【Side:アリス】御主人様
「カッ、ハァハァ!」
永遠とも思える無呼吸から解放され、気道から肺、そして血管に酸素が供給される。悪魔族のレオナールに喉を締められ、あと数秒で窒息していたかもしれない。無我夢中で呼吸をするわたしは口から垂れ落ちるよだれを気にしている余裕は無かった。
変装用のエルフ耳が落ちなければ間違いなく落ちていた。
「そうです……わたしは……人間。」
酷い頭痛に酸欠で言葉が上手く出ない。
「人間が……このアタシを……取り押さえたと?そして……マンティコアを魔法で殺した!?あり得ぬ!人間如き虫けらが?いや、どうでもいい。ここが密室で良かった。人間よ、我が恥を表に出さぬよう……殺す!!目と髪はその後だっ!!!」
レオナールは荒く息をするわたしの喉を再び握り力を込める!響く頭痛と刺すような胸の痛みにかわすことが出来ない。
「待ち望んだ空気を貪るアナタを再び窒息のどん底に突き落とすのはとても気持ちがいいわぁ。今度は終わらないわよ、アナタの命が終わるまではね。ウフフ!」
さっきよりも更に力強く締め付けるレオナールの両手。何度も身体強化魔法を発動しようと試みたけど、あらゆる激痛に集中することが出来なかった。このままでは本当に……
ボキッ!
骨の骨が折れる音が頭に響き……全てが闇と静寂に染まる。
◇◇◇
「あら、呆気なく首が折れたのね。あんなに強かったのに、もう死んじゃった……残念。所詮は人間ね。さぁて、壊れたお人形から眼球と髪を剥ぎ取りましょう。」
レオナールは動かなくなったアリスの身体を床に捨てると、しゃがみ込んでその見開いた眼球を指で摘む。
「潰さないように取り出さないとね。」
少しずつ慎重に黒い眼球を摘み出そうとするレオナール。
「この肉体を乱暴に扱うことは許さぬ。」
明瞭にそう語り掛ける男性の声がレオナールの脳内に響く。
「だ、誰だ?アタシの脳に話しかけるのは!?」
突然の声にレオナールは部屋を見回す。この地下室にはレオナールの他は死体となったアリスとマンティコアだけ。
黒い眼球を摘むレオナールの右腕を掴む手。
「な?アンタまだ生きてるのか!?」
首が折れた曲がり、糸の切れた操り人形となったアリスの頭がグリンと動く。
「何ぃぃぃ、や、やめなさい!!!」
掴まれたレオナールの腕にアリスの指が深く突き刺さる!そこからレオナールの魔力が急激に流出する。
「この肉体を傷付けたことは万死に値する。だが、貴様の魔力は悪くない。我が下僕とする。」
「人間の分際で!身の程を知れっ!!」
レオナールは左手でアリスを何度も殴り、開いた掌から漆黒の炎がほとばしりアリスの身体を焼く!
「ふぎゃぁあああっ!!」
悲鳴を上げるレオナール!殴打され焼かれてなおその手を離さないアリスは更にレオナールの魔力を奪い取る!傷付き焼かれた皮膚が再生していく。折れた首も今では元通りだった。
「それ以上は吸わないで……枯れてしまう。」
悪魔族といえば総じて肉体強度や魔力総量は他種族に比べて格段に高いのだが、今のレオナールは見るからに老いて見えた。
「お前……いえ、貴方は一体!?」
「私かね?私は……」
レオナールはその言葉を聞きながら虚ろな目は天井に向いていた。
◇◇◇
目覚めた時、その状況を理解することができなかった。
それはまるでゲーム画面を見ているようだった。正確にはビデオゲームをやってことが無いけれど、目の前に広がる景色を言い表すにはそれが適正だと思った。わたしはわたしの後姿をモニタ越しに見てるようだった。
「これは一体!?」
映像の中では、わたしに掴まれたレオナールが床に崩れ落ちていく姿が見えた。
「ほう、目覚めたか……華那。」
ゾッとした!それは久しい……御主人様の声が脳に響き渡る。
「そんな……そのお声は……智成様!?」
わたし『月島 華那』の許嫁であり御主人様である『十宮 智成』様の声だった!!
「よく見ておけ。この私に歯向かう痴れ者を従順な下僕に作り替える様をな。」
抜け殻のようなレオナールから浮かび上がる赤黒い球状の結晶……あれは悪魔族のコア?
「そう、これはレオナールの核である。これを……」
死したマンティコアからも核が取り出され、2つのコアが粉砕される!更に砕かれた粒子が渦を巻きながら1つに再結晶すると、それはレオナールの体内に入っていった。
飛び上がるように起立して跪くレオナール。老いさらばえた肉体に活力が注入され、更にはライオンやヘビやコウモリなどマンティコアの部品が腫瘍のように盛り上がり形成され……異形の姿となった。
「アタシは……何この姿は!?醜いマンティコアがアタシの身体に!いやあああぁっっ!!」
「下僕には相応しい姿だ。喜べ。」
取り乱すレオナールに容赦ない言葉をかける智成様。
「あんまりです!元の姿に戻して下さいませ!!」
「ならぬ。そのまま醜い姿で屈辱を浴びながら生きよ、我が下僕としてな。私への隷属契約は済んでおる。」
ワナワナとただ震えるレオナール。
「変体した貴様はもはやレオナールではない。新たな名は『ゴミクズ』だ。我が駒として朽ちるまで尽くすが良い。」
「なっ!?アタシがゴミクズですって!!ふざけないで……ヒィ!?」
突如、レオナールは立て膝で頭を床に擦り付けるような土下座姿で動きが止まる。
「その姿のまま数百年過ごすが良い。」
「そ、そんな!お待ちを、御主人様!!アタシは……ゴミクズです。頂いたこの肉体で奴隷として一生お仕えさせて頂きます。何卒お許しを!!」
微動だにしなかったレオナール……いやゴミクズは解き放たれ……ただ項垂れる。
「これが支配だ。分かるな、華那よ。」
振り向くわたしの姿……それは自分でも見たことが無い程にとても悦にいった笑みを浮かべていた。わたしの姿かたちで智成様の声が重なる。つまり、わたしの肉体が智成様に奪われたということ?いや……根本的に違う。
「貴方は智成様ではありません。智成様はそんな笑みはしません。誰ですか?」
「分からぬか、華那。私は……」
それを聞いたわたしは……純粋に恐怖した。
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)
『ドキドキ文芸部プラス!』買ったものの掲載時点でやってないのです。イメージ画像はオマージュです。(>人<;)
アリスの扱いが段々と酷くなっていくのは……何でだろう?( ´Д`)y━・~~
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