第2話
ーー翌朝。
まだ外は薄暗い朝方5時。宿の外では冒険者達だろうか、既に準備を始めているのか声や鎧などを着込んでいるのかガシャガシャと音がする。
「ふぁー。こんな時間に目覚めたのいつぶりだろうな」
大学4年生になってからは、大半が昼近くに起きる生活だった。昨日は疲れ果てて夜9時頃に寝たので朝は早かったが8時間睡眠している計算になる。小さな子供の生活によく似ているがこれが健康的な生活リズムなのだろう。
昨日は体を拭き忘れたので朝食前にお湯を貰いに行く。受付にいたのは老婆ではなく、少し似た所はあるおばちゃんだった。老婆の娘さんだろうか?
「すみません、お湯ください」
『あら、新しい顔だね。昨日から長期の子だね。私はドゥラよろしく頼むね』
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
ドゥラおばさんからお湯と薄布を受け取り、部屋で体を拭いていく。せめてタオルが欲しい……そう思う程に薄い布を何度も絞る。
「はぁ、お風呂。せめてシャワーが浴びたい」
拭くだけでは汚れが取れた気がしない。クンクン、クンクン、臭わないよね?嗅いでみるがやはり自分の匂いだからかよく分からない。変な匂いはしないので大丈夫なはずだ……銭湯見たいのがないか聞いてみよう。贅沢するつもりはないのだが、やっぱりこのままでは、日本で暮らした習慣があるからか落ち着かない。桶と布を井戸水で軽くゆすぎ返却し、朝食のパンを頂く。野菜とお肉を挟んだハンバーガー見たいな感じだ。うん、満足。
ーー冒険者ギルドへと向かう途中。
長い列の出来ているお店を見かけた。とても良い甘い香りが漂ってくる。これはチョコの香りだ。カカオを見つけてチョコで大儲けは出来ないようだ。長い列を横目に通り過ぎようとする僕。
『本日分は完売しました。また明日お越しください』
店の店主であろう人からの完売の声に、あと少しで買えそうだったお客から不満の声が上がるかと思えば……
『ちくしょう、今日こそは買えると思ったのによ』
『彼女への告白がまた伸びる……』
『明日こそは当ててやる』
意外と不満はなく、明日こそはと楽しみにしているようだった。どうやら並んだ順にクジを引き当たりが出た人から順に購入でき完売したら終わりという仕組みらしい。
そんな中、酷く落ち込んでいるメイドがいた。
『あぁぁぁ、これで20日連続……お嬢様に何とお詫びをしたら。なんて不幸な私、あぁぁぁ』
完売し閉じた店の近くで座り込み、嘆く女性。無視していこうとしたが少し見た瞬間に目が合ってしまった。目を逸らし歩こうとしたのだが。
『ちょっと待って』
えーっと、辺りを見渡すが既に列は解散しており近くには僕1人。僕ですか?と指をさしてみると頷いている。
「どうされました?僕新米冒険者なので朝は忙しいのですが」
『うぅ、そんな事言わないで話を聞いてください』
話を聞いて欲しいだけなら、まあいいか。
「少しだけなら……」
『ありがとうございます。ではこちらに』
どうしてこうなったのだろう。噴水に腰掛け座る所までは、座る所も必要だし何も思わなかったのだが。座った瞬間持ち上げられ膝に座り抱き抱えられたのだ。
「あの、お姉さん恥ずかしいのですが」
『可愛い男の子をこうしていると、離れて暮らしている弟を思い出して……』
とても残念そうな人に見えたが、この世界ゆえなのか、全体的に美人さんが多い。頭に乗っかる2つのボールが気になり強く出られない。弟と離れて暮らして寂しいのだろうと恥ずかしさを我慢し堪能する。
「それでどうしたんですか?」
理由はそれ程珍しい話でもなかった。貴族の家でメイドをしているらしいのだが、お嬢様の大好物である『ちよこれいと』のプレミアムコレクションを20日連続で外れを引き合わす顔がないとのこと。お嬢様は優しくクジ引きだから仕方ないと仰ってくれるが20日前に食べたのは別貴族からの手土産で半年通い続けて一度も当てられずずっとお嬢様の優しさに甘えている状態なんだとか。
「限定何個くらいなんですか?」
