第4話
ーー翌日、僕は朝早くからギルドに来て人を探していた。
6時から見ているが、既に7時。冒険者なら依頼を受ける為に一度くらいは顔を出して良い時間帯。それともまだ帰ってないのか、遠征後のお休みなのか。8時まで待っても来なければルミアさんに聞いてみよう。他の冒険者の情報を聞くのはタブーとかであれば問題だけど、理由を言えば大丈夫だろう。
結局8時を過ぎても2人は現れない。僕も そろそろイノプーの隠蔽工作に出掛けたいし。ルミアさんに聞いてみよう。
「おはようございます。ルミアさん」
『おはようございます、ジークさん。昨日は大丈夫でした?ずっと席に座ってキョロキョロしてたので何かしでかしたかと心配してたんですよ』
ルミアさんの中で僕ってまさかの問題児!?
「昨日は楽しく食事させて貰いましたよ。食べた事のないような料理ばかりで緊張しっぱなしでしたけどね」
『それなら良かったです。結局チョコレートって何だったんですか?』
「ああ、それは」
僕はハピアさんとの出来事を話した。別に隠す必要もないからね。
『そうだったんですね。それにしてもあそこのプレミアムコレクションを買えたなんて運が良いですね。一度だけ一粒だけ食べた事がありますが、舌が蕩けるかと思う程の味わいでした。ギルドの一スタッフである私では金貨3枚もする甘味を買うなんて贅沢過ぎて出来ませんけどね』
あれれ、金貨3枚なんだ。という事は17枚がお礼って事?多過ぎるでしょ。返すのも失礼だし貰っておくけれど。
「はい、運が良かったです。また当たったらルミアさんにプレゼントしますね」
『ありがとう、嬉しいです。でもね、新米冒険者からあんな高い物なんて貰えません。装備を買ったりお金はいくらあっても足りないですよ?』
ごもっとも。そもそも金貨3枚何処から出たのって話だよな。いつか、稼げるようになった時にプレゼントする事にしよう。と、忘れるところだった。
「ルミアさん、聞きたい事があるんですが」
『そんな真剣な顔してどうしたんです?彼氏いるんですか?とかだったらいないですよ』
「いえいえ、バロンさんとミルクールさんがそろそろ帰ってくると聞いてたのに見当たらないのでルミアさんなら分かるかなと」
『そうですか、ジークさんはミルクールさんみたいなお姉さんがお好きなんですね』
「え、いや、ミルクールさんは好きですが、用事があるのはバロンさんの方でして」
『好きって、ミルクールさんは一回り以上に上ですが……あの美貌なら仕方がないのでしょうか』
ルミアさんと話が噛み合ってない気がするが、気のせいだろうか。僕はバロンさんとの出会いから説明をした。
『す、すみません。勘違いです。あの……バロンさんとミルクールさんですよね、ちょっと待っててくださいね』
誤解が解けたようだ。何故か恥ずかしそうに顔を赤らめたルミアさん。こんな顔もするんだな、と得した気分だ。早足で裏にあるであろうスタッフルームへと駆けていく。
ーー少しして戻って来たルミアさんの顔は少し暗い表情をしていた。
『お待たせしました。ジークさん、落ち着いて聞いてくださいね』
念を押すように言うルミアさん。まさか、あの2人に何か……
『担当してる職員に聞いて来ました。お2人の受けた依頼は、タイラントリザードの群れの討伐で、3パーティーでの共同討伐だったのですが、群れの中に変異種と呼ばれる魔物が混じっていたようでパーティーは壊滅し何人か無事に戻った者から話を聞いているところらしいです。今の所それ以上の情報はないらしく……次の情報を待っているところみたいです』
2人は無事だろうか、頑張ってDランクの魔物を倒したよって自慢げに話したかった。怖いけど優しいバロンさん、綺麗で緊張するけどお姉ちゃんのようなミルクールさん。僕にとってこの世界で初めて出来た知り合い。一緒に居た時間は短いが関係なく僕にとって大事な存在になっている。
「タイラントリザードって強いんですか?」
『そうですね、タイラントリザード自体はBランクの魔物なのでお2人なら問題はありません。ですが今回は巣が見つかったようなので恐らく、20〜30は居たのではないかと思われますね。本来なら3パーティーで上手く誘導して間引いて行くのですが変異種が現れた事で何か想定外の事が起きたのでしょう。Bランクであるタイラントリザードの変異種であればAランクは硬いですから』
そんな凄い魔物の群れの退治に行っていたのか2人は。本当に凄いや、僕なんてやっとDランクの魔物を討伐出来るようになったばかりなのに。
「遠いんですか?」
『そうですね、ここから3日程離れた、シェシェの町からの依頼なので少し距離がありますね』
3日か、距離があるなー。野営もした事ない僕が行くのは難しいだろうか。護衛の依頼はCランクからだし、馬車に乗れば辿り着けるのだろうか。
『ジークさん!まさか行こうだなんて考えてないですよね?』
「ま、まさか……」
『はぁ、言っときますけどね。今からジークさんが行ったところですれ違いになるだけです。動ける方は明日にでもこちらに向けて出発するでしょうし。状況が整理でき次第、次の討伐隊が組まれるはずです。恐らく今回は王都の方からAランクパーティーが来る事になると思います』
邪魔になるって事か……Eランク冒険者が行ったら冷やかしもいいとこだよね。2人が帰ってくるのを信じて待とう。僕は冒険者、早く2人に並べるように頑張るだけだ。
「僕は森に行ってきます。ヘラクレスの受理お願いします。後、2人が帰ったら教えてくださいね」
今日はヘラクレスの依頼。 イノプーとセットで報告したら何か言われるかも知れないけど、ずっと依頼をずらしずらし報告する訳にもいかないもんな。さて、やるか。
『気をつけて。行ってらっしゃい』
ーー森の奥地、ヘラクレスの住む蜜木が生えるエリアに来ている。
今日は剣はないので杖装備の魔法使いスタイルだ。途中、サク、リサラ 、ラナを見かけたが薬草採取から討伐依頼に切り替えたのだろうか?まあ、他人の心配している暇はないのでそのまま奥へと向かったのだが。
到着した蜜木の生えるエリアはとても甘い香りが漂っている。罠じゃないかと思うような甘い香りがするのだがこれは木の特性らしい。先程からパタパタと羽の動く音が木の上の方から聞こえてくる。
ジー、っと木の上の方を見るが羽音だけでヘラクレスは見当たらない。と魔力探知をしてみると、いくつかの木から反応がある。
「まさかの同化系か」
僕の想像では、カブトムシのような光沢のある硬い体だったのだが、ミノムシの周りに付いてる木の模様のような体をしている。少しゴツゴツしていて、硬い所を見ると岩肌と言った方が良いかもしれない。
目が慣れてくると、見つけるのはそう難しくない。知らないと木の模様と思ってしまうが、知っていれば結構な違和感があるのだ。
とりあえず、「雷矢」。試しにヘラクレスの体に当ててみる。確かに当たったはずだが、痺れた様子はない。硬いのか、雷と相性が悪いのか。落とさない事にはお腹側に魔法は撃てない。高さ的に杖で殴りつけるのも難しい。上手く剥がす方法はないだろうか。
「うーん」飛んできてくれたら楽なんだけどな。と思い待つが飛んでくるヘラクレスはいない。木の割と高い所では羽音はするんだけどね。魔磁力操作で、魔物を引っ張れたりしないだろうか。
はがれろー、はがれろー、こっちにこーい、こっちにこーい。と念じてみる。
んんん、ちょっと今動いたような気がした。強く引っ張るイメージで引き寄せをしてみる。魔素の網に引っ掛けるイメージだ。
えっ、何が起きた?って感じのヘラクレスが地面に落ちる。飛ぶと予測してたのにまさか落ちるとは。眠っていたのだろうか?
