にわたしは争うことはできない。
その智成様がこの異世界でわたしの身体を使い、悪魔族レオナールを魔改造し下僕のゴミクズと成した。
それに何の違和感も感じられないのは、わたしが智成様に支配された奴隷だからだろう。冷静に考えられればもっと早く違和感にも気付けただろうに……。
「分からぬか、華那。私は……『魔王』である。」
頭が真っ白になる……その言葉に思考が追い付かない。
智成様はまさに悪魔の如き人格だけど紛うことなき人間。だから悪魔族を凌駕する力も魔力も無い。つまり聞こえるこの声は……紛いもの。
「理解に至らぬのだな、華那……いや、魔法少女アリスよ。」
変わらずその声や口調は智成様のそれだった。
「魔……王?魔王は倒したハズ。」
「そうだな……忌々しいが正しい。だが、覚えているか?貴様ら魔法少女達が勝利に酔いしれている刹那、アリス……自分の胸から伸びた暗黒の刃を。」
覚えている。そう、魔法少女ステラと魔法少女ノエルと喜びを分かち合った時、背中から胸を貫く刃と痛み……そして暗転。記憶はそこで潰えた。忘れるはずがない。
「わたしはあの後、どうなったんですか?」
「魔法少女ステラがまさか『原初の光』を見つけていたとは……我を滅ぼす唯一の力。だが、滅びの前に極小の核の一片を解き放ったのだ。そしてアリス、それは暗黒の刃となりお前を苗床としたのだよ。」
それでは……魔王はずっとわたしと共に居たことになる。
「力を失った私はお前の中で眠り力を蓄えてきた。少し前から覚醒し始め、いままさにこの肉体を支配するに至ったのだ。アリス、いや華那よ。お前を支配する都合の良い記憶も手に入れた。『十宮 智成』は人間ながら我が配下に加えたいほどの魔性だ。これからはこの魔王がお前を支配してやるぞ。喜べ。」
わたしが知らなかった、知りたかった顛末を知ることができた。最悪の顛末を……。
「アナタは智成様ではない!魔王だと言うのなら……わたしは戦います!!」
「声が震えているぞ、華那。分かるぞ、本物でなくともこの智成には逆らうことはできぬ。それに、いますぐゴミクズに陰茎を生やし、この身体に突き貫くこともできるのだぞ?さすればお前が智成に尽くした地獄のような努力も、一族郎党の安寧も全て水泡に帰す。構わぬのか?」
分かっていた。例え紛いものであろうとこの心が智成様と認識した時点で本能的に隷属してしまうことを。そして魔王の言う通り。わたしは16歳になり智成様に処女を捧げ子を孕むまで貞操を守らなければならない。わたしの肉体を奪われた以上、もはや従うことしか出来ない。
「やめてください……それだけは。」
「理解が早いな、華那。そのまま精進しなさい。さすれば『と』から成り上がれよう。」
智成様を完全に模倣している……魔王であることを忘れてしまう程に。
「はい……精進いたします。」
わたしは……智成様の奴隷でありながら魔王の奴隷となった。もう魔法少女失格だ……。
◇◇◇
魔王は再び眠りに着くと言いわたしに肉体を返した。いつでも精神を入れ替えることができるだろうし、わたしがもう逆らえないからだろう。
魔王が失った力を回復するため……レオナールのような悪魔族を餌とする必要があるらしく、強力な悪魔族を狩るようわたしに命じた。
少し前から起きていた酷い頭痛と心臓の痛みは魔王に魔力を奪われていたためらしい。激痛で意識を失った時には魔王がこの身体を操っていたようだ。死肉を食したのも魔王が糧としたのだろう。今後は餌となる悪魔族を捕食できれば激痛に見舞われることは無いと言う。
異形に変体したゴミクズは別の命を受け、何処となく去って行った。
ここに残されたのは……ブレイブの愛剣だけ。
「ブレイブに伝えて……もう会えないと。サヨナラ、スノーホワイト。」
床に落ちた氷剣をテーブルに置き、左手に付けていた魔法少女の予備魔力を貯める指輪を外し、並べるようにテーブルに置いた。
そのまま監禁されていた地下室を後にした。
◇◇◇
このミッドグルンの街は魔獣王の属領であり人型モンスターが普通に闊歩しているが、悪魔族はなかなか見当たらない。
わたしは再び変装用のエルフ耳を付けつつ、マントとフードを深く被り身バレしないよう街を徘徊し悪魔族を探す。表通りは避けて裏通りに入り日暮れを待つ。
日が暮れた裏道のほとんどは闇に包まれ、タチの悪い低俗なモンスターなどが徘徊していた。その多くが絡んでくる。
「邪魔です。」
愛用のダガーを両手に、絡んでくる者の急所を突き刺して殺す。
わたしは命を奪うことに慣れていた。魔法少女だからではない。それ以前から『と』として智成様から手取り足取りそう教えられていた。心が躊躇うことは無い。元々、わたしは普通では無かった……。
夜の街で悪魔族を見つけた。わざとぶつかり持っていたものを奪い逃走する。ソレが追いつける程度に。
「追い詰めたぜ!俺から金をギるとはイカれてやがるな!!ただじゃあ済まさねぇ。バラバラにして……え?」
わたしはその悪魔族に肩車しつつ脚で首を締め付ける。この時初めてこの悪魔族はわたしが自分の肩に居ることに気付くが、その時には手刀が脳天に突き刺さっている。身体強化した手刀はダガーより遥かに鋭利で、頭蓋に抵抗なく侵入し脳髄を掴む。そのまま寝ている魔王が餌を喰らう。
レオナール同様、捕食された悪魔族は魔改造され、奴隷となり何処かへ去っていった。
あらかたこの街の悪魔族を狩り終えると、更なる餌を求めてわたしはミッドグルンを後にした……
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)
まさかの魔王がここで再登場!?しかもその軍門に下る魔法少女アリス。暗黒面のアリスが顔を覗かせる。どうなるの!?(゜ω゜)
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