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神器を飲み込んだら魔磁石人間になりました。  作者: rayi
第1章 ピアータの街編
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第5話

ーー「塩湖ダンジョン」


野営に必要な物をギルド直営のお店で一通り購入する。結界の魔道具は金貨3枚と高く、改めてパーティー推奨という言葉を実感する。Dランクで貯めるとなるとかなりの期間かかるだろう。そもそもプレミアムコレクションと同じ価格な事にびっくりなんだけどね。


チョコレートと結界の魔道具が同じってどうなのこの世界。


結果の魔道具は魔力を込めると発動し、二人用テントを丁度囲う程度が効果範囲らしい。2泊3日予定な為、色々と料理を屋台で買い込む。野菜などの食材や調味料、鍋やフライパン、火の魔道具や薪なども購入したが初のダンジョンなので余裕があれば料理しようと言う感じだ。そもそも、時間経過がないので温かい屋台の料理が食べれるので無理に調理する必要もないかもしれない。


いざダンジョンへ。そう思いダンジョンの前に来ているが想像となんか違う。ダンジョンの前には屋台が並び、大規模なフリーマーケットが開かれている。もっと洞窟のような場所を想像していた。これでは小さだ町中にあるダンジョンだ。


聞いていなかった僕の勝手なイメージなんだけどね。宿泊施設や武具や、出張買取のギルドの支店まである。


町の奥へと来るとダンジョンの入口が見えてきた。石造りな大人3.4人が通れる程の幅の入口で前には兵士が立っている。


ギルド証を見せて入っていくみたいだ。僕も列に並び順番を待つ事にする。出口は入口と同じようで、戻ってくる冒険者PTも多数見られる。


『ギルド証を』


淡々と作業のように言う兵士にギルド証を見せる。


『Dランクだな、いいぞ』


と言われたので、中へと入る。中はとても広い、洞窟のような作りになっていて、天井一面が光っていて明るく見通しは良いようだ。光苔とか言うやつだろうか?


沢山のパーティーがあちこちで狩りをしている。似たような装備を付けているのでDランク冒険者のパーティーだろう。見られる魔物は緑色の体をした人型の魔物。ゴブリンだ……リアルに見ると気持ち悪いな。


倒した後の魔物は消えて、ドロップアイテムを残すらしいが、どう言う仕組みなんだろう。


現れたゴブリン相手に僕は杖を振るい殴り倒していく。雷刀は目立つからね。そう思って杖を使っていたのだが、後衛が杖で殴るのは珍しいのか、周りのパーティーがこちらを指差したりしている。


うん、逆に目立ってる気がするのは気のせいだと思いたい。剣を購入してくるべきだったかもしれない。ゴブリンは大体ウルフより個体としては少し強い程度だろうか。群れをなす分ウルフの方が厄介な魔物だ。ダンジョン内だからか、群れてくる様子はない。


ダンジョンはDランクからと聞いていたので弱くてヘラクレスくらいからかと思えば違うようだ。1Fはスルーで良さそうなので同じように敵をなるべく避けて進む人達の流れにのって奥を目指す。


2Fへと続く階段を下っていく。意外と広く、進むパーティーと戻ってくるパーティーが余裕を持ってすれ違えるくらいの幅がある。よく知る冒険者達はお互いにすれ違い際に「頑張れよ」とか、「酒場でな」とか挨拶を交わしている。


羨ましくなんてないからね。


2Fに進むとゴブリンがウルフに跨り駆けていた。ゴブリンライダーと言うらしい。機動力が高くなっているがそれ程の脅威は感じない。


そのまま3Fへ向かおうと、スムーズに進んでいるパーティーの後をつける。勿論相応の距離は置いている。付け回してるように見えると困るからね。途中、ゴブリンライダーが襲ってきたが、ウルフを狙って杖を振ると、落ちてそのままの勢いで壁にぶつかり自滅していた。この世界でもゴブリンは弱かった。


3Fに着くと先程とは変わり美しい光景が広がっていた。空があり、地面は全て鏡のように空を映していた。日本でも見た事のある光景だ、勿論写真でだが。ウユニ塩湖、別名大地の鏡と呼ばれてたっけな。


これはすごいなぁ。あんな遠い所絶対行けないと思ってたのに、まさかダンジョン内に似たような場所があるとはな。写真でも撮りたいくらいだ。


ここの魔物はアザラシみたいな魔物だ。名前は、調べ不足で分からない。試しに僕は、杖を振るってみた。ボヨヨーンという言葉が聞こえてきそうな感覚。杖はブルブルと震えて跳ね返された。まさかの打撃無効モンスターというやつだろうか?


何度か殴ってみるが効いていないようだ。それに大人しいのか反撃がない。


『おい、坊主。ザラシーに打撃は効かないぞ?そんな事も知らずにきたのか?』


「そうなんですね、通りで効かない訳ですね」


人の良さそうなおじさんだ。騎士のような格好をしている。


『何をしているダンテ、行くぞ』


『じゃあな、坊主』


少し身なりの良い格好の人について行くおじさん。貴族か商人の護衛か何かだろうか。


とりあえず色々な魔物と戦い訓練をつみたいので、ザラシーを倒しながら進む事にした。雷魔法で倒すのがスムーズなんだろうけどあまり見られたくはない。探知を使いなるべく他の冒険者と合わない場所で雷槍を使い倒していく。


「雷魔法で良かった」


僕がこう思ったのには理由がある。ザラシーに雷槍をぶつけた、そこまでは良かったのだが、雷槍が当たった瞬間ザラシーが赤くなり、凄い勢いで大きな口を開き、鋭利な牙を見せつけながら襲って来たのだ。完全に油断していて喰われそうになるが、雷魔法が弱点なのか、僕に襲いかかる直前に煙になって消えたのだ。他の魔法なら噛み付かれてたかもしれない。


ドロップアイテムは、小さな魔石とザラシーの皮と言ったら良いのだろうか。灰色の少し分厚い皮が残っていた。触れてみるとゴムのような感触だ。


これが打撃無効の原因か。全身ゴム人間ではなく、ゴムアザラシ。


何匹か倒すと偶に出るのが塩の入った麻袋。


「何で袋つめされてんの……」


ツッコンでしまった僕は負けだろうか。ドロップ品を回収しながら、4Fへと続く階段を降りる。


4Fに降りると、目的の魔物ケロケロケロッグが飛び跳ねているのが見えた。思った以上に大きく2mはあろうかという巨体だ。


あれに襲われるとか勘弁だ。遠くからの魔法狙撃で退治しよう。幸い、他の冒険者は少ないようで、いくつかある小部屋のような場所に入れば目撃される心配も少ない。


奥へと進みながら、小部屋を覗き。ケロケロケロッグを見つけては雷槍をぶつけ倒していく。相性が良いのか一撃だ。ドロップするアイテムは魔石と丸い弾力のあるシャボン玉のようなアイテム、何に使うのだろうか。