お腹を向けてもがいてる、ヘラクレス。チャンス!「雷閃」
お腹からの雷は効果抜群のようでガタガタと震えたと思ったらジュワーと煙があがり動かなくなった。ヘラクレスゲットだぜ。うん、懐かしいセリフ。
思いの外、色々な使い方が出来そうな魔磁力操作、色々と検証が必要だ。
そして、今雷閃を使って見た時気付いたのだが、レベルの影響なのかコントロールがしやすくなっている気がした。もっと大きな雷のクナイを作っても大丈夫なような。
依頼は3匹。とりあえず先に雷閃の実験だ。いつもより多くの魔力を込め圧縮し雷のクナイを作る。ここまで2秒。5秒程かかっていた事を考えるとかなり使い勝手が良くなった。大きさは、15cm程と実用的な大きさまでコントロール出来るようになっていた。
「これなら、やれるかな」
雷閃を作ったばかりの時は、難しく断念していた魔法がある。雷で形作る刀。男なら憧れる人も多いだろう、ビームソードみたいなやつだ。5cm程のクナイを作るのがやっとで前回は諦めたが今回は違う!
魔力を圧縮し、刀を形どっていく。うん、短刀。分かってたさまだ刀は無理だって。15cm程の雷で出来た刀。「雷刀」と名付けよう。ただ切れる剣や刀よりもかなり脅威だ。短いので少し近付かないといけない所が何とも言えないが……折れない魔短刀的な感じかな?
そして、ここからが僕の奥の手。雷刀から、魔力の刃を放つ。圧縮した魔力を使うので3回程使うと短刀が消えちゃうんだけど、魔物はともかく対人戦ではいきなり刃が飛んできたらかなり効果的だと思う。
そのうち僕も、人と戦う事になる。人と言っても盗賊など悪い人。Cランクからは良くある依頼らしい。人を殺せるかはともかく死にたくはない。その為に準備はしっかりしておきたい。普段はそのまま雷刃として飛ばす方が威力も高く魔物には効果的。
○雷矢 ○雷閃 ○雷刀 ○雷刃
最近良く使うスキル。と言うより殆どこの魔法しか使っていない。名前が似ているし、「ライトニングアロー」とか「ライトニングスラッシュ」とかカタカナの方が分かりやすい気もするが長いし何となく恥ずかしさ倍増な気がする。
ーー2匹目の討伐再開。
魔磁力操作で剥がし落とす。そして「雷閃」、威力が上がったからか痙攣時間も短く絶命するヘラクレス。ちょっとあっさりしすぎだ。3匹目も同様に落ちた所を倒す。
イノプーの時に感じた戦いの緊張感がなく、つまらないと感じてしまった。こんな戦闘狂みたいな考え方をするようになるとは。
暇つぶしがてら訓練をしよう。帰りは3時間もあれば僕なら帰れるしまだ、2時間くらいなら余裕なはずだ。
空を飛んでいる魔物を相手にしてみよう。今回の訓練のテーマだ。まずは見えないので相手に敵と思わせる所から。見える相手なら致命傷を狙うけど羽音しか聞こえないからね。
「雷矢」を10本出し空へと放つ。それを繰り返す。葉っぱが次第に焼けチリ、生い茂る葉が減り木々の上を旋回しているヘラクレスが見えてくる。1.2.3.4.5.6.7.8。思った以上にいらっしゃる。
距離があり、雷矢が届かないので本数を減らし威力を上げる。もはや雷矢と言うより雷槍だ。という事で「雷槍」。30cm程の槍が3本ヘラクレス目掛けて飛んでいく。雷閃や雷刀と違いサイズは倍だ。何故かわからないが雷矢と雷槍は制御が楽なのだ。
ヘラクレスへと向かった雷槍は2匹のヘラクレスのお腹に突き刺さる。そして落下してくるヘラクレス。弱点丸出しはマヌケ過ぎる。とか思っているとバタバタバタと羽音が沢山近付いてくる。
怒ったヘラクレスが群れをなし僕に向かってきているのだ。
「やばっ」
急いでスイーツバックにヘラクレスをしまい。臨戦態勢に入る。雷刀を構え、雷矢をヘラクレスに向けて放つ。
「ダメか……」
正面から突っ込んでくるヘラクレスの硬い体に雷矢は効かない。お腹に当てるにしても角度が悪いし6匹と数が多すぎる。
一度避難、突っ込んでくるヘラクレスの角を横に飛び込み避け木の後ろへと隠れる。
木に思い切りぶつかるヘラクレス。
バキバキバキバキ
そして、次のヘラクレスがぶつかる。
バキバキバキバキ、木が傾いている気がする。しかもだんだん僕に近付いてるような……。ってやばい、僕は慌ててその場から避難する。が、待ってましたと言わんばかりに先回りしていた2匹のヘラクレスと正面から対峙してしまう。
ニヤっと笑ったように見えた。ヘラクレスは僕に向けて一直線に向かってくる。
「反発」僕は全てではなく、凡そ2割の魔素を反発する。反発された魔素は僕から外に向けて破裂するように弾け、向かって来ていたヘラクレスを弾き返す。
僕に向けて飛んでいた2匹は突然の事にぶつかり隙が出来た。その間に僕は近付き、雷刀を下殻お腹に突き刺す。残りは4匹と思ったのだが、僕にやられた仲間を見ていたからか、上空へと逃げて行く4匹。
「雷槍」、3本の槍を飛ばし逃げるヘラクレスの覆われていない、お尻の下部分に当てる。とても痛そうだ……もう1匹もと思ったが既に見えない所へと葉に紛れ行ってしまった。計8匹。中々の成果だ。
夕刻までに帰る為、帰路に着いていた僕。帰り道である、ハッピーの生息地を通ると、まだ3人は狩りをしているようだった。そろそろ帰らないと門が閉まるが良いのだろうか。今は15歳だが元は22歳だ、少年達の事が少し気になってしまう。
「そろそろ戻らないと門が閉まるよ」
