第6話 ユニークスキル
俺は走った。走って部屋のドアを蹴破り廊下を猛ダッシュする。
俺の敏捷パラメータは∞なんだ。
いくら優れたパラメータを所持しているネオ腐れニートなメンヘラ女と言えど、俺の速度についてこられる訳がない。
広すぎる家の中を駆け回って、俺は玄関にたどり着いた。そのまま外に出ようと扉を開けたのだが……クソッ!
「マジで訳のわからん空間に閉じ込められているじゃないか!
これじゃあ、外に出られないじゃないか。
おい、ナビ子ちゃん。状況はわかっているんだろ?」
《現在、この屋敷には強力な結界が張り巡らされております。
魔法での突破も可能ですが、複数の魔法を使用するため、時間を有します》
「早くしないとメンヘラアリスが追いついて来るじゃないかッ!」
《でしたら、ユニークスキル【神様の言う通り】の使用をお薦め致します》
「な、なんだそれ?
ネーミングセンス最悪だな」
とはいえ、この際逃げれるならなんでもいい。
「ユニークスキル、【神様の言う通り】発動!」
……しーーーん。
「おい、ナビ子ちゃん! 何にも起きないじゃないかッ!」
《ユニークスキル【神様の言う通り】は、発動してから15秒以内に願い事を口にすると、叶えられる範囲で叶うという能力です》
「無茶苦茶なチート能力じゃないか!?」
まッ、俺自身がチートか。何たって神様なんだもんな。
「では、もう一度……【神様の言う通り】発動!
【メンヘラの箱庭】を解除してくれ!」
屋敷中にバカでかい声が響き渡ると、俺の体が蛍のように光に包まれた。
それと同時にけたたましい――ガラスが割れる音があちこちから鳴り響いてくる。
開けっ放しの扉に視線を向けると、歪んだ景色が砕け散り、元通りの風景がその先に広がった。
「おおッ! 成功だ!
これで無事外に出られるぞ」
安心したのも束の間だった。背後からドスドスと凄まじい物音を立てながら、アリスが追いかけてきた。
「クソッ、どれだけしつこいんだよ!」
振り返りアリスを確認してみると、
「ぎゃぁぁああああああああッ!?」
俺は目ん玉が飛び出してしまったんじゃないかと思うほど驚愕して、青ざめた。
アリスのバカは両手に出刃包丁を握りしめ、頭に鉢巻きを巻き付けている。その鉢巻きには角のように包丁が二本装備されていたんだ。
その姿は秋田名物なまはげそのもの。
あんなものを見てしまったら、そりゃ普通は泣き叫ぶさ。
恐るべき秋田名物。
「なんてアホなことを言ってる場合じゃない」
俺は急いで屋敷から飛び出して、透かさず魔方陣を展開させる。
右手から放たれた光は満月のように輝きながら、幾何学的な模様を地面に走らせた。そのまま俺の体を包み込んでいくが、
「絶対に逃がさないんだからぁぁあああああッ!」
な、なんとッ!?
アリスのバカが転移魔方陣の中にダイブしてきやがった!
まるでアメリカンフットボール選手バリのタックルを受けた俺の体が勢いよく吹っ飛んでいく。
――ドタドタドターーーンッ!
「いってぇぇええなッ!
何しやがんだ!」
「に、逃がさないわ……って……ここはどこかしら?」
部屋の壁に勢いよく激突した俺をよそ目に、アリスは立ち上がりキョロキョロと部屋を見渡している。
どうやらアリスのバカまで連れて帰って来てしまったようだ。
「ここは俺の家、んっでもってここは俺の部屋だ。たっくよ」
耐久が∞じゃなかったら頭蓋骨が砕けてるところだ。なんて凶暴なメンヘラ女なんだ。
顔が可愛くなかったらアフガニスタンにでも捨てに行くところだな。
「サンタさんのお部屋……?
凄い……私の【メンヘラの箱庭】を破っただけじゃなく、瞬間移動まで出来るなんて……優秀過ぎる仲間だわ!!」
「誰が仲間だ!
お前みたいな危険な女と仲間になんて絶対にならないからな」
◆
あれから数時間――送ってやるから帰れと言う俺の親切に一切聞く耳を向けず、アリスはベッドで眠りについていた。
「クソッ、普通男のベッドで寝るか? 無用心にもほどがある」
とは言いつつも、
――パシャッ、パシャッ。
見た目だけは超絶美少女の寝顔をスマホに収め、不思議の国のアリスみたいなコスプレ姿を撮っておく。
細くしなやかな脚がとてもエッチだな。もうちょっと丈が短い方がパンチラを狙えるのに……残念だ。
しかし、このメンヘラはここに住む気じゃないだろうな?
女の子と一つ屋根の下に暮らせることは、普通に考えればとても嬉しいことだろう。
だが、相手はニートでメンヘラ。
顔が良いのが唯一の救いだが、それ以外は最悪だ。
なんとかこいつをここから追い出す方法を考えねばな。
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