回収しつつ、小部屋のケロケロケロッグを次々に倒していく。依頼に必要な討伐数は10匹だ。既に倍は倒しているだろうか、相性とは素晴らしい、ワンパン出来るからと調子にのり次々と討伐した結果だ。偶に伸びてくる長い舌はドロドロとしており後ろから伸びて来たのに気付いた時は鳥肌が立ってしまった。


依頼は完了した訳だが、このまま進むつもりでいる。既に外は夜だろうか、ダンジョンはかなり広い。効率良く進んで一気にダンジョン突破とかこれ絶対無理だ。歩く距離長すぎるよ……。


5Fへの道を見つけたのはそれから数時間後。付いていく冒険者がいなかったので勘を頼りに進んだら完全な迷子になってしまった。何度同じ道をぐるぐるとしたのだろうか。地図を本来は作るんだろうな。一人だと分担出来ないのが辛いところ。


「さて、行くか」


5Fに到着するとまたも雰囲気が変わった。洞窟の中には湖があり、休んでいる冒険者パーティーが沢山見られる。ここで野営するようでテントを設置して食事をしながら話している。


僕もここで休もうかな。と思い、隅の方でテントを張る。


『おいおい、挨拶も無しか?』


設置も終わり僕も食事をと思ったのだが近くにいた冒険者の男が僕の方にやってくる。


「えーっと、こんばんは?」


『ぷっはは、デルフお前舐められてんぞ』


『いい度胸だな、ガキのくせに』


なんか怒っている気がする。挨拶って冒険者同士だと違うのかな?


「すみません、ダンジョン初めての新米冒険者ゆえ、冒険者の挨拶と言うのを知らないもので」


正直に話すのが一番だよね。と思ったのだが周囲にいる冒険者まで笑い始める。


『ここがどこか分かるか?』


「ダンジョンの5Fですかね?」


『そうだ、そしてここは俺ら銀狼の縄張りだ。そこにお前は勝手にテントを張った』


あーなるほどここにいる人みんな仲間内だったのか。これだけ人がいれば安全だし、それを僕が利用しようとしたと思われたのかな?


「すみません、ダンジョンに縄張りがあるなんてギルドで聞いていなかったので野営している人も多いので休む為のエリアだと思ってました」


素直に怒らせないようにを心がけよう、これだけの人数敵には回せないからな。


『なんか調子が狂うやつだな……冒険者にいつなった?』


「2週間経たないかなくらいですかね」


『ソロか?』


「はい、ソロです」


『よし、お前を銀狼に入れるように推薦してやろう』


「お断りします」


何故勧誘されたのかわからないが、あまり群れるのは好きじゃない。仲間は欲しいけど印象も良くないからね。


『なっ、銀狼だぞ?この街で銀狼を知らねえやつはいない、そこに推薦してやろうってのに断るのか?』


銀狼とか知らないんですけど。


「そもそも銀狼を知らないですし、あまり多くで群れるのは好きじゃないんです。という事で僕は、失礼します。色々教えて頂きありがとうございます」


僕は話を聞きながらテントを収納し、別の場所へと移動をする。ちょっと待てとか、声が聞こえたが、無視だ。殆どの冒険者はデルフとか言う人と僕の話を傍観しているだけ。囲まれたりしたらお手上げだが、この状況なら何か今すぐされると言うことはなさそうだ。


休む予定だったが、仕方なく進み続ける。5Fの魔物は鹿の魔物フレアバンビ。大きな角から火の魔法を放ち攻撃してくる。動きは早く角で突かれるのを警戒していたが、浸すら火魔法のファイアーボールみたいな丸い炎を飛ばしてくるだけで接近戦は仕掛けてこない。


ファイアーボールをフレアバンビが放つ瞬間に角の根元に雷閃を放つ。命中し角が片方だけになったフレアバンビ。火魔法を発動させようとするが、角先で飛散してしまい発動させる事が出来ないようだ。


僕はそのまま、雷槍をお腹に命中させ倒す。ドロップアイテムは、魔石と鹿の角。それにしても魔物が手応えがない。あの イノプー戦を思うと弱すぎるのだ。そのまま倒し続けて6Fに辿り着いた頃には疲れもピークに来ていた。


6Fも雰囲気は変わらず最初に湖があり、何組かの冒険者がテントを設置していた。ここもダメなのかと、思いながら進もうとすると。


『なんだ、坊主もここまで来ていたのか』


「ダンテさんでしたっけ。ザラシーの時はお世話になりました」


『ここまで来るって事は結構やるんだな、坊主』


「どうなんですかね。ダンジョンは初めてと言うか新米冒険者なので知識不足と言うか。さっきも銀狼とか言う人達の縄張りにテントを張ろうとして怒られちゃいましたよ。ここも何方かの縄張りで挨拶がいるんですかね」