同じくらいの年齢だ、かしこまる必要もないだろう。
『サク君帰ろうよ。門が閉まっちゃうって言ってるよ』
『でも、まだ今日の依頼分が……』
『ラナの言う通りよ、私達に野宿させる気?』
『俺だって、そんな事分かってる。後少ししたら帰るさ。だけど、ちょっとでも早く先に進みたいんだ』
青春だなぁ、とか思うけど。門が閉まると最悪詰所で寝泊まりと聞いてるし女の子達は可哀想だよね。
「門が閉鎖されたら新米冒険者は恐らく詰所で一晩明かす事になるらしいよ?」
『そんなの嫌よ、私達は先に帰るわよ。ラナ行くわよ』
『えっ、え、リサラ ちゃん?サク君置いて行っちゃっていいの……かな』
『勝手にしろ、俺はもう少し残る』
あーぁ、やっちゃったな仲間割れ。余計な事言ったかな?そもそも気の強い2人に緩和剤的なラナ。ちょっと板挟み感が強い。リッツって子が上手く回してたのかも知れない。
2人は先に帰って行く。3人で上手く出来なかったのに、1人でどうするつもりなんだか。
「えーっと、帰ってしまったみたいだけど大丈夫?もうすぐ暗くなるし、視界が悪い中狩りをするのは大変だよ」
『煩いな、同じ歳くらいだろ?偉そうにすんなよ。その格好見る限り俺らと変わんないだろ』
「そうだね、Eランクだし一緒くらいかな?」
『邪魔だ、帰れ』
「酷い言われようだね。僕はこれでもヘラクレスやイノプーをソロで狩って来ているから君と同じにされたくはないかな。そもそも仲間3人で達成出来なかったのに1人で何をするつもりだい?」
『な、そんなの嘘だ。お前なんかがDランクの魔物を狩れる訳がない。嘘を言うならもっとマシな……』
僕はスイーツバックからヘラクレスを1匹出した。リュックから出す振りはしたが明らかに大きさがあれだが今のサクなら気付きもしないだろう。
「これで分かった?」
『……何でだよ、何でこんなに頑張ってるのに上手くいかないんだよ。リッツがいた時はこんな事はなかったのに』
悔し涙だろうか、拳を強く握りしめて堪えているが時々涙が溢れて溢れている。
「僕はソロだから、君の気持ちは完全には分からない。でも、パーティーのリーダーである君が仲間を危険に合わすような事をするのは間違ってると思う」
『俺がリーダーに相応しくないのはわかってんだよ。こんな性格だし、リッツが居なきゃ作戦すらまともにたてられない。なんで死んじゃうんだよ』
死んでしまった大事な仲間。僕に口を出す権利などあるのだろうか、偽善者ぶって、諭すのは簡単だがそれは意味があるのだろうか。
「悔しいなら仲間と一緒に考えれば良い、成長すれば良い、分からない事は先輩冒険者やギルドの人に聞けばいい。ソロじゃない君が何故一人で抱え込む必要があるんだい?2人はきっと心配しているよ。この先も仲間でありたいと思うなら今すぐ行くべきだ」
『俺はもうアイツらを失いたくない』
偉そうな事を言ったが僕ぼっちなんだよね。せっかく出会えた仲間。大事にしないとね、僕みたいに出会えない人もいるのだから。と言うかサクってハーレムパーティーじゃないか。別に羨ましくないんだからね。
はっ、とした顔で街へ向けて走るサク。何か吹っ切れたような顔をしていた。少しは僕の言葉が役に立ったのだろうか。
「あっ、やべ。僕も急がなきゃ」
ーー何とか間に合い門をくぐる。
あっ、 イノプーとヘラクレスをどうするか考えてなかった。リュックから出したら驚かれるよね。アイテムバックみたいなのってあるのかな。リヤカー借りてもヘラクレス8匹は無理だ。イノプー1匹すら乗らないかも、と言うか体重オーバーな気がする。
ルミアさんに相談してみようかな。悪いようにはされないと思うし。
ーーギルドに到着すると、既に飲み始めてる冒険者も多くいて賑わっていた。ルミアさんの列は相変わらず長い。偶には疲れたし、別の列に並ぼうかなと列をズレようとすると、ルミアさんの方から凄い視線を感じた気がした。しかし、ルミアさんを見てもいつも通りの笑顔で応対していた。気のせいか?何となく移りづらくなってしまい僕はそのまま列に並んでいる。
お酒、大学に入ってから何度か飲んだが美味しいと思えなかったなー。凄く美味しそうに飲む冒険者達。パーティーで今日の依頼の事を話したりと楽しそうだ。
奥の方を見てみると3人仲直りしたのか、サク、リサラ 、ラナの姿があった。ハーレムに決して嫉妬などしていない。
『ジークさん、今日は遅かったんですね。それより聞きたいことがあります』
「ヘラクレスの場所結構距離ありますし、少し苦戦して遅くなってしまったんですよ。どうされました?」
『今日違う列に並ぼうとしませんでした?と言うか倒したんですか?』
「えーと、ルミアさん人気で凄い並んでたので遂。依頼完了で願いします。あ、ついでに イノプーも倒したのでそれも」
『遂、ですか。並びたくないならBランクになって私を専属にしたら良いんです……』
「えっ」
『いえ、なんでもないです。それではギルド証をお願いします』
「お願いします」
『……ヘラクレスが8匹。どんな無茶をしたらこんなに。Dランクのパーティーでも2日で3匹討伐が目安ですよ。その日に帰ってこれる依頼じゃないんですけど。イノプーは、変ですね討伐されていません』
「運が良かったんですよ。丁度群れでいたので。えっと、確かにちゃんと倒して死んだのも確認したのですが」
スイーツバックに入ってるし、間違いない。どう言う事だ?
