第一楽章〜夏の始まり〜
「雪夜くん、ねぇ雪夜くん…」
(んーん・・・聞いた事ある声だ?確か昨日音楽室でピアノを弾いてる所を目撃して、それからすっ転んで鼻血だして…膝枕で介抱されて・・・一緒に帰ることになり手を引っ張られて・・・携アド交換して一緒に下校してそれから・・・。)
「雪夜くん、姫の事・・・好き??」
(そうそう、佐倉 姫って三年の先輩だったんだ。
いや、そういう事じゃないだろ。
何で俺のベッドの真横に、しかも裸でガッツリ横たわって愛の告白??)
「雪夜くん、お寝坊さんはメっ!ですよ」
お仕置きです、と姫は唇を近づけてきた。
(うわ、無理!無理だから!!でも・・・いいかも!)
いやダメだろ思春期少年。
つか気づきなさい、有り得ないシチュエーションだってことに。
「せ、せんぱい・・・その俺まだ中学生だし先輩のこと良く知らないし、つか昨日出会ったばかりだし!」
「イイじゃない。雪夜くんはペナルティー2個目なんですから」
(よ、良くはない・・・いや良いのか、うん。イイの。キスするの僕。)
「むちゅ!」
(うわぁ・・・やわらけぇ、そしてあったけぇ・・・なんだこの感覚。)
「ぷはぁ・・・雪夜くん上手なのね。私もう止まらないわ!!」
(ちょ!大胆すぎです姫先輩!!うわ、そこ!そこ!ダメくすぐったい!!って・・・)
「ひゃっはっはっはっはっはっ!!!!!!」
「えい!えい!お兄ちゃんのスケベ!変体!エロダルマ!」
「や、やめはははうおうぇはは!!静香すとーっぷ!」
「知らないんだから!!ふんっ!!!」
「あひひひうぇおかきくうぇいはは!!!」
始終擽られヘトヘトな思春期少年。
かくして彼の朝は絶妙な夢と絶望な現実で始まったとさ。
◇
日の光がまぶしい窓辺の食卓。
いつものように妹に叩き起こされ、いつものように妹が作った朝食を食べる、ごく自然で平和なひととき。
でもなんであんな夢を見たのだろう。
エガった・・・直じゃないが切実にあの夢はエガった・・・。
「何でれーんと目を細めてニタついてんのよ。まったくダラシナい兄ですこと」
ギク!!
「い、いや別に。ただ両親が海外赴任で妹の静香ちゃんとずっと2人きり。毎日幸せだなって、それだけさ」
半分はパチだが実際は満更でもない。
俺たちはここ何年か2人きりで生活してきた。
そのおかげでこいつのブラコンっぷりは半端ない。
両親は世界をあっちこっち飛び回るフリージャーナリストで金と手紙ぐらいしかよこさない。
だが俺たちはそんな両親を別に嫌うわけでもなく、むしろどうでもいい存在だった。
それだけ面識は少ないということだ。
「ぶは!・・・んもうミルクこぼしちゃったじゃない、調子狂っちゃうなぁ」
狂え狂え、我が妹なりに扱いはお手のもの。
「ところでさーお兄ちゃんー」
なんだよ〜、と片手には新聞。
ニュースのチェックは男としては入念にだ。
「ひめってだぁれ??」
ビリリリリリ!!!!
ま、まさかね・・・俺、寝言とか言っちゃった??
つか新聞破くほどの動揺だよバレたこれ??
「うっわー、静香まだ今日の新聞見てないのに何破いてんのよ!!」
ていうかアヤスイーと流し目な我が妹。
「そ、そんな事はないんだぜ!。ただ力があまり・・・そうだ、この議員の発言を見て頭にきたんだ!!」
と、その部分の切れ端を慌てて静香に渡す。
「ふーん、どれどれ・・・子供は生む機械、だ??」
何これ〜と憤慨している静香。
今がチャンスとばかりに食事を一気に流し込んだ。
「ご、ごちそうだま。俺自主練行って来るわ!!」
「ちょ!お兄ちゃん!!」
あわやといわんばかりに慌ててジャージを羽織外にでた。
「もう・・・何よ何よ、せっかくの夏休みなのに・・・つか誰よひめって・・・あたしのお兄ちゃんに手を出したら許さないんだから!!」
涙目の静香は食器を片付けながらあることに気づいた。
「そうだ、お兄ちゃん練習中は落とすからって携帯を部屋に置きっぱなしなのよね。よーし、エヘヘ♪」
かくして妹の情報収集は始まったとさ。
◇
たく静香のヤツめ、おせっかいにもほどがある。
俺が何をしようとされようとも関係ねーっつーの雪音以外には。
「呼んだ、ゆーくん??」
「うおわ!!」
突然タイミングよく・・・現れやがった我が幼馴染の雪音ちゃん。
「あ、ああおはよー雪音!どうしたんだよこんな朝っぱらから裏山なんかに」
とても偶然とは思えない、つけてきたとか?
「うーんとね。絵を描きにきたの〜。私絵描くの大好きだから〜」
お前の会話速度は某クレ○ん○んちゃんのぼーちゃん並か、おっとり少女め。
「そ、そうかぁ〜じゃぁゆっくりじっくりデッサンしヨウナ!」
あ・・・やべ
「うん〜ゆーくんも一緒にデッサン♪」
慌ててヘマこいた・・・、デッサンしロヨナがデッサンしヨウナと言ってしまった。
お疲れ自分。
「あ、ああ・・・俺自主練・・・」
「デッサン♪デッサン♪♪」
もうダメだ、こういうときのこいつは止められない。
そしてあろう事に泣かしてみろ、世界が滅ぶ・・・。
「解ったよ、ちょっとだけな」
「うん!るんるんだっぺ〜♪」
なんだその"ぺ"は・・・まぁいいや。
「ところでどっか良い場所この辺にあるのか??見渡す限り閑散な森なわけなんだが」
あたりを見回すが、やはり素敵なアトリエにはなりそうにない。
「ゆーくんお茶目さんだよ。こぉーんなに桜の木さんがいっぱいあって〜鳥さんもい〜っぱいいるのに」
ビク!!