『新米が来るところじゃないんだけどな。まあ、それは置いといてだ。ダンジョンに縄張りなんてないぞ。銀狼の連中が勝手に言ってるだけだ』


勝手に言ってるだけだったのか。まあ、気にせずあそこで休むなんてのはどちらにしても無理だったからここに来て正解なんだけど。


「じゃあ、ここで僕もテント張っていいんですかね?」


『坊主の自由だな。あんまり近すぎるのはマナー違反だが、少し離せば問題ない』


『ダンテ、またお節介か?』


『いえね、ザラシーで見かけた坊主が居たのでね』


身なりの良さそうな青年がテントから出てくる。ザラシーの時に見かけたダンテさんと一緒にいた人だ。


『ふむ、お前強いのか?強そうには見えないのだが』


失礼な男、最初はそう言う印象だった。


「新米なのでまだまだ弱いですよ」


『坊主、フレアバンビはCランクの魔物だぞ、その歳でソロで倒してる奴なんて早々いるもんじゃない』


「Cランクだったんですか、火魔法しかしてこないんで、あまり脅威には感じませんでしたが」


『何言ってやがる、あの速さで火魔法を撃ってくるんだぜ?避けるのも大変だし、火魔法で相手を弱らせてからあの速さでの角突きは苦労したのを覚えてるな』


魔法しかしないのかと思ってたけど、違うようだ。全部避けてたから魔法しか使って来なかったのか。


『お前凄いんだな。ちょっと話をしようじゃないか』


話?うーんどうしよう。ダンテさんは悪い人には見えないけどこの人は……


『坊主大丈夫だぞ、タタラ様は言葉は悪いが悪い人じゃないからな』


「タタラ様とお呼びすれば良いですか?貴族の方ですかね。礼儀作法がわからないのですが」


『礼儀作法など不要だ。所詮は男爵家の3男だからな。跡もつげない私は冒険者になる為にここへ来た』


「貴族って大変なんですね。僕の場合冒険者以外に選択肢もなかったですから」


『坊主名前は?』


「すみません、名乗りもせずに。ジークと言います。Dランク冒険者ですね」


『俺はダンテだ。タタラ様が独り立ち出来るようにサポートに来てる。これでもBランク冒険者だ』


バロンさんやミルクールさんと同じBランク。凄いなー。


『タタラ・フォンタスだ。同じDランクだ。私には才能はない、ダンテのサポートがあるにも関わらずここまでくるのに半年もかかってしまった。ジーク、お前が羨ましいぞ』


『そんな事はない、タタラ様は努力をしている、ジークの坊主が異常なのさ』


僕って異常なの?あれ、ルミアさんそんな事言ってなかったけど。


『ジーク、嫌でなければ私と冒険者友達になってもらえないか?』


突然の友達申請。ぼっちだし嬉しいんだけど相手は3男とは言え貴族。関わるのめんどくさいなぁ。


『俺からも頼むぜ、タタラ様友達いないからなー。そもそも、この身なりじゃ誰も寄り付かないわな』


「それは同感ですね」


『この格好は、おかしいのか?』


「そもそも、冒険者って平民が多い訳ですし、貴族みたいな格好してる人に近付いて何かあったら嫌なので普通は近寄りません」


『そうか、3男とは言え貴族としての立場に縋り付いていたのか。私は冒険者として鎧を纏ったら貴族でなくなるような気がして、怖かったのかも知れない。冒険者として一流にはなれない。自信がないんだ私は』


「男爵家って一番下ですよね。その3男なら、冒険者として立派にしてる方がカッコいいと思いますけどね」


『おいおい、結構な毒吐くじゃねえか。まあ、ジークの言う通りだがな』


『ダンテ、私は完全に貴族としての立場を捨てるぞ。戻ったら鎧を買い、冒険者として自信を持てるように努力をする。手伝って貰えるか?』


『おう、やっと自覚してくれたようで嬉しいぜ』


『ジーク、これからはただのタタラだ。冒険者としてよろしく頼む』


「うん、頑張ろうねタタラ」


ようやく出来た初の冒険者友達。タタラとダンテさんは一眠りしたら帰って早速冒険者として出直すらしい。頑張って欲しいものだ。今日の食事は屋台の串焼き。食べ終わる頃には疲労が結構溜まっていたのか瞼が重くなり知らない間に爆睡していた。



ーーいつもと違う天井。


徐々に思考が戻ってくる。あぁ、ダンジョンのテントの中だったな。外へと出ると既にタタラ達は帰ったのかテントは見当たらなかった。他の冒険者達も移動したのだろう、僕のテント以外に休んでる人は見当たらない。寝過ぎたようだ。起こしてくれる人とかいないからね。アラーム機能付の魔道具とかないのかな。結界の魔道具があるとは言え爆睡はマズイ。


リンゴを食べ簡単に朝食を済ませて準備する。近くにある綺麗なエメラルド色の湖。顔ってこの水で洗って大丈夫かな?と覗き込んでみる。透き通っていて見通すことのできるこの水に害があるとは思えない。


魔物がいないかだけ探知を使いチェックする。すると、探知に引っかかる物がある、そして何故か引っ張れそうな気がするのだ。


「魔磁力に反応している?」


僕はその反応しているものを引っ張りあげるイメージをして湖の底から引き上げようとする。ヘラクレスの時より抵抗はないが、とても重い物なのか、魔力が凄い勢いで減っている感覚がある。15分程粘り、引っ張り上げたのは、大きな銀色の岩?とても綺麗だ。こんな大きな物を出している訳にはいかないので、すぐにスイーツバックへと回収する。魔力と相性の良い鉱物の塊だろうか、あれだけの大きさの物を引っ張れるとは思わなかった。


そして、引き寄せをし続けた為か、体が凄く怠い。魔素を継続的に集め続けると体に負担がかかるようだ。夜眠る時に引き寄せて寝ると次の日疲れが取れて調子が良い気がするのだが、何か違いがあるのだろうか。


一旦休憩をと思うが自分の性格を考える、ここで休んだら暫く怠けてしまう気がする。2泊3日、残すは2日。出来れば10Fにいると言うボスを倒してから帰りたい。そうすれば往復する必要がないのだから。


6Fの魔物は、アイスバンビ。昨日ダンテさんが色々教えてくれた。アイスバンビはフレアバンビと同じく魔法を使う。そして弱った所に角での一突き。


フレアバンビ同様、難なく避けて雷魔法で倒す僕。しかし、納得いかないのが相手の魔法。


「アイスバンビなのに、なんで水魔法なんだよ」


氷の魔法で厄介そうなイメージを名前で持っていたが、水魔法を使う残念バンビだった。しかも、雷がよく通るのだ。魔法を出す瞬間に角の先端を狙えば感電して動かなくなりトドメは簡単だった。


7F、8Fはフレアバンビとアイスバンビが群れて攻めてくると聞いていたが、これは厄介。3匹までなら、何とか避けられるのだが4匹になるとどう避けて良いかが分からない。逃げながらの雷魔法での狙撃と言う卑怯に見える方法で何とか倒すがすぐに油断するのは悪い癖だ。3匹までしか群れない7Fと違い8Fは随分と苦戦させられた。


苦戦する中、新しく考えた魔法が「雷壁」。雷を自分の周りを包むように発生させる魔法。フレアバンビとアイスバンビの魔法を勝手に相殺してくれる。


しかし、まだまだ練度が低く、壁と言って良いのか分からないほどの大きな穴が開いている。どちらかと言うと網だ。僕の手くらいなら簡単に通る電熱線の網。うん、これが近い。もっと細かくしたいが、網状に綺麗に保つのって結構難しい。ぶっつけ本番で何とか上手く使えたが、バンビの魔法がファイアーボールとかではなく、ランスやアローだったら、相殺する事なく僕に当たっていただろう。


行き当たりばったり。今の僕にぴったりの言葉。9Fは蛇の巣と呼ばれるエリアでリトルスネークや、ポイズンスネークなど凶悪な魔物がいる。


「何がリトルだよ……」


9Fに着いて少し歩いて遭遇したのは、リトルスネーク。全長5mはある。どう見てもリトルではない。クネクネとした素早い動きで僕に噛み付いてくる。爬虫類が嫌いな僕からしたらまさに恐怖だ。1匹に手間取っていると、後ろから紫色の蛇、ポイズンスネークまでやってくる。苦手意識からかいつもより動きの悪い体、ちょっとマズイ。早く倒そうと雷槍を飛ばすが、避けられる。


クネクネしていて次に動く先が分からず当てづらいのだ。雷壁も考えたが、数秒止まる事になるので展開してる間に噛みつかれそうだ。


何とか回避しながら、隙を伺いつつ、雷矢を20本と大量に放ち弱らせていく。20本中多分3本くらいしか当たっていない。当たらないなら量でと思い考えずに放つだけ放っている。ダメージは少なく致命傷には遠いが少しずつ鈍くなってきている。ポイズンスネークも同様に削っていくが毒を偶に飛ばしてくるのでリトルスネーク程には当てれていない。