『群れでいたら普通は逃げるんですが、無事でしたのでこれ以上は言わないでおきます。ジークさんが嘘を付くとは思っていませんが、ギルド証が間違う事も過去にないですし、どう言う事でしょうか。ちょっとお待ちくださいね』
どう言う事かって僕が知りたいんですけどね。
『おいおい、見栄張って虚偽の報告か?最近ルミアちゃんと仲良くしてる新米ってお前だろ?』
なんだこのおっさん。如何にも小者な盗賊みたいななりをしている。とりあえず無視。
『なっ、無視してんのかてめえ。新米の癖して生意気な、早く退けよ』
僕の肩を掴もうとしてくる盗賊。いや訂正盗賊みたいな冒険者。鬱陶しいので少しだけ痛い目に合わせてやろう。
僕は、肩の表面にスタンの魔法をチクっと痛いくらいに威力調整して待機させる。
バチッ、『いってえ、何しやがる』
「えっと、盗賊?」
僕の言葉に、大きな声に反応してこちらを見ていた冒険者達が盛大に笑う。
『なっ、誰が盗賊だ』
「え、違うんですか?僕を襲ってきたように見えましたが、乾燥する時期だからか静電気で触れられず未遂で終わったみたいですが」
盗賊Aは手が痺れるのか、何も話さずBだけが赤い顔して突っかかってくる。パチっ程度に抑えたつもりがバチっ、って音がなったからね。暫く痺れは取れないかも知れない。自業自得だよね。
『てっめえ』
『また貴方達ですか。今はジークさんを応対中ですよ?問題を起こすなら別の列に並んで貰って結構です』
ルミアさんが戻ってきたようだ。
『わ、悪かったよ。だからルミアちゃん、そんな事言わないでくれよ。俺達冒険者の癒しなんだからさ』
『そう思って下さるなら、今後は私が笑顔で居られるようにしてくださいね』
うわー、盗賊が一撃で沈んだ。ルミアさん流石だ。
『ジークさん、貴方もですよ?どうせ、煽るような事言ったりしたんですよね』
えっ、僕に飛び火した!?
「煽りましたけど、相手が僕に手を出したからですよ」
『そうでしたか、てっきりジークさんの煽りが原因かと思ってしまいました』
「酷いです、ルミアさん。そんな風に見られていたとか凹みます」
凹んではないけど、ちょっと酷いから落ち込むフリくらいしてやろう。
『あ、あのすみません。お詫びに一つだけ私の出来る事ならするので。その、あの……』
あれ、思った以上に慌ててる。でもお詫びに私の出来る事ならですと!それってあんな事でも。何て馬鹿な考えはやめよう、ルミアさんの一言にみんながこちらを見ている。そんな事を言ったら全員を敵に回しそうだ。
「じゃあ、今度ご飯にでも行きませんか?」
これ以上に無難な答えを見つけることが出来なかった。鬼のような男性冒険者からの視線があるが、これくらいは許してほしい。と言うよりこれで、それだけはごめんなさいとか言われたら恥ずかしくて寝込みそうだ。
『はい、ってそれお詫びになるのでしょうか』
それ以上を望んでもいいと言うことか!