『1日20個限定でいつも朝3時から並んでいつも1番にクジを引いてるのに一度も当たらないなんて……』
20個限定か……100人くらい並んでたし仕方ないのかな?でも毎回1番に並んで、半年だから、180回クジ引いて当たらないってかなり運が悪い気もする。
「運って言うのは、自分で引き寄せる事も出来るらしいですよ。当たらない自分ではなく、当たっている自分を強くイメージして引き寄せる。不運な自分をイメージし過ぎかも知れませんね」
『引き寄せる。そんな事が出来るだなんて』
あっ、ちょっと適当な事言い過ぎたかな。実際僕自身、引き寄せなんて信じてなかったし、まあ、車引き寄せましたけど。
そう言えば……うん、やっぱり。
「はい、これどうぞ」
『これって……』
まさかとは思ったが、僕のスイーツバックには『ちよこれいと』のプレミアムコレクションが沢山入っていたのだ。スイーツを沢山詰め込んであったこの鞄に文句を言っていたが人の役に立つこともあるらしい。
「お嬢様の為にって想い続けたお姉さんの気持ちが引き寄せたんだね。じゃあ僕はそろそろ行くね」
もう少し堪能していたかったが格好も付かないので、さっとお膝から飛び降り手を振りギルドへと駆けていく。ちょっとカッコいいんじゃないか僕。ニヤける顔を隠しながら走るのは苦労した。
『はっ、お、お金。名前も聞きそびれてしまいました。どうしましょう』
いきなりの事で驚きポカーンとしていた。そんなメイドの声など届くはずもなく、既にジークは冒険者ギルドに到着していた。
ーーギルドに到着したジークは。
『おお、立派に冒険者らしくなってるじゃねえか』
『本当ね、似合ってるわよ。お姉さんが初依頼祝いにギューしてあげようかしら』
僕はギルドに来て早々、絡まれていた。髭ずらの怖いおっさんに。そして美人にハグされるチャンスにどう対応したらしてもらえるかを考えていた。
「はい、バロンさんとミルクールお姉さんのお陰で助かりました。あのまま行ってたら大変な事になったと実感してます」
距離感って難しいな、ずっと人から一定の距離を置いて生きてきた。このまま、頑張ったよお姉さーん。って飛び込めたらどれだけ幸福か。
『かてえな。もう少し砕けていんだぞ?』
『そうよ、ほらほらー』
お姉さんの胸に顔を埋められ遊ばれてる僕。恥ずかしさと、柔らかさにニヤけそうになる22歳の僕がいる。
「お、お姉さんい、きが」
『ミル、ジークを殺す気か……』
『あら、私ったら』
「ふぁー、しにゅかと思いましたよ」
『その割には幸福感に溢れてる顔してるぞ、お前。一丁前に男出してるのか?』
『あら、お姉さんは構わないわよ?』
「か、からかわないでください。ぼ、僕は依頼に行きますね」
『おう、俺らはちょっと今日から遠出だ。頑張れよ』
『1週間もあればお姉さん達戻ると思うから、ご飯でも食べましょうか』
「はい、楽しみにしてます。行ってきます」
2人に手を振り依頼の仮受付に向かう。今日受けるのは討伐クエスト。1つ上のランクまで依頼は受ける事が出来るのでEランク依頼を受ける予定だ。僕のレベルは1。せっかく加護を頂いてるのに活かせてないし何かあった際に自身を守れる力もない。
魔物は正直怖い……でも、今日やめたら、そのまま伸ばし続けてしまう気がする。
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ランク:E
ウルフ退治×3匹
報酬:銀貨1枚
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ランク:E
スライム退治×5匹
報酬:銀貨1枚
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ランク:E
ハッピー退治×3匹
報酬:銀貨1枚
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狼、スライム、兎退治の依頼どれにしようか。どれも同じ森の中。常時依頼なので期限は特にない。全部受けておけばいいかな、どちらにしても色々な魔物との戦闘をしておいた方がいいと思うし。