このまま戦闘していたら、3匹目に遭遇とか最悪な展開も考えられる。せめて剣を持ってきていればと今更ながらに思う。雷刀だと短いから自信がない。


「仕方ないか……」


僕は同時に襲いかかってくるタイミングを待っていた。2匹が重なるタイミングで大きく回避し、「雷刀」を作り構える。


おぉ?刀の大きさが大きくなっている。制御力が上がったか。15cm程だった雷刀が40cm程と戦うには十分な長さになった。


これならいける。僕は襲いかかる蛇の牙を雷刀と受ける。ジュァッと音がして溶ける牙。そしてそのまま頭を振り上げて斬る。リトルスネークは頭がなくなり、煙となる。残るはポイズンスネーク。毒が厄介だが1匹なら回避は容易だ。ポイズンスネークの噛み付きを上手くかわしつつ、雷刀で弱らせていく。一気に頭を飛ばしたいが毒が飛んでくるので中々チャンスが訪れない。


「雷槍」 「雷矢」を尻尾へと向けて放つ。正面から撃つ魔法は避けれていたが尻尾だけを狙うなら当てるのは難しくないようだ。勿論致命傷には尻尾ではならないんだけどね。


しつこく、尻尾を狙い続けたかいあってかポイズンスネークに隙が出来る。当たった瞬間に上体が浮き上がったのだ。本当に少しの事だがこれを待っていた。僕は下から潜り込み雷刀を振り上げる。首を深く斬りつける事に成功する。切った場所からは血ではなく、毒の塊のようなものがポタポタと落ちて地面を溶かしている。怒り狂ったポイズンスネークが向かってくるが最早弱ったポイズンスネークは敵ではない。深く傷を与えた首に放つは「雷閃」強力な雷のクナイが突き刺さり痺れさせる。


そしてしばらくすると動かなくなり煙になって消えた。リトルサーペントは、お肉と皮を落とし、ポイズンスネークは毒腺を落とした。


奥へ向かうにつれ敵の数も増える。探知で上手く避けながら進むが、どうしても戦わないと進まない場所が多々ある。なるべく1匹ずつ倒す。囲まれないように気をつけながら進みようやくボス部屋の前に到着した。2組のパーティーが待機しているようだ。並べばいいのかな?


「すみません、ここに並べば良いですか?」


『うん、僕達パーティーの次が君の番だよ』


「ありがとうございます」


爽やかなお兄さんが答えてくれる。2パーティーで挑む予定のようだ。合計10人で挑む程ボスって強いのか?僕大丈夫かな……。ここまで来て戻るのも大変だし、何とか倒して帰りたいのだが。


『君の仲間はもうすぐ来るのかい?僕はレイト、Cランクパーティー希望のリーダーをしているよ』


『私は5姉妹のリーダーのウインクよ。可愛いらしい子ね』


希望のパーティーはともかく、5姉妹は見るからにやばい、何がヤバイって全員女装したおっさんだからだ。


「えっと、僕はジークです。ソロなので僕一人ですよ」


『それはビックリだね。ここまで一人で来れるなんてBランク冒険者だったりするのかい?』


「いえ、Dランク成り立ての新米冒険者です」


『えっ、そうなのかい?』


イケメンスマイルが崩れているぞ、レイト先輩。


『へえ、有望な新人がいたものね。6姉妹が許されるなら是非勧誘したかったわ』


「いえ、遠慮しておきます……」


『ウインクさん、ジーク君が怖がってますよ』


怖がってるというか嫌がってるんだけどね。


『あら、残念。とりあえずみんなを紹介するわね。パッソ、スパン、レレン、プロリアいらっしゃい』


え、そんな事しなくても……。


『ははは、ウインクさんはポジティブの塊だからね。でも悪い人じゃないし、次のBランク候補と言われる程の実力者なんだよ』


見た目だけはある意味S級だけどね。


「凄いんですね、レイトさんもウインクさんも」


『僕達はまだCランクになって半年って所さ。ウインクさん達との差をいつも痛感しているよ。僕の方も紹介させて貰うね』


◆希望

リーダー:レイト

斥候:ミッツ

風魔法使い:アンナ

水魔法使い:ペリン

タンク:ガンタ


◆5姉妹

リーダー:ウインク

格闘:パッソ

格闘:スパン

格闘:レレン

格闘+水魔法使い:プロリア



紹介して貰ったのは良いが、5姉妹は全員格闘の前衛とかヤバイ。プロリアさんは水魔法が使えるらしいけど、怪我した時の応急処置くらいらしい。5姉妹に囲まれたら絶命間違い無しだ。


レイトさんのパーティーは理想的とも言える。レイトさんは剣士で大きな体のガンタさんが盾役。小柄な僕っ娘のミッツさんが斥候と遊撃。可愛らしい女の子、アンナさんとペリンさん。二人は支援と攻撃どちらも出来るらしい。バランス取れた良いパーティーだ。


『で、本題なんだけど、ジーク君。僕達と一緒にボス戦に参加するかい?』


急に真剣な顔をして話し始めるレイトさん。他のみんなもこちらを見ている。


「えーっと、いきなり違うメンバーが増えると連携とかに影響も出ちゃいますし、僕Dランクなので足を引っ張ると思うので」


『ジークちゃん、ここのボスはギガウルフよ?Bランクの魔物。私達Cランク2パーティーで勝てる保証のない魔物よ。私達は1ヶ月間お互いに連携や作戦を練りながら備えてきたの。その意味がわかる?』


Bランクか……ジュエルイノプーよりも格上の存在。今の僕の強さを試してみたいそう思ってしまった。ここへ来るまでにもレベルはかなり上がっている。Cランクの魔物もスネークには少し苦戦したが慣れれば余裕を持って倒せている。神様の加護がある自分が普通な訳がない事に気付いている。多分いけるはずだと。


「ありがとうございます」


『じゃあ、』


「いえ、それこそ皆さんの努力を無駄にしたくはありません。僕は無謀な戦いをするつもりはありません」


『ジーク君、君の覚悟は分かった。冒険者は自由だ。それを止める権利はない。後30分もすれば扉は開くと思う。それまでに気が変わったら教えて欲しい。僕達の中で君が入るのを拒む人はいないから』


なんてイケメン。パーティーメンバーもこれは惚れるだろうな。と思ってたら、アンナさんもペリンさんもガンタさんの側にいる、これはそういう事なのか?レイトさんを見つめているのは、レレンさんとプロリアさん……。レレンさん戦闘中の背後は気をつけて。なんて冗談はさておき、これは大チャンスなのではないか。


