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第5話 サンタさん

 家の中に通された俺は大理石で出来たテーブルに座らされている。部屋の中を見渡してみるが、どこもかしこも大金持ちを象徴する物しかない。


 悪趣味な虎の剥製に、サンタさんが365日来てしまいそうな暖炉。

 ああ、そうか。だから俺が来たのか……ってそんなつまらん冗談はいいんだよ。


 にしても、にゃん子ちゃんは一体何者なんだ?

 こんなに広い家なのにまったく人の気配がしない。

 家族とかいないのかな?


 見た目から推測しても、俺と歳も変わらんだろう。


「はい、お待たせ」


「なんだ……これ?」


「何って……納豆と白いご飯よ」


 せこい。いくらなんでもせこ過ぎる。

 こんなに大きなお屋敷に住んでいる癖に、客人に出す料理が納豆と白米だけだと!?

 いや、そもそもこれは料理ではない!


 つーか納豆なら家にもあったよ。

 だけど俺は納豆が食えないんだよ。


「あの……にゃん子ちゃん」


「アリス」


「はぁ?」


「アリス・グレイシス。私の本名」


「ああ、アリスね。

 それで……非常に言いにくいんだけど、俺納豆食べられないんだ。

 というか、臭いを嗅いだだけで吐きそうなんだよ」


「えええええええッ!?

 乳くりマンボウさんは日本人よね? 日本人なのに納豆が食べられないってどういうこと?

 もしかして……チャイニーズ?」


 何なんだ……この子は?

 というか、百歩譲って俺が中国人だったらなんだって言うんだよ。


「お粥の方が良かったかしら?」


 ああ、そういうことか。


「じゃなくて……もっとましな物を食べさせてくれるのかと期待してたんだけど……」


 人様の家に隣の晩ごはんバリにズカズカとやって来て、出された物に文句を言う俺もどうかと思うけど、自信満々にご馳走してあげると言っておきながら……コレか?

 この子ちょっとおかしいんじゃないのか?


 俺なら恥ずかしくてご馳走してあげるなんてriceしないけどね。


「う~ん、困ったちゃんだな。

 私料理なんてしたことないのよね」


「家の人とかいないのかな?

 お母さんに言って作って貰うとか?

 せっかく遠路遥々友人がご飯を食べに来たんだから、作ってくれるんじゃないかな?」


「あッ、それは無理。

 だって私ここで一人暮らしだもの」


 こんなにバカでかいお屋敷に一人暮らしって……本当に何者なんだよ。


「仕方ないわね。ちょっと待ってて」


「なんだ、他にも食べ物あるんじゃんか。良かった」


 と、思ったのも束の間――にゃん子ちゃん改めアリスが持ってきたのは生卵一個。

 笑えない……研ナ◯コとか全然笑えないギャグだから。


 だけど、この金髪美少女は大真面目な顔で、卵を割って米に直接かけやがった。


「どうぞ、召し上がれ」


「……………」


 お人形さんみたいに綺麗な顔をしているが、この女がクソニートだと言うことを忘れていた。

 そう、ニートとは飯何ぞ食えればなんでもいいと考えている生き物なのだ。


 俺は悔しくて悔しくて、醤油もかけずに一気に生卵乗せ白米を掻き込んだ。


「凄い食欲ね! おかわり持ってこようか?」


「いらんわッ!」


 まぁとにかく、こんなもんでも飢えは凌げた訳だし……一応、一応感謝しとくか。


「ご馳走様でした」


「はい、御粗末様です」


 眩しい! 何て眩しい笑顔なんだ。きっと普通に生きていればモテモテウハウハライフが待っていたことだろう。

 東京とかに住んでいれば間違いなく芸能界にスカウトとかされただろうな。


 中身がダメダメのクソニートなのが……残念過ぎる。

 人のことなど言えた義理ではないがな。


「さてと、腹もいっぱいになったことだし……そろそろ帰ろうかな」


 夜分遅く女の子の家に何時までも居るのはよくないからな。スーパーニートな俺でもそれくらいの常識はある。

 だから席を立ったのだが、


「じゃあ、私のお部屋でお喋りしましょ!