仮受付をし、長い列の出来てる受付に向かう。
『おはようございます。ジークさん。依頼の受付ですか?』
「はい、って名前覚えて貰えたんですね」
『ジークさんは何というか覚えやすかったんですよ。昨日は何か考え事してたみたいですが吹っ切れた顔をしていますね。安心しました』
そこまで僕の事を……なんて15歳の自分なら勘違いしてただろうな。
「ルミアさんに恥ずかしいところを見せてしまいましたね。心配おかけしました。今日はこの依頼でお願いします」
『ウルフ、スライム、ハッピーですか。低ランクの魔物ですが、昨日登録したばかりでソロのジークさんにとってはとても脅威ですが……』
うーん、受付をして大丈夫なのだろうかと悩んでいる様子だ。僕が受付だったら同じ事を思うだろう。
「大丈夫ですよ。無茶はしないので」
『本当ですよ、お金を貯めて先輩冒険者に指導をお願いする事も出来るんですからね』
心配するルミアさんから、何とか受注をしてもらい森へと向かう。僕の雷魔法がどこまで通じるか。それに魔磁石についてももう少し色々調べる必要がある。怖いけどワクワクしてる自分がいる、こんな気持ち初めてだ。退屈な生活、刺激に飢えていたのだろうか。
ーーアルトの森。
今日は浅い所ではなく、少し奥へと入っていく。魔物のいるエリアへと。
ショートソードを構えながら慎重に進む僕。魔法で倒す予定なのだから剣より杖じゃないの?と僕も今更ながら気付いているのだがここまできて引き返したくはない。
ヒーリング草採取より少し奥へと来た所で戦う前の実験をしたいと思う。
まずは、雷魔法をどれだけ自在に使えるかの実験だ。「スタン」を唱えて最大限に伸ばして鞭のように広がるようイメージする。
結果は残念賞。指先から出た電流は15cm程伸びた所で止まりそれ以上にはならなかった。雷魔法のレベルが1なのが関係しているのかもしれない。続いて、「サンダースピア」と唱えて、雷の矢を飛ばすイメージをして見る。雷矢は飛んだし、木は焦がしたが思った程の威力はなく、小さな矢が飛んでいくだけ、それに1本しか出す事が出来なかった。初心者用の皮鎧が脆かっただけなようだ。もう少し威力があると期待していたけど魔物相手にちゃんと効いてくれるかな。不安だ。
続いて、魔磁石の実験。
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魔力1000/100
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引き寄せで魔力を10倍まで溜め込む。そして反発。半分程を押し出すイメージ。
バチンッと何度も大きな風船が割れたような、大きな音が響き、僕の周りの木々に爆発でも起きたかのような抉れた跡を残す。木々を倒したり粉々にするような威力はないが、もう一度くらい当てれば倒れそうな木がある程だ。とりあえず魔力を戻して実験と思って引き寄せをすると。
「あれ、引き寄せれない……」
反発の副作用だろうか、周辺の魔素を巻き込んで破裂させてる感じに見えたし、反発の後は周辺の魔素が限りなく薄くなる。当たらずしも遠からずってとこだろう。
反発は強いけど、魔法使いとしては致命的。魔素が薄くなったからか、体内魔力はあるのに雷魔法すら発動しなくなってしまった。発動しないと言うよりは発動したが消えたと言う方が正しいかもしれない。僕の体内から出た魔力がちらばり分解され周辺の魔素を戻そうとしているような感じがした。
魔法は、体内魔力と周囲の魔素が合わさって完成するって事か。剣術もしくは杖術も少しは覚えた方が良さそうだ。反発を使った後に無防備になってしまうからね。
少し離れて魔法を使って見る。大体5m程が今の反発の範囲らしい。それ以上に離れれば魔法は普通に発動するし、引き寄せする事も出来た。
「よし、実験終了っと。まずはスライム……かな」
一番罪悪感が薄そうなスライムから退治する事にした。狼や兎は元の世界でも割と身近と言うか動物を殺すのは心の準備がね?