『なるに決まってるだろ、良かったな坊主』
『『そうだそうだ、お詫びどころか釣りが来るぞ』』
盗賊Aがそれ以上は言わせまいと無理やり話を終わらせてきたのだ。だが、しかし、せっかくお詫びと言ってるからには何か言わないと。と思っていたら追い討ちのように、酒場で飲んでる男性冒険者達が叫ぶ。これ以上言うなよ、分かるな?とでも言いたいかのような視線を込めて。
「では、食事に行くって事で、また日にち相談して決めましょうか」
『はい、楽しみにしていますね。それと、やはりカードの不具合はあり得ないとの事だったんですが、何か倒したと分かるものはあったりしますか?』
申し訳なさそうに言うルミアさん。こんな顔をさせるのは違う気がするな。あまり知られたくはないが隠して貰えばいいか。
「素材はあるのですが、何分大きいのとあまり見られたくないんですが」
『では、貴重な時間物が運ばれたりするときに使う倉庫を使いましょうか。幸い今は使用中ではないはずですので。そこなら、解体師と、ギルド職員以外は持ち込んだパーティーしか入ることが出来ないので他の冒険者の目に触れることも御座いません。大きいものですと、運ぶ際に見られていたりするのはどうしようもないんですがね』
僕の場合は大丈夫。見られる心配なんてないから。
ーー案内されて来たのは解体所の隣にある扉のない倉庫のような場所。
『こちらですよ』
あぁ、扉は横にあったのか。解体所と同じ並びに扉があれば丸見えだもんな。
中はとても広い、パッとみ大きいのは分かっていたが中に入ると解体所の倍くらいの広い空間に一体何を運ぶ想定で作ったのだろうと思う程だ。オークや イノプーくらいしか見た事ないからな。
『何の為と思ってますか?』
「分かってしまいましたか」
『はい、そんな顔をしていましたからね。ここは、別に大きな魔物を想定してる訳ではないんです。普段は貴重な魔道具や、鉱石など小さな物を扱う場合にも使われます。高ランクパーティーの中には、並びたくない、見せたくない秘密を抱えた人達も多いのでそんな冒険者達の事を考慮して作られたのが始まりのようですから。では、私は解体師の方をお呼びしてきますね』
「あっ、待ってください。2人で少し話せますか?」
『ふ、2人でですか?』
何故だか、不思議な緊張感が漂い始める。
「聞きたい事があります」
『はい、なんでしょう……』
「アイテムを多く入れる事が出来る鞄とかの扱いってどんな感じですか?」
『えっ、鞄ですか?アイテムバックの事でしょうか。ダンジョンでのみ手に入る貴重な物ではありますが、小さい物なら高ランクのパーティーでは珍しくはないですね』
ちょっと、がっかりしたような表情で答えてくれる。小さくても普通に持ってる人がいるなら大丈夫だろう。
「良かったです、このリュックがアイテムバックなので、あまりに珍しい物であればあまり人に見せたくないなと思いまして」
『そうですか、イノプーくらいなら小さいアイテムバックにも入りますし大丈夫ですが、先に出してから呼びに行きましょうか』
という事で、イノプーとヘラクレスをドサッと倉庫内に出す。
『えっ……これってまさか』
あれっ、何故だが硬直してるルミアさん。
「どうかしました?イノプーちゃんと退治したって信じてくれました?」
流石に実物見ればカードの方がミスだと信じて貰えるだろう。まさか倒さずに、拾ったとか言われないはず。
『ジークさん、これはイノプーですが、 イノプーじゃありません』
「え、まさか、猪でなく、熊だったとか」
『そんな訳ないじゃないですか、どう見ても猪です。ですが、これはジュエルイノプーと呼ばれる イノプーの希少種です』
「なんだ、良かった。イノプーじゃないとか言うからビックリしましたよ」
『ビックリしたのはこっちです!そもそもジュエルイノプーはCランクの上位に当たる魔物です。なんでジークさんが倒せてるんですか!しかも翡翠苔に覆われてるだなんて』
Cランクでも強い方の魔物だったのか、レベルの上がり方もヘラクレスが弱く感じたのも納得だ。翡翠苔、何処かで聞いたような。
「Cランクの魔物でしたか、死に掛ける訳ですね」
『イノプーくらい見た事ありますよね?なんで大きさが3倍以上あるのに気付かないんですか』
言われてみれば。確かに大きい。
「大人のイノプーかと……」
『……はぁ、それとそんな大きな魔物が入る鞄は見た事がありません。国宝と言われても信じてしまいます。絶対に他の人には見せないでくださいね。解体師も今回は契約をしたから連れてきますのでちょっとここで大人しくしててください』
どうやら、これだけ入る鞄は国宝級らしい。スイーツバックを誤魔化すにしてもやり過ぎたようだ。大人しくと言われたので、とりあえずステータスでも確認する。
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ジーク
年齢15歳
レベル:36 種族:人族
生命力975/975 魔力7550/975
体730
力730
知730
敏730
スキル:採取[1] 雷魔法[5] 剣術[3] 杖術[3]
短剣術[2] 解体[1] 魔力操作[3]
気配察知[1]
EXスキル:魔磁石[3]
EXスキル:スイーツバック
EXスキル:言語理解
加護:スイーツ神の加護
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ジュエルイノプーより弱いヘラクレスでは多く倒しても3しか上がらなかったようだ。それともレベルが上がり上がりにくくなってきたのだろうか。
雷魔法は遂にレベル5。いくつ上限かは分からないが最後の槍を放った時凄く余裕があった気がした。実際3本しか無理だからと1匹仕留め損なったが、3本飛ばした後にもっといけたかもと感じたのだ。
杖術が3になってるが、殆ど装備してただけ。ヘラクレスではなく、木を叩いた覚えがあるがそれで上がったのだろうか。
短剣術、雷刀……を使ってたからだと思うが、あくまで刀をイメージしてるのにスキルに短刀扱いされるとは。見た目は短刀だが、剣術扱いして欲しかった。
魔力操作は実感していた通りに順調に上がってる。1上がる事に制御力が増すので早くあげていきたいスキルだ。
気配察知は、イノプーを探し回ったからだろうか?それとも逃げる時に後ろを気にしてたからだろうか。有り難いスキルなので素直に喜んでおこう。魔力探知と合わせて使えば精度も増すだろう。
コンコン
『ルミアです、入りますね』
「あ、はい」
ルミアさんと男の人が2人入ってくる。
『こちらは解体長のダクシムさんと解体師のテムさんです。契約済みなのでお2人が他に漏らすことはないので安心してください』
契約って契約書的なのを書いたって事なのかな?まあ、ルミアさんが安心して良いと言ってる訳だし大丈夫か。
「はい、ダクシムさん、テムさんよろしくお願いします」
2人に挨拶を済まし、解体に入ってもらう。
『これは、凄えな。ジュエルイノプーなんて6年振りか?』
『もう、そんなに経ちますか。今ではあの方は王都の騎士団長ですからね』
6年前にも、ジュエルイノプーが現れ倒されたようだ。冒険者から騎士団長に出世した人がいたって事かな?