 乳くりマンボウさんには聞きたいことも沢山あるし」


「え……ッ!?」


 帰ろうとしたのに……女の子の部屋に来てしまった。

 というか、汚い。

 あり得ないくらい汚いんですけど。


 まぁ……ションベン詰めのペットボトルを並べている俺の汚部屋には負けるが、それでも汚過ぎやしないかい?

 よくこれで自信満々に男を部屋に通したな。神経疑うわッ!


「乳くりマンボウさんの本名は?」


「え……ッ!?

 生家三太だけど」


「サンタさんか……うふふ。

 やっぱり運命なんだわ」


 気にしてんだから笑うなよな。

 コレと言うのもクソ親父が酔っ払って付けたのが悪いんだ。

 12月25日に生まれて来たから三太とか……なんの冗談だよ。

 つーか、運命って何のことだろ。


「それで……やっぱり職業とか凄いんでしょ? ここへは特殊なスキルを使ってやって来たのよね? 世界各地にモンスターが沢山現れて世界の破滅ってニュースでやっていたわ。おまけに魔王って名乗る美少女まで現れたのよ。これはファンタジーよ、私が夢にまで見たファンタジーな世界なの! 冒険をするためには仲間が――パーティーが必要でしょ? どうせ組むなら強い仲間と組みたいじゃない? 強い仲間はニートなの、ニート限定なのよ! 私とパーティーを組みましょう、さぁ今すぐ組みましょう」


「ちょッ、ちょっと落ち着いてよ」


 なんちゅう早口なんだ!

 つーか肺活量凄くない? ニートは肺活量ショボいはずなんだけどな。


 瞳を輝かせながら迫ってくるアリスから逃げるため、腰かけていたベッドから立ち上がると、


「逃がさない、絶対逃がさないんだからッ!」


 なッ、ななな、何なんだよこの女は。


「私、毎年毎年サンタさんにお願いしていたの、いつか異世界転生してファンタジーな冒険がしたいって。

 そしたらどう? 異世界の方から私に会いに来てくれたの!

 しかも、私に会いたいと言ったその人の名前はサンタさん!

 これはもう運命でしかないと思うのよね」


 イカれてる。この子は関わってはいけなかった女の子に違いない。

 そもそも会いたいなんて俺は一言も言っていない。

 ただ飯をご馳走してくれって頼んだだけじゃないかッ! ヤバ過ぎるよ、この子は。


 すぐにここから逃げよう。

 俺はゆっくりと迫ってくる彼女を横目に、出口のドアへと視線を向けた。


「逃げれないわよ! この部屋には私のスキルで特殊な結界が張り巡らせてあるの。

 私とパーティーを組んで冒険すると言うまで絶対に逃がさないんだからッ!」


 このメンヘラ女がッ!

 俺は神様だぞ! そんなの関係あるかッ。


 俺は部屋の窓から外に飛び出そうとカーテンを開けたのだが……!?


「どこだよ……ここッ!?」


 窓の外はドス黒い色が混ざり合い、ぐにゃぐにゃと歪んでいる。


「ここは私の結界の中よ。

 私には神様から与えられた特殊能力――ユニークスキル【メンヘラの箱庭】があるの」


「なんだよそれ!?」


「【メンヘラの箱庭】は空間を遮断してしまうの。

 つまり、ここは世界から切り離された閉鎖空間なのよ」


 なんだよその無茶苦茶な設定はッ!

 てか、なんでこいつにそんなヤバい能力があるんだよ!


《神様設定により、ニートやクズになればなるほど優秀な職業はもちろん、高い能力――ユニークスキルが得られるようになっております》


 最悪だ!

 ネオニートな上にメンヘラ女と来たら、ほぼ最強じゃねぇかよッ!


「さぁ、私と一緒にファンタジーな冒険に行きましょう。

 サンタさん……」



 怖い、怖過ぎるだろ、このイカれメンヘラ女……。

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一話だけでも……!
是非お読みください!
悪役王子~破滅を回避するため誠実に生きようと思います。
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