【Side:アリス】吾妻くんの臭い
魔剣士ゴールドが語った、かつて見たステラの活躍に場が凍りついた。
「そんな……ことって。ゴーファンの近衛隊長と言えば……この国の勇者に匹敵するんだろう!?それを魔法少女に変身せずに戦っただなんて。いや、アリスも変身せず尋常じゃない活躍をしてるけど……。それってステラと同じことなの?」
ブレイブは詰め寄りながら尋ねた。
「うん。わたしは今『魔法少女』に変身ができない。今までは魔法少女の力とは別の『身体強化魔法』と、この世界で覚えた魔法で何とかやってこれた。だから『魔法少女』に変身する方法を探すことが今の目標。」
「『身体強化魔法』?聞いたことない魔法だし……『この世界』ってどういうこと?」
あ、失言だった。流石はパチャム。これでは別の世界から来たと言っているようなもの。
「アリスはラニューシアの最果ての島から来たので、この広い大陸は別の世界みたいなものらしい。『魔法少女』などその島には固有の魔法体系があるのだろう。」
ゴールドが咄嗟にフォローをしてくれた。パチャムはそれで納得したみたいでホッとした。
「それより、今までの話だとステラは少なくとも2回は魔法少女に変身していますよね?ステラは自由に変身できる方法を見つけたってことですよね?」
「確かにそうだな。ゴーファンでの変身と、先の王都ピセでの変身。違いは色か。ゴーファンでの魔法少女ステラは漆黒の堕天使の如き姿。ピセでは純白の天使の如き姿。」
「漆黒の堕天使みたいな魔法少女!?さっき見たのは純白天使だったけど、そんな闇堕ちバージョンもあるの?カッコイイ〜!!」
子供のようにはしゃぐブレイブ。見た目は立派な青年なだけにそのギャップが可笑しかった。笑いを堪えつつ、わたしの知らない……まだ見ぬ漆黒のステラに思いを馳せる。
「同じ魔法少女としてステラと行動を共にしたけど、黒いステラは見たこと無いです。一体ステラに何が……」
「アリスはステラに聞かなかったのか?変身ができないことを。」
ゴールドが寝耳に水な言葉を投げかけてきた。
「いえ。わたしはステラには会えませんでした。」
「何だって?ステラはアリスのことを話していたが……『黒髪のアリス姫』と。」
最後の呼び方に恥ずかしさを感じ、ゴールドの話が良く頭に入らなかった。
「姫だなんて恥ずかしい。それに、ステラはわたしのことをそんな風に呼びません。」
わたしの言葉に全員が首を傾げる。
「ステラに会えていれば……」
それだけが悔やんでも悔やみきれない。わたしの気持ちを察したのか、頭を粗雑に撫でるゴールド。
「アリスがステラに会えていないのは大問題だな。どうする?」
こういう時のゴールドはどこかステラに似ているなと感じた。
「いいんですか?」
「私が同行したいのだが……残念ながらそうも行かない。ブレイブたち、アリスと行ってもらえるか?」
ゴールドはわたしの髪を弄びながらブレイブたちに問う。いきなり言われて理解出来ていないのだろう。
「行くって……もしかして!?」
パチャムは察したのか恐る恐る尋ねる。
「魔獣王の国ゴーファンに。ステラに会いに行ってこい。」
ゴールドの言葉にパチャムが両手で震える肩を押さえている。
「へ〜、ゴーファンに行くんだ〜。それならステラと一緒に行けば良かったかなぁ。あははは。」
ファナは赤い顔で笑っていた。手にはワインとウイスキーのグラスを持っていた。静かだと思ったら飲んでいたのね。
※日本でのお酒は20歳になってから!
いつもならパチャムが未成年の飲酒を嗜めるところだけど、今は動揺しているのかファナのことは見えていないようだった。
「よっしゃー、ステラに会いに行こう!」
ブレイブが立ち上がりゴーファン行きに賛同してくれた。正直、ゴーファンには一人で行こうと思いつつ、不安が無い訳ではなかったので、わたしはどこかホッとしていた。
「でもさ、敵本国だよ?どうやって行くのさ?それに、僕たちは今スピリットガーデン軍所属なんだよ?軍に無断で行動できないって。」
パチャムは現実的な問題提起をすると、その言葉に皆言葉を失う中、ゴールドがグラスにワインを注ぎながら言う。
「それはこちらに任せてもらおう。」
◇◇◇
「ステラに会った時……色々とあったみたいね。でも、お酒はほどほどにね。」
夜風が心地良い最上階のガーデンテラス。隣にはブレイブが座っている。
「はは、気を付けるよ。まさか酒場でステラに出会うなんて思わなかったけど。それよりも、大切な話があるんだ。」
「大切な話?」
ブレイブは真剣な顔で語った。
「ステラは『牛子』……いや『牛田 美輝』だよね?アリス。」
「『うしだ』?」
初めて聞いた名前に戸惑ってしまう。
「あのステラの姿、俺の幼馴染『牛田 美輝』だったんだよ。違うの?」
「ごめんなさい。わたし達はお互いの素性や変身前の姿を知らないの。そうなんだ、ステラがブレイブの幼馴染……かもしれないのね。」
魔法少女はお互いの素性を明かさないようにしていたが、どうしてそうしていたのかは一番最後に魔法少女になったわたしには分からない。一番最初に魔法少女になったノエルからそう教わった。ステラは別に正体を明かしてもいいと言っていたが、ノエルから駄目と釘を刺されていた。
私的に色々な事情を抱えるわたしには、素性を明かさないことは都合が良かった。
ブレイブは求めた答えが聞けると期待していたんだろう。その答えが違うものだったのでテンションが落ちたようだった。
「力になれなくて……ごめんなさい。」
「そんなことないよ。ありがとう、アリス。あとは……本人に聞いてみるよ。戻ろうか。」
ブレイブが中に戻ろうとした腕を掴む。
「アリス?」
「わたしも大切なお話が……」
ブレイブはわたしを見つめながら静かに言葉を待ってくれる。昔からそういう優しさが……好きだった。
「ブレイブ、わたしがわたしでなくなったら殺してください。」
「え!?どういうこと?訳が分からないよ??」
動揺するブレイブ。腕を掴んだままわたしは俯く。
「もしもの話。例えば……わたしがゾンビやバケモノに変わってしまったら、わたしはブレイブに……殺してもらいたい。」
「そんな、そんなの嫌だ!」
ブレイブはきつくわたしを抱きしめた。
「アリスは俺が守るから。だからそんなこと言わないで。」
ブレイブの匂いがした。昔とは違う爽やかな匂い。
わたしは昔の……吾妻くんの汗ばんだ身体から漂う体臭の方が好きだったな。
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)
アリスは匂い……臭いフェチなんですね。分かります。ようやくステラに関する認識の共有ができたみたいですね。いよいよ敵国への旅路が始まりそうですね。(o ゝω・)b
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