「あの、お願いがあります。アンナさんとペリンさんをボス戦前まで貸して貰えませんか」


『お姉さん達が欲しいだなんて可愛い』


『少し照れるわね。でも30分で良いところまでできるかしらね』


『ずるいわよ、ジーク君。私も混ぜて欲しいわ』


『ジ、ジーク君。こんな所でするのかい、君は見かけによらず大胆と言うかなんというか』


レイトさんの顔が引きつっている。ガンタさんは相変わらず無表情。


『僕は、ダメ?ジーク君』


ミッツさんが上目遣いで見てくるがミッツさんは斥候ではないか。


「ウインクさんは格闘だし、ミッツさんは斥候で短剣を使うんですよね。僕が教えて欲しいのは魔法ですからね」


『えっ、なーんだ。ジーク君早く言ってよ。ペリンが勘違いするから』


『あ、アンナよね、勘違いしたのは』


『そうだよね、ジーク君はまだ成人したてくらいだし、僕は気付いていたさ』


『一番同様してたレイトが言うの?それ』


あぁ、成る程僕の言い方が悪かった。


『つまんないわね、せっかくジークちゃんの可愛い姿を後ろから見ようと思ったのに』


ウインクさん、何故後ろから。


「あのー、それでお借りしても良いですか?」


『あぁ、決めるのはアンナとペリンだし。2人はokみたいだから好きにすると良いさ』


爽やかスマイルに戻ったレイトさん。僕は近くにテントを立て2人に色々と話を聞く事にした。


2人は特に隠す様子もなく魔法レベルまで教えてくれた。1〜3は初級魔法が使える。4〜5は中級魔法、6〜7は上級魔法、8は超級魔法、9は聖級魔法、10は判明しておらず神級魔法と呼ばれる。


2人の魔法レベルは5らしい。5までは努力すれば割と使える人の多いレベルらしい。魔法レベルが6にもなれば宮廷魔術師として国が手厚くもてなしてくれるレベルで、7は宮廷魔術師団団長である、リステラ・エルモンドという人が有名らしくこの国最高の使い手らしい。8レベルの使い手は現在この大陸はいないらしい。


今の僕って6レベルだから、宮廷魔術師レベルって事か。でもそれにしては、あまり強く感じられない。


『あっ、でもね。魔法レベルだけ6になっても宮廷魔術師にはなれないのよ』


『そうね、魔力操作が同等のレベルがないと、魔法の制御力が下がるから本来のレベルの魔法が発動出来ないのよね』


と思ったら解決した。僕の魔力操作のレベルは4。雷魔法のレベルは6。実質4レベル程度の制御力でしか魔法を使えてないって事のようだ。


『それに、魔力操作はとても上がりにくいの。私なんてまだ3よ。先が長いわね』


とても勉強になった。やっぱり知り合いって必要だね。それにしても、2人ともくっつき過ぎだ。両側からお姉さんに挟まれると僕の精神がもたない。


『おーい、2人共そろそろ準備に入るよ』


助かった。ナイスタイミングレイトさん。


『えーっ、もうそんなにたったの?』


『ジーク君、また戻ったらお姉さん達が色々教えてあげるからね』


色々……教えてください。


2人は準備しに戻っていった。ふぅ、鼓動が早い、ジュエルイノプー戦以来のドキドキだ。


『2人に変な事されなかったかい?』


「はい、知らない事を色々教えてもらって凄く助かりました」


『それなら良かったよ。それで決めたかい?』


「はい、やっぱり僕は残ります。レイトさん頑張って来てくださいね」


『あぁ、戻ったらみんなでお祝い予定だから、ジーク君も参加して欲しい』


「はい、是非お願いします」


優しいみんなを見送る。あのメンバーなら大丈夫だろう。討伐または全滅で扉は開く、大体討伐にかかる時間が1時間程と聞いてるし今のうちに確認と魔力操作の訓練をして備えるかな。



ーーーーーーーーーーーー


ジーク

年齢15歳


レベル:46 種族:人族

生命力1225/1225 魔力9550/1225


体930

力930

知930

敏930


スキル:採取[1] 雷魔法[6] 剣術[5] 杖術[4]

短剣術[2] 解体[1] 魔力操作[4]

気配察知[2] 逃走[2]


EXスキル:魔磁石[4]

EXスキル:スイーツバック

EXスキル:言語理解


加護:スイーツ神の加護

ーーーーーーーーーーーー

レベルは10上がっている。Cランクの魔物を結構倒したし、成長した感がある。そう言えばアンナさんとペリンさんにレベルも聞けば良かったかな。あの2人なら教えてくれた気がする。


雷刀が剣と認められる長さになったからか、剣術レベルが5に伸びている。新たに逃走スキルを覚えている。逃げ足が速くなるとかそんな感じだろうか。安全になるのに越したことはないよね。


魔磁石レベル4。


ーーーーーーーーーーーー


◆魔磁石[4]


・引き寄せ

魔素を引き寄せる。


・反発

魔素を反発させる。


・探知

魔素から情報を読み取る。


・魔磁力操作

魔磁力を操作する。


・自動探知

自動的に探知する。

ーーーーーーーーーーーー


今回増えたのは自動探知。銀色の鉱物を見つけた時に何となく引っ張れと言われているような気がしたのはこのスキルの効果だったようだ。何を自動探知するかくらい載せて欲しいが、今更スキルの説明に文句はない、諦めてるからね。自分で使い方くらい見つけてやる。


ボス部屋が開かれるまでの約1時間僕は魔力操作の訓練がてら、雷壁の魔法の維持と電流がもっと密に纏えるように訓練した。かなり繊細な制御の訓練をしていたからか、門が開く直前にはレベルが5になっていた。流石に6は無理だった、まあ、1時間で上がるだけでも可笑しいようだが。6へ上がるのは才能のある人間が何年も努力してようやくなれると言ってたしここからは直ぐには上がらないかもしれない。


「さて、と行くか。帰ってレイトさん達の祝勝会に参加しないとだしね」


階段を上がり、開いた扉の中へと入る。


「……」


黒く巨大な狼の魔物が中心に居座っている。これが、ギガウルフ、聞いてたよりも大きいし、禍々しい雰囲気を纏っている。そして、その周囲に落ちている銀色に光る無数のプレートと、レイトさん達「希望」とウインクさん達「5姉妹」が装備していた武具がボロボロになり酷い状態で落ちている。


「これって、やっぱり」


認めたくはなかった。当然のように、勝って祝勝会が開かれる。そう思っていた。今日会ったばかりだけど、優しく接してくれたみんな。長い時間かけて備えてきたボス戦に誘ってくれた。普通誘わないよな、知らない人間を。こんな良い人達がなんで、僕が参加していれば……。なんて傲慢か。僕に勝てるのだろうか?ソロで挑む、僕なら行けるそう思っていた。でも、目の前の光景を見て怖くなってしまった。


