【Side:アリス】悪魔の契約②
手足を拘束され、床に転がされた状態で目覚めたわたしは、声を掛けてきた女悪魔族を見上げながら訊ねる。
「貴女は誰です?何が目的ですか?」
「おや、もっと違う反応を期待したんだけど……可愛い見た目とは裏腹に可愛くないねぇ。まぁ、いいわ。アタシはレオナール。いっぱい遊んであげるわ、アリス。ウフフ!」
壁にかかる鞭を手にするとレオナールと名乗った女悪魔族は気が晴れるまで何度も鞭を振るった!
「ハァハァ、ハァハァ……」
苦痛に呼吸が乱れる。背中が焼けるように熱く痺れる。
「どんな気持ち?言ってごらん?」
わたしの傷ついた背中を片足で踏みつけながら悦に入った口調で問う。
「あぐっ!!何故……わたしを?」
「許しを乞うとか泣き喚くとかしないんだね?そんなに知りたいなら教えてあげるわ。アンタのその黒い目と髪が気に入ったのさ。どうしても欲しいってブレイブに言ったらぁ……すぐに連れてきてくれたのさね。アンタはブレイブに裏切られたのさ。さぁ、どんな気持ちだい?」
目的はわたしの目と髪?そして、ブレイブのことを知っている。そうなるとファナやパチャムの身にも何かあったと考えるべきか。
「ブレイブがそんなことをするとは思えません。」
ニタリと口を歪ませたレオナールはおもむろに何かを床に落とす。それは……氷剣『スノーホワイト』!?
「これ知ってるわよね?これもアタシにくれたのよ、ブレイブ。今はウッディパペットの偽物を本物に変化させに行かせたわ。中の奴……パチャムだったかしら?ソイツは友達の手でバケモノになるの。素敵でしょう?」
そんな、伝説級の愛剣を差し出すなんてブレイブがする訳ない。パチャムがバケモノってどういうこと?ブレイブが一緒なら何とかしてくれると……信じたい。
「ファナは?」
「機転が効くわね。あの猫娘は奴隷商人に売ったわ。金貨40枚よ!希少種のワーキャットは高値がつくの。あの娘は金持ちの変態野郎の玩具にされるのかしらね?ウフフ!」
ファナまで捕まって……しかも売られたなんて!もう一刻の猶予も無いということね。
「レオナール、解放してくれませんか?」
「はい?面白いことも喋れるのね?まだ鞭が欲しいみたいだ……な!?」
レオナールは顔を近づけ引き攣った笑みで睨みをきかせる。次の瞬間、頭を床に押さえつけられるレオナール!
「拘束するなら木製はやめた方がいいですよ。」
木製に金属で補強がしてある手足の拘束を身体強化して力で破壊し、そのままレオナールの首根っこを掴み床に押し付ける。
「何だって!?は、離せ!!半端者のハーフダークエルフ如きがこのレオナールに触れるなど……」
「いま……どんな気持ちですか?レオナール。」
「殺してやるわ!!」
抗うレオナールだが抗えないと知ると、口笛を吹く。部屋の扉が勢いよく開くとマンティコアが襲いかかってきた。わたしの頭部を裂くように鋭い鉤爪を振り下ろす!
うつ伏せのレオナールを取り押さえていたわたしは瞬時に飛び退き、マンティコアがレオナールを踏みつける。
「すいやせん、レオナール様!」
「馬鹿野郎が、何をやってんだい!どきな!!」
もつれたレオナールとマンティコアが重なってるこのタイミングを逃さない!
「純然たるマナの光弾、我が敵に放たん!『マジック・ミサイル』!!」
生じた複数の魔力の弾丸を間髪入れずに解き放つ!!
「ガアアァァァッッ!!」
悲鳴を上げたのは……マンティコアか。撃ち抜かれたマンティコアは傷から血液が吹き出し倒れる。当然そうなると思っていた。そう、レオナールはマンティコアを盾にしたのだった。
「やるじゃないか、アリス。だけどアタシに当たらなかったことには感謝するんだね。ウフフ!」
「どうしてですか?」
この人の含む笑いは正直好きになれない。
「だぁって、貴女の大切なブレイブが痛がるからさね。」
「端的に言ってください。」
大袈裟に両手を広げて好きにすれば?と言いたげなレオナールは衝撃的な事実を述べた。
「ブレイブはこのアタシの奴隷になったのよ。悪魔族との奴隷契約は魂の契約。アタシの痛みはブレイブの痛み、アタシの死はブレイブの死。そして、アタシはいつでもどこでもブレイブの魂を終わらせることができる。賢いアリスなら……分かるわよね?」
愛剣スノーホワイトを差し出し、わたしをこの悪魔族に差し出したのも、ファナやパチャムのことも……奴隷契約を結んでしまったためなのだろう。
「きっと卑怯な手でブレイブを追い込んだのね。」
「賢くて強いアリス、ますます欲しいわ。さっきまではその黒い瞳を抉り取って鑑賞して、四肢を切断して好きな時に黒髪を切り取れるように生かしておこうと思ったけど……貴女もアタシの奴隷におなりなさい。その力をアタシのために役立てれば、ブレイブと一緒に飼ってあげるから。ウフフ!」
流石は悪魔。酷いことを平然と口にする。次にはきっとこう言うだろう。
「断れないわよね?断ればブレイブの魂……握り潰しちゃうからね。さぁ、答えを聞かせなさい。アタシの奴隷になると言うのよ。10秒だけ待ってあげる。言えなかったら11秒後にブレイブは死ぬ。10、」
「なりません。」
楽しそうにカウントを始めたレオナールが凍りつく。
「はい?貴女バカなのかしら?あぁ、ブレイブが死なないと思っているのかしら?」
「わたしは既に智成様の奴隷だから……貴女の奴隷にはなれない。」
許嫁の『と』……それは初めから奴隷契約に等しい。いまこの場では何の意味もない言葉だけど、何故か口にしてしまった。
「なんだって!?トモナリというのは何者だい?」
「智成様は……貴女より遥かに魔性の御方。」
「クソが!当てが外れた。既に悪魔族の奴隷だなんて!!」
レオナールの独り言をわたしは聞き逃さなかった。そうか、奴隷側の悪魔族との契約は1つしかできない。主人が複数いては主人同士で諍いになるものね。
そしてレオナールは智成様のことを悪魔族と思い込んだのだ。これは不幸中の幸いかもしれない。
「でもまぁ、せめてその黒い目と髪だけでもいただくわ!」
レオナールが悠然と近づいてくる。
ズキッ!
あ、頭が!?胸が……苦しい!?そんな、こんな時にまた。わたしは心臓と頭の痛みに膝を床につき、呼吸が荒くなる。
「あら、あらあら。どこか痛いのかしら?苦しいのかしら?治療してあげるわ……その眼球と髪を頂いたらね。ウフフ!」
わたしの首を掴み、持ち上げる。
「ガハッ!」
「眼球をえぐり出すまで暴れないでね?暴れると長引いて窒息しちゃうからね。いい子にしてるのよ。」
その時、レオナールの鋭い手が耳に当たり……落ちる長い耳。
「何だいこれは!?」
わたしを放り出したレオナールは落ちた変装用のエルフ耳を手に取る。
「お前……人間なのかい!?」
レオナールは今までで一番複雑な表情を見せた。
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)
女王様ぶりを発揮するレオナール。でも負けじと立ち向かうアリス。へたれブレイブとは訳が違う!( ´_ゝ`)
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