『っと、ジークだったな。今晩中には終わらせておくから、また明日にでも顔を出すと良い』
聞き耳を立てていると、明日また来いと言われてしまった。もう少し聞きたかったのだが。
「ルミアさん、騎士団長さんって冒険者出身なんですか?」
『うーん、私が入る前の話なのであまり良くは知らないのですが、元々王族で継承権が低く、冒険者として名を上げるために旅をしていたと聞いています』
なーんだ、元々身分がある人だったのか。庶民から騎士団長になるのは難しそうだもんな。
「そうですよね、一冒険者が騎士団長になるのは難しいですもんね」
『そうですね、でも王都の騎士団長の中には平民の出の方もいますよ?』
おー、庶民から騎士団長への出世。物語の主人公みたいな人がいるんだな。
「凄いですね、それは。なんて人なんですか?」
『ヒデキ・クリモト騎士団長ですね。結構有名ですよ』
ヒデキ・クリモト?
クリモト・ヒデキ。気のせいかな?日本人のような名前だ。
「変わった名前ですね」
『そうですね、東の小さな国出身見たいで、そこの人々はみんなそんな感じの名前らしいですよ』
「詳しいですね、憧れてるとか?」
『いえ、この国の人なら読んだ事も多いはずですが。「英雄物語」〜東の国から来た名もなき少年の物語です』
物語になってるのか、転生者とかではないのかもしれないけど、その国には興味があるから読んでみよう。
「今度読んでみますね。後食事の件なんですが、来週の火の日はどうですか?」
『大丈夫です、楽しみにしてますね。そろそろ私は仕事に戻ります』
戻りますと言って、ちょっと走り止まって振り向いて手を振るルミアさん。可愛い。
ーーそして次の日の朝。
ルミアさんに案内され、解体所に来ている。ギルドに入ると直ぐに呼び出されたのだ。
『おう、来たか。解体は終わってるぞ。久々な大物で楽しめた。礼を言う』
「いえ、こちらこそ、徹夜してもらったようで、ありがとうございます」
『ジーク君は珍しい冒険者ですね。解体師の仕事で徹夜は良い事なんですよ。大物や珍しい魔物以外では徹夜なんてありませんからね。とても興奮してしまいましたよ』
「そ、そうですか」
鼻息荒くしてるおっさんに近づかれると遂、体が拒否してるのか下がってしまう。
『テムさん、ジークさんが困ってますよ』
『これはしっけい。師匠も私も興奮が冷めてないようですな』
『お前と一緒にするでないわい』
『とりあえず本題に入りましょう。ジークさんの倒した魔物ジュエルイノプーの表面に付着していた苔全てが翡翠苔と言うことがわかりました。そしてジュエルイノプーの討伐と素材にヘラクレスの素材。かなりの高額になるのでギルド内で渡すのは危険という事でこちらでお渡しする事になりました。今回でDランクとなる訳ですが、Dランクの報酬にしては高すぎますからね』
渡された袋はずっしりと重かった。
内訳は。
ジュエルイノプー討伐特別報酬銀貨50枚
素材の買取代金は金貨8枚。お肉が美味らしく殆どが肉の価格らしい。美味しいと言われると気になるもので半分を買取、半分を持ち帰りにして貰った。なので買取金額も半分の金貨4枚だ。
そして、翡翠苔が約1kg。10gで20銀貨という事です、金貨20枚。まさにジュエルイノプー。
ヘラクレスは×3で銀貨5枚なので、8匹討伐で銀貨8枚と素材買取金額、銀貨92枚。少し色を付けてくれたらしいがこれ程品質が良い物は殆ど見られないとのことでこれだけ額にしてもギルドとしては十分な利益らしい。
合計で、金貨25枚と銀貨50枚。何というか普通のDランク依頼をこなすのがバカらしくなってくる額だ。庶民の1世帯当たりの生活費は月に金貨1枚以下らしいのでずっと暮らせる程ではないが、かなり余裕があると言える。ルルさんから貰ったお金もあるし、商売に手を出したりも有りかもしれない。危険も少ないしなー。
「凄い額ですね。びっくりしました」
『私の方がびっくりしてますよ?全身翡翠苔に覆われたままのジュエルイノプーを倒してくるなんて……でも、来週のお食事がより楽しみになりました。期待してますね』
ハードル上げないでください。街の事全然知らないんですから……はぁ、誰かに相談したいけどルミアさんしか知り合いが。と、ルルさんは無理でもハピアさんなら「ちよこれいと」に行けば朝並んでるはず。貴族のメイドだし、美味しいお店とか知ってるかもしれない。
『ジーク君も大変だね。でもあのルミアちゃんが冒険者からの誘いを受けるのは初めてじゃないかな』
「お詫びらしいですからね」
『そうなのかい?私には楽しみにしてるようにしか……まあ、そんな事よりまた珍しい魔物を待ってるよ。師匠が寝てしまったから私も運んで休むとするよ』
「はい、ありがとうございました。またよろしくお願いします」
今日は依頼を受けずに、オフにする予定だ。大金手に入れたからってサボリな訳ではない。街の図書館で勉強だ。僕は常識的な知識もあまりないし、そもそもこの世界の事を知らなさ過ぎる。もっと早く来るべきだったが余裕がなかったので仕方がない。
街の図書館は、銀貨2枚で利用可能。帰りに返却してくれる良心的な仕様だ。不満を言えば借りられないのでその場で読むしかない事くらいだろうか。
今回読むのは、この世界の大陸や地理について。後は魔法やスキル。最後に時間があれば英雄物語を読んでみたい。
世界の名は、シュトリアス。創造神シュトリアスにより造られたのだと言う。
シュトリアスには4つの大陸が存在し、
・ヒューイット大陸
・アルメシア大陸
・スリープ大陸
・魔大陸、と呼ばれている。
僕が今いるのがヒューイット大陸。
・ロール王国
・パティス帝国
・ハート商業国
・ルクルー獣王国
・シルス神聖国
大きく分けると5つの国がある人族の多い大陸らしい。
