あの禍々しい光は不味い!!
戒厳令のしかれた王都の家々は窓を閉め、身を潜めていた。
その王都にグギャギギャギギャギと甲高く不気味な音が鳴り響く。
王都の市民は窓の隙間から恐る恐る空を見た。
「何だ!あの不気味な光は!!」
王都上空の魔法陣はさらに拡大し、その中心には複雑な光を発する光球が出現していた。
その光球は今にも落ちてきそうであった。
「あの光、ここへ落ちてくるのか?」
不気味な光が明滅し、王都すべてを覆うかの様に徐々に大きくなって行く。
その光球が落ちた場合、どうなるかは想像に難くない。
そして誰かが
「あんな物が落ちたら助からねえ!」
その言葉がきっかけか、
王都の人々は家を飛び出すと門に殺到した。
大混乱である。
だが、門の前には王国兵士団が外の魔物に対抗するために陣取っていた。
「どけ!通せ!」
「だめだ!外は魔物が大勢いるんだ!」
王都の人々と兵士団の間で壮絶な押し合いが起こった。
人々は外に逃げようと必死である。
兵士団は王都の人々に危害を加えない様国王から厳命されているため、防戦一方だ。
そんな中でも良からぬものは存在する。
”火事場泥棒”
王都の混乱に乗じて、強盗や盗みなどを働く。
中には家に残っていた者もいたが口封じのため物言わぬ体となった。
「くへへへへ、大儲けだぜ。
野郎ども、ずらかるぞ。」
彼らは裏道を通り屋根から屋根を伝い逃げる。
そして、まだ続く混乱の合間を縫い兵士団の通用門から外に出た。
だがそこは地獄の一丁目と言うべき場所だった。
「なんだよ!これは!!なんで魔物がこんなにいるんだよ!!」
彼らが見たのは黒い山脈の様に連なる魔物の群れだった。
よく知られているゴブリンだけではなく、うわさに聞くジャイアントの姿も見える。
”ゴウッ”と音がして彼らの頭上に巨大な岩が落ちる。
魔物からの投石は貨幣をまき散らしながら肉片を作るのだった。
--------------------------------------
(あれは、あの禍々しい光は不味い!!)
僕が見た空、王都の上空には禍々しく明滅する光が徐々に大きくなっていった。
王国兵士団の団長であるガスパールさんや王国警備団の人々は家々を回り
”地下に逃げ込め”
”兵士団の地下留置場も開放する”
と叫んでいる。
だけど、地下へ逃げたぐらいであの禍々しい光から逃れられるとは思えなかった。
僕は考える。
その光は今も拡大している。
きっと、あの光は王都全てを飲み込む。
その時どうなるかは僕にはわからないし、生き残れるようには思えなかった。
時々光に向かって王宮から呪文の光が走る。
が、禍々しい光には何も通じないようだ。
王国の魔術師でも歯が立たないようだ。
王宮には魔術師たちによる防御結界が張られているが持つだろうか?
だけど、僕ならば、
いや、僕しかあの禍々しい光を防ぐことは出来ない。
防ぐためには十分な時間がいる。
「ニコラ!何しているの地下室へ逃げないと!!」
ジュリアが僕の袖をひっぱる。
他の人たちはもうすでに地下室へ避難しているみたいだ。
「僕は・・・行かなきゃ・・・。」
「どこへ?どこへ行くのよ!?」
「ごめん、ジュリア。
これは・・・ 僕にしかできないと思う。」
「待ちなさいニコラ君。
本当にそれは君にしかできない事なのかね?」
アルバートさんはジュリアが遅いので心配になってやって来たみたいだ。
僕はそのアルバートさんの目をじっと見る。
「・・・そうか、わかった。気を付けて行くのだぞ。」
とアルバートさんはうなずく。
「じゃあ、行ってきます!!」
「だめよ!ニコラ!ニコラ!」
ジュリアの声を後ろに、僕は教会を目指す。
ギフトを検証した教会の屋上。
王国を一望できるあの場所なら、一番被害が少なくできるだろう。
僕が到着した時には教会の中は静まり返り誰もいなかった。
牧師のルイスさんやシスターたちは教会の地下に逃げているのだと思う。
僕は教会の階段を駆け上がり屋上へたどり着く。
幸い屋上への扉には鍵はかかっていなかった。
空を見上げると、あの禍々しい光がさらに大きくなり今も王都を覆いつくそうとしている。
僕は左手のひらを光に向け、
”禍々しい光を収納”
と念じる。
光の大きさに合わせ、僕の空間収納が広がってゆく。
どうやら、ほぼ同じ大きさまで展開できそうだ。
収納対象もちゃんと”禍々しい光”に出来ているみたいだ。
だけど、問題がある。
あの光を弾いたとして、その反動はどのくらいあるのだろうか?
弾けずにそのまま押し込まれた場合、何もしなかった時と何も変わらない気がする。
それに光が収納の円盤に接触した瞬間発動するかもしれない。
(ああ、せめてあの光が起こす効果だけでも収納出来たら・・・。)
そう願っていると、禍々しい光が僕の収納の円盤に接触した。