ーーアルトの森西にある沼地。
ここは、スライムの生息地。茶色く濁った沼には、可愛らしさのかけらもないネバネバのアメーバのような魔物がうじゃうじゃとしていた。沼に近付くと酸を飛ばして来るらしく、沼を出ているスライムを倒すのが一般的らしい。
○ラ○ンクエストなどで知られる可愛らしいスライムではなくて良かった。この姿なら罪悪感なく倒す事が出来そうだ。弱点は魔法、剣で倒すには近付き核を壊さなくてはならない。魔法貰っておいて良かった。酸を避けながら剣を振るって倒すとか絶対無理。
沼地の外でのそのそとカタツムリのように動いてるスライムに向かって雷矢を放つ。「サンダースピア」って唱えないのかって?良くは分からないが唱えなくてもイメージがしっかりしてれば魔法は発動する。魔法名を唱えて戦うとかちょっと恥ずかしいしね。
今回だと……
「サンダースピア」
「サンダースピア」
「サンダースピア」とひたすら言いながら倒し続けなくてはならない。なんか虚しくなりそうだ。
雷矢が当たると弾けるスライム。難なく5匹を倒し終え、常時依頼なので多めに倒そうと沼地に近づいて見る。
「おおっ、と」
びっくり……酸が飛んでくると聞いていたが思ったよりも大きな茶色い液体が飛んできた沼地だからか少し臭い。尻餅をついたが慌てて避け体制を整える。あれじゃあ、溶けるう○ちだよ。絶対に当たりたくない。
沼地の外にいるスライムは倒し終えた。出て来るのを待っても良いんだけど何せのろのろと動いていて来るかと思うと戻ったりととてもイライラするのだ。早く来いよ!と叫びたくなる。さーてどうしよう、泥の沼地って電気通すのかな……理科の勉強なんて10年以上も前の話、教科書の内容なんて覚えてない。普通は土は電気を通さない、泥沼になるとどうなるんだろうか。もう少し勉強しておけばとか今更思っても仕方がない。水がある以上通らない事はないと思うんだけど。
沼地に近付いて、スタンの魔法で沼地に電流を流してスライムを倒す。幸い弱い魔物のスライムなら少しの電流でも致命傷になるのではないかと思っている。が、電流が全然通らなかった場合。スライムの酸の雨にやられるだろう。
「うん、やめておこう。無茶するのは勇者みたいな主人公だけで良いよね」
あれだけ考えていた思考をパッと捨てて僕は、ハッピーのいる、東エリアへと向かうのだった。その間にステータスを確認しておく。
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ジーク
年齢15歳
レベル:7 種族:人族
生命力250/250 魔力1250/250
体150
力150
知150
敏150
スキル:採取[1] 雷魔法[1]
EXスキル:魔磁石[1]
EXスキル:スイーツバック
EXスキル:言語理解
加護:スイーツ神の加護
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レベルは7。ようやく一般成人男性くらいのレベルになった。体が軽くなったと思えば、能力値が軒並み伸びている。バランスタイプなのか、上がり方が全て同じようだ。30→150って上がりすぎな気もするけど加護の効果なのだろうか。それとも普通より少し上がってる程度なのだろうか。参考に誰かのステータスが知りたい……。
ーー兎の生息地は森の開けた深々と生い茂る草原地帯。休憩も終え万全だ。
ガサゴソと何かが動く音は聞こえるが、草が生い茂っていて姿が見えない。偶にある草が少ない場所で待ち伏せしようと待ってみるが警戒されているのか音はするが出てこない。みんなどうやって討伐するんだろう……バロンさんの話にもハッピーの話はなかったもんな。調べてからくるべきだったか。
「あっ」
ふと、思い出す。魔磁石は元々探知をする神器だったと。もしかしたら、出来るのではないか、そう思い引き寄せをしつつ、探すイメージをしてみる。
うーん、何となく引き寄せてる魔素が魔物に触れたってのはわかるのだが、具体的な場所がわからない。大まかに何かがあっちの方にいるくらいだ。魔素から情報を運んでくる。そんなイメージで試行錯誤する事1時間程。
出来た!範囲は狭く10m程だが、何処にいてどんな大きさ、どんな形をしているくらいは分かる。ハッピーを倒すだけであれば十分な範囲だ。
雷矢で倒す……いや、剣で倒そう。兎の居場所は分かっている、こちらに誘導するように雷矢を放ち音を立てる。音に反応した兎が反対である僕の方へと向かってくる。草の影から飛び出てきたのはまさしく僕の知る兎だ。少し体格は、大きいがくりくりした赤い瞳をこちらに怯えた表情で向けてくる。そんな兎に対し僕は剣を突き刺す。