今なら、まだ戻れる。後数歩前へ進めば扉は閉まりボスが動き出す。


だけど、今僕が逃げたら、プレートは残るがみんなの装備は30分も経てばダンジョンに吸収されてしまう。


「それだけは……嫌だ」


みんなの頑張りをなかったことにされたくはない。


覚悟を決めろジーク。自分を奮い立たせる。僕ならやれる、僕なら負けないと言い聞かせる。


引き寄せで魔力を最大にする。


ーーーーーーーーーーー

魔力12250/1225

ーーーーーーーーーーー

「雷壁」より繊細に制御出来るようになった雷のバリアを纏う。20cm程の穴の大きいバリアだった雷壁も今では3cm程とバリアらしくなっている。このバリアに触れずに僕に攻撃するのは難しいだろう。


「ふぅー、やるか」


僕は足を踏み入れる。するとギガウルフも動き始める。ボス戦の始まりだ。試しに雷槍を8本飛ばす。軽快な動きで回避しそのまま僕に突っ込んでくる。雷ってかなり速い魔法なはずなんだけど、なんでこうもかわされるかなぁ、と思いつつ、雷刀を構えて迫る大きな爪による斬撃に備える。


大きく振りかぶり僕に向けて爪を振るうと思うと、爪を引っ込め横に体を捻り僕に容赦なく尻尾を叩き込む。


うっ、咄嗟に雷刀で庇い直撃は避けたが、雷壁を気にせずに尻尾を振り切るウルフに吹き飛ばされる。追撃に備えないと、と思ったが雷壁と雷刀にぶつかった尻尾もダメージを受けていたらしく、ウルフは一度後方に下がったようだ。


仕切り直しとはいかないか。雷壁を再度纏うが相手が気にせずに攻撃してきたら間違いなく僕の方がダメージが大きい。受ける訳にはいかない。


遠距離から、雷矢を50本放つ、その中に1本雷閃を混ぜておく。威力よりも量に拘った雷矢は脅威にはならないと思ったウルフはそのまま体で受ける。よし、当たると思った瞬間何かを感じ取ったのか突然横に飛び雷閃を避けるウルフ。


そう上手くはいかないか。流石Bランクの魔物。しかし避けた場所には既に雷刀を振るい斬撃を飛ばしている。


直撃、よし作戦通り。


と思った直後吹き飛ばされる僕。


「油断した……」


斬撃が効いていると思って油断した僕に当たった直後硬直すら無しに向かってきて爪を振るったのだ。


雷刀で受けたが受けきれず吹き飛ばされる。雷刀は飛散し、腕からは3本の爪が当たって出来た爪痕から血が出ている。


「いたぃ……」思わず口から漏れる。


腕が痺れるが、追撃はやまない。必死に回避しているが魔法を撃つ余裕もない。ここまで圧倒されるとかBランク舐めてた。今更ながら後悔している自分に呆れている。


このまま死ぬのかな。バロンさんにお金返してないや。どうしよう。ルミアさんとの食事の約束……怒るだろうか。レイトさん達の頑張った証がダンジョンに吸収されてしまう。


「まだ死ぬ訳にはいかない」、必死に避けながら何か策はないかと考える。やるしかないか……魔力の30%を一気に反発で放つ。


一気に弾ける魔力は流石に効いたのか、ウルフが吹き飛んでいく。何とか距離は取れたようだ。吹き飛んだからと言って大きなダメージを与えられた訳ではない。きっとすぐに戻ってくる。やるしかないよね。


僕は引き寄せを使い魔力を回復しつつ、ウルフが向かってくるのを待っている。ウルフの毛皮はかなりの耐性がある事はこれまでの攻撃が殆ど効いてないことから分かっている。何とか柔らかそうなお腹へダメージを与えたい。


立ち上がったウルフが吠え、僕に迫る。そして僕に向かい爪を振るう瞬間に魔磁力操作を使いウルフを上に持ち上げる。かなりの魔力を消費したにも関わらず浮いたのは少しだけ。だが、その少しがチャンスに繋がる。


下へと潜り、雷刀を突き刺し、腹を裂く。流石に効いたのかウルフの絶叫とも言える声が鳴り響く。そして追撃として雷閃を放つ。雷閃はウルフの毛皮を貫通しさらにダメージを与える。貫通した雷閃は血液を沸騰させていく。苦しむウルフ。


暴れまわるウルフに、近付けない。苦しむウルフに追い討ちをかけるように雷閃を何発も撃ち込んでいく。8発、9発、10発。ようやく死んだのか煙となって消えていく。


「やったのか……えっ、あ、死んでるのか」


僕はダンジョンに吸われる前に急いで装備とプレート、そしてドロップ品を回収する。ドロップ品は大きなアビスウルフそのもの。蘇ったかと驚いたのだ。


「少しは報いる事が出来たのかな。仇はとったよ」


聞こえている訳がない。そんなのは知ってる。でも、伝えたかった。冒険者は自己責任、例えそんな世界であっても。



ボス部屋の奥の扉を目指す。ボスを倒すと開く事の出来る扉だ。開き進むとダンジョンコアと呼ばれる美しい丸い玉が置いてある。この街の決まりでこれは破壊してはいけない。そしてその隣にあるのは転移陣と呼ばれる入口へと転移出来る不思議な古の魔法陣と宝箱が1つ。僕がボスを目指したのもこの魔法陣で帰りたかったからだ。ボス部屋を諦め帰る人はまた同じ道を帰ることになる。どう考えてもルミアさんとの食事に間に合わないからね。


転移陣に入ると、そこは既に地上。外はまだ少し薄暗く太陽が照る前のようだ。


「戻れたみたいだ……」


『お前は一昨日の坊主か、これは驚いた。攻略したみたいだな』


「はい、何とか」


僕が入る時に適当な感じで立ってただけのおじさん兵士だったが覚えていたらしい。一応仕事はちゃんとしてるんだね。


『ほいよ、これが攻略証明だ』


ダンジョンコアを壊す事を禁止している代わりに出されるのが攻略証明。転移陣から帰ってくる事が証明となる。なので常に誰かしら兵士が管理という名の監視をしている。攻略証明とボスの魔石この2つで攻略が認められるので兵士を例え味方につけ嘘をついて証明書を貰ったとしても魔石がなければただの紙にしかならないので不正を働く者は今はいないらしい。ダンジョン初攻略当初は、不正に証明書を出す兵士がいたんだとか。それで証拠となる魔石も提出が義務付けられた。


