第1話 ファンタジー作るんです
新連載開始です。
本日は複数話投稿致します。
「……マジかよ」
高校を中退したスーパーニートな俺は、路上で売られていたクソしょうもなそうなゲームを50円という破格の値段で購入した。
と、言っても、今時スーパーファミコンのソフトなのだから50円でも高いと思う。
第一、『ファンタジー作るんです』ってタイトルからしてダサい。
開発チームの連中は何を考えてこんなダサいタイトルをつけたのだろう。
別に興味なんてこれっぽっちもなかったが、スーパーニートな俺は両親からお小遣いが貰えなくなっていた。
つまり、大好きなスケベゲームさえ買えないほどの極貧生活を強いられている。
しかし、俺は独自のルート(ネット)で調べたから知っているんだ。
「スーパーニートになった以上、働いたら負けなんだよ!」
俺はニートという職業をまっとうするためにも、絶対に働かんぞ!
これまで18年間生きてきて、何一つ続いたことのなかった俺だが、ニートだけは続いている。
これは俺のプライドだ。
と、いうことで、早速家に帰って押し入れから親父のスーファミを取り出してプレイしてみる。
「何ともショボいBGMだな」
スーファミというだけあって、画質は恐ろしく荒い。というか……ドットゲームなんてしたことがない。
「これでクソしょうもなかったら50円返して貰いに行こう」
俺に取って50円は大金なんだから。
【スタート】
――ポチッとな。
『ようこそ、選ばれし神よ。
あなたはこの世界の創世主、一から世界を作り上げるのです』
「なんだこれ?
どういうストーリーなんだよ」
始めこそぶつぶつと文句を並べる俺だったが、プレイしてみれば意外とハマる。
ゲームの舞台は地球で、日本はもちろんアメリカとか様々な国や地域にモンスターを配置したり、ダンジョンを設置してファンタジーな世界を作り上げるというもの。
至ってシンプルな作りだが、シミュレーションRPGとしては中々よく出来ている。
北朝鮮まであるのは……製作者の意図を感じるな。
「よし、日本人を苦しめるお前達の国には魔界を作ってやろう。
あと……アメリカは強そうだからここにも……全長10キロ、高さ一万メートルの巨体生物を設置するか」
レベル上限やモンスターから得られる経験値まで設定できるのか。
「よし、勇者とかが現れて威張り散らされるのは気分が悪い。
よってレベルが上がりにくいようにモンスターから得られる経験値は極端に少なくして、レベル上限は99を最高設定としよう」
ちなみに神様の俺はレベル上限99999……と、これくらいでいいかな?
金脈のレアダンジョンは家の庭にでも設置するか。
人間達の職業設定か……めんどくさいな。
市民、勇者、冒険者、事務員、交渉人、修行僧、料理人、騎手、密偵etc……。
これをNPC全員に振り分けるのは無理ゲー。つーことで、ニートになるほどいい職業につけるように設定して、
「あとはお任せで……ポチッとな」
【魔王及び幹部の設定をして下さい】
「次はなんだよ……こんなのどうでも良くないか?」
と、思ったが。
魔王は可愛い女キャラにして、俺を崇拝する設定にしよう。
「ぐふふ。ハーレムな上に偉大な神様設定だ」
別にゲームだから俺の自由でいいもんね。
ゲームの中でくらい好き勝手してもいいじゃないか。
それから俺はこのクソゲーで日頃の鬱憤を晴らすように、無茶苦茶な世界を創り上げていく。
7日間……一睡もせずに部屋から一歩も出なかった。
排泄物はゴミ箱とペットボトルにし、腹が減ったら部屋に溜め込んでいたお菓子を貪る。
俺が忙しいのを知っているのか、毎晩毎晩バカみたいに扉を叩いて威圧してくる親父もなぜかやって来なかった。
このゲームで設定したように迷宮城と化した家の中をさ迷っているのかもな。
なんてバカみたいなことを考えながらプレイに夢中になった。
そして――俺は気がつくと気を失ったように眠りについていた。
「ふわぁ……よく寝たな」
お菓子お菓子……と、部屋中を見渡してみるが、お菓子のストックが底を尽きてしまったようだ。
「仕方ない、ゲームの続きでもするか……ってあれ?」
ない……。
俺が全財産をはたいて買った【ファンタジー作るんです】も、スーファミもどこにも見当たらない。
「くそぉおおおおおお!
絶対にクソ親父の仕業だ!」
俺が寝ている間に勝手に部屋に入ってゲームを奪ったんだ。
不法侵入で警察に突き出してやりたいッ!
「今日という今日はもう我慢できない!
血が繋がった親子だろうがなんだろうが知らないッ、ぶっ飛ばしてやる!!」
勢いよく部屋の扉を開けて一階のリビングへと駆け出そうとしたのだが。
「え……ッ!?」
どこだよ……ここ?
部屋の扉を開けると、そこには恐ろしく長い廊下が真っ直ぐ伸びていた。
怒りも吹き飛び完全に思考停止状態の俺はどのくらいそこに立ち尽くしたのだろう。
ふと我れに返った俺はゆっくりと扉を閉めて、部屋を見渡した。
尿がパンパンに詰められた無数のペットボトルに、お菓子の残骸。間違いなくここは18年間過ごした俺の城だ。
「夢か……? 今のは何かの間違いか?」
試しにもう一度部屋の扉を開けてみると……。
「長い……」
どうなってんの?
意味がわからない。
俺の親父は極々平凡なサラリーマンで、家の敷地面積だってそんなに広くない。せいぜい30坪くらいの小さな家だ。
だけど……どう見ても100メートルは続いている廊下。あり得ない。
「とにかく……一旦落ち着こう」
テレビを付けて気を紛らわせてみるが、
「マジかよ……」
画面の向こう側のお姉さんは、悲壮感を漂わせながら信じられないことを口にしていた。
『世界中各地で突如出現した謎のモンスター……そのすべてを統括すると名乗る謎の女性から……全世界に向けてメッセージが送られてきました。
これはそのメッセージです』
『妾はキシリス・ハートブレイク・サタデーナイト。魔王である』
本日は複数話投稿致します!