斬れよと思うかも知れないが、ちょっとビビってしまい、剣を前に押し出すように串刺しに。キャンっと、刺した瞬間の鳴き声は僕の心臓をドキっとさせる。
じー、っと串刺しになっている兎を眺める。思った程の罪悪感は生まれない。2日連続で兎肉を食しているからだろうか。
「血抜きが大事って言うよなー」
木に吊り下げて血抜き。紐もないし却下。剣に突き刺したまま放置。流石にエゲツないので却下。とりあえずそのままスイーツバックに入れておく事にした。そこからはスムーズだった、探知して魔法で誘き寄せて剣で突き刺す。かっこ悪いが剣の振り方も知らない僕が振るえば変な斬り方して素材の価値が下がりそうだ。見られてる訳じゃないからね、少しでも稼ぎに繋ぎたい。
神様から貰った金貨3枚。バロンさんから貰ったお金が残り銀貨50枚。昨日の報酬が銀貨1枚と銅貨20枚。今の所持金は借金分を引いて金貨2枚銀貨51枚銅貨20枚。正直貰ったお金だがかなり余裕がある状態ではある。
でも、自分で稼いだお金って宿代引くと銅貨50枚程度なんだよな。貰ったお金からではなく、きちんと依頼をこなして稼いでバロンさんには返したい。それが礼儀な気がするから。
10匹倒し終えた所で、今日の狩りは終わりにする。今からウルフのいる中央やや北エリアへ向かうと夕刻の門の閉まる時間である18時に間に合わなくなってしまうからだ。門が閉まる時刻を過ぎると面倒な手続きを踏まないと入れてもらえないと初日にバロンさんから聞いている。最悪低ランク冒険者の場合、詰所で朝を待つ必要があるらしい。それだけ信用が薄いと言う事なのだろう。
門に並んでいると見知った、いや一方的に知っていると言った方が正しいか。確か剣を持っている爽やかそうな短髪の少年がサク。神官服に身を包んだ茶髪の長い女の子がラナ。もう一人少し気の強そうな黒髪の女の子の名前は分からない。麻袋を背負って今日の成果を話し合っている。
『今日は、ヒーリング草が30本か。リッツさえ居れば、兎狩りが……』
『そんな事言っても仕方ないわよ。私達が盾役無しで挑むのは危険だもの』
『リサラちゃんの言う通りだよ。無茶したらリッツ君に怒られちゃうよ。少しずつ頑張ろ?』
『そうだよな……何焦ってるんだろうな俺は。アイツの分まで早く強くならなくちゃって、ウルフを倒してもリッツが生き返る訳じゃないんだけどな』
『それでも私達はいつか、ウルフを倒して乗り越えなきゃ行けない』
もう一人はリサラと言うみたいだ。聞き耳立ててる訳じゃない聞こえてくるだけだ。なんと反応して良いのかわからないが表情は暗い。やっぱりパーティーには盾役が必要なんだなー、僕の場合剣士兼魔法使いだが、そのうち仲間も見つけないとなのかな。剣士と名乗っていいのか分からない串刺し剣士なのは置いておこう。
ーーギルドに到着し、今日の成果をルミアさんに見せにいく。血抜きもしてないし、解体もしてないけど大丈夫かな?倒すとギルド証に受注してる討伐記録は残るらしいので依頼は完了出来るはずだけど。素材ってそう言えばどうするのだろうか。
長い列に並びようやく僕の番。別の列に並べばいいのにと僕自身も分かっている。けどついあの笑顔を見ると……並んでしまう。魅了スキルでも持っているのだろうか。
「おかえりなさい、ジークさん。無事で何よりです」
『ただいまルミアさん。無茶はしないって言ったじゃないですか』
こんな恋人の帰りを待っていたかのようなプレイが体験出来るだけでもこの列に並ぶ意味があるのだろう。
『そうでしたね。ではギルド証をお預かりしますね……スライムが8匹にハッピーが10匹、無茶はしてるじゃないですか。スライムは8匹なので銀貨1枚と銅貨60枚。ハッピーは銀貨2枚なので銀貨3枚と銅貨60枚です』
もう、っとホッペを膨らませながら無茶はダメですよ!っと再度言われるが何と言うかもう一度言われたい、と思ってしまった。無茶はする気はないのだが。
『もう、ジークさん!聞いてますか?』
「あ、はい、聞いてます」
妄想に浸り過ぎていたようだ。もう一度ぷんぷんするルミアさんを想像していた。
『それと、おめでとうございます、今日からEランクです』
おー、遂に最低ランク卒業か。たった2日と短かったが、僕の始まりだからねこの気持ちを大事にしよう。
「ありがとうございます。嬉しいです。後ハッピーの素材ってどうしたら良いですか?血抜きとか分からなくてそのまま持ってきてるんですが」
『素材は裏の素材受付カウンターに行けば教えて貰えるから行ってもらえる?血抜きしてない場合だとかなり価値は下がってるかも知れないけど解体もしてもらえるから』
「分かりました。じゃあ、また明日もよろしくお願いします」
『はい、待ってますね』