「ありがとう、兵士のおじさん」



ーー宿に一度戻り休憩してからギルドが開く6時になったのを確認して向かう。


僕の姿を見つけたルミアさんが受付から駆けつけてくる。


『ジークさん無事だったんですね。ケロケロケロッグの討伐なのに中々帰ってこないので心配してたんですよ』


あー、そう言う事にしてたんだった。手を握るルミアさんに罪悪感が。


「えーっと、ちょっと先を見たくなってしまって」


すると、僕の手に持っている紙をルミアさんが見つけて取り上げる。


『ジークさん、なんでジークさんが攻略証明書を持っているんですか……きちんと説明してもらいますからね』


『こら、ルミア。説明するのはあんたよ。受付放ったらかして何してるのよ』


『アンジュ副マス!?す、すみません。えーっとこれは』


ルミアさんが焦ってる、こんな姿みたの初めてだ。この人が副マスターなのか、出来る秘書って感じだな。赤い縁のメガネがよく似合っている。


『ふーん、貴方が、ルミアの、ね』


ルミアの?担当の冒険者という事だろうか。何か含んだ言い方が気になるが。


『あっ』


『何よ、そんな大きな声を出して』


『すみません、ジークさんに伝えようとしていて忘れていました。バロンさんとミルクールさんが戻ってきました。ミルクールさんが来たので伝えたら、朝顔を出すからとの事だったのでそのうち来られるかと』


「ありがとうございます、酒場で来るのを待ってみます」


朝食を酒場で食べる。パンにお肉を挟んだサンドウィッチみたいなやつだ。レイトさんやウインクさんのパーティーの事を話さないとな。気が重い。


1時間程してミルクールさんがやって来る。


「ミルクールお姉さん!」


『あらあら、そんなに私に会いたかったの?』


「だって……殆ど壊滅状態って聞いてたから。心配で」


『ごめんなさいね、お姉さん達は無事よ。心配してくれてありがとうジーク』


「はい、無事で良かったです。バロンさんは来てないんですか?」


『バロンはちょっと怪我しちゃってね。代わりに私が来たのよ』


「怪我酷いんですか?」


あのバロンさんが普通の怪我くらいで来ないなんて事はないはずだ。


『うーん、そうね。実際に会った方が早いわね。私から言うのもね』


ミルクールお姉さんに案内されたのは2人が泊まっている宿。


トントン、『入るわよ』


お姉さんに着いて中に入るとベッドに横になるバロンさんがいた。見た感じは大丈夫そうに見えるが。


『はぁ、やっぱり連れてきちまったか。ジークにはあまり見せたくなかったんだがな』


『大丈夫だと思ったから連れてきたのよ』


「バロンさん、怪我したって聞きました」


『あぁ、ちょっとしくじっちまってな、足をやられた』


足を見るが外傷はなさそうだ。


『違うわよ、私を庇って怪我したのよ』


『俺が未熟だっただけだ』


「酷いんですか?」


『外傷は治して貰ったからな、見だだけじゃ分からないと思うが、もうこっちの足は動かないらしい』


「そんな……」


『そんな悲しい顔をするな。冒険者ならよくある事だ』


『大丈夫よ、私がバロンをずっと養ってあげるから』


『けっ、ジークの前でカッコ悪いぜ』


「ミルクールお姉さんが一緒なら安心ですね。バロンさんが羨ましいです」


『そうよ、綺麗なお嫁さんを貰えて良かったわね』


『まあな。それよりジーク、何かあったか?』


「えっ」


『何となくだが分かるんだよ、多くの冒険者を見てきたからな』


言おうか悩んだ。バロンさんだって今苦しんでるのだから。


『お姉さん達に話すだけでも楽になるわよ』


結局抱えているのが辛くて話してしまった。


『そうか。こんなに早く経験しちまったか。まさかダンジョンの最深部まで潜ってクリアしちまうとはな。随分と無茶な事しやがる』


『ジーク聞いて、貴方のお陰で家族の元に遺品が残る。冒険者の大半は死んでもプレート以外は残らない事が多いの、家族に最後の祈りをして貰えるそれだけでその人達は貴方に感謝しているはずよ』


『俺も多くの仲間の死を見てきたが、遺品を回収出来た奴は悔しいが3割もいねえ。悔しくて悔しくて、冒険に出ない日が続いた事もあった。だがな、俺達は冒険者だ。先に行った奴らに最高の冒険を俺は見せたいと思った』


『あの時は酷かったものね。毎日お酒、お酒。見捨てなかった私って凄いと思うの』


最高の冒険か。そんなカッコいい言葉で前に進んだバロンさんは凄いや。


「でも、僕がもし、同行していたらと思うと」


『ジーク、それだけは言うな。それはその冒険者達対する侮辱だぞ』


そうだ、どれだけ傲慢なんだ僕は。戦い抜いたレイトさん達に失礼だ。


「ごめんなさい」


すると突然温かい温もりと柔らかい感触。ミルクールお姉さんが僕を包み込んでくれていた。涙が自然と溢れてくる。


『今日だけは貸してやる、だが最後だぞ?ジーク』


『もう、バロンったら』


最後なら思う存分堪能しようなんて、余裕はない。僕は泣き続ける。そして温かい温もりに包まれいつの間にか眠ってしまった。


眼が覚めると僕はいつもと違うベッドの中にいた。外は赤く、夕暮れ時のようだ。確か僕は……ミルクールお姉さんに包まれた途端涙が溢れてきて。やべえ、恥ずかしい。お姉さんの胸元で泣きじゃくるなんて。そして横にいる温かい温もり。


隣を見ると、「へっ、なんでバロンさん?」


『起きて第一声がそれでいいのかジーク。と言うより当たり前だろ、人の嫁さんと寝る気だったのか』


「そんなつもりはないですが、夢から覚めたような残念な気分です」


『ちっ、そんな事が言えるなら大丈夫だな。さっさと冒険してこい』


「こんな時間から冒険なんて出来ませんよ」


『それもそうだな』


「お腹空きました、約束してた食事に行きたいです」


『あぁ、そうするか。約束だったしな、美味いもん食わしてやる』


『2人の笑い声が聞こえたから来てみたけどもう大丈夫なようね』


「はい、ミルクールお姉さんの隣で寝れなかったのは残念でしたが、もう大丈夫です。ありがとうございます」


『私はジークと寝ようと思ったのよ?でもバロンが必死に止めるから、ね?』


「お姉さんがそれだけ好きなんですね」


『けっ、言ってろ。早く行くぞ飯だ飯』



ーー猫まんま亭。


『ここだ、見た目はともかく飯は美味いから期待してろ』


『私も味は保証するから大丈夫よ』


「はい、そんな心配してませんよ」


中に入ると中は大衆居酒屋のような作りでカウンターとテーブル席が5席程。


『旦那に姉さん、あっしが見ないうちに、そんな年齢の子供がいたなんて知りませんでしたぜ。それよりもその足どうしたっすか』


『バカ言え、こいつはジーク、冒険者だ。あぁ、ちょっとしくじった』


『ふふふ、まだ私達に子供はいないわよ。カイゼルさん』


『そりゃ、失礼しやした。ジーク君だね、あっしはカイゼル猫まんま亭の店主さ。よろしくっす』


「ジークです。よろしくお願いします」


『冒険者にしては品があるようですが、ジーク君は、貴族の子供ですかい?』


『そうなのか?』


「いえいえ、平民ですよ」


『だそうだ』


『だそうだって、旦那が連れてきたにも関わらず知らなかったんですかい。とりあえずエールとレモン水でいいっすか?』


『まあ、俺にとってはどっちでも構わないからな。料理も任せる美味いもん頼む』


『そうね、可愛いって事実だけでお姉さんはいいのよ』


盗賊の下っ端みたいな話し方をしている。実は元盗賊で2人に討伐されそうになり助けられたとか?