アルメシア大陸は、「亜人大陸」とも呼ばれ様々な種族が暮らしているらしい。唯一こちらの大陸と交流があるのがルクルー獣王国らしいが、巨海と呼ばれる大きな海を挟んだ先にある大陸同士なので交流出来る回数も年に一度程と少ないらしい。別ルートとしてダンジョンがあるらしいがAランク以上の魔物の巣となっており、過去の勇者が一度だけ、ダンジョンを通り大陸横断をしたがそれ以降誰も横断出来ていないらしくそのダンジョンは封鎖されているらしい。
スリープ大陸。別名「枯れた大地」
何も育たず、何も生まれずと言われている大陸。大昔の資料にあるだけで本当にあるかすら分かっていない。
魔大陸、魔族と呼ばれる種族が住む凶悪な魔物の多い大陸。過去に何度も戦争があったらしい。資料によると今から50年前に起きた戦争が最後のようだがお互いかなりの被害が出たようだ。光の勇者コウキ・サクラザワと魔王ミュシテル・テアロードの相討ちで終結したと書かれている。この人も、東の国の人なのか?それとも……。
「ふぅー、疲れたな。読むのが何となく早くなってきた気がするけど文字ばっかりは疲れる」
首を鳴らしながら肩をコキコキさせていると、静かにしてくださいと言わんばかりの睨みが近くから飛んでくる。
すみませんと頭を下げて、次の本を探しに向かう。スキルと魔法についてだ。何か強くなるのに役立つ事が書かれているかも知れないし、他の魔法も覚えられるなら覚えたい。
そう思い、スキルと魔法の本を探していると見知った少女と目が合う。
『あっ、来ないだの。あの、ありがとうございました』
お礼を言われる程の事はしていないはずだが。
「いえいえ、何か役にたったなら良かったです」
『はい、あの後サク君が急に人が変わったように私達に謝り、素直な本音を教えてくれました。暫くは、依頼ではなくギルドでの講習を受けたり、こうやって図書館で勉強する事にしたんです。サク君が言い出したんですよ?本当に驚いちゃいました、何をしたら人があれだけ変わるんですかね』
興奮して話す彼女は凄く嬉しそうだ。そこまで変わるとは思ってなかったが、これはこれでありなのだろうか。そもそもサクが言い出したのが驚きと言われてもまともに話したの来ないだが初めてなんだよね。
「そうですか、それは何よりですね」
『同い歳くらいですよね?私はラナといいます15歳です』
「ジークです、同い歳です。それよりもここで話してては怒られちゃいそうです」
っと、司書さんみたいな人が睨んでいる。
『あっ、すみません。私が大きな声出したから』
「いえ、僕も勉強に戻ります、また何処かであったら話しましょう」
どうしてこうなったのだろうか。僕の隣で座って本を読む彼女。スキルと魔法についての本をいくつか手に取り席に座ったまでは良いのだが、少しして僕の隣に座る彼女。驚いたが、何も言わず本を読みだす彼女、図書館は静かにするところ、席で話すにしても小声なのだが、いきなり耳打ちするように話すのも躊躇われる。
諦めて僕は、本を読み始める。
「スキルと魔法」
スキルと魔法について分かっている事はそう多くはない。スキルは生まれた後後天的に覚える。覚えるスピードは、個々により違い。自分の才能を見極め努力する事が重要。成人である15歳を迎える頃には才能のない者でも2〜3つのスキルを習得する事が出来ると言われている。天才と呼ばれる類い稀なる才能を持つ者で過去に6つのスキルを覚えていた者もいるとか。
そう考えると、スキル覚えるには相当な努力と時間がいるって事かな?そこからスキルのレベルを上げたりもしないといけないと考えるとスイート様の加護ってかなり凄いんじゃ。
スキルレベルについては現在分かっている最高レベルが勇者コウキの剣術レベル9。限界が9なのか、10になる前に相討ちになったのかどっちだろうな。僕の場合まだ雷魔法のレベル5が最高だから気にする必要もないんだけどね。
続いて、魔法についてだ。
魔法は先天スキルと言われ、後天的に覚える事が出来ない。但し、ダンジョンで稀に出るスクロールを使用し例外的に覚えることも出来る。スクロールは非常に出にくく数年に一度出たとしても高価な為、当てせず自分の才能に合った生き方をしようと書かれている。
火、水、風、土の基本4属性。大体100人に一人くらいの割合でどれかしらの魔法スキルを一つ覚えているらしい。才能のある者で稀に2属性持ちもいるのだとか。そして勇者コウキは3属性持ちで火、土、光属性を使えたらしい。流石勇者チート過ぎる。
上位属性には、氷、雷、光、闇、時の5属性があり氷、雷は50万人に一人くらいの割合で光は勇者と聖女のみ、闇は魔族の属性らしい。時属性については、過去にいたとかいないとかよく分かっていないらしい。
50万人に一人の人間に僕はなったのか。そこまで珍しくないとスイート様言ってたのに。まあ、勇者や聖女の光属性程じゃないか。闇属性はちょっと気になるが人族である僕には縁がなかったらしい。時属性と言えば転移能力、神様に言われたスクロールの中にも時属性が合ったので存在する事は分かっている。厄介な事を避ける為に選ばなかったが正解だったようだ。存在するかも分からないようなスキルを貰ってバレたら、転移専用の道具にされたりする可能性もある。
うーん、スキルはともかく新しく魔法を覚えるのは絶望的だな。
もう一つ分かった事もある。ライトニングアローやライトニングスピアと言う魔法が存在するようだ。元々ある魔法なので、制御がしやすく雷閃や雷刀よりも大きくしたり数を増やすのが容易だったのかもしれない。レベルを上げ制御能力が上がれば多分差は無くなるはずだ。あくまでこれも補正的なものだとみている。
一通り読み終えるとお昼を既に回っていた。英雄物語は、今度にしよう、疲れたしお腹空いた。
席を立ち上がり外に出た僕。
『疲れました?』
「って、ラナか」
『はい、ラナです』
突然現れた事に驚いてしまう。何を話して良いかわからない。
「えっと、ラナは何の本読んでたの?」
『私は水属性魔法が使えるので、水属性魔法のスキルについてです。簡単な、アクアヒールとアクアキュアしかまだ使えないので私も攻撃に参加出来るようにと覚え方を調べてたんです』