至福の時間は終わり早速素材カウンターに来た僕。素材カウンターは受注より大変なのか6つもあるにも関わらず列は長い。リヤカーみたいなのに、大きな猪を乗せてる人もいる。豚みたいな大きな人型のあれはオークか?ファンタジーな世界に改めて興奮している。
列は長かったが解体を済ませてから来る人が多いようで30分程の待ちで僕の番が回ってきた。
「こんばんは、素材の解体をお願いしたいんですが」
『見ない顔だね、新米冒険者さんかな?素材は何だい?』
「はい、ジークと言います。ハッピーを10匹お願いします」
『ハッピーだね。分かったよ、ここに出せるかい?』
僕はスイーツバックから取るフリをしてリュックから取り出す、少しリュックから出すには量が多いが多分大丈夫なはず。
『これは、血抜き前のようだけど、まるでとれたてのような。剣で一突き、良い状態だね』
そう言えば、時間経過がないのをすっかり忘れていた。血抜きもしてないのに討伐直後のようなハッピー。何か言われるかな。
「血抜きも分からないので倒してすぐに、戻ってきたからですかね?新米でお金もないので良かったです」
『ふむ、そうか。ハッピーの血抜き講習は随時受けれるからするといいよ。血抜きは基本だからね』
「では、講習お願いしても良いですか?」
解体作業には抵抗があったが、この先必要になる。血抜きしていれば多少新鮮でも疑われにくいと思うしね。それに解体を頼むと解体費用が引かれるらしく自分でする事で買取金額が上がるのだ。大きな魔物はともかく買取金額の安いハッピーなどの魔物は割に合わないのだ。
ハッピーの素材の買取金額は1匹辺り10銅貨程。5匹討伐して50銅貨そのうち解体費用が10銅貨。1匹分まるまる取られてしまうのだ。
解体講習は僕の持ってきたハッピーを使って行われる事になった。予め購入してあった解体用の短剣を出し。教えて貰いながら血抜きをして、素材を剥いでいく。3匹解体した所で最低限の合格を貰い講習は終わった。正直、血生臭くて気持ち悪い。最低限血抜きはするけど、解体は任せたいな。
カウンターで、10匹分+綺麗な状態との事で1匹辺り12銅貨で買取してもらい、銀貨1枚と銅貨20枚を受け取る。
ーー宿に戻り夕食の時間。
「そうくるよな……」
先程散々見た兎が焼かれステーキとして出てきている。低価格帯の宿では主にハッピーのお肉を使うらしいので当然なのだが。
うん、美味しい。解体直後でも平気で食べれる僕は立派な冒険者?
ーー部屋に戻りステータスチェック。
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ジーク
年齢15歳
レベル:11 種族:人族
生命力350/350 魔力1650/350
体230
力230
知230
敏230
スキル:採取[1] 雷魔法[2] 剣術[1]
EXスキル:魔磁石[2]
EXスキル:スイーツバック
EXスキル:言語理解
加護:スイーツ神の加護
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レベルは11。スライム8匹と兎10匹倒しただけなのに能力見るとかなり強くなった感がある。加護のお陰なんだろうけどね。
魔磁石のレベルが[2]に上がっている。
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◆魔磁石[2]
・引き寄せ
魔素を引き寄せる。
・反発
魔素を反発させる。
・探知
魔素から情報を読み取る。
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相変わらずシンプルで分かりやすい説明だ。魔力探知が出来るようになった事で上がったのか、上がった事で魔力探知が出来たのかは分からないが出来る事が見えるのはわかりやすくてありがたい。雷魔法も上がっているが、ここでは試せないのでまた森で試そう。スキルが上がりやすいのも加護の効果なのか、それとも1→2はすぐ上がるのか。分からないことが多い。
相変わらず魔力は過剰気味、引き寄せてるつもりはなくても少しずつ体内に集めてしまっている。今の所問題ないけど、どうなんだろう?
今日も最大まで引き寄せ眠る事にする。
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魔力3500/350
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やっぱり10倍以上は引き寄せられないようだ。昨日と全く同じ結果という事は部屋の中だからとか関係ないのだろう。そして、予想通りの気怠さと眠気がやってくる。
「今日はここまでだな」