『それにしても、旦那がここに連れてくるなんて、珍しいっすね。しかも正直新米にしか見えませんが』


『まあ、新米だからな』


『弟子でもとったんですかい?』


『いや、俺も自分の勘にビックリしてるぞ』


バロンさんが自慢げに話している。


『なんと、その歳で塩湖をクリアしたとは驚きっす』


『だろ?俺の目は間違いなかった訳だ』


『私達は特に何もしてないじゃない、全くそんなに楽しそうにして』


ミルクールお姉さんも何処か嬉しそうだ。僕が頑張る事で喜んでくれる人がいるのは嬉しいな。


出てきたのは中華料理と言えば分かりやすいだろうか。少しピリッとしたソースが良く合うお肉と野菜の炒め物や海老チリによく似た味の食材不明の料理。そしてビックリなのが炒飯が出てきた事だ。お米あるんだ、この世界。ちょっと昔を思い出してしまった。


「カイゼルさんこのお米ってどこで買えますか!」


『お、気に入ったのかい?お米は東の国で食べられてる物でね、この国では滅多に出回らんのですわ』


「そうなんですか……」


『しかしですな、あっしにかかればちょっと手に入れるくらい楽勝なんすよ』


『どうせ、月に一度東の国からやってくる役人達から買い上げるとかそんなとこだろ』


「まあ、そうなんですがね、こんな事が出来るのはあっしくらいなんですよ?」


『流石カイゼルさんね』


「カイゼルさんって冒険者だったんでふよね?」


『はい、ですがあっしはそれ程強くなくCランクで怪我してやめちまいましたがね』


『こいつは冒険者としては3流だが情報屋としては、一流だ。今日お前を連れてきたのもその為だ』


『3流は酷いですよ旦那。せめて二流でお願いするっす』


『俺達が二流なのにお前が二流と言いたいのか?』


『Aランク間近だった旦那が二流って冗談きついですって。それより、そろそろその足の事聞かせてくれてもいんじゃありませんか?』


『あぁ、そうだったな』


バロンさんが今回の討伐について話している。


『やっぱり何か裏がありそうっすね。あっしの情報によりますとシェシェの町にタイラントリザードが現れたのは討伐依頼が出される数日前。最初は1匹だったタイラントリザードが徐々に増えていったと偵察をしていた冒険者は答えているんすよ』


『どっから聞いてくんだよ、そんな情報』


『企業秘密っす』


『まあ、いい続きを』


『タイラントリザードが発生する程の魔力溜まりが突然出来た。それも可笑しな話ですがね、群れになる程に短期間で高ランク魔物が増える事が何よりおかし過ぎるんすよ』


なんか難しいお話をしている。3人。僕は気にせず美味しいご飯を堪能してます。


『人為的に引き起こされたって事か?』


『まあ、人為的にと言うか、魔族が絡んでると睨んでる訳なんすけど』


『魔族……が来ているの?』


『姉さん落ち着いてください。アイツではありません。それに確証はないんですよ。タイラントリザードが目撃される少し前に黒い翼を生やした何かが夜空を飛んでいたと目撃情報があっただけなんですよ』


『それを結びつけるにはちょっと弱いわね。それに今更魔族がなんでこの大陸に来るのよ』


『運命を司る女神ミーティス、いえ今は邪神ですかね』


『まさか、そんな事御伽の話じゃ』


ん、邪神……とかいるのこの世界。運命を司る女神ミーティスか。今度神様に聞いてみよう。教会に行けば話せるだろうか。


「ミーティスって有名なんですか?」


『ジーク知らないのか?有名な話だぞ』


『あっしが語りましょうか』


かつてこの世界には人の幸せを司る運命の女神がいたそうです。その女神は人の望む幸せを叶える為に神の力を使い導きました。人々からは運命の女神として崇拝され、ミーティスを崇拝する者達に望む幸せが与えられたそうです。


しかし、人の欲は深いもの。望む事が叶うと次から次へと欲が出る。そして、その望みはエスカレートしていきました。


ミーティスは困りました。今まで叶えたい望みは、とても幸福な小さな幸せ。しかし小さな幸せでは満足しなくなる人間達。次第にミーティスを見限る者が増え始める。そんな信徒達を見ていたミーティスの心は次第に幸福とは別の何かに支配されていったのです。


そして、ある時一人の信徒が言いました。女神ミーティスがいたから幸せを幸せだと感じられなくなったんだと。それを聞いた人々は同調し、ミーティスの祀られていた像を壊し、神殿を破壊しました。


ミーティスを守っていた力を失い、呑み込まれたミーティス。暴走した女神は邪神となり、何もなかった大陸に魔族を生み出した。そしてその中からもっとも優れた者が魔王として選ばれた。


人間と魔族は戦争を始める。そして、邪神の力により強化された魔族は強く人間は滅びの道をたどっていた。そこで神達は勇者を召喚する術を人々に与えた。


勇者は特別な力があり、魔族を圧倒し魔王を倒し邪神を封印した。


「あれ、勇者って魔王と相打ちしたんじゃ?」


『この話は歴代最強と言われた初代勇者の話っすよ』


「封印したのに魔王が生まれるんですか?」


『邪神の呪いと言われてるっすね。この国の何処かに邪神が封印されてるって話ですからね、魔族がこちらにやってくるとしたら、邪神の封印を考えるのが普通っすね』


「封印ってそんな簡単に解ける者なんですか?」


『解けないっすね。でも魔族は魔力に長けた者ですからね。人間の施した封印を解けるような存在が現れても不思議ではない。そうは思いやせんか?』


言われてみると、あり得なくはないか。人間以上に魔力に長けた魔族達だもんな。


『まあ、今の段階では憶測に過ぎないっすね』


「そもそもなんでこんな話をここで?」


『本当は旦那達に色々調査を頼みたかったんすよ。でも難しそうなんでね、この先有望な冒険者と聞いてジーク君にも聞いておいてもらおうと思ったっす』


『こいつの情報は役に立つ。何か必要な事があれば頼ると良い』


『旦那達の紹介ですから安くしておくっすよ、まあ、憶測話も膨らんだ話から新しい情報に繋がるかも知れないっすからね。ただの世間話として聞いた程度でいてくれたらこの話はいいっす』


ここまで話して、世間話とかこの人何考えてるかよく分からない。気にしない訳ないじゃん。


その後も楽しく話をし、お腹パンパンになった僕達は宿へと戻った。宿のベッドで考える。邪神ミーティス。復活しないよね?まさかね。































































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