第3話 盗撮
衰弱していた親父にお袋、それと最大の宿敵妹を抱えて家から飛び出した。
ナビに従い家族に回復魔法ヒールをかけてやり、なんとか一命は取り留めたようだ。
それからすぐに転移魔法で遠く離れた大学病院の前で家族を放り出し、俺は家の前へと戻ってきた。
これでしばらくは帰って来れないだろう。
「しかし、神様ってのは恐ろしく便利だな。
まるで22世紀のタヌキロボットじゃないか」
家の周辺をサッと見渡してみるが、特に変わった形跡はない。
寧ろ穏やかな休日のようじゃないか。鳥越苦労だったかな。
『キャァァアアアアアアアアアアッ!』
「うわぁ……びっくらこいたな」
突然どこからともなく悲鳴が響いてきた。一体何の騒ぎだ?
「最近この辺りで痴漢が続出しているとネットニュースでやっていたし、それかな? ぐふふ。リアルエロゲかな?」
見るだけ、ちょっと見るだけだもんね。
声が聞こえてきた方角に歩いて行ってみると、
「…………マジかよ」
なんとびっくり、女子高生が小学生に集団でエッチな悪戯をされているではないか!
『グギャァ!』
『グギャグギャ!』
「助けてぇええ!」
道路の真ん中に突っ立っていると、涙を流す女子校生と目が合ってしまった。這い蹲る女子高生は懸命にこちらに手を伸ばしている。
どうやらスケベ極まりない小学生達から助けて欲しいようだ。
「こらこら、いくらなんでも子供が真っ昼間から女子高生に痴漢とか、将来有望過ぎるだろ」
俺だってまだ女の子の胸やお尻はもちろん、手さえ握ったことないのに。けしからんッ。エロゲで我慢出来んのか、エロゲで。
それにしても……随分と顔色の悪い子供達だな。
俺が言うのもなんだが、ちゃんと飯食ってんのか?
「おねがい……だずげでぇぇえええええ」
「コラッ、いい加減にしないかッ!」
『グギャァッ!』
「……げッ!? コレ人間じゃないじゃん。ゴブリンじゃん。
つーか……めっちゃキモいな」
なんて暢気なことを言っている場合じゃない。ゴブリンが鉈を振り回しながら突っ込んでくる。
急いで逃げようとしたのだが、腰が抜けてしまった。
だって刃物を振り回す化物に襲われたことなんてないんだもん。
さすがの神様でも刃物で刺されればただでは済まない。
神様になった瞬間ゴブリンに殺されたなんて、洒落にもならん。
ああ……オワタ。
――パキーーンッ!
「へ……ッ?」
ゴブリンの鉈が確かに側頭部に当たったのだが、まったく痛くない。痛くないどころか……鉈がへし折れている。
倒れ込む女子高生もゴブリンも、驚愕に目をひん剥いてびっくらこいているが、一番びっくらこいただ状態は何を隠そうこの俺自身だ。
「よいしょっ、と」
立ち上がった俺はフリーズしたままじーっとつぶらな瞳を向けてくるゴブリンに、試しにゲンコツをお見舞いしてやる。
「ええーーい」
――バシコーーーンッ!
『『『ブ、ブギャァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』』』
「イヤァァアアアアアアアアアアアッ!!」
軽く、本当に軽くゴブリンの頭頂部にゲンコツを振り下ろしただけなのだが、威力が強すぎたのかゴブリンが木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
おまけに勢い余って地面にどでかいクレーターが出来上がった。
「あら……まぁ」
これが力パラメータ∞の威力か。本気で地面をぶっ叩いたらア○レちゃんバリの地球割りも可能なんじゃないか?
握り締めた拳をまじまじと見つめていると、ゴブリン達が血相変えて逃げていく。
しかし、生き物を殺したというのに何も感じない。罪悪感は愚か、さっきまで感じていた恐怖心もまったく感じなくなっている。
《自動魔法――リラクゼーションが発動されました》
ああ、なるへそ。
と、掌を叩いて納得。
どうやら精神を安定させる魔法が発動していたらしい。
神様ナビゲーションの力ではなくて自動魔法か……他にも色々有りそうだが、まぁいいか。
相変わらず大口を開けて固まっている女子高生にかっこよく声でもかけるとしよう。上手く行けばエロゲ的展開――イベントが発生するかもしれんぞ。
「もう大丈夫だよ」
「あ、ああ、ありがとうございま……す」
何かさっきよりも怯えているような気もしなくはないが、気のせいかな。
それよりも……パンツを太ももに引っ掛けている姿がたまらなくエロい。
きっとさっきのゴブリンに脱がされそうになっていたんだな。
――パシャリ。
記念にスマホで撮っておこう。もう一枚……。
おお、パンツを穿く動作はエロさ増し増しだ。
必殺連射撮りを披露しよう。
「……うッ! あの……助けてもらったことは感謝しているんですけど……撮らないでもらえますかッ!」
「撮ってないですよ」
「いや、撮ってましたよね? パシャパシャ鳴っていたんですけどッ」
「…………気のせいでは?」
「見せて下さい」
「え? 何を?」
「そのスマホ見せて下さいって言ってるんですよッ!」
不味い……神様が盗撮で逮捕なんて笑えないだろ。
「早く貸して下さいよッ!」
ムッと眉間に皺を寄せながら、ググッと体を引っ付けてきやがる。
なんて積極的な女の子なんだ。キスでもされるのかと驚いてしまったじゃないか。
だがしかし、このままスマホの中身を見られる訳にはいかない。俺のスマホには今しがた撮った画像はもちろん、いやらしい画像が山のように保存されている。
ここは致し方ない。
「あッ……」
力パラメータ∞の俺はスマホくらい木っ端微塵に握り潰せるのだよ。
あとでSDカードだけ抜いとこ。
「そんなことより脚から血が出てるじゃないか。
バイ菌が入ったら大変だ」
公園のベンチに女の子を座らせて、得意げに回復魔法ヒールで傷を瞬時に癒す。傷があっと言う間に治ったことに女の子がまたまた驚愕している。
どう? 凄いでしょ? 惚れたかな?
どうやら惚れたようだな。
女の子は俺の顔を見つめたまま小さく頷いている。
「あなた……ニートだったんですか?」
「へ……?」
「ネットで話題になっているんですよ。
世界がこんなことになる以前、ニートだったりダメダメだった人が優れた力を有しているって。さっきの馬鹿力もそれなら頷けます。
あなたはきっと前代未聞のダメ人間だったんですんね」
「………………」
何この仕打ち。
助けてあげたのになんでこんなに言われなきゃいけないわけ。
つーか強かったら強いほどダメ人間認定されるなら……俺はどうなるんだよ。
無闇矢鱈と力を使えば、世界で一番のクズですアピールをしていることになるじゃないか。誰だよこんな理不尽な世界を創ったバカはッ!
あッ……俺か。