さくら・・・佐倉・・・姫・・・何動揺してんだ俺。
「うん?どうしたの??」
「嫌、別に」
思えば、こいつは風景画がメインだったな。
ていうか外にスケッチブックってそれしかないか。
芸術はワカラン・・・。
「でね、だから綺麗であればどこでもいいの」
「どこでもねぇ・・・じゃぁここにしよう。ちょうど切り株がすぐ傍にあるからあそこで、な」
うん、と答え雪音は目を輝かせながらその切り株に座り込む。
ペンペン。
「ん??」
ペンペン。
「なんだよ」
なんだかちょっと顔が赤い。
つか切り株にペンペンって・・・。
「ゆーくんもここに座るの〜!」
そういうことね、すごい狭いのに加え密接しろと。
「ああ。解った」
どうだ見たか。
幼馴染だったら姫先輩みたく変な緊張などしないのだ。
「ぶぅ」
そんな俺の平然な態度を見てか雪音は拗ねる??
「おいおい、お前はただの幼馴染なんだ。密接しようが・・・・」
「ん〜?何のこと??いいから早く座って描こうよ〜」
ただ短にせかしてるだけ、ってことか。
こいつは昔から天然だし、そんなこと思うはずもないよな。
「はいはい。よいしょっと」
「んふ♪ゆーくんあれ描こうと思うの。あの緑の恐竜さん♪」
んなのいるわけねぇ!と叫びつつ。
幼馴染2人の風景画デッサンはおやつタイムまで続くのだった。
◇
「にしし。おっじゃましま〜っす♪」
こちらは秘密情報調査官の静香サン。
ただいま兄の雪夜クンの部屋へ進入中である。
「毎朝入ってるけど、やっぱり汚いし芸術センスに欠ける部屋よねぇ」
代わりにうるせーと言っておく。
「ともかく、携帯〜携帯〜っと♪」
静香はもう一度ドアのほうを確認し、次いで雪夜の机においてある携帯のほうへと向かった。
「これこれ、むふふ♪さぁて、ご開帳☆って、何よこれ」
ふと携帯の裏をみると何やら張ってあったのだった。
「何で雪音ちゃんのプリクラなんか張ってあるのよあの馬鹿兄貴!
しかもこんなベッタリくっついちゃって!!」
それはそれは仲良さげに。だが幼馴染であるのは言うまでもないし本人もわかっている、はず??。
「ふーん、そういう事ぉ・・・雪音ちゃんが姫って子なんだぁ」
静香ちゃん、目が鬼怖い。
「きっとそうよね、だって白雪姫の衣装コスしてるし」
そうだ、良くみるとコスってる。
しかしそれは単に雪音がベタにディゾニーが好きだからで誤解するほどのものではない。
「携帯開くまでもないわ!!見てなさいよ馬鹿お兄ちゃん、ギッタコラパコスにしてやるんだから!!!。」
ピンポーン。
怒りに燃えていたちょうどその時、階下からインターホンの音が鳴った。
「うあ、やっば!誰よもう・・・」
バレないように携帯を元に戻し、急いで階下へと降りる。
タタタタタタ。
タタタタ。
ドタ!
「よっと。はーい、どちらさまですか〜??」
ガチャ。
「こんばんは。柊くんのお宅はこちらでしょうか??」
「・・・・・・」
バタン!!!
静香は勢い良くドアを閉めた。
(だ、だれよあの黒髪美人・・・しかもクンってことはお兄ちゃんよね??)
そして数秒で落ち着つかせ、またドアを開けてみる。
「こんばんは。柊クンの・・・妹さんですか??」
(だから誰よアンタ。なんであたしが妹ってしってるわけ、つか兄とはどういう・・・)
さまざまな疑問の中で困惑していた静香だったが冷静に対処してみる。
「はい、ここは柊雪夜の家です。そして私は妹の静香です。中1です。チビで発展途上国です!」
いやいや、そんなことまでは聞いてないよペチャパイ静香ちゃん。
「あらまぁ、やっぱり妹さんだったのね。初めまして、三年の佐倉姫って言います♪」
何もなかったかのように動じない姫。
一枚上手である。
「あ、あなたが姫さんですか!?」
「はい♪って私をご存知なんですか??雪夜クンから聞きました??」
「ええ、まぁ・・・」
(何よ何よ!!何でこんなに美人なのよ!!!これならうちの馬鹿お兄ちゃんもヤられるわけね・・・でも雪音ちゃんが姫って子じゃないってことはあのプリクラはなんだったんだろう。いいわ、どちらにせよ後でギタコラパコス。)
「あの、これ忘れ物♪」
「は、はぁ・・・生徒手帳??」
「はい、昨日雪夜くんと音楽室で色々あって、その時に落としていたみたいだったので届けにきました♪」
「あ、そういうことだったんですか。わざわざありがとうございます。兄に渡しておきますね」
(なんだ〜そういうことだったのね♪・・・いや待ちなさい、"色々"って何??)
「はい♪それでは妹さん、私はこれで♪」
そういうと姫はゆっくりとおじぎをして帰って行った。
(もぉー一体何なのよあの女ぁぁああ!!ムプー!!いいわ、お兄ちゃんが帰ってきたら徹底的に問い詰めてやるんだから!!)
つづく
今回もつたない文書ですがお許しを><;
ただいま三話製作中です、頑張ります!
感想どうかよろしくお願いします!