【Side:ステラ】空腹は最高のバフだよね!
強烈な剣劇により舞い上がった土埃が収まり、振り下ろした長剣の先を見つめる騎士は……あたりを見回す。
騎士は振り返り、焚き火の前に佇むわたしに気付いたようだ。
「避けた、だとっ!?貴様っ!騎士に背を向けるとは何事か!?」
騎士は怒号とともに再び渾身の一撃を放つ!!激しい地響きを起こし長剣が巨木の根に深く刺さる!その剣の微か横でわたしは鎧の騎士を見上げて視線を交わす。
「ふぁっへ!」
わたしは手の平を前に出して騎士を制止すると、口からはみ出た肉塊を口の中に押し込む。
肉質は思いのほか硬く、何度も何度も咀嚼するが飲み込めるまで噛み砕くのに結構時間がかかった。口の周りが肉汁とよだれでベチャベチャだったけど空腹でそんなこと構ってられなかった。
「はぁ~。美味しいね、このお肉!めっちゃ硬いけど赤身肉のどっしりとした旨味が癖になる~。シアワセ~!!あ、勝手にお肉食べて……ごめんなさい。」
空腹が少し満たされたわたしは素直に感想を述べた。
「貴様……魔獣ではないのか?」
騎士からはさっきまでの殺気は無くなっていた。
「魔獣?わたしは人間だよ。見れば分かるでしょう~。」
「人間……確かに見た目は人間。人間の子供が俺の一撃を避けたというのか!?しかも二度も……」
何かヒドイ言われよう。女子高生に向かって子供って何!?
「あのー、これでも16歳なんですけどー。さっきは死ぬ気で避けたからね。」
肉が食べたかったからとは流石に言えなかった。肉という単語に反応するわたしのお腹。
「ぐぅぅ~」
「死ぬ気で……か。まぁいい、好きなだけ喰らうがいい。」
残りの肉に貪りつくわたしは肉を噛み切りながら思う……この騎士は口が悪い。
◇◇◇
この森は『魔獣の森海』と呼ばれ、この大陸で最も危険な魔獣たちが巣食う人外の魔境。
その名の通り、日に十数回は魔獣に襲われる始末。気絶している間に魔獣に襲われなかったのは奇跡としか言いようがない。
奇跡といえば、この口の悪い騎士様に出会えたことも奇跡と言える。
何せこの魔境の魔獣たちに恐れおののく素振りを微塵も見せず、巨大な剣で斬り伏せ叩き潰していく姿に、どちらが魔獣か分からなくなるほど凶悪であった。それでも今は唯一の希望……かな?と思った。
「ヴェイロンさん、そういえば、初めて会ったときに焼いていたあの美味しかったお肉って何の肉だったの?また、食べたいな~!」
考えただけで、またお腹が鳴りそうになる。口の中に味わい深い肉汁の味が蘇りよだれが出てくる。
幸福そうなわたしの表情をよそに、とっ散らかった地面を指差すヴェイロン。地面にはさっきまで二人に襲いかかってきた魔獣たちだったモノの残骸が散乱していた。
「貴様が卑しくよだれを垂らして頬張っていたのは、このゴミ溜めに巣食うバケモノの肉だ。あの時は仕方なく焼いては見たがどうにも食指が伸びず、あのまま炎で汚物を焼却していたところを、その腹に処分してくれたのだから少しは役に立つと感心したものだ。さぁ、そこに落ちているモノも喰い散らかすがいい。フッ!」
何だか酷いことを言われ、最後の鼻で笑われたのにはイラっとしたが、あのとき美味しく頂いたのは事実だったので何も言えなかった。そして、空腹には抗えないと断言できる。
ただ、せめて一太刀とひきつった笑みを浮かべながらこう返す。
「じゃあ、ヴェイロンさんは『霞』でもお腹いっぱい食べてくださいね。美味しいですよ、霞!アハハっ!!」
「カスミ?何だそれは??」
はじめて聞く単語だったのだろうが何を想像したのかはだいたい想像がつく。騎士様のことだ、王宮のパーティに出されるような、芳醇な香りと重厚な味わいを醸し出す気品ある一皿を連想したのだろう。
「よし、王都に戻ったらカスミを用意しろ、ステラ。楽しみだ。」
何故か前向きな発言に聞こえるが、だからこそわたしは爆笑を堪えるのに必死だった。でも、用意しろとは……墓穴を掘ったかもしれない。まぁ、面白かったからいいか~。
あ、そうそう、わたしがこの口の悪い騎士様に名乗った偽名は『ステラ』。
何でかと言えば……ファンタジー世界の住人に和名『牛田 美輝』は言いにくいかな?という心配と、何よりもこの悪夢のような異世界ではわたし自身が『ステラ』であることが……生き残る覚悟になると感じたから。
そんな女子高生ステラと騎士ヴェイロンの珍道中はもう少し続く。
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)
女子高生ステラ?しっくりこないですね~。訪日留学生の外人にしか聞こえない。何でステラなんですかねー?( *´艸`)
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