属性別の本もあったのか。今度調べてみよう、参考になるかもしれない。
「そっかー、回復役が攻撃も出来れば戦闘の幅は広がるかもね」
『はい、ジーク君は何を調べてたんですか?凄い速さで読まれてましたが』
「僕はこの世界の歴史と地理。後はスキルと魔法についてだよ」
『珍しい本をお読みになるんですね』
まあ、この世界の人間じゃないからね。と言うよりもお腹空いたし図書館の前で話すのも邪魔になりそうだ。
「ラナ、ここで話してると他の人に迷惑になりそうだし僕はお昼でも食べに行ってくるよ」
『私もお腹空いたので着いてきます』
あれ、着いてくるの?困惑している僕。
『ダメでしたか?』
悲しそうな顔をするラナ。
「あぁ、別にいいけどびっくりしただけ。殆ど初対面だし」
笑顔に戻ったようだ、何かフラグを立てただろうか。
入ったお店は、落ち着いた感じのレストラン。入る時ラナは、あっ、用事を思い出しましたと看板に書かれている料金を見て言い出した。ご馳走するから大丈夫となだめレストランで軽いランチをする。
『ご注文はお決まりですか?』
「このおススメのランチで」
『わ、私も同じやつで……』
……会話がない。
「えーっと、そんなに緊張しなくていいと思うよ」
『は、はい。こんなお店入った事なかったので。本当に私達と同じ歳とは思えません』
「そんな事ないよ、遂来ないだ冒険者になったばかりだし。少し前まではハッピーにすら苦戦してたからね」
『私達はもう3ヶ月も冒険者してるのに……。今日何で私がって思ってますよね』
「まあ、正直積極的過ぎてびっくりしてる」
『昨日サク君から聞いたんです。ジーク君がヘラクレスを一人で倒した事。同い歳なのに何でこんなに違うのかなと思って、図書館であった時少しでも私達との違いが分かればと思って探っていたんです。ごめんなさい』
なーるほど。僕に惚れた訳ではなく、探られていたのか。
「謝る必要はないよ、別に探られて困ることもないし。少しは何か掴めた?」
僕の場合、神様のお陰だから参考にならないと思うけど。
『いえ、全然。付き纏ったあげく、こんなに高い所でご馳走になって。余計に分からなくなっちゃいました。だって、ここのランチ銀貨10枚ですよ。頑張って稼いで1日銀貨1枚、宿代払ったら殆ど残らないんです』
言葉に困る、僕が何を言ってもなー。
「僕は偶々運が良かったけど、先輩冒険者の中には同じように苦労した人も多いと思う。成人したてで、いきなり上手くいくなんて中々ないと思うよ。みんな努力して少しずつランクを上げてく訳だし。僕が言うと説得力ないかもだけど、たった3ヶ月でしょ。何十年も努力してる人達からしたら何言ってんの?って感じだと思うよ」
ちょっと厳しい言い方しちゃったかな。表情が暗い。
『そうですね、3ヶ月で大変なんて言ってたらこの先やっていけないですね。今日はせっかくご馳走になるですから、沢山食べちゃいます』
無理して作る笑顔。丸分かりだ、悔しくてたまらない顔。まあ、でもランチだから、出てくる分しか食べれないけどね。
ランチはお肉たっぷりのハーブのよく効いた香りの良いパスタだった。美味しかったけどなんかモヤモヤするなー。
彼女と別れ、僕はギルドへと向かう。神様から貰った。それは事実だけど僕の努力した結果は僕のものだ。今日は休む予定だったけど、依頼を受ける事にしよう。
ーーギルドにて。
『ジークさん、今日はゆっくりする予定と言ってませんでした?』
依頼を受けようとルミアさんの列に並んでいたのだが、やっぱりそう言われるよね。
「ゆっくりしてるより、依頼をしてた方が僕の場合落ち着くみたいです」
『そうですか、それで今度は何を受けるつもりですか?』
「これを受けようかと」
『ケロケロケロッグですか。そろそろとは思ってましたがダンジョンに行かれるんですね』
「はい、腕を磨くには最適かと思いまして」
『ソロで行かれるのですか?』
「ぼっちにそんな事聞かないでくださいよ」
心配そうにしている。笑ってぼっちと言ってしまったがちょっと悲しくなったのは秘密だ。
『この街のダンジョンについては知ってますか?』
「ルミアさんから聞こうかと」
『そんな事だろうと思いましたよ』
この街のダンジョンは2つらしい。
1つは「塩湖ダンジョン」初級から中級冒険者が探索するダンジョンらしい。D〜Bランク向けって事だ。塩が取れるらしい。迷宮は踏破済みで塩が取れる貴重なダンジョンとしてコアの破壊を禁止し冒険者達に解放しているらしい。
2つ目は「竜谷のダンジョン」入り口が谷の近くにあるらしいのだが、昔その谷が竜の住処だった事が由来らしい。上級ダンジョンでB〜Aランクの冒険者が探索している。Sランクは?と聞くとこの街にはいないからとのこと。現在18層が最高なんだとか。
『塩湖ダンジョンは、街を出て1時間程の所にありますが、ダンジョンはすぐに帰っては来れないので……』
あぁ、そうか来週の食事か。後4日後だもんな。
「ルミアさんとの食事までには戻りますよ」
『違います!野営とか初めてですよね?用意するものとかも沢山あるって事を私は』
野営するの初めてだ、一人で見張りなしでダンジョンは大丈夫なのだろうか?
「えーと、ダンジョンには安全エリアとかあるんですか?」
『ボスの前のセーフティーゾーンの事でしょうか。普通は見張りを立てて眠りますが、少ない人数のパーティーの方は結界の魔道具をテントに付けて野営しますね』
「そんな便利な物があるんですね」
『はい、ですが結界は絶対ではありませんし、近寄りにくくなるってだけなのでなるべくそのエリアの魔物を全て倒してから休む事をお勧めします。そもそも初めてのダンジョンなんですから帰って来られる程度にするのが普通なんですよ』
それじゃあ、つまらないし、そろそろ野営くらい出来るようにならないといけないランクだ。
「丁寧にありがとうございます。野営準備してそのままダンジョン行ってきますね」
『気をつけてくださいね、行ってらっしゃい』