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王都周辺に魔物が出現、王都を完全に包囲しています。

その日、王都は朝から騒然としていた。


「報告します。北の監視塔、誰もいません。」


「・・・これで三つめか・・・。」


王国警備隊の隊長のマークはトントンと小刻みに机を叩いていた。

何かを考えている時の彼の癖だ。


昨日から幾つかの監視塔から報告が途切れていた。

報告を受けたマークは直ちに監視塔に調査隊を派遣。

だが、監視塔に人は一人も存在せず、

戦闘跡と高位魔法の発動跡が発見された。


報告が途切れた監視塔は北側に集中している。


(作為的な物を感じるな。

東か西か、はたしてどちらか?

他の監視塔も調べなくてはならないか・・・。)


「調査団を編成する。

警備兵団の中でも腕のいい奴を四人一組、

四チームもあれば、今日中に全ての監視塔を調査できるだろう。」


マークの号令の下、詳しい調査を行うため、四チーム編成された。

それぞれ東西南北の監視塔を調査、

その後、周辺の調査を行う。

戦闘の痕跡以外、何かの遺留品を見つけるのが目的だ。


警備部隊から四チーム十六名が選抜される。

選抜だけあって、それぞれ一芸に秀でた何かを持っている連中だ。

その連中がいよいよ調査に出発、と言うときに状況が変わった。


「大変です!

監視塔付近各所、王都を取り囲むように魔物が出現しました!!

旅人の何名かが被害にあっている模様です。」


「なんだと!いったいどこから・・・

いや、それよりもすぐに王宮へ連絡を!」


魔物出現の報せは直ちに王宮に伝えられ、御前会議が開かれた。

その会議の席上、宰相のジョン・ウィッスルは疑問を挟んだ。


「王都を取り囲む魔物の出現?

王宮の尖塔からの報告か?」


「いえ尖塔からは何も。

これは王国警備部隊からの報告です。」


(尖塔からの報告は無い。

だが、警備部隊に虚偽の報告をする理由は無いはずだ。

・・・・・考えられるのはこの辺一帯を隠蔽していると言う事か?)


宰相のジョン・ウィッスルはかつて魔導士として鳴らしたほどの男だ。

魔法に対する造詣は深い。


(私ではそのような大規模呪文は不可能だ。

だが、それが可能なのは・・・魔導皇帝か!!)


「陛下、王宮の尖塔から魔物が出たとの報告はありませが、

警備部隊に虚偽の報告をする理由がありません。

これは大規模呪文による隠蔽の疑いがあります。」


宰相の言葉を聞きオロール五世が尋ねる。


「ジョンよ、お主はその呪文は可能か?」


「いいえ私では規模が大きすぎてできませぬ。」


「では、誰なら可能なのか?」


「おそらく、魔導皇帝グレゴワールではないかと・・・。」


「「「「!!!」」」」


その場に居合わせた物は絶句する。

魔導帝国はオロール王国の西にある帝国だが、帝都までの距離は遠い。

王国では皇帝自らの出陣を考えていなかったのだ。


「もしそれが・・・いや、宰相の推測通りなら最悪の事態となるだろう。

軍務大臣、直ちに防衛体制をとれ!」


「はっ!」


軍務大臣の元、王都に戒厳令が敷かれた。

王都の通りを兵士たちが慌ただしく行き交い、

朝市が立つはずの広場には王国の兵士たちが整然と隊列を組んでいた。

その広場に魔物の追加情報を持った伝令が士官用の天幕に駆け込む。

中では王国兵士団の隊長ガスパルがハサミを手に自慢のカイゼル髭を手入れの真っ最中だった。


「報告します!

王都周辺にさらに魔物が出現、王都を完全に包囲しています。

その数、五千はくだりません。

後ろには魔導帝国の旗を確認!!」


その報告にガスパルは驚きのあまりカイゼル髭を切り落とす。


「ご、五千だと!

種類は?種類は何なのだ!!

それに魔導帝国!!」


「しゅ、種類はオークやゴブリンの他、

オーガやジャイアントが確認されています。」


「オーガだけでなくジャイアントもかっ!!」


報告を受けたガスパルは頭を抱えた。


鍛えられた兵士達にとって、オークやゴブリンの集団は敵ではない。

オーガも数体ならば対応できるだろう。

だが、ジャイアントは別格である。

広場に集まった兵士たちでやっと一体倒せるかどうか・・・。

それほどの驚異的な存在なのだ。


そしてそれらを使役する魔導帝国グレゴワール。

帝国の恐るべき実力は想像に難くなかった。


「王都の門を閉めよ!

門の裏に土塁を築き補強するのだ!!」


ガスパルの命令通り王都の東西南北にある門は閉じられた。

そして、その裏に土塁が築かれる。

命令したガスパルは門の上に上り戦況を見つめていた。


「うむぅ、何だ、あの魔物達は?

こちらを攻める気配がないぞ?

一体何のつもりか???」


魔物の軍勢はこちらを攻める気配がなかった。

魔導帝国グレゴワールの旗の元、こちら側を威嚇するだけで動こうとしない。

だがその理由は程なくわかることとなる。


空に光が走り、見たこともない図形が組み合わさって行く。


「何だ!あの光は!!」


「丸い模様が王都の空に!!」


兵士たちが見上げる王都の上空に複雑な魔法陣が展開され、不気味に明滅した。

次第に魔法陣の周辺の空間が歪み、甲高い音をたてる。


グギャギギャギギャギ・・・


その音は開いてはいけない扉を開くような音のように